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ICT・EducationNo.30 > p1〜p5

報告
高校生の携帯電話利用とそれに対する教育の現状と問題点
関西大学大学院総合情報学研究科 安達雅子
1.はじめに
 現在,携帯電話は人々の日常生活の中に確固たる地位を築き上げている。特に,高校生にとっては必要不可欠であり,生活に溶け込んでしまったツールである。もちろん学校生活においても手放すことはできない。だからこそ,高校生の携帯電話利用に対して教育現場にも何らかの対応が必要となる。また,高校生と携帯電話の関連した事件などが起これば,学校でのしかるべき教育が求められてくる。しかし,教師側に比べて生徒側の利用の幅は広く,新しい機能に順応するのもはやい。また,端末自体の発展も著しい。このような状況の中,実際に学校で行われている教育は高校生の利用に即したものとなっているのだろうか。本稿では,高校生と高校教師それぞれに対して携帯電話の利用実態についての質問紙調査を行い,分析した結果をもとに,そこからみえる生徒指導や情報教育の問題点を論じる。
2.教育現場における高校生と携帯電話の認識
(1)教師のみる高校生と携帯電話
 生徒たちの制服やかばんから携帯電話やストラップがのぞき,休み時間にはメールにいそしむ姿は高校のありふれた風景となっている。また,掲示物は携帯電話のカメラでメモをし,紙とペンをもつ生徒の姿は見かけなくなった,とインタビューに協力してくれたある教師は語った。
 高校生にとって携帯電話はどのようなものであると思うかという教師への質問に対しては,なくてはならないものであろう,という回答が多く得られた。高校生にとっての携帯電話の重要性への理解がうかがえた。しかし,そこには否定的な考えも見え隠れした。授業中に携帯電話に意識を取られる,携帯電話にかかる費用をまかなうためアルバイトに没頭し,学業が妨げられる,クラブ活動への参加が減った,コミュニケーション能力が低下してしまう,などの声が多数寄せられた。

(2)携帯電話と出会い系サイト
 その中でも,高校生と携帯電話のかかわりで,教師からもっとも多く指摘されたのは「出会い系サイト」,犯罪との関連についての問題であった。教育現場において携帯電話は「出会い系サイト」,犯罪につながるものであるという認識は根強い。確認までにみておくと,「出会い系サイト」とは,警視庁「インターネット上の少年に有害なコンテンツ研究会」によれば,「一般に面識のない者同士が出会うことを目的としてインターネット上に設置されたサイト」と定義されている。ただこのようなサイトは,意見交換から性的関係を目的としたものまで多種多様であるため,同研究会では異性間の出会いの場を提供するものを,問題のある「出会い系サイト」としている。
 犯罪白書によると,出会い系サイト関連の事件の検挙数は2001年の888件から2002年の1731件へと急増している。このうち,携帯電話を利用したものは2001年には714件(全体の約8割),2002年には1672件(全体の9割以上)となった。また,18歳未満の被害者は2000年には7割ほどであったのが,2002年には8割を超え,年々増加している。事件内容としてもっとも多いのは,性犯罪(ほとんどが援助交際)であるという。
 しかし,何をもって出会い系サイト関連とするかは捜査段階の判断にゆだねられている。つまり,捜査する側が注目しなければ,それらに関連付けた捜査は行われない。また,携帯電話利用者の増加により,検挙がしやすくなっているとの指摘もある。18歳未満の被害者の増加には「出会い系サイト」利用の低年齢化が関係していることも事実だが,援助交際は犯罪であるという意識を植えつけようとサイトに書き込む女子中高生に注目している部分もある。出会い系サイト関連の事件の増加は,統計上のマジックであるという指摘もあるほどだ(渋井,2003)。
3.教育における携帯電話の扱われ方
 では,教育現場では高校生の携帯電話利用についてどのように対応しているのだろうか。

