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教育実践例 |
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グローバルスタンダードを意識した授業実践 −世界共通資格“IC³”の活用− |
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1.はじめに |
本校は,千葉県船橋市の北東に位置をし,静かで緑豊かな環境の中に立地している。本校は,「自律・友愛・進取」のもと,平成4年度から普通科ではいち早く情報コースを立ち上げ,教科「情報」の始まる10年以上前から情報教育を行っている熱心な学校である。1年生で行われる「情報A」の授業では,先生5人によるティーム・ティーチングを実施して,一人ひとりがわかるまで指導している。2年生から情報コースを選択した生徒は,2年次に「情報B」と学校設定科目である「基礎情報実習」と物理Iの授業の1部を,3年次にと学校設定科目である「基礎情報実習」と数学II物理IIの授業の1部を,パソコン教室で実施している。情報コースでは,ワープロ・表計算・データベース・Web作成・プレゼンテーション・プログラミングなど,幅広い情報の処理・活用・表現の能力を身に付けることを目標に授業を行っている。私は,教科「情報」が始まった平成15年度に本校に着任をした。
▲図1 本校の情報コースの授業風景
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2.“IC³”との出会い |
本校では,情報コースの生徒を中心に,情報の資格検定にも挑戦している。日本情報処理検定協会が主催する日本語ワープロ検定と情報処理技能検定を本校を会場として受けることができる。年々生徒の資格に対する意欲も向上し,上級に合格する生徒も増加傾向にあった。だが,日本語ワープロ検定と情報処理技能検定の資格では進学等の面接でのアピールにはなるが,推薦要件等には認められていなかった。MOUS(現Microsoft
Office Specialist)の説明にも足を運んでみたが,本校が会場になることができないことや受験費が高いこともあり,学校として生徒と取り組むことはできなかった。そのような状態の中,平成17年の5月ごろ,Microsoft
Office Specialist等を運営している(株)オデッセイコミュニケーションズからチャレンジに参加しないかと誘いの電話を受けた。“”は2002年から始まった世界共通資格であることを知り,この資格を持てば生徒もこの先更なる飛躍が望めるのではないかと思った。参加資格は情報を学んでいる高校生3名と教員が一緒に""に挑戦するということで,果たして挑戦したい生徒がいるのか不安であったが,3年生の3名が説明したその場で名乗り出て参加することとなった。
▲図2 チャレンジのサイト |
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3.“IC³”とは |
“”とは,「(アイシースリー:INTERNET AND COMPUTING CORE CERTIFICATION)は,今まで漠然と判断されてきたコンピュータやインターネットに関する基礎知識とスキルを総合的に証明できる世界共通の資格試験です。2002年2月にアメリカでスタートし,日本では同年11月より開始。現在では世界110か国以上で実施されています。」また,「知識もスキルもモラルもある。自立したパソコンユーザの証,IC³」と紹介されている。(IC³公式サイトより引用)
この資格を私も一緒に受けるので,これは良い勉強になると思った。体系的に情報を学んだことがないので,自分の知識技能が正しいのか,何が足りないのかを知ることができると思ったからだ。その時点では公認教材は1冊しか出版されておらず,その本と付属するCDで学ぶことになる。
その後,2007年3月下旬に日経BPソフトプレスより,新しい公認教材が出版された。
▲図3 IC³公認教材(FOM出版)
▲図4 IC³公認教材(日経BPソフトプレス)
“”の内容は,3科目から構成されていて,各公認テキストは,FOM出版が620ページ・日経BPソフトプレスが568ページのボリュームになる。
▲図5 IC³の3科目関係図
“”の内容はそのまま情報コースの授業で活用できるものもあり,指導目標がより具体的になり,授業を展開しやすくなった。
“”の試験は,「コンピューティング ファンダメンタルズ」「キー アプリケーションズ」「リビング オンライン」の3科目から成り,認定証は3科目全てに合格すると発行される。
“”の特徴としては,下記の通りである。
・試験は全てコンピュータ上で行う。
・知識だけではなく,必要に応じて操作問題も行う。
・試験後すぐに合否判定が行われるので,受けたその場で結果がわかる。
・レベルや級などは設定されない。
・どの科目からでも受験できる。
・試験時間は,各科目45分。
・日にちを変えて1科目ずつ受験しても,3科目全てを1日で受験してもよい。 |
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4.1年目の“IC³”の取り組み |
“”を生徒と受験するにあたり,いろいろと解決していかなければいけないことがあった。まず,受験会場。本校では実施できないので,受験可能なパソコン教室を紹介してもらうことになる。定期考査や生徒の進路の決定に邪魔にならない日程を組んで3科目を受験する日を設定する必要がある。オデッセイコミュニケーションズの方や受験会場となるパソコン教室の方と連絡を取り合う日々が始まった。
「コンピューティン ファンダメンタルズ」を夏休み後半に,「キー アプリケーションズ」を2学期中間考査後に,「リビング オンライン」を2学期期末考査後に受験することにした。いっしょに受験する3名と夏休みや放課後に勉強することにしたが,都合の合う日は少なく自学自習に頼るところが多かった。はたしてどのくらい1回で合格できるのか未知数の中,受験が始まった。1科目めの「コンピューティング ファンダメンタルズ」は,全員無事高得点で合格した。アーキテクチャーを知らない生徒には難しい内容であった。2科目めの「キー アプリケーションズ」は残念ながら1名不合格となった。まさかここで不合格が出るとは思ってもいなかったが,大学の推薦入試を控えていたこともあり準備不足であったようである。3科目めの「リビング オンライン」は無事全員が合格した。私にとって,生徒と一緒に受験することはかなりプレッシャーになったが,私も無事合格できた。2科目目が不合格だった1名については年明けに再受験し無事3科目合格した。
