ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.3 > p13〜p16

教育実践例
インターネットによる「さっぽろ雪まつり雪像共同制作」の実践
札幌市立新川高等学校 吉岡 隆
Takashi_Yoshioka@mediakids.or.jp
1.はじめに
 6年程前,学校にコンピュータ教室ができ,スキャナーとグラフィックソフトを使ったコラージュの授業を行ってみた。スキャナーで取り込んだ画像を任意の大きさにし,変形などを加えて配置構成を行うデザインの授業であったが,自分で納得できるまで何度もやり直しができることや,色相,明度,彩度をマウス1つで調整できる点などが,美術教育における道具としてのコンピュータの可能性を考えるきっかけとなった。 当時の学校のパソコンは,OSがMS-DOSで,16色しか使えず何かもの足りないと感じていたが,デザイン業界ではすでにMacintoshでDTPを実現していることを知り,自分の道具としてMacintoshを購入して使い始めることにした。

  翌年,現任校に転勤し,財団法人札幌エレクトロニクスセンターを中心とするマルチメディア共同利用実験に参加し,はじめてインターネットを知り,本校美術部のホームページを制作した。

  ホームページを開設して,同じくホームページで生徒作品を紹介している他校の美術教師たちとメール交換しているうちに思いついたのが,インターネットによるさっぽろ雪まつりの雪像共同制作である。

第48回さっぽろ雪まつりの共同雪像と生徒たち
▲第48回さっぽろ雪まつりの共同雪像と生徒たち
2.共同制作の場としてのさっぽろ雪まつり
 さっぽろ雪まつりは,50年前に市内の中高生たちが大通公園に集まり6基の雪像を作ったことがきっかけとなり,会期中100万人以上の観光客が訪れる冬の大きなイベントに成長した。今でも大通公園では,大雪像に混じって,一般市民が職場や学校のグループなどで制作する雪まつりの原点というべき市民雪像が150基ほど立ち並んでいる。

  本校の美術部は,毎年この市民雪像制作に参加していたこともあり,インターネットを使ってこの市民雪像のアイデアを雪がない地域の子供たちと考え,実際にさっぽろ雪まつりで制作しようという試みを始めることになった。
3.電子メールによるアイデア交流
 1996年の第46回さっぽろ雪まつりにむけて,東京の小学生が若田さんの搭乗で話題になったスペースシャトルエンデバー号をモチーフとしたCGを描いたことを起点として,連想したアイデアをスケッチに付け加える方法で電子メールのアイデア交換を行っていった。

スペースシャトルのアイデア(小学生)
▲スペースシャトルのアイデア(小学生)

スペースシャトルとモンスター
▲スペースシャトルとモンスター

第46回さっぽろ雪まつりでの最終案
▲第46回さっぽろ雪まつりでの最終案

  この絵に本校の生徒から地球とパソコンを組み合わせたアイデアが提案され,さらに他の児童からはモンスターをスペースシャトルに乗せることが提案された。モンスターは,卵を抱えた恐竜のイメージに変化し,最終案となっていった。 電子メールでアイデアを送りあい,ホームページで互いのアイデアを見比べ,異なる校種,異なる学年の児童,生徒たちが意見を交換していく試みは,翌年の第48回さっぽろ雪まつりでは,雪まつり実行委員会の公式行事となり,子供たちならではのユニークな共同制作が行われた。

  まず,神奈川の高校3年生より地球環境保護をテーマにしたアイデアが提案された。この作品は,人々がネットワークを通して協力し地球を支え合うコンセプトであった。

  また,東京の小学生から送られたマンモスの絵に対して,他校の生徒から環境の変化によって絶滅したマンモスを雪像の中に使う意見が出されたり,札幌の中学生から里見八犬伝の伏姫のアイデアが提案され,別れた八つの玉が物語の最後に1つに集まることがネットワークを象徴するという意見が述べられた。

神奈川県の高校生からのアイデア
▲神奈川県の高校生からのアイデア

小学生からのマンモスの絵
▲小学生からのマンモスの絵

中学生から提案された伏姫
▲中学生から提案された伏姫

  これらのアイデアをまとめる形で,本校の生徒が最終スケッチを描き,「We are the one!」という題名の雪像が完成した。

最終スケッチ
▲最終スケッチ
4.より使いやすいシステムをめざして
(1) FirstClass電子会議室

  1996年の夏,インターネットによる学校間交流プロジェクト「メディアキッズ」に参加した。メディアキッズは,FirstClass電子会議室システムを使って,小学生から高校生までの児童,生徒が環境学習や日常生活の様々なテーマごとに会議室を設けて,共同研究を行っている。 雪まつりの電子メール交流ではメーリングリストをWWW化してきたが,メールソフトごとの添付ファイル形式の違いなどの問題があり,メディアキッズの会議室やクライアントソフトをみて,生徒にとって親しみやすく,使いやすいシステムの必要性を感じた。

