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ICT・EducationNo.46 > p8〜p11

教育実践例
本校における「情報C」の授業実践
─生徒の肖像権や著作権への意識を高めるために─
法政大学高等学校 石沢 直人 ・ 大日方 雅紀 ・ 菊池 耕生
hoseijoho@yahoo.co.jp (テキスト配布用アドレス)
1.はじめに
 本校では高校1年次に「情報C」を2単位で行っている。私が着任して6年目になる本校では,さらに様々な取り組みを行っている。その一つは選択授業である。情報関係の授業だけでも「情報・プレゼン演習 I ・ II」(P検とプレゼン),「マルチメディアA」(主に映像編集),「マルチメディアB」(メディア関係),「プレゼンゼミ」などがあり,生徒が3年間にわたって情報に関することを学べる環境が整っている。特に本校ではプレゼンテーションに力を入れているからか,あるいは本校の生徒の気質も関係していると思うが,何かを表現したいという生徒が多い。
 そこで今回は,「情報C」の授業で行っていることを紹介していきたい。そして少しでも皆さんの情報の授業に役立てていただきたい。
 次に環境を簡単に紹介しておきたい。

パソコン教室3室
—PC各42台×3教室
—教員機1台×3教室
—スキャナー 5台
—サーバー 5台
—PF-NOTE 1台
—PREMIERE ELEMENTS 49台
2.授業の構成
 「情報C」では1年間の授業を以下のように実施している。

●1学期
<座学>
—個人情報
—インターネット上での犯罪
—コンピュータウィルス
—著作権基礎
—メディア
—コミュニケーション
—レポートの書き方
<実習>
 ポスター作成

●2学期
<座学>
—著作権(詳しく)
—メディアとは
—新聞とは
<実習>
—Excel
—新聞作成(班で作成)
 (相互評価 PF-NOTE使用)

●3学期
 課題としてレポートの提出
<実習>
—Webページの作成

 ここからは,本校で行っている授業の内容を抜粋して報告する。
 1学期は,以下のような授業計画を立て実施している。

1)PC使用ガイダンス
2)PCシステムと文字打ち
3)情報モラルと個人情報
4)Word(ビジネス文書)
5)PCウィルスと詐欺
6)文書の作成
7)Word(透明化・拡張子)
8)メディア・著作権
9)画像や写真の合成
10)著作権・広告
11)〜17)ポスター作り
—企画書の作成
—写真撮影
—画像の加工
 ポスターを作成するにあたっては1)〜10)のようにWordの操作はもちろんのこと,著作権や広告についてなど様々な学習を事前に行う必要がある。
 特にインターネット上で日々繰り返されている犯罪(特に著作権侵害)に対して,きちんとした指導が必要であることは,毎年各教員が感じていることである。
3.授業の内容
(1)著作権

 著作権の授業は,1学期のポスター制作と2学期の新聞制作,3学期のWebページ制作,レポート提出への布石として位置づけている。情報を発信するときに著作権がどのように関わってくるかを,体験を通して学ばせることを重視している。
 なぜなら,著作権というとプロが持つ権利のように聞こえ,生徒にとっては,自分自身の権利であるという認識が芽生えにくいからである。自分が著作者であることを意識すれば,「人からやられて嫌なこと」も理解しやすくなる。
 ポスター制作では,公示するポスターに自分や友人の写真を加工して載せることやキャラクターなどの取り扱い,さらに商標マークなどの産業上の規定にも触れている。
 また,新聞,HTML,レポートなどの課題においても,自然と著作権の知識が生かされ,引用や出典の書き方,肖像権に留意する等の最低限のルールは定着していることが伺える。

1)知的財産権
 知的財産権の考え方の入り口として日常の例をあげ,法律というよりは身近な常識として知的財産権を考えてみる。

2)産業財産権
 産業財産権では商品ひとつをとっても複数の産業財産の権利が発生していることを知る。

3)著作権
 著作権の学習では財産権と人格権の両側面から知識を深めるために,法律をある程度は網羅することと,単に知識としてだけではなく,自らの創造的表現の一環として位置づけたい。
 そのため生徒一人ひとりが今の自分自身に当てはめて考えるという行為が必須である。ここでは複製権にまつわる「コピーとどう向き合うか」という問題について一人ひとり考えてもらうワークシートを提出させた。

