ICT・Education
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No.32
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教科「情報」テキスト活用事例
EVAアニメータスクールを用いたアニメーション制作プロジェクトの授業展開事例
茨城県立下妻第二高等学校
藤井拓也
1.目標が見つかった
茨城県の全ての公立高等学校にパソコン教室が導入され,普通教科『情報』が始まって今日まで,あっという間に時間が流れたように感じる。ついこの前までは数学だけを教えていた私だが,情報という教科が入ってくるまで,教えることに関して『欲』があまり無かった気がする。教育という仕事は,すぐに結果を求めること,達成感を得ることが難しい仕事であるから,特にこの仕事についてから3年目くらいで,自分がやるべきことを見失いそうになった時期があった。また,学級担任として「ホームルーム」や「総合的な学習の時間」での学習,進路,生活指導などの重要性と難しさについて感じていた時期でもあった。
前任校は,普通科のカリキュラムに「文書処理」という名前でワープロを教える時間が組み込まれており,その授業を見たとき,コンピュータに向かう生徒の真剣に取り組む姿が普段の授業のそれと違うことが感じられた。コンピュータは生徒にとって,それだけ魅力的であり,座学とは違うひきつけられる要素を持っている。そして,情報の免許を取得して,いざパソコンの前に座る40人の生徒の前で何を教えられるのか?というところに来たときに,自分の中で今まで気づかなかった何かが教師という仕事で発揮できる気がした。
2.『EVAアニメータスクール』との出会い
教科『情報』を教え始めてから5年になり,授業展開のパターンもできてきた。現在の勤務校に赴任してから3年になる。丁度,コンピュータ教室の更新を前年度に済ませた直後だったので,スペック的にかなり優秀なコンピュータが設置されていた。そこで,総合実習的なプロジェクトを組めないかと考え,現在行っているミニアニメーション製作の授業の原型ができた。フリーソフトを使ってアニメーションGIF作成の授業を構想していた時に,丁度体験版を試用中だった『EVAアニメータスクール』に実用性を感じて授業に導入することを決めた。私的にSWFファイル(FLASH)を学校のWebページ作成の為に勉強していた時期だったので,タイムライン等の難しい操作の無いEVAアニメータスクールはとても新鮮で扱いやすいものに感じられた。また,インターフェイスが「おもちゃ風」で(図1)生徒たちが取り組む際にも易しく扱えそうな印象があった。
▲図1 おもちゃのようなインターフェイス
一番初めにこのソフトウェアを使って授業をしたときは,生徒たちがどこまで使えるか全くわからずに手探りしながら授業展開を考えていた。私自身も,その時はほとんど操作について慣れていなかったのだが,生徒とお互いに情報交換をしながら,それほど時間をかけずに操作ができるようになった。生徒も友人と教え合い,器用に操作をしながら作品を作っていた。この年はテーマを決めず,フリーで作品制作をさせた。
3.情報は何を評価すればいいのか
しかし,ここで1つ問題が出てきた。評価に関することだ。情報の授業なのだから,例えば,美術的センスを評価するのも違う気がした。ソフトウェアの操作を評価するのか,ストーリーを評価するのか,いったい何を評価するべきなのか?と非常に悩んだ。最終的には作業行程を評価できるようなワークシートを研究し,PDCAサイクルを実践できるような作業日誌ワークシートを活用し,授業を実施していくことにした。
昨年は,ことわざや歌の歌詞といった『テーマ』を生徒に示した。あらかじめ評価項目を作り,それらを実現させるような作品作りを計画させ,実際に作品を制作させた。テーマを作ることで,生徒は題材を決定しやすくなったようだ。アニメーションの制作自体には個人差があり,その作品の仕上がり具合も様々になるが,それぞれの生徒が自分の目的をはっきりとさせた作業計画に則って作業を行えたか,毎回の作業内容を反省し,次に生かすことができたか,評価基準に合わせた作品に仕上げることができたかを自己,他者評価する。将来,同じような場面で役に立つ作業のシステムを学ぶことができ,生徒が意識してそれが実践できる能力を身につけられたならば,良い授業ができたのだと思う。
4.下妻二高の『情報』
情報科の教科目標を設定するに当たって,心がけていることが2つある。
