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ICT・EducationNo.45 > p10〜p14

教育実践例
本校における情報モラル教育
甲府湯田高等学校 小林 満
1.各科の特色
 本校※注1は普通科・音楽科・情報メディア科・介護福祉科からなる総合高校で,それぞれの科には各自の目的に対応したカリキュラムが編成されている。

○普通科【進学クラス】
 国立大学や私立大学への進学を目指すための,充実したカリキュラムが組まれている。

○普通科【普通クラス】
 女子のみからなるクラスで,女性としての教養や豊かな生活能力を修得することを重点においている。実習授業が充実しているのが特徴である。

○普通科【人間文化クラス】
 中学時代に学びたいという意欲を持ちながらも,学校,学級,授業になじめなかった生徒たちの「高校で学びたい」「自分の将来の夢をかなえたい」という願いを形にするために生まれたクラスである。

○音楽科
 音楽大学・短期大学・教育系大学(国公立・私立)への進学を目指す。

○情報メディア科
 パソコンの基礎的な知識と技術の習得のみならず,商業関連科目である簿記,ビジネス基礎等を基礎から学ぶ。

○福祉科
 専門課程を履修することにより,介護福祉士(国家資格)の受験資格が得られ,毎年,卒業時には多数の合格者が出ている。
2.教科「情報」の履修状況
 進学クラスと人間文化クラスでは1年次に,普通クラスでは2年次に「情報A」を2単位履修している。音楽科は,専門科目との履修の兼ね合いで3年次に「情報A」を2単位履修している。情報メディア科では1年次に履修する「情報処理(5単位)」で,福祉科では1年次に履修する「福祉情報活用(2単位)」で代替としている。
3.各科における教科「情報」の授業内容
 各科にはそれぞれ特色があり,科・クラスごとにまとまった傾向が見られる。そこで授業の実施にあたっては,各科の特質を十分に踏まえながら,学ぶ生徒らの実情に合わせて,指導内容の重みを変えている。取り扱う教材も,なるべく生徒にとって身近な問題を学習課題とすることで,生徒の興味・関心を引き出し,学習活動への積極的な取り組みが行われるよう配慮している。このようなアプローチで,教科「情報」の目標である「情報活用の実践力」「情報の科学的理解」「情報社会に主体的に参加する態度」を習得させることを目指している。
 また,情報メディア科と福祉科においても,代替科目を担当する教員と連携しながら,授業の中で,教科「情報」の教育目標を踏まえた学習活動が行われるように努力している。
 基本的な授業内容は,コンピュータの基本操作,情報の検索と収集,情報の発信と共有,情報機器の活用,文書作成,表計算,画像処理,プレゼンテーション技術,Webページ作成,情報モラルであり,これらの学習を通して実技面と知識面の双方を指導しながら,総合実習や作品の制作に取り組んでいる。特に,情報モラルについては,単独の単元だけではなく,学習活動の随所で触れるように努めている。以下,これまで本校で行われた授業実践をいくつか紹介する。
4.授業実践例1「電子メール(情報の発信と共有)」(普通クラス)
(1)授業のねらいと概要

  • 高校生にとって携帯電話や電子メールは欠かせないツールであるが,その道具が正しく使用されているとは言い難い。メールの文章の書き方やマナーを知り,適切な利用方法を習得させる。
  • 電子メールの仕組み,迷惑メールやメールによるウイルス感染へ正しい対処方法を学ぶ。
  • 電子メールの危険性や相手への配慮の大切さを実感させる。

(2)情報モラルに関する学習活動

○情報社会において,責任ある態度をとり,義務を果たす
 メールの仕組みを理解して安全・確実な伝達手段ではないことを知り,相手に配慮した文章を作成できるようになることが必要であることを理解する。

