ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.32 > p14〜p17

教科「情報」テキスト活用事例
1年次情報のディジタル化実習
本郷中学高等学校 伊藤豊・岩野英明
y-itou@hongo.ed.jp
1.はじめに
 本校は,東京本郷区教育会長の松平賴壽伯爵が大正12年4月に旧制中学校を開校して以来,83年の歴史を持ち,現在に通じる「個性を尊重した教育を通して,国家有為の人材を育成する。」を建学精神としている中学併設の私立高等学校で,高校入学時からの生徒募集も行っている。
2.本郷の情報教育について
 本校における情報教育は,昭和55年の機械科でのコンピュータ実習に始まり,電子機械科を経て工業科の募集停止後も普通科に継承された。普通科での情報教育は,家庭科の代替科目として平成5年から情報技術基礎を必修で履修させてきた。平成15年からは新教科「情報」を1年次〔1単位〕・3年次〔1単位〕必修履修させている。また,同年から中学1年次と3年次の技術科でコンピュータの基本的なリテラシーの習得と併せ,情報モラルの育成に重点を置いた指導を行っている。現在,技術科と情報科で共有のコンピュータ室が2教室(94台)あり,生徒には週4日放課後解放を実施している。セキュリティ対策と「なりすまし」の防止のために,ID,パスワードを忘れた生徒の放課後使用は禁止している。
 高校の授業では,コンピュータの操作,アプリケーションの使い方には重点を置かず,情報化の進展における利点と問題点を把握させ,情報を適切に収集・判断・創造・発信する情報リテラシーとコミュニケーション能力の育成に努めている。また,デジタル技術の教育に偏重することなく,アナログ分野にある歴史的遺産を認識して,これを尊重維持する感性も大事であると考えている。
 情報社会に参加する上での望ましい態度を育成することに重点を置いた「情報C」が本校の情報教育を実践する上で適していると判断して「情報C」を履修させている。
 1年次〔1単位〕は,週1時間コンピュータ室で日本文教出版「情報C」教科書(以下,「教科書」と示す)に沿った自主教材を使用した実習中心の授業を行っている。
 3年次も1単位の科目であるが,学期の前半後半で他教科の科目と入れ替え,週1回クラスの半分の生徒で2時間連続授業をコンピュータ室で行っている。総合実習として,年間2回プレゼンテーションを実施している。1学期は,教科書第3章第2節「情報化が内包する問題」の中からテーマを選択させて二人組で,2学期は自由なテーマを一人で行わせている。実体験(成功体験)を通してプレゼンテーションの苦手意識を取り除くと共に,相互評価を行わせることで,公正な態度で批評批判できる能力を育成することを目標としている。
 なお,定期考査は,主に教科書準拠「情報C問題集」から出題している。実習中心の授業のため,1・3学年とも2名の教員で授業を実施している。
3.1年次情報のディジタル化実習
 教科書第2章第3節「ディジタルデータの表現と統合」で各種ディジタル処理を理解させるために必要な実習として,人間が思考しやすいように4ビットを1桁で表示できる16進数の存在と応用例を実習に取り入れた。
 「16進数による文字画像表示」とその画像を使用した「圧縮」・「解凍」の実習を行っている。

(1)目的とねらい
 文字,音,静止画,動画などのさまざまな情報は,形態が異なっていても,すべての情報機器の中では0と1の情報で表現できることの重要性を理解させる。また,「正確で効率的な情報の伝達」は,教科書の図の解説をして基本的な考え方を理解させるにとどめ,深入りはさけた。

(2)2進数・10進数・16進数
(1)コンピュータの中では,すべてのデータを2進数で表すことができる。目的とねらいの説明なしに授業に入っても生徒は何のために勉強しているのかわからないので,2進数・16進数に興味を示さない生徒が多くなる。この出始めの説明が後々の授業で生きてくる。

(2)2進数から10進数の変換
「数学的なやり方」と「算数的なやり方」の2種類の方法を紹介した後,生徒に演習問題として実際に変換を行わせる。

(3)10進数から2進数の変換
2進数から10進数の変換と同じく2種類(累進法)のやり方を説明し,生徒に演習問題として実際に変換を行わせる。

(4)16進数の変換
教科書では2進数と10進数とのつながりで終わっているが,教科書巻末の表を参照させ,次の時間に16進数の説明を行った。「0と1の並びを瞬時に判断したり記憶できる人間はいないだろう。しかし,コンピュータはこの0と1の並びしか判断できない。そこで,0と1の並びを人間が瞬時に判断したり利用するために4ビットを1桁で表示できる16進数がある。」という説明をした。16進数の必要性を理解してから学ぶのと,16進数の必要性を知らないで学ぶのとでは,生徒の食いつきが違ってくる。2進数から16進数へ,16進数から2進数の変換。実際これさえできればいいのだが,あえて2進数10進数の変換で説明した累進法を身につけるために10進数から16進数の変換も行なった。

◇生徒理解
数学が嫌いな生徒には取っつきにくい範囲ではあるが,PowerPointによる説明と再三の演習により,すべての生徒が理解できた。ここの変換の授業で習得できない生徒がいると,後々の実習授業に支障をきたしてしまうので,時間をかけてでも理解させる必要があった。