(1)携帯電話に対する対応の変遷
 移動メディアが教育現場に入ってきたのは携帯電話が何も初めてではない。以前にはポケットベル(ポケベル)が存在していた。教室に鳴り響く呼び出し音や,授業が始まってもなくならない公衆電話前の列などが問題となっていた。やがて,ポケベルは校内への持ち込み禁止という対応が取られ始めた。
 携帯電話が登場し始めた頃は,入試といった特別な場所への持ち込み禁止や電源オフが要求されていた。しかし,次第に高校生への普及が拡大していくと,学業の妨げになり,犯罪に巻き込まれる恐れがあるとして,校内への持ち込み禁止を徹底指導する教育委員会が現れる。
 だが,その後携帯電話の普及はさらに進み,所持していない高校生を見つけ出すほうが困難となる。携帯電話を持たせないということが現実的ではなくなり,ただ禁止するのではなく保護者と協力した教育の必要性が叫ばれるようになった。

(2)情報教育
 また,2003年より普通教科「情報」が実施,必修化された。これにともない,情報とのかかわり方や注意事項が示されたリーフレット等が各地の教育委員会等から配布されている。これらには個別の教育委員会等が情報について教育すべき,伝えるべきことと考えることが凝縮されており,情報教育に対する考えや姿勢がうかがい知れる。しかし,これらは一見,小学生用から高校生用まで段階をつけて作成されているようでいて,その内実は「自分のことは自分で守る」,「有害サイトにアクセスしない」といったように代わり映えしない。また,インターネットが中心となっており,携帯電話という言葉はほとんど現れず,その影響力は軽んじられているといわざるを得ない。携帯電話が取り上げられていても,「出会い系サイト」関連で,有害サイトにつながる媒介として扱われるぐらいがせいぜいなのである。
4.高校生と高校教師の携帯電話の利用実態
 では,生徒と教師はそれぞれどのように携帯電話を利用し,何を感じているのか。兵庫県・大阪府内の高等学校に所属する高校生(回収数698)と教師(回収数88)に対し,2005年6月〜7月にかけて行った質問紙調査の結果をみてみよう。

(1)携帯電話の利用状況
 調査によると,生徒の携帯電話利用者は97.1%である。学年を問わず,約7割が高校入学以前に利用し始めていた。きっかけとしては,友人や家族の利用といった周囲からの影響が大きい。一方,教師の利用者は85.2%であった。きっかけとしては,非常時や緊急時に役立つからといったまさしく携帯できる電話の特徴に即したものが多くみられた。教師の利用料金は月平均4,700円であった。生徒は月平均6,155円であり,利用料金すべてを保護者が払っている生徒が約6割,すべて自分で払っている生徒は1割程度という結果であった。
 オフライン利用に関して,生徒は時計(95.1%),カメラ(85.0%),音楽再生機能(46.0%)を中心に平均6.8機能を利用していた。教師も同様に時計(81.3%),カメラ(45.3%)の利用がみられたが,平均2.7機能と生徒に比べて利用は少ない。通話以外に全く利用しない人も携帯電話利用者の2割ほどみられる結果となった。
 ウェブ利用に関しては,機能のある携帯端末の利用者が生徒,教師ともに9割以上であった。生徒の大半がウェブ機能を利用しているが,教師の利用はそれに比べて少なく,4割ほどにとどまった。生徒の利用は,着メロサイト(83.2%),待ち受け画面サイト(50.3%)に集中していた。出会い系サイト(12.8%)の利用経験者は決して少なくはないが,実際に知り合った人と直接に会ったことのある高校生は機能利用者608人中1人であった。教師に関しては,天気予報(62.5%)やニュース(34.4%)と情報サイトに利用が集まった。これらのことからも,教師に比べて高校生の幅広い携帯電話利用がうかがえる。

