ICT・Education
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報告
第4回全国高等学校情報教育研究大会 大阪大会
第4回大阪大会 事務局/大阪府立東百舌鳥高等学校
稲川 孝司
1.はじめに
21世紀の情報化社会の進展を背景に,平成15年に高等学校に教科「情報」が新設された。多くの教員が研究や授業実践を行い,互いに切磋琢磨して教科「情報」の進展に寄与してきた。また,情報教育の発展と教員相互の情報交換を目的にして,各地で情報教育研究会の組織が作られ始めた。
その後,各地の情報教育研究会をまとめた全国高等学校情報教育研究会が設立され,全国高等学校情報教育研究大会が開かれた。第1回大会は平成20年に武蔵工業大学(現東京都市大学)世田谷キャンパスで開催され,300名を超える参加があった。平成21年には第2回が筑波学院大学で開催され,約260名の参加があった。平成22年は金沢工業大学で第3回が開催され,約200名の参加があった。これまでの分科会とポスターセッションの発表件数は,第1回が25件と11件,第2回が24件と19件,第3回が17件と13件であった。
平成23年の第4回大会は大阪経済大学で開催され,およそ250名の参加があった。分科会での発表件数は23件,ポスターセッションでの発表件数は16件であった。本稿では,この第4回大会について報告する。
2.大会の概要
過去の大会テーマは,第1回が『Next Stage−新たに広がるネットワークの構築−』,第2回が『ICT コンパス−あふれる情報の波を乗りこなす−』,第3回が『ICTコンパス−新たなる風−』となっている。
第4回を大阪で開催するにあたって,学習指導要領が改訂され,平成25年から新しく共通教科「情報」が始まり,ますます教科「情報」が発展することを祈念して,大会テーマを『ICTコンパス−風を受け新たな一歩を踏み出す−』とした。
会場の大阪経済大学は,大阪府高等学校情報教育研究会の顧問をお願いしている大阪経済大学経営情報学部長の家本修先生のご協力を得て,お借りすることができた。
今大会のプログラムを表1に示す。
テーマ:『ICTコンパス −風を受け新たな一歩を踏み出す−』
日時 :
平成23年8月5日(金) 13:00〜17:00
平成23年8月6日(土) 9:00〜12:30
会場 :
大阪経済大学
主催 :
全国高等学校情報教育研究会
共催 :
大阪府高等学校情報教育研究会
大阪私学教育情報化研究会
後援 :
大阪府教育委員会
協賛 :
各都道府県情報教育研究会
第1日 8月5日(金)
13:00〜13:30
開会式・総会
13:30〜15:00
講演
「情報の科学的な理解を深める学習法」
大阪電気通信大学医療福祉工学科教授
兼宗 進先生
15:00〜17:00
ポスターセッション
第2日 8月6日(土)
9:00〜11:55
4分科会(新学習指導要領に向けて,社会と情報,情報の科学,授業評価と育成)
12:00〜12:30
全体会
▲表1 第4回大会プログラム
大会では要項集を作成しているが,今大会では分科会の原稿を一人2ページに統一して,論文形式での事前提出とした。また,昨年度から大会日程が2日間になり,遠方から参加・発表がしやすくなっている。今回は参加が青森から大分まで,発表は秋田から山口まで,幅広い地域から多くの先生方に参加いただいた。
3.講演
「情報の科学的な理解を深める学習法」という演題で大阪電気通信大学医療福祉工学科の兼宗進先生にご講演をいただいた。情報の科学と技術を自然科学と対比させて話をされた後,CSアンプラグドの話の中で,2進数の教材の教え方をフロアーの5人の先生に協力してもらい実演された。他にパリティビットや光の3原色の話,バーコードリーダやICカードリーダなどの機器の利用,プログラミング言語ドリトル,情報科学コンテストの紹介があった。情報の科学だけではなく情報の技術も重要だということと,「情報の科学的理解」を新学習指導要領の「情報の科学」だけでなく「社会と情報」でもしっかり教えることが重要だということ,教師が教えすぎず生徒が自ら本質を学べるように導くことが大切だという点は納得できた。
▲図1 講演の様子
4.ポスターセッション
ポスターセッションでは表2に示す16件の発表があった。
(1)
「オープンソースを活用したネットコミュニティ授業環境の構築」実演編
東京都立上野高等学校
能城 茂雄
(2)
楽しみながら学ぶ音のディジタル化
愛知県立天白高等学校
近藤 敏文
(3)
xampp+NetCommonsで作るWeb実習環境
石川県立金沢二水高等学校
鹿野 利春
(4)
イメージ化・記号化を意識して受発信能力を育成する学習の考察
日本学園高等学校
磯崎 喜則
(5)
Windows SharePoint Services 3.0(WSS)を利用した校内ポータルサイトの運用
東京都市大学付属中学校・高等学校
神藤 健朗
(6)
10cmはどれくらい? 10秒はどれくらい?