○情報社会の特性を意識しながら行動する
 電子メールの良い点と悪い点について考えさせる。リスクに対して適切な判断を下す。

○セキュリティに関し,事前対策や緊急対応,事後対策ができる
 ウイルスメールの存在を知り,安全に配慮することの大切さを知り,適切な対策を行う。

(3)授業の流れ

 この授業実践では,「情報モラル指導実践事例集(全国版)やってみよう情報モラル教育実践事例No.565※注2」を参考に指導案を作成した。

(4)反省と今後の課題

 メールは必ずしも安全・確実な伝達手段であるとはいえないことを理解したようである。
 生徒にとっては,かなり身近な問題なので,ほとんどの生徒が積極的に学習に取り組んでいた。多くの生徒は携帯電話のメールのみを使用しており,パソコンで電子メールを送受信している生徒は少ない。今どきの高校生は自分の感情をデコメールや絵文字で表現し,友人とコミュニケーションをとっているので,型にはまった文章の電子メールには違和感があったようである。生徒の中には携帯電話依存者もいるようで,この授業がその改善に役立ったかどうかの判断は難しい。相手に自分の意図を正しく伝えるためには,文章力・語彙などの国語力をもっと高めさせる必要があるように感じた。
5.授業実践例2「情報の発信と共有」(人間文化クラス)
(1)授業のねらいと概要

 情報を発信する際に気をつけることを,NHK「学習番組10minボックス 情報・メディア」を視聴しながら,具体的な事例を通して学ぶ。この学習を通して,無責任な書き込みなどを抑制させたい。この授業のねらいは以下の3点である。
  • 情報を発信した本人が責任を負わなければならないことを理解する。
  • 自分で判断して発信する(そのためには正しい判断力を身につけなければならないことを理解する)。
  • インターネットはたとえSNSでも閉ざされた空間ではなく誰もが見ることができる公共の場であることに気づかせる。

(2)情報モラルに関する学習活動

○情報社会において,責任ある態度をとり,義務を果たす
 無責任な行動が及ぼす影響を例示し,責任ある行動を促す。

○ネットワークの公共性を維持するために,主体的に行動する
 インターネットは公共の場であることを理解させ,どのような態度で関わらなければならないかを自覚させる。

(3)授業の流れ

 この授業実践では,「情報モラル指導実践事例集(全国版)やってみよう情報モラル教育実践事例No.029※注3」を参考に指導案を作成した。

(4)反省と今後の課題

 教材をインターネットで収集し,既存のコンテンツ等を利用した。このビデオ教材は短くまとまっており,授業の中に組み込みやすかった。しかし,画像の画質が低いのが残念である。導入や問題提示の補助としては十分に有効である。マルチメディアの活用についてはさらに研究が必要である。
6.授業実践例3「情報モラル」(進学クラス)
(1)授業のねらいと概要

 情報モラルとセキュリティについて,財団法人警察協会制作警察庁監修のビデオ「サイバー犯罪事件簿2危険なアクセス」を使って学ぶ。インターネット社会での各種の犯罪や,トラブルに巻き込まれることを回避する方法,巻き込まれた時の対処の仕方を学ぶ。

(2)情報モラルに関する学習活動

○情報社会の特性を意識しながら行動する
 ネットワーク上の犯罪の手口を知り,犯罪から身を守る。

○情報の信頼性を吟味し,適切に対応できる
 リスクに対して適切な判断をし,行動を選択する。

○トラブルに遭遇したとき,さまざまな方法で解決できる知識と技術を持つ
 ネットオークションでの問題点を知り,適切に対処する。

○自他の情報の安全な取り扱いに関して,正しい知識を持って行動できる
 ネットショッピングでの問題点を知り,適切に対処する。

(3)授業の流れ

 この授業実践では,「情報モラル指導実践事例集(全国版)やってみよう情報モラル教育実践事例No.043※注4」を参考に指導案を作成した。

(4)反省と今後の課題

 教材をすべてインターネットで収集し,すべて既存のコンテンツ等を利用した。パワーポイント等は,指導側にとっても参考になった。内容については,そのままでは生徒にとって難しい部分もあったが,改変せずに補足説明を行うこととした。視聴覚教材を利用することも,教科指導上は有効である。しかしなから,ビデオの視聴だけで30分費やしてしまうので,途中で飽きてしまう生徒が出てしまった。ビデオに頼りすぎるのは危険ということを再認識した。
7.授業実践例4「個人情報・知的財産権の保護」(音楽科)
(1)授業のねらいと概要