4)著作隣接権
 著作隣接権と著作権の違いについても触れる。

5)肖像権
 肖像権については,著作権の一連の授業にくみこみ,内容をよく理解したうえで侵害しない範囲を身につけさせたい。
 以上から著作権の内容を理解するとともに,法律と考えると縁遠くなりがちな問題も自分自身が持つ権利として意識し,自分がどう問題として判断するかということに主眼を置くと,情報を発信する立場,受信する立場の両方で積極的にかかわりが持てるようになる。
 それは必ずしも情報の授業だけで顕著になるものではなく,学校生活全般で生徒の意識が変化していくことでもある。些細なことだが,全学年の掲示板上の公示物などにも忘れずに「Copyright(©)自分の名前」や出典が明示されている。わざわざ記す必要はないが,これは自分が創作して,権利の所在は自分にあるという積極的態度として歓迎したい。
 また行事のポスター,看板等にも安易にキャラクターやタレントを用いることなくオリジナルを追求している態度が見て取れる。
 これは3年間を通しての課題でもあり,大学生や社会人になってからも必要な視点である。
 自分の権利を守ることは,他人の権利も守ることであるという基本的な立場から,身近で理解しやすい著作権の授業を心がけたい。

(2)Word の操作

 Wordの操作は,3段階にわけて指導を行っている。

1)文字を打つ
 生徒のほとんどは携帯電話世代である。従って,文字を打つという行為は生徒にしてみれば,「PCより携帯電話の方が早く,インターネットの利用もPCではなく携帯電話」という者がほとんどだ。そこで,ビジネス文書の作成を通し文書の基本構成をきちんと指導する必要があると感じている。

2)Wordを使いこなす
 普段Wordを使用していない生徒にはポスターを作らせるに当たって様々な機能があることを教える必要がある。

—オートシェイプ
—図形の塗りつぶし(透明化)
—影・3D効果
—文字列の折り返し
—クリップアート
—ワードアート
—テキストBOXなど

 一つひとつの作業は簡単だが,これらすべての機能を使って,作品を作りあげることが第一の課題である。

 生徒の作品を二つ紹介する。

Word作品男子 Word作品女子
▲男子生徒作品 ▲女子生徒作品

 二つの作品ともにすべての規定は満たしているが,おおむね男子は白の部分が多く,女子は白い部分が少ない傾向がある。

3)写真の合成
 ここでは写真の合成を指導する。

—ペイントの使用
—写真サイズの変更
—透過色の設定
—トリミング
—罫線の使用

(3)ポスターの作成

 著作権や肖像権やWord操作をひと通り学習して,自分をアピールするポスターを作成することになる。ポスターの規定は以下の通りである。

—自分の写真を入れる(身体の一部でも可)
—Wordで作成
—用紙サイズはB5
—余白は上下左右10mm
—キャッチコピーを入れる
—写真を使用する
—クリップアートの使用は認める
—人が見て足を止めたくなるもの

 あとは,こちらの準備としてデジカメを用意して生徒が自由に撮影できる環境を整えておく。幸い本校のPC教室は屋上に面しており,生徒はそこで撮影を行っている。

 生徒は我々教員が思いもつかないような写真を撮影する。これは普段から携帯電話のカメラ機能をよく活用しているためだろう。
 1学期にポスターを作ることは,生徒のPC使用能力を把握する上で非常に役立つ。また,表現する力を内に秘めている者が多いので,その能力を開花させ,どう育成させるかという目標を設定できる。
 ここで,完成した生徒の作品を掲載しておく。

