ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.27 > p26〜p29

海外との交流事例
情報教育を国際理解教育と共に
─情報Bで『ハングルでe-mail』の授業の実践から「韓国・朝鮮語」授業の設置へ─
大阪府立市岡高等学校 松山 敦
1.市岡高校における情報教育の位置づけ
(1)新しい基礎学力としての「情報活用能力」
 2003年度より新教科「情報」が全国的に高校で必修となりました。
 市岡高校では「情報活用能力は,これからの『新しい基礎学力』である」という観点に立ち,情報Aより高度な内容を扱う情報Bを,「1年で2単位必修,2時間連続100分授業,ティームティーチング」という形で実施しています。

(2)大阪府教委より新教科研究学校に指定
 2003〜2004度は大阪府教育委員会の事業「新教科研究学校」の指定を受けました。2年間で合計6回の研究授業を行い,研究成果を情報発信し,大阪府全体の情報教育の発展に貢献しました。また,既成の教材にのみ目を向けるのではなく,常に新しい課題に取り組んできました。
2.新教科研究学校としての2年間の取 り組み
(1)2003年度
・パソコン組み立て
・デスクトップミュージック
・英語でe-mail(オーストラリアの交流校とのメール交換を含む)
※アルファベットを入力するパソコンは英語学習にとっても格好のプラットホームです。

 とっても格好のプラットホームです。授業では,登場するパソコン用語を正しい英単語・発音で紹介し(音声付き,Goo辞書を使用),語彙力アップの一助としました。また,英語によるe-mail作成と外国の生徒との交流を通して「通じた喜び」を英語学習の動機付けにしようと考えました。

(2)2004年度
・名刺作りと名刺交換を使った集団作り
・アイロンプリント用紙を使ったTシャツ作り
・チャット実習と長崎佐世保事件を取り上げた情報モラル教育

 次に,2年間の新教科研究学校事業を終えた2005年度を迎え,「ハングルでe-mail」という全く新しい授業の実現を目指していきました。
3.教科「情報」で「ハングルでe-mail」実施を企画
(1)「英語でe-mail」の授業での困難な点
 2003,2004年度と「英語でe-mail」という授業を行いオーストラリアやGUAMの高校生とのメイル交換を行っていましたが,外国の学校とのメール交換を成り立たせるため必要な「交流相手のメールアドレス」の獲得が,現在極めて困難な状況になっています。
 これは,以下のことが原因として挙げられます。

①海外の学校では,全ての生徒に対して学校でメールアドレスを与えているわけではない。
②希望者を募ってのメール交換である。
③全ての家庭でインターネットが使えるほどインターネットが普及していない国もある。
④もらったリストのスペルミスによりリターンメールが多い。
⑤相手校の担当の教員(日本語授業担当である場合が多い)の負担が大きい。

(2)韓流ブームに着目した「ハングルでe-mail」の実現へ
 Windows2000及びXPは標準で多言語対応になっており,設定の変更で簡単に韓国語の入力が可能です。また,近年の韓流ブームで「日韓キーパル(キーボードだからKey-Pal)サイト」が急増し,登録する中高校生も非常に増えています。このことに着目し,「韓国語入力」を授業のテーマに取り入れることを企画しました。
4.ハングルキーボードと交流校を求めて 2度の韓国訪問
(1)「韓国の秋葉原」龍山(ヨンサン)電子商店街を行く
 2005年2月,3月と2回にわたり自費で韓国へ行き「韓国の秋葉原」と言われる「龍山(ヨンサン)電子商店街」を訪れました。そして授業までにUSBで接続できるハングルキーボード40台を入手することができました。

(2)交流校を求め,アポなしで2つの高等学校を訪問
 韓国はインターネット先進国です。高校にはコンピューターの授業は必ずあり,ほとんどの家庭でインターネットが接続されています。また「PC房(パン)」と呼ばれる「インターネットカフェ」もたくさんあります。一方,韓国の高校では第2外国語の選択が義務づけられており,日本語を選択し学ぶ高校生が増えています。日本の韓流ブームに連動して韓国でも日本への関心が高まっています。そんな隣国にメールアドレスを提供してくれる高校を探しに行きました。