まず一つ目が計画的に実習を行うことだ。私の基礎免許が数学であることもあるが,物事を筋道立てて考えること,計画的に問題を解決することの重要性を常々考えている。コンピュータを使うと遊び心でうきうきするのは,生徒にとってとてもいいことであるが,コンピュータを操作する前に,紙上でプランを立て,それを実行して,毎回の作業について反省して次回につなげるという基本の流れを実践させることで,遊びのような実習からでもPDCAサイクルを身につけさせたいと思っている。このことは,学ばせるというよりも経験させるという言い方がマッチするかもしれない。1回目より2回目の方がうまくいくという経験を重ねるうちに,全体の流れを把握し,より効率的な作業ができるようになると考える。
そしてもう一つは,感想をできるだけ書かせることだ。いまどきの高校生は与えられたものを使うことに関しては抜群のセンスを持っているが,一から物事を創造する作業をとても面倒くさがる傾向にある。自由に感想を書かせると,いつも「たのしかった」とか「つかれた」の一言でおしまいだから,感想の欄いっぱいに言葉を埋める作業をさせている。それを続けるうちに,発想力や自ら考える力を身につけさせることが狙いだ。
週に2時間しかない情報の授業の中で,生徒に何を学ばせるかを考えるのはなかなか大変だが,きちんと目標と作業計画を決めて実習を行うことで,生徒に中学校の「総合的な学習の時間」のようなことを経験させることができる,そんなことを考えながら,年間指導の計画を立てている。
本校では,1年を4つの期間(第1期から第4期)に分けて,座学と実習を交互に行っている。第1期では主に情報モラルやインターネットの危険な部分等を中心に座学の授業を,第2期では自分の進路に関する調べ学習をプレゼンテーションする内容,第3期はアナログとディジタルについてをPC教材を交えての座学で行っている。そして,第4期である学年末(11月下旬から)でEVAアニメータスクールを用いたアニメーション作成のプロジェジェクトを行っている。
期間
前期中間
(第1期)
前期期末
(第2期)
後期中間
(第3期)
学年末
(第4期)
内容
主に情報モラルや法律に関すること
職業調べプロジェクトとそのプレゼンテーション
主にPCの仕組みやディジタルに関すること
ミニアニメーション製作と発表
使用ソフトウェア
なし
ウェブブラウザ
パワーポイント
なし
EVAアニメータスクール
形態
座学・考査
PPTファイル作成
プレゼンテーション
座学・考査
アニメーション製作
▲年間指導計画(概略)
5.アニメを作ろう!
(1)ガイダンス
プロジェクトの流れ
(1) ガイダンス
(2) シナリオ作成
(3) 絵コンテ作成
(4) 作業計画
(5) 製作(作業日誌)・中間報告書作成
(6) 提出・発表
(7) 評価(自己評価・他者評価)
(8) 反省
3ヶ月にも渡る長期的なプロジェクトは,最初のプランニングが重要だ。とはいえ,生徒たちはどういう手順で作業を行うのか見当もつかないという状況では,最初からつまずいてしまうので,ある程度のスケジュールを授業計画カレンダーで把握させる。また,ソフトウェア上での表現,例えば木の葉のひらひらと落ちる様子,卓球ボールが跳ね返る様子とボーリングの球が跳ね返る様子の比較(図2)など,物理現象をよく観察することでアニメーションとして現実に近い表現ができることを,作品例を見せたり実際に作業行程を見せたりすることでイメージさせている。線が一本無くなったり物体が動く速さが変わったりするだけで,見る側の印象が変わることを実感すると,日常起こっている自然の動きをコンピュータ上で表現するという普段とは違う意識で考えなければならないので,ちょっとした驚きがあったようだ。
▲図2 跳ね返り方で変わる印象
EVAアニメータスクールにはチュートリアルとしてインストールされている動きのヒントがあるので,それらを見せながらいくつかの動きを作成させた。コインが回転する動き(図3)など,生徒は目を丸くして「なるほど」と楽しみながら動きを学ぶことができた。この作業を行うことによって,大体の生徒がお互いに教え合いながら基本的な操作を修得することができた。
▲図3 チュートリアルの例(裏返し)
(2)シナリオ作成・(3)絵コンテ作成
シナリオに関しては,その年によってテーマを決めている。「一発芸」や歌の歌詞にあわせたもの,ことわざのアニメ化など様々だ。絵コンテは詳しく描きすぎないようにさせた。シナリオの中で何を中心(主人公)にするかを考えさせるためにも,絵コンテは重要な役割を果たす。インターネットで『絵コンテ』をキーワードに検索をかけると見本になるものがいくつかヒットしてきたので,それを参考にした。
(4)作業計画
