ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.28 > p20〜p23

中学校の情報教育実践例
立方体の展開図と切断面
−班学習で取り入れた立体シミュレーション−
大阪府高槻市立第八中学校 吉田光宏
08@takatsuki-osk.ed.jp
1.問題
(1)具体物制作の必要性
 中学1年生「空間図形」の単元の中にある空間図形は教科書(平面)だけでの表現で学習するには困難である。頭の中で,イメージできない生徒にとっては,むずかしい分野だ。そこで,実際に立方体(サイコロ)をつくることを通してより理解が深められないかという視点から2年選択数学「立体幾何」を考案した。

(2)合科の模索
 また,数学の分野だけで終わる(立方体をつくる)だけでなく,できるだけ美しく制作するという観点から,美術の領域も学習に含んでいる。制作にはデザイン分野を多く取り入れた。

(3)パソコンの班活用の必要性
 コンピュータを授業で導入する際,従来一人ひとりが自分の課題に応じた学習をする個人対パソコンの形態が多かったが,パソコンをcommunicationの手段として班で活用する方法は,数学では実践例が少ない。班で話し合いながら問題解決する取り組みの有効性を模索した。

<参考>2年生5教科選択6講座一覧
国語:基礎
国語:発展
社会:映像から学ぶ歴史
数学:立体幾何
理科:1分野(基礎から発展)
英語:補充学習
2.学習目標
 立体図形を制作することを通して視覚的に構造を理解する。

ピタゴラスの定理(3年生の領域)を使って立方体の切断面各辺の長さを計算で求め,制作することを通して,計算の理論値と実際に制作した結果を確かめる。
サイコロの展開図の様々なパターンを考える。
立方体を平面で切断したときの切り口の図形を判別する。また,制作を通して数学のよさや興味・関心を引き出す。
思い思いの視点から面のデザインをすることにより構成美の要素を使い,バリエーション豊かなデザインの意欲関心を高め,配色の楽しさを味わう。
プロポーション(黄金比分割や,等差,等比数列の分割)を使うことにより,つりあいの取れたデザインができ,これらが数学的な規則により構成されていることを通して,美術の中にも数学が取り入れられていることを知る。
自他の作品についてよさを感じ取り,自己評価,相互評価をする。
コンピュータを班で有効活用をする。
3.授業の展開(流れ)全16時間
1. 基本図形の作図
垂直二等分線,角の二等分線,内接円,外接円など
2. 三平方(ピタゴラス)の定理を使った計算
直角三角形で,2辺から残りの1辺の長さを計算で求め,電卓でおよその長さを出す。
実際に製作する際はこの値を使い,作図する。
3. 展開図の制作
11種類の展開図のパターンを各自考えた後,班で考える。
4. 立方体の切断面の構想図の制作
9種類の切断面を班で考える。
5. 面のデザイン(面積が1:1となる曲線又は直線で構成する)を考える

▲面のデザインの彩色の様子
6. 作品(図形)の決定
9種類の切断面すべてのパターンを考えた後,班単位で何を作るか相談して決める。
7. 切断面の制作(展開図に切断面をかく)
ケント紙に切断面の図形2枚を作図し,切り取る。
8. 彩色
色の組み合わせを考える際に,トーンを変えた組み合わせ,たとえば,「青+もっと明るい青」,「緑+柔かい緑」,「赤+濃い赤」,「黄+浅い黄色」という2色などで彩色する。
9. 組立て
のりしろに糊をつけ,セロハンテープで止めながら,内側より組み立てていく。
10. 完成・発表
お互いの作品を見ながら感想を交流する。
4.立体シミュレーションの活用
 今回,シミュレーションを利用したのは上記16時間のうちの2つの過程である(3,4)