3名は情報系の大学と情報系の専門学校に推薦で進学をしている。もし一般受験をしていたら,“”の受験と平行に行うのは時間的にも物理的にも難しかった と思われる。
2005年のチャレンジに,挑戦したのは本校を含め33校であった。その中でも県立高校の普通科の生徒が挑戦したのは本校のみであった。
▲図6 “”に挑戦した生徒3名と私
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5.2年目の“IC³”の取り組み |
2年目を向かえ,果たして“”に挑戦する生徒がいるのだろうかと思っていた。“”の受験には,1科目4200円×3教科の受験費用にテキスト代金,それに受験会場までの移動費用など高校生にとっては高額な費用を必要とした。そこでただ待っているだけではなく,オデッセイコミュニケーションズの方を招き,“”の説明を兼ねた模擬授業を実施してもらうこととした。私にとっても講師を招いての授業ができたことは大きな経験となった。
▲図7 模擬授業を兼ねた“IC³”の説明会
そして,3年生から8名の生徒が挑戦したいと受験すると申し出てきた。8人もいるとは正直思ってもいなかったのでうれしかった。昨年と同様,「コンピューティング ファンダメンタルズ」を夏休み後半に,「キー アプリケーションズ」を2学期中間考査後に,「リビング オンライン」を2学期期末考査後に受験することにした。私が担任をしているクラスの生徒であり,8名とも大学または専門学校に推薦の入学を希望していたので,両方の指導をしながらの“”挑戦となった。昨年と違い,問題集が発行されたのは幸いであった。問題集は情報科からの貸し出しの形態で生徒に貸し,金銭的な負担を少しでも抑えるようにした。8名は夏休みや放課後を利用して勉強した。
1科目めの「コンピューティング ファンダメンタルズ」は,残念ながら3名の生徒が1回目は不合格であった。1名は2回目も不合格でかなり苦戦したが,何とかその後合格することができた。2科目めの「キー アプリケーションズ」はうれしいことに全員合格した。3科目めの「リビング オンライン」では残念ながら1回目不合格者が1名でてしまった。2月末の時点で,1名は大学の一般入試にまわったため「リビング オンライン」は未受験で,7名が“”の資格を取得できた。
昨年とは違い8名と多いので,日程の調整や連絡が大変であった。
▲図8 “IC³”に挑戦した生徒8名
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6.“IC³”と教科「情報」 |
“”の説明には,「ITリテラシーの世界共通の指標として開発されたIC³は,コンピュータ・ハードウェアの知識・ソフトウェアの知識・操作,インターネットやネットワーク環境において必要とされる知識・スキル・マナー,コンピュータやインターネットが社会に及ぼす影響などを試験範囲にしています。この広範囲なIT知識やスキルは,ビジネスや教育現場で,生産的にコンピュータを(道具として)利用していくためのガイドライン(指標)という観点から設定されており,教科「情報」における履修項目の9割を網羅しています。」(公式サイトより引用)とあり,“”がリテラシーのみをはかる資格ではなく,3科目からなるバランスの取れた資格であることがわかる。また,“”の内容が,教科「情報」の学習項目にかなり重なることもわかる。
▲図9 “IC³”と教科「情報」の相関図
本校においては,1年次に「情報A」を学習するが,実習を中心に授業を展開しているので,その中で“”の内容の一部を教えているにすぎない。情報コースの生徒においては,2年3年次に学ぶ学校設定科目の「基礎情報実習」で,“”の内容とより関連して学習することができた。「キー アプリケーションズ」の内容は,2年次でワープロ・表計算ソフトについて,3年次の2学期でプレゼンテーションソフトについて学習している内容でほとんど対応できた。「リビング オンライン」の内容を,2年次と3年次1学期に学習している内容でかなりカバーすることができていた。「コンピューティング ファンダメンタルズ」については,実際に自由にコンピュータを解体・組み立ての実施,ソフトをインストールするなどの実習ができる環境にないので,生徒の経験による差がはっきりでてしまい,指導に苦慮する科目となっている。
本校においては,情報コースがあり,情報の授業を多く教えているので,“”の内容を,かなりの範囲に渡り教えることができたが,情報を2単位しか教えない多くの高校では,“”の内容を網羅することは物理的に難しいと思われる。選択科目の設定をし,その中で指導するなどの対応が必要と思われる。
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7.最後に |
「はCompTIAやACE(アメリカ),OCR(イギリス)公認の資格であり,国際的にも信頼性の高い指標として評価されています。日本では,厚生労働省がすすめる「YES-プログラム」(若年者就職基礎能力支援事業)の【資格取得/情報技術関係の資格】において認定対象となっています。」(公式サイトより引用)
“”は,日本ではまだまだ認知度の低い検定であるが,これからの情報化社会を生きる上で“,”は,とてもバランスの良い世界共通資格である。
“”はACE(American Council on Educationアメリカ教育協議会)の「大学単位推薦サービス」の認定資格となっていて,“”を取得すると,CREDITのプログラムに参加する全米・カナダの約500大学への入学(再・編入学)時に,ACEから正式な大学の単位として認定推薦を受けることができる。イギリス・シンガポール・ニュージーランド等の国においても幅広く“”が活用されている。
また,(株)オデッセイコミュニケーションズでは,財団法人エイ・エフ・エス日本協会(AFS)を通じて,“”または“MicrosoftOffice Specialist”を取得したものを対象とした高校生の留学を応援する「オデッセイIT奨学金」の提供を行っている。
教科「情報」はもちろん資格を取得することを目的としていないが,“”を教科「情報」の中でうまく活用することができる。
ただ,“”では,情報の科学的理解についてあまり触れられていないのが残念である。
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