ポスター作品男子左 ポスター作品男子右
▲男子生徒作品

ポスター作品女子左 ポスター作品女子右
▲女子生徒作品

 次に3学期の授業について紹介をしたい。

(4)Webページの作成

1)概要
 Webページの作成を実習で行い,HTML言語によるプログラミング基礎とネットワーク技術の知識向上を目指す。
 ホームページビルダー等の専用ソフトは用いず,テキストエディタでHTML言語を記述し作成する。
 Webページの作成において,その存在は明確な情報発信媒体となるため,同時に著作権や肖像の取り扱い方など,権利の侵害により発生する被害を考えさせ,通信技術,ネットワーク構築の基礎として座学の授業を入れる。
 本授業は3学期に設置しているため,1,2学期で習得した画像編集技術の復習もしている。

2)学期末の復習課題
 画像の配置の際に,1学期に作成し終えた自分のポスター課題を紹介するページを挿入し,想定規格に合わせて再編集を行うことで,編集技術のさらなる定着化をねらう。このとき,実習授業の課題だったものを見つめ直し,自らの考えのもとで再編集することは,自発的な復習として大きなモティベーションの向上となる。加えて,Webページの作成工程を自分たちで組みながら,延々とコーディングをしていく作業の中では,上述したような復習が気分転換になり,生徒も比較的楽しそうに取り組む様子が見られた。

3)Webページ作成の流れ
 生徒は,4人一組の班を組み,リンク機能で互いに紹介し合うページを作る。また,班長は班員全員にリンクを設ける班ページを作る。そのため,作業を行う際に未完成のものが一つでも存在するとブランクページができてしまう。指導教員は生徒同士でコミュニケーションを上手く取り合うことを促し,共同作品であることの意識を持たせるよう努める。
 また個人で作成するページは,生徒一人につき最低3つのHTMLファイルを制作課題としている。ファイルはそれぞれ,

1.表紙兼自己紹介のページ
2.学校紹介または1学期課題ポスター紹介のページ
3.フリーページ(ただし著作権や肖像の扱いに注意したもの)
 とし,各ページには前後のページにとべるようリンクさせる。

 Webページ自体の出来については生徒それぞれでバックグラウンドの差異が顕著になるため,HTMLファイル作成と同時に,紙媒体の「企画書」プリントを配布し,そのページに使用しているタグや効果,ねらい,完成後の自己評価を書かせ提出させている。

4)HTML言語を使う
 タグ,スタイルシートなど基礎構造を理解させるため,練習ページを作らせ,ある程度定着させた後,個人の実習作業となる。
 しかし,プログラミング要素をもった授業であるため,Webページを仮に紙媒体にデザインさせても希望通りに作成させることは困難である。あまり手間や工程に掛かり過ぎるものにならないよう,生徒が出来る範囲と出来ない範囲を自覚して作成していけるよう注意する必要がある。

5)まとめ
 Webページの作成は終始タグや階層の説明に尽くしがちであるが,他の学習課題(PC課題)と併用して行うことで,より生徒の印象には残りやすいようだ。PCを扱った教材の中では,インターネットブラウザで閲覧できるWebページづくりは身近で,授業に興味を持たせやすく,また自由に発想を活かせることからも授業に積極的に参加する傾向がある。過去の課題を振り返りながら行うことにも適しており,時間数を割くだけの十分な価値のあるものと言える。
 しかし,作品制作という課題の制約として,生徒の理解状況を把握しにくいことが挙げられる。意図通りに運用できないページが多数出てくるおそれのあるこの課題では,教員は主にその原因を指摘し,アドバイスする立場にある。作成途中で行き詰まった場合,あるいは仕上がった作品の評価の際に,膨大なテキスト量のソース画面を見ながら,検索をかけデバッグをしていく行為は,大変根気のいる作業である。かといって安易に課題量を減らしたり,条件付け課題にしたりしてしまっては,独創性は期待できない。
 生徒の目的意識を削がずに,いかに授業を上手く運ぶか。今後の検討課題としたい。

 最後に,本校で使用している授業用プリントをご希望の方はテキスト配布用アドレスよりご連絡ください。
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