(1)展開図の制作
 立方体の展開図の学習用ソフトを使用した(大日本図書−小学校−算数−展開図)※注1
 このソフトは,1種類の展開図(3つ並んだ正方形が,2段につながったもの)以外のすべての展開図を画面上に描くことができ,更にその展開図の正誤判断と,対応する面が示される。生徒に自由に利用させることで,効果的な図形の学習が期待できる。
 実際に画用紙などに展開図を描き,切り抜いて組み立てることで容易に理解はできるが,平面上に描かれた展開図を頭の中で切り抜き組み立てることも,大切な学習である。
 活動の流れとして,まずは自分で何通りできるかを考える,しかし,個人で考えるには限界がある。班で考えることにより,他の人の考え方を取り入れることができる。最後は,シミュレーションソフトを使い各班が発表し全体の場で確認する。11種類のパターンが出るまで班協力して考える。このソフトが使いやすい点として,以下のことが挙げられる。
1. 画面上で自分が作った立方体の展開図を入力することにより,リアルタイムで正しい展開図であるかを確かめるという活動ができる。
2. 1台のパソコンをスクリーンに投影することにより班で考えたことを全体で共有でき,みんなで確かめられるので全体に返すことが可能となり,それを班に戻して考えさせることで対話が生まれる。
3. 操作が簡単で,空間図形の構成力を養う上で有効なソフトである。
[自分で考える]思考
導入:学研 デジタル掛図 算数6年使用。
算数ワークシート「立方体の展開図をかこう」使用。
各自ワークシートに展開図をかく。
立方体の展開図パターンをできるだけ多く考える。1人で考えると平均4〜5個程度である。
自分で考えた展開図をワークシートにかく
▲自分で考えた展開図をワークシートにかく

[班で考える]交流
班で集まり自分が考えた展開図を出し合い,自分と異なるパターンの交流をする。これで,2個程度は種類が増える。
発表用の用紙:B5にマジックで各班が1つだけ展開図をかく。
班で同じパターンの展開図が出ることがあるが,かまわない(異なる班で同じパターンが重複することはありえる)。
課題を班で交流し,具体的な操作活動をしながら主体的かつ意欲的に学習に取り組ませる。
班ごとに自分が考えた展開図を交流
▲班ごとに自分が考えた展開図を交流

[みんなで考える]発表
 班ごとに前に出て展開図を発表する。立方体ができない場合は,「残念!これでは立方体はできません」という表示が出る。立方体ができた場合は対応する面が色分けされていて,組み立てたときの位置関係がわかりやすい。
各班で考えた展開図を発表する。
発表された展開図の掲載
▲発表された展開図の掲載
同じ展開図のパターンが出た場合は,他のパターンを発表に使う。
展開図は最大11種類の場合が考えられる。全部のパターンに挑戦する。
他の班の人が発表する前に自分たちの答えを出そうという意欲がどの班にも見られる。
班の発表を聞き他のパターンをみんなで考える。 班の発表を聞き他のパターンをみんなで考える。
▲班の発表を聞き他のパターンをみんなで考える。

(2)切断面の制作
[自分で考える]

 切断面の構想図を斜投影法でかかれたワークシートの中に全部かく。
 立方体の切断面は全部で「二等辺三角形,正三角形,正方形,長方形,ひし形,平行四辺形,台形,五角形,正六角形」の9通りである。
 切断された図形を確認するのに使用するソフトは「Virtual Solid for Windows」である。展開偏で図形の頂点や辺上の3点をクリックすることで,断面を指定することができる。
五角形の切断面
▲五角形の切断面

[班で考える]
 4人1組の班で相談し,どの図形を制作するか相談する。決まれば,T字型展開図の中に,切断面がその図形になるよう切断する線を入れる。
 切り離したい辺の一方の頂点をクリックする。
切断面が五角形の展開図
▲切断面が五角形の展開図

そして切り離したい辺のもう一方の頂点をクリックすることで辺が切り離され,点線で表示される。面が一辺のみで接するようになると,自動的に展開される。具体物を実際に手にとって観察しながら考える。

注1 http://www.dainippon-tosho.co.jp/sho/index_sansu.html
5.考察
 生徒の反応として,展開図を組み立てなくても,シミュレーションで自分たちが考えた展開図の是非がわかることには感動していた。
 班で考えさせることで対話が生まれ,その有効性も実感できた。パソコンを使うと個人対パソコンが多くなるが,機械との対話よりも,人との対話を重視すべきである。班で考えさせたとき,自分と異なるパターンの展開図を他の人から見せてもらい,教えてもらうことで,理解がより深まる。お互いにわからなくなったときに道具として立体シミュレーションを使う。操作が簡単で,結果がすぐ出るので,生徒には使いやすい。
 自分たちで考えた展開図で立方体ができない場合は,「なぜできなかったのか」,また,「どこを変えればできるのか」班での対話が始まる。それらの対話こそがこれからパソコンを取り入れる上でとても重要な要素であると考える。
 これからのパソコンの使い方として,「一人で使うパソコン」から「みんなで使うcommunicationの道具」としての使い方も必要ではないだろうか。
切断面が五角形となる立方体
▲切断面が五角形となる立方体
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る