  • 知的財産権の概要を学び,それらの権利が法により保護されていることを理解する。
  • 著作権と産業財産権の違いを理解する。
  • 自分自身が著作権を侵害すること,また侵害されることもあるため,十分に注意する必要があることを理解する。
  • 具体的な事例について,適切な判断ができるように理解を深め,著作物の利用をする上での留意点やその対処方法を知る。
  • これから音楽業界に関わっていく上で重要となる音楽に関する権利・著作権の概略を把握する。

(2)情報モラルに関する学習活動

○情報に関する法律の内容を積極的に理解し,適切に行動する
○著作権などの知的財産権を理解し,尊重する
○情報モラルの必要性と情報に対する責任について考える
 情報の信頼性や信憑性に関する問題,個人情報や著作権の保護など情報化の進展に伴い生じてきた問題について認識させ,これらの問題をどのように捉え,どう対処すべきか考えさせる。

(3)授業の流れ

段階 学習内容・活動内容 指導上の留意点

本時の学習テーマの提示

「2.情報を守るために」
知的財産権の保護
PowerPoint で本時の学習内容を確認する。

  • グーデンベルクの活版印刷の発明により,手書きで写されていた書物が印刷によって大量コピーされるようになり,そこで書物を書いた人の労力と時間に報いるために,印刷された本の売上の利益の一部を作者に還元する仕組みが生まれたことを伝える。
  • 著作権の国際的な保護条約について説明し,世界的にも保護の対象になっていることを理解させる。
  • 「情報」は著作物であり,保護の対象となることを確認させる。
  • 「知的財産権」・「著作権」はどの様なものなのか,その定義・概略を確認させる。
  • 具体的な著作物の種類については,巻末P134を参照させる。
  • 著作権の発生については,産業財産権との絡みがあるので,念を押す。
  • ここでは,著作者人格権・著作隣接権について深入りしない。次回,具体的に説明することを伝える。
  • 日本でも,幕末にすでに著作権に関する問題が発生していた事実を伝え,生徒の関心を高める。
  • 具体的な著作物の種類については,巻末P134 を参照させる。
  • 日本国憲法における様々な「人権」の中の「財産権」に含まれている「知的財産権」の一部が「著作権」であることを理解させる。
  • 巻末P134の図を参照させて,著作権は,単独の権利ではなく,著作者人格権・著作隣接権などが含まれていることを確認させる。
  • 「産業財産権」について「特許権」「実用新案権」「意匠権」「商標権」について,具体的な事例を挙げながら解説する。
  • これらの権利の発生については,特許庁への申請と登録が必要であることを確認する。
  • 知的財産権は法律によって保護されていることを確認する。
  • 「法律」と「モラル」の違いを理解させる。
  • 著作権利の侵害は,他人の財産の侵害となることを再確認する。
法律による罰則規定について説明し,著作権の侵害は,処罰の対象になる重大な問題であることを理解させる。
著作物の利用に関する基本を確認する。

特に,利用の許諾の重要性については念を押して指導する。
利用許諾がなくても利用できる場合があることを理解させる。

1〜10まで,原文は法令であるので,生徒にとって馴染みのない表現になっている。なるべく噛み砕き,平易な表現に置き換え,かつ,具体例を挙げながら説明する。

※巻末P135を参照しながら解説する。
 
実習ノート「著作権クイズ」に取り組む。 クイズ形式になっている具体的な事例にについて考えさせ,著作権に関する理解を深める。個人で判断に迷うような事例については,グループでの話し合いを認める。
「著作権クイズ」の答えあわせを行い,適切な判断が出来たかどうかを確認する。 生徒と受け答えをしながら,全員で答えあわせを行う。