−生徒自らが関わったデータのばらつきを分析する−
神奈川県立横浜清陵総合高等学校
五十嵐 誠
神奈川県立海洋科学高等学校
若林 庸夫
(7)
Webアクセシビリティ「私が基準です」
大阪府立茨木高等学校
八幡 淳一
(8)
「社会と情報」に向けて今から準備すべき事
中央大学杉並高等学校
生田 研一郎
(9)
アルゴリズム体験ゲーム「アルゴロジック」
(社)電子情報技術産業協会/日本電気株式会社
大山 裕
(10)
論理パズルを利用した情報・総合の授業の展開について
大阪学院大学高等学校
松本 宗久
(11)
全日制と定時制における情報教育の違い
茨城県立古河第一高等学校
武藤 靖晴
(12)
ブログを活用した学校情報化のとりくみ
大阪府立摂津高等学校
山室 公司
(13)
情報Aから社会と情報へ
〜コミュニケーションを切り口とした授業実践〜
東京都立町田高等学校
小原 格
(14)
学校の身近な課題を用いた「問題解決」の授業
聖母被昇天学院中学校高等学校
岡本 弘之
(15)
2進数と10進数の変換の指導
山口県立岩国高等学校
山下 裕司
(16)
生徒の身近なテーマを意識した授業づくり
大阪府教育センター附属高等学校
長瀬 勇輝
▲表2 ポスターセッションの発表
発表者が他のポスター発表を見ることができるように,ポスターセッションを2つのグループに分けた。能城先生はパソコンを持ち込んで実演を行い,五十嵐先生と若林先生はワークショップとして実習を行った。
学校の先生ではないが,電子情報技術産業協会/日本電気株式会社の大山氏からアルゴロジックの授業提案があった。
少し部屋が狭かったが,参加者が非常に多く,活発な質疑・応答が行われ,2時間の発表時間が,あっという間に過ぎてしまった。
▲図2 ポスターセッション会場の様子
5.分科会
2日目の分科会は,「新学習指導要領に向けて」,「社会と情報」,「情報の科学」,「授業評価と育成」の4つのテーマに分かれて23件の発表が行われ,活発な質疑応答が行われた。
各分科会での発表について表3に示す。
【第1分科会】新学習指導要領に向けて
・オープンソースを活用したネットコミュニティの授業について
東京都立上野高等学校
能城 茂雄
・情報Aから情報の科学へ
〜「モデル化とシミュレーション」の実践〜
東京都立町田高等学校
小原 格
・情報科の教員採用に向けて
岐阜県総合教育センター
亀山 弘
・情報機器を活用して講演や発表会を演出する言語活動の充実を支援するための取り組み
神奈川県立横浜清陵総合高等学校
五十嵐 誠
・教科情報と他教科との教科横断授業実践
大阪府立東百舌鳥高等学校
稲川 孝司
【第2分科会】社会と情報
・制作意図を言語化する授業の実践
埼玉県立朝霞高等学校
春日井 優
・「アートの視点で読み解くスーパー戦隊」
秋田県立仁賀保高等学校
黒木 健
・授業に話し合いを
神奈川県立平塚湘風高等学校
諏訪間 雅行
・情報技法習熟を目的とした「旅行計画」の考察
日本学園高等学校
磯崎 喜則
・コミュニケーション能力の向上を目的とした授業の工夫
埼玉県立福岡高等学校
長谷川 万希子
・統計リテラシーを育成するアンケート調査実習の実践と課題
茗溪学園中学校高等学校
大貫 和則
【第3分科会】情報の科学
・違いのわかるライントレースの学習
千葉県立船橋芝山高等学校
谷川 佳隆
・Scratchで問題解決の思考を「見える化」
浜松市立高等学校
矢頭 勇
・script型言語を用いた情報の科学的理解
石川県立金沢二水高等学校
鹿野 利春
・暗号化鍵を指導する工夫
山口県立岩国高等学校
山下 裕司
・理科・数学・情報の関連性を意識した授業展開