(2)電話・メールの利用
 まず,電話の利用についてみていく。生徒においては,電話をかける,受けるともに週に1〜4通話の人が5割ほどであった。週1通話以下の人も2割強ほどみられ,全く電話を利用しない人もおり,全体的に電話の利用は少ないといえる。よく電話をする相手の数は8割以上が5人以下と少なく,両親,高校の友人など,ある程度限られた相手であった。やり取りする内容は,待ち合わせなどの約束や連絡(62.5%)や居場所の確認(53.7%)がよく行われていた。
 教師においては,日に1〜2通話の利用の人が3割ほど,週に1〜4通話の人が4割ほどであった。よく電話をする相手の数は,5人未満と答えた人が6割ほど,10人未満と答えた人を合わせると9割となり,一定の限られた相手であると考えられる。また,相手は配偶者や両親,息子・娘といった家族中心であり,帰宅の連絡(64.0%)などの日常生活に即した内容がよくやり取りされていた。
 携帯電話に表示される番号などをみて,電話にでなかった経験は,「よくある」と「時々ある」と回答した人を合計すると,生徒57.1%,教師57.4%と,ともに6割近くになった。
 メールは,携帯電話を利用している生徒全員(100%)が利用していた。利用頻度は,送受信数合わせて日に10通以上のやり取りをする人が約6割に及んだ。20通以上のやり取りをする人も3割ほどみられた。よくやり取りをする相手の数は,5人以下と答えた人が約5割であり,高校の友人が中心となっていた。よくやり取りする内容としては,待ち合わせなどの約束や連絡(76.6%)とともに,おしゃべり(76.1%)をよく行っていた。
 教師においては,携帯電話利用者の90.7%がメールを利用していた。利用頻度について,日に10通以上のやり取りをする人は1割以下であり,週に1〜5通ほどの人が約6割となった。よくやり取りをする相手は,電話同様,5人未満と答えた人が約6割であり,配偶者や息子・娘といった家族中心であった。やり取りする内容も,電話同様,待ち合わせなどの約束や連絡(75.0%),帰宅の連絡(57.4%)といったものであった。
 以上より,教師は電話もメールも同じように利用していたが,生徒は電話よりメールに重点をおいていることがわかった。また,誰とでも携帯電話でやり取りを行っているのではなく,ある一定の限られた日常的に顔を合わせる高校の友人が利用の中心であることが明らかとなった。

(3)学校生活における携帯電話利用
 学校においては,携帯電話の持ち込みを禁止していると回答した教師は42.0%,持ち込んでもいいが電源を切らせると回答した教師は25.0%であった。一方,持ち込み禁止を認識している生徒は15.5%,校内で電源を切らねばならないと認識している生徒は43.4%であった。しかし,実際には9割が学校に持ってきており,マナーモードにして常に身につけている高校生が6割以上と,認識している学校のルールに反していても,高校生は携帯電話を手放すことができない現状がみられる結果となった。
 授業中の利用に関しては,教師の目線では約7割が生徒の利用は見かけないと回答したが,見つけた際の対応としては携帯電話を取り上げるといった厳しいものとなった。しかし,生徒の3人に2人は授業中に利用したことがあり,その9割近くがメールを利用していた。授業中のメールなどの利用は決して好ましいことではないが,それほど高校生にとってメールが重要であることがうかがえる結果でもあった。
 しかし,携帯電話,メールを利用した生徒と教師とのコミュニケーションはほとんど行われていないのが現状であった。

(4)携帯電話利用による生活や意識への影響
 教師は生徒自身や学校生活への携帯電話の影響をどのように意識しているのか。影響を感じるとした者の割合がもっとも多いのは,「生徒が犯罪被害者となる危険性が大きくなった」(68.1%)であった。学校生活や授業への影響に関しても,「授業に集中できない生徒が増えた」(34.1%),「アルバイトに精を出す生徒が増えた」(36.3%)などの影響を教師は感じていた。また「学校内の生徒同士の友人関係が深まっている」(13.6%)よりも「生徒同士のもめ事が増えた」(26.2%)と,生徒の友人関係へのマイナスの影響も感じていた。インタビューにおいて語られていたことが,確認される結果ともなった。
 では,高校生はどのようなことを感じているだろうか。もっとも多く感じられているのが,「いつでも連絡できる安心感」(88.6%)であった。
 学校生活について,「授業に集中できないことが増えた」(12.5%)や「クラブ・部活に参加することが減った」(2.8%)などの影響を感じている生徒は非常に少なかった。実際には,55.6%が現在クラブ活動を行っていた。また,アルバイトに関しては,アルバイトをしている生徒(13.2%)が少なく,携帯電話のアルバイトへの影響は非常に少ない結果となった。また,友人関係については,「友人とのもめ事が増えた」(4.9%)より「友人との結びつきが深まっている」(83.9%)といった点を感じている生徒が非常に多かった。生徒にとって,携帯電話とは,友人とのつながりに大きな役割を果たしていると考えられる。
 このように,生徒は携帯電話が友人関係に及ぼすプラスの影響を大きく評価しているが,教師はやはり出会い系サイト等犯罪に関する影響をもっとも感じていた。アルバイトやクラブ活動への影響も懸念されているが,実際にアルバイトをしている生徒は少なく,またクラブ活動への参加が減ったとは考えにくい結果がみられた。このように教師の考えている携帯電話の生徒への影響と生徒たち自身の実態にはずれがあることが明らかとなった。
5.ずれた教育現場の対策の背景
 限られた日常的に会う友人との間で携帯電話を利用しているのがほとんどの高校生と,出会い系サイトなどの危険性を大きく懸念している教師,さらには有害サイトにつながる媒介として携帯電話を取り上げることが多い教育のあり方。なぜ,このようなずれが生じるのだろうか。