本時が「知的財産権の保護」についての学習であったことを振り返り,知的財産権の内容について再確認する。

次回の学習内容の確認
次回は,今回説明不十分であった,著作者隣接権等について,具体的に学習することを連絡する。
また,著作者隣接権は,これから音楽活動に関わっていく上で,必要不可欠な知識であることを伝達する。
▲表1 授業実践例4の授業の流れ

(4)反省と今後の課題

 これから音楽業界に関わっていく上で避けて通れない重要事項,著作権を学習するための導入として位置づけた。しかし,あまり深入りしすぎると難解となるので,あくまでも基本的な範囲に留めて指導を行った。音楽科の生徒らは「著作権」という言葉を幾度となく耳にしてはいたが,内容はあまり理解できていなかった様である。今回の授業を通じて,概略が理解できたと思われる。自作のパワーポイントが効果的に活用できた事例であった。
8.まとめ
 本校では,日本文教出版「情報A」教科書を採用しているが,同社の指導書およびサポート教材・コンテンツは充実しており,優れたものが多い。
 さらに,同社が運営するWebサイト「Nichibun.net※注5」についても,教科指導の参考になる事例が多数あり,本校の授業実践を行う上で,非常に役立っている。
 その他,「平成19年度文部科学省委託事業 情報ポータルサイト※注6」も,情報モラル教育を実践する上で大変に参考となる事例が多数紹介されており,本校での情報モラル授業実践の際の手本としている。
 また,本校の所属する学校法人伊藤学園には「山梨情報専門学校」という情報系の専門学校があり,情報の専門の先生方にも様々な場面で指導と助言を頂きながら授業実践を行っている。
 本校の情報科では,ただ教科書の内容だけを教えるのではなく,対象である生徒の理解をより深めるため,様々な方法や手段を有効に活用することを常に心がけている。そして,「計画→実行→評価→改善」を繰り返し,教科の目標達成に向けて努力をしている。今後もさらに精進し,教育活動に励みたいと思う。
注1:平成23年度から「甲斐清和(かいせいか)高等学校」に名称変更
注2:http://kayoo.info/moral-guidebook-2007/jirei/p1.php?id=J565&tw=
注3:http://kayoo.info/moral-guidebook-2007/jirei/p1.php?id=J029&tw=
注4:http://kayoo.info/moral-guidebook-2007/jirei/p1.php?id=J043&tw=
注5:http://www.nichibun.net/
注6:http://kayoo.info/moral-guidebook-2007/index.html
参考文献・引用等
<授業実践2で参考・利用した教材や資料,メディア>
・日本文教出版「『情報』教科書対応関連リンク集 第1章」
http://www.nichibun.net/classsupport/links/info_c_01.php
・日本文教出版「『情報』教科書対応関連リンク集 第5章」
http://www.nichibun.net/classsupport/links/info_c_05.php
・NHK「学習番組 10min.ボックス 情報・メディア」
http://www.nhk.or.jp/10min/joho/ja/frame.html?0&10&65
<授業実践3で参考・利用した教材や資料,メディア>
・独立行政法人情報処理推進機構情報「セキュリティ読本—IT時代の危機管理入門」
http://www.ipa.go.jp/security/publications/dokuhon/2006/index.html
・独立行政法人情報処理推進機構情報「教育用プレゼン資料」
http://www.ipa.go.jp/security/publications/dokuhon/2006/ppt.html
・財団法人警察協会「教育用ビデオ サイバー犯罪事件簿2 危険なアクセス」
http://www.npa.go.jp/cyber/video/
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