メディアキッズのデスクトップ
▲メディアキッズのデスクトップ

(2) ボトルメール

  雪像のアイデアスケッチを送る絵の電子メールソフトがあるとよいと考えていた時に,「ボトルメール」というソフトの存在を知った。 このソフトは,起動すると砂浜が現れ,スケッチブックに描いた絵をボトルにつめて海へ流すと,同じボトルメールソフトを持つ誰かの海岸に,流したボトルが流れ着くとういう偶然の出会いを演出するものであった。

  送られる絵のメッセージは,画像ファイルである為,外国のユーザーに届いた場合でもキーボードから入力した文字が化けないことや,マウスしか使えない子供でも楽しみながら直感的に使いこなせることに魅力を感じ,開発したリクルートメディアデザインセンターに雪まつりの交流に使いたいとお願いしたところ,快諾していただくことができた。

  まず,誰に届くかわからないボトルメールを特定のグループ内だけで使えるようにサーバーとクライアントソフトをカスタマイズしてもらった。次にグループ内でどのようなアイデアが送られたのか閲覧するために,送信されたすべてのボトルメールがWWW化されるシステムを構築してもらった。

  こうしてボトルメールを使った雪まつり交流を始められる環境が整っていった。

ボトルメールのスケッチブック
▲ボトルメールのスケッチブック
5.ボトルメールで雪まつり
 1998年と1999年,ボトルメールを使った雪像のアイデア交流を行った。 まず,1998年はボトルメールのペイント機能を使ってアイデアを描いてもらい,会議室での話し合いを経て,「ふれあい〜地球と共に生きる〜」をテーマにした雪像を制作した。

  雪像制作時には,会場とアイデア交流に参加したロスアンゼルスの日本人学校をテレビ会議で結び,子供たちの交流を深めることができた。

横浜市内の小学生からのアイデア
▲横浜市内の小学生からのアイデア

ロスアンゼルスの中学生からのアイデア
▲ロスアンゼルスの中学生からのアイデア

雪像の最終案
▲雪像の最終案

雪像制作風景
▲雪像制作風景

  翌1999年は,第50回さっぽろ雪まつり記念雪像のアイデア交流にボトルメールを使った。

  美術1,2の授業の中で,彫塑の課題として粘土の雪像模型を制作し,デジタルカメラで撮影した雪像模型にペイントソフトで手を加え,ボトルメールで送信する試みを行った。

  メディアキッズの子供たちからも様々なアイデアが送られた。

粘土作品をボトルメールで送る画面
▲粘土作品をボトルメールで送る画面

ボトルメール掲示板
▲ボトルメール掲示板

  話し合いで海と犬ぞりに関連した過去50年間のできごとをWWWで調べた中から,1975年の沖縄国際海洋博覧会と1976年の植村直巳,北極圏犬ぞり単独踏破をモチーフとした雪像を制作することになった。

沖縄国際海洋博覧会(シーサー)の模型
▲沖縄国際海洋博覧会(シーサー)の模型

犬ぞりと植村直巳の模型
▲犬ぞりと植村直巳の模型
6.まとめ
 新学習指導要領,中学校美術科及び,高等学校芸術科(美術)に「映像メディア表現」が指導内容として新たに加わった。

  「映像メディア」とは,写真,テレビ,コンピュータ等映像機器を使って伝達・交流する媒体システム全体を指す。また,「映像メディア表現」とは,その媒体・方法を使って表現することである。

  デザインでは,バウハウスの時代から「視覚言語」という考え方が注目されたが,インターネットをはじめとする情報通信が社会の中で定着しはじめた今日,映像メディアの表現がビジュアル言語として大きな役割を担ってくると思われる。

  今回の改訂で「映像メディア表現」が新たに加えられた意義は,情報を収集し学習に活用するだけにとどまらず,生徒自らが情報を制作し,発信・交流していく手段として美術教育の中に位置づけらたことである。

  雪まつりを舞台としたインターネットによる共同制作を通して生徒たちが構想を練り上げ,発信・交流していった姿を振り返ると,4年前にはみえなかった美術教育のあらたな方向性がみえてきた思いがする。
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