(3)16進数による文字画像表示
◇事前指導


▲図1:配布プリント 作業手順①③

 Microsoft Excelをはじめて使う生徒には,前もってMicrosoft Excelの操作説明の授業または基礎技術を身につけられる演習を行なう必要がある。

(1)絶対参照の理解
(2)オートフィルハンド
 以上の(1)(2)は不可欠である。
 本校では,その基礎技術を中学の技術家庭で行っているので省略した。

◇作業手順
(1)24×24のます目のプリントを配り,そのます目の上に手書きで漢字一文字を書く(図1)。例:自分の名前の漢字一文字(6画以上“田”のような簡単な文字を除く)
(2)ます目と重なった部分を黒く塗りつぶす(図2)。


▲図2:16進画像作業手順(2)(5)(6)例

(3)Excelを新規の状態で開き,プリントと同じように入力する(図1)。これだけでも,一括でのセル幅の調整,オートフィルハンド,左・中央・右揃え,などExcelの復習には十分である。高校から入学した生徒には入力したものを配信し,Excelの事前指導として基礎技術を身につける課題を与えた。

(4)VLOOKUP関数の説明に見積書を使い,使用例を示した。

(5)プリントに塗りつぶしたピクセルを縦方向に4ピクセルずつ区切り,「黒を1」「白を0」として4ビットの2進数に変換する。4ビットずつになった2進数を16進数に変換する。横6の16進数,縦24の16進数にした。

(6)Excelで,この16進数を入力すると,右側にその漢字一文字が現れる。左側に16進数の値を入れることにより,右側の□□□□が変換する。この仕組みを使い,16進数を入力して画像を作る(図2)。時間があれば,漢字だけではなく,イラストを作らせてみるとよい。

(4)圧縮
◇作業準備
・あらかじめ課題ファイルを教師側が作成する。
・(3)で作った16進画像を4分割して,縦12ピクセル横12ピクセルの画像にすることで,パケット通信についても解説できる。

◇作業手順
・教科書44〜45ページを参考に圧縮を行なう。
(1)白いマス目を0,黒いマス目を1とする(図3)。


▲図3:圧縮作業手順(1)例

(2)0または1が連続する数を計算する(図4)。


▲図4:圧縮作業手順(2)例

(3)連続する部分の数を2進数で表現する(図5)。


▲図5:圧縮作業手順(3)例

(4)圧縮されたデータの情報量と非圧縮の情報量との圧縮率をもとめる。

◇留意点・発展
a)(1)で行なった2進数と10進数の変換ができない生徒は,この課題を行なうのは難しくなる。幸い,今年の授業では全8クラスすべての生徒が変換することができた。
b)教科書では「黒いマス目を1,白いマス目を0」となっている。加法混色と減法混色の違い(教科書53ページ)を踏まえ「黒いマス目を0,白いマス目を1」というように,逆の場合も実習した。このときの圧縮されたデータの情報量の違いも考察することができる。
c)12ピクセル×12ピクセルの画像なので,圧縮前より情報量が多くなる可能性がある。

(5)展開(解凍)
◇条件
(1)キャンバスサイズ幅12ピクセル×高さ12ピクセルの画像。
(2)0または1が連続する数が4ビットで表されている。
(3)連続する数は必ず白から始まる。
(4)0が白のます目,1が黒のます目とする。

◇作業手順
(1)データを4ビットずつに区切り10進数に変換する(図6)。

▲図6:展開作業手順(1)例

(2)データ表に(1)でもとめた数値を入れる。その際,合計が12になったら改行する(0の入力される場所が決まる)(図7)。

(3)データ表をもとに,12ピクセル×12ピクセルのます目に0と1を入力する(図7)。


▲図7:展開作業手順(2)(3)例

(4)0と1の入力した部分を下にコピー&ペーストし,「編集」→「置換」で1を□に置き換え,0を■に置き換える(図8)。


▲図8:展開作業手順(4)例

◇留意点・発展
a)出席番号順に生徒は座っているので,展開データが隣同士で同じ画像にならないように,出席番号が「奇数(3の倍数を除く)」,「偶数(3の倍数を除く)」,「3の倍数」の3通りに分け,それぞれ違う課題を行なわせることで,最終的に生徒に達成感を持たせることができた。
b)作業手順(1)〜(3)でアナログ的な作業を多く行わせたため,手順(4)の置換で得られる達成感・感動はすべての生徒に見られた。

(6)まとめ(発展)
 この実習はすべて白黒画像で行なったため,1ピクセル1ビットという情報量になる。これはビットマップのモノクロと同じ形式になる。次に,8色の場合,16色の場合,256色の場合,フルカラーの場合のそれぞれの1画素の情報量は?という画像実習を行ない,情報量の違いについても触れた。実際にペイントを使いモノクロや256色に変換しプロパティで情報量を調べ,実際に計算で得られた情報量との違いに気づかせた。一連の実習を通して,各種ディジタル処理理解の一助となることを願っている。
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