東京都立日比谷高等学校
天良 和男
・高等学校におけるCSアンプラグド
大阪府立寝屋川高等学校
野部 緑
【 第4分科会】授業評価と育成
・テレビ番組を活用した学校設定科目での取り組みとその課題
大阪府立岬高等学校
加藤 光
・「IT危機一髪!」とケータイアンケートについて
大阪府立春日丘高等学校
吉村 剛志
・平成23年度新入生テストの結果報告
横須賀市立横須賀総合高等学校
石井 徳人
・教科「情報」で生徒たちに具体的にどのような力を身に付けさせたいか
近江兄弟社高等学校
長谷川 友彦
・教科情報におけるe-Learning学習の効果と学力向上の可能性の検証
兵庫県立西宮今津高等学校
佐藤 万寿美
・ポートフォリオを活用した情報教育の評価と「見える化」
大阪府立伯太高等学校
桝井 則子
大阪府立伯太高等学校
村井 佑嘉子
▲表3 分科会での発表
▲図3 分科会会場の様子
6.企業展示
今大会では,20社の企業・団体から協賛・援助をいただいた。企業展示では教科書会社やソフトウェア会社,メーカといった様々な業種の企画展示が行われ,最新の情報を見ることができた。
7.おわりに
ポスターセッションと分科会は,事前にいただいたタイトルと要旨をWebに掲載して,参加者の便宜を図った。分科会において発表概要とキーワードから4つのテーマを考え,その中に発表内容を収めた。結果的に分科会のテーマと内容に距離のあった発表が出てしまったのは,すべて事務局のいたらなさのせいである。お詫び申し上げます。
また,会場とテーマの関係で2つの発表テーマを分科会に申し込まれた先生には1つをポスターセッションに回っていただいた。沖縄からも分科会発表の申し込みがあったが,派遣依頼の調整と大会参加の申し込みの締め切りが間に合わず,断念したケースもあった。
著作権に問題のない限り,発表資料は全国高等学校情報教育研究会のWeb(
http://www.zenkojoken.jp/?page_id=102
)に公開している。参加できなかった全国の先生方にも見てほしいという発表者の願いからである。
昨年度の金沢大会では,大阪の次は九州にという声が上がり,この間,福岡の先生方を中心に積極的に動いていただいた。平成23年3月20日に九州工業大学飯塚キャンパスで日本情報科教育学会の九州・四国・中国支部が設立され,今後,活発な動きが期待される。来年度の夏に数学研究会の全国大会が福岡で行われることもあり,来年度の情報教育研究大会を辞退されたが,その次は開催するつもりだという話を聞いている。
理事会で来年度の全国大会は8月に千葉県で開かれることが決まった。多くの先生方が千葉に集まり,新しい学習指導要領の実施に向け,活発な議論が展開されることを期待している。
8.謝辞
本大会の開催にあたり,会場をご提供いただいた徳永光俊学長をはじめとする大阪経済大学関係者の皆様,開催にあたり様々な局面でご尽力いただいた大阪経済大学経営情報学部長の家本修先生,後援の大阪府教育委員会,そして,全国高等学校情報教育研究会会長の下條隆史先生をはじめとする全国高等学校情報教育研究会役員の方々にお礼申し上げます。
分科会やポスターセッションで発表していただいた先生方には,学期末の成績処理等で忙しい中,締め切りまでに論文を送っていただき,感謝いたします。企業の皆様には協賛かつ大会運営に協力していただき,ここに改めてお礼申し上げます。また,大会の準備・運営等にご協力いただいた大阪府高等学校情報教育研究会と大阪私学教育情報化研究会の皆様,とくに準備段階から多くの作業を引き受けていただいた今大会の実行委員の先生方に感謝いたします。