(1)急速に進化・発展する携帯電話
 まず,携帯電話の急速な発展が考えられる。高校生は,ギャル文字やデコ電などを作り上げてきた。高校生は携帯電話の最先端を歩み,引っ張っているといえる。興味を持ち,使うことでいつしか使いこなし,さらに新たな使い方を作り出す力を持つ生徒たちに教師側が追いつくことは難しい。新しい情報機器では,必ずしも大人がこどもよりも把握し,使いこなしているというわけではない,とドン・タプスコット(1998)は指摘する。生徒の携帯電話利用を把握し,それに対する対応を決めている間に,生徒たちはどんどん先へ進んでしまう。ひとつの方針をしっかりと固める時間がないまま,教師や教育現場は対応に追われている現状があるのかもしれない。

(2)メディアの影響
 ついで,マスメディアの影響が考えられる。若者の関連した事件が起これば,当事者のインターネットや携帯電話利用が取り上げられる。実際にそれらの利用が事件に関係したかどうか明らかになっていなくとも,まるでそこに原因があるかのように報道がされる。事件はいつの間にか携帯電話などが引き起こしたかのようにすりかえられている現状は否定できない。自分たちと行動の違う若者が起こした行動,そこに見え隠れする新しいメディアの利用という構図は,社会に刺激が強く,話題になりやすい。教育現場もこの「若者+新しいメディア=犯罪,危険」というイメージに流されていないだろうか。メディアで報道される高校生と携帯電話の関係に惑わされていないだろうか。

(3)学校側への教育責任の押し付け
 3つ目に,学校側への教育責任の押し付けが考えられる。児童生徒がかかわった事件が起こるたび,学校の対応や教育が問われ,問題視されることが増えている。しかし,インターネットや携帯電話を利用しているのは何も学校でだけではない。家庭での利用も多い。したがって教育は家庭の協力なくしては行えない。教育委員会等が配布しているリーフレットも保護者用が作成され,保護者や地域との連携が不可欠であるといわれている。しかし,何か問題が起こると,まず学校側からのこどもへの注意や利用禁止を求める保護者もいる。そこにはこどもから嫌われたくない,学校からの強制ならば,なぜ使ってはいけないかという説明をせずとも,こどもに禁止を迫れる保護者側の事情があるとも指摘されている(香山・森,2004)。
 学校側にあらゆる事象への対応や教育が求められている分,教師や学校への監視の目も厳しい。何か問題が起こると,学校は何をしていたのかと責められ,あまりに突っ込んだ教育を行うとやりすぎであると非難される。学校や教師はこうしたジレンマの板挟みになっていると考えられる。

(4)おわりに
 最近では児童生徒が巻き込まれる事件により,携帯電話の防犯機能が注目されている。ますます,その利用年齢層は低下していくだろう。だからこそ,今まで以上に携帯電話に関する教育も必要となると考えられる。そのとき,教育や対応が実態からずれることなく,利用している生徒の目線でなされることを期待したい。
 参考文献
渋井哲也2003 『出会い系サイトと若者たち』洋泉社
ドン・タプスコット1998 橋本恵・清水信子・菊池早苗(訳)『デジタルチルドレン』ソフトバンク株式会社
香山リカ・森健2004『ネット王子とケータイ姫』中央公論新社
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