作業計画を立てる前に,評価基準を生徒に提示した。この評価基準は例をあげると,『2分以内で作品を仕上げる』や,『使ってよい色の数は16色まで』,『はじめと終わりのタイトルを必ず入れる』ことなど。これらは自己評価表の項目と同じになるようにした。
作業計画のワークシートはカレンダー風で,作業計画欄,その日の活動記録,問題点と次への課題,その日の評価(4段階)の項目がある。ようするに,作業日誌である。計画通りに制作を行っていく中で,計画段階で想定されていないことや操作に関することなど様々な問題点が出てくる。それを日誌風に書き込むことができるワークシートを準備した。
(5)制作・中間報告
作業日誌には,作業計画に基づいて行われる制作活動が,その日どのように行われたかを毎日書き込ませた。もちろん,計画の通りに作業できる訳ではないので,その変更箇所なども記録させながら,自分の現在の進行状況を把握させるために必ず書かせた。中間報告は,自分の作品が計画通りに作られているか,その内容や行程を簡単に振り返ることができるように,ワークシートを用いて時間をかけずに自己評価できるものを使用した。例えば,完成度(作業の進行具合)と現在の満足度は棒グラフに色を塗るだけで簡単に記入できる。その他の項目についても,該当する項目に○をつけるだけで評価できる。
(6)提出・発表
『提出日は仕事の締め切り日と同じだけ重要である。締切日を過ぎると仕事の契約が破棄されるなど,社会人として自分が不利になる!自分の生活のためには絶対に守らなければならないもの』…と,少し大げさかもしれないが,生徒にこんな話をすると真剣さが増すようだ。提出物についてここまで真剣に考えたことはないという感想を後に残す生徒もいる。この授業では,評価するときもまず提出期限を守ることを重要視させるように,その配点のウェイトは高いと生徒にあらかじめ告知する。
(7)評価(自己評価・他者評価)
3人一組で作品を見せ合い,自分の作品と友達2人の作品を見比べるなどして,自己評価,他者評価を行う。評価項目はあらかじめ示してあるので,それぞれの項目について4段階で評価させた。
時間が取れればクラス内で発表し,全員でその作品の評価を行えるようにしたいが,今のところそこまでの計画はできていない。いずれは,全員の作品を全員で評価できるような授業の流れを作りたいと考えているが,今後の課題である。
成績をつけるときには,作品の完成度合いに加えて,作業計画表の日誌と反省の部分を見て,作品制作の様子を評価している。1日1日の作業計画を立て,作業状況をきちんと把握できる生徒は,他の教科の成績を見ても優秀であることが多い。計画的に学習をする習慣,自分の学習状況を振り返り,反省し,次に生かすことができることの重要性が良くわかる。向上心を持ち,常によりよく学習(作業)を行うことができるようになることは社会人になる上で,重要な要素であると思う。
(8)反省
最後に反省を書かせるのだが,殆どの生徒は自分の作品がどのようにできたか,満足度はどうか,と作品のことに片寄りができてしまうので,自分の制作活動を振り返っての感想が書けるようにワークシートを工夫した。作品の内容に関する反省も確かに重要であるが,作業が計画通りに進んだか,また,作業を行う途中で出てきた問題をどのように解決したかなどを振り返ることで,計画的に作業を行うことの利点とそのシステムについて学ぶことができる。
6.EVAアニメータスクールの可能性
現在はEVAアニメータスクールでアニメを作るというオーソドックスな使い方をしているが,今後は,他教科にまたがったような制作活動ができないかどうか研究するつもりだ。例えば,数学の分野では,2次関数が平行移動する様子や,微分のシミュレーションなど,ノート上では表現することが難しい内容をアニメーション制作の要領で表現する授業ができそうだと考えている。また,プレゼンテーションツールとしても活用できる場面があると思っている。
7.おわりに
『情報』は,今でも何をしていいのかはっきりしていないという意見がまだまだ聞かれる教科だが,逆に言えば,自由度が高く,様々な可能性を秘めた教科であると思う。情報の授業を行っているこの5年間で,私自信もいろいろ勉強をしてその可能性がより広げられるようにがんばってきた。ただ,自由に授業を計画できるということには目標をしっかりと見定めて,生徒に何を身につけさせるか常に考えていなければならない。
今回は,EVAアニメータスクールの授業実践事例を紹介したが,どんな教材でも教える側の経験や目標設定の仕方で,様々な教育効果を上げることができるものだと思う。今後も研究を続け,生徒が楽しみながら大事なことを身につけられるような授業を実践できるよう,自分自身のスキルを磨いていこうと思う。