 3月の末にもかかわらず,受験競争の厳しい韓国の高校は模擬試験の真っ最中でした。1つ目の公立高校では校門で「試験中だから5時まで忙しくて相手ができない」「じゃあ,5時に来たら良いか?」と聞くと「知らない。帰って下さい」と冷たい返事(韓国語でコミュニケーションをとれました)。めげずにその近所にある私立の女子校を訪ねました。この学校も模擬試験中でしたが,1校目とは正反対に歓迎されました。初めは校門で会った先生に用件を述べ職員室まで案内してもらいました(ここまで韓国語でコミュニケーション)。この学校では第2外国語で日本語を選択する生徒が何と8割もおり,日本への関心の高さがうかがい知れます。そして日本語担当の先生とお話しすることになりました。その先生も非常に乗り気で話はトントン拍子に進み「学校長宛の依頼文がないと個人情報であるメールアドレスを渡せない」というので帰国するや校長名の依頼文をFAXで送りました。何とか5月の「ハングルでe-mail」の授業までにアドレスを獲得しようと…。

(3)交流に水を差した「独島(竹島)問題」と「歴史教科書問題」
 韓国の高校の日本語担当の先生からメールで返事が来ました。意外にも「校長が『現在,独島問題に加え日本の歴史教科書問題で韓国国内の世論も微妙であり,少し政治的な動向を見守ってから考えたい』とのこと。残念ですがもう少し時間をください。」という内容でした。領土問題,教科書問題や歴史問題がこんなところで交流に水を差す結果になりとても残念でした。しかし心機一転。ともかく交流の話は5月には間に合わないとわかり,急遽「キーパルサイトでのメル友探し」に方針転換しました。
5.「ハングルでe-mail」の授業が始まった。
(1)公開研究授業「ハングルでe-mail」を実施
 授業の内容は「韓流ブームと日韓友情年2005」「韓国語と日本語の共通点」「ハングルの構造」を説明した上で「韓国語IMEの設定」「自分の名前をハングルで書く」「例文を示しWORDでハングルと日本語の混在文書を作成」と進み,Key-Palサイト"GO Korea"でKey-Palを捜しOutlookExpressで新規メールに貼り付け送信するというもの。

 授業は5/11〜5/17まで。5/17(火)午後の最後の授業を「公開研究授業」としたところ,情報の先生だけでなく,府下で韓国・朝鮮語を教えておられる5名もの先生方のご見学もいただきました。生まれて初めてハングルに接した生徒は「難しい」と言いながらも意外とすらすらとハングルを入力し,そして全員無事100分の授業でメールを送信し終えました。返事を心待ちにしている生徒の表情には満足感があります。そのうち返事が来た生徒が約6割。そして今も,メール交換が続いている生徒がクラスで5〜6人程度います。

 この授業には情報で扱う内容も多く含まれている一方で「生きた国際理解教育」とも言えます。
 韓国とのメール交換を通して韓国語への関心や,生徒同士の日韓交流への糸口となるからです。
 韓流ブームは単なる流行ではなく一気に流れ出した波です。韓国映画・ドラマが多数日本で上映され,音楽面でも脚光を浴びている今のこの波を,今後も国際理解教育と情報教育の両面から取り入れていきたいと考えています。

(2)公開授業を見学した方々の感想(抜粋)
情報教育と国際理解教育は切っても切れないものだと思います。それを見事に実現され,生徒たちが楽しく授業を受けているのを見てすばらしいなと思いました。(韓国・朝鮮語)
とても興味のある内容だったので参加させていただきましたが,私にとって大変得ることの多かった,勉強になった時間でした。どうもありがとうございました。是非,取り組んでみたいという気持ちを強く持ちました。特に私の場合は情報の教員をはじめとした周りの教職員の協力,理解を得ることが必要ですが,またいろいろ教えていただけたらうれしいです。(韓国・朝鮮語)
とても楽しい授業でした。先生の熱意がひしひしと感じられる授業でした。コンピューターは「ツール」ではありますが,だからこそ正しい使い方を教える必要があるのでしょうね。特に,メールなどを扱う場合のマナーやメディアリテラシーに関することは是非教える必要があると思います。(国語)
本校では今年の9月末に海外研修旅行で韓国に行きます。その事前指導として向こうでソウル市内を案内してもらう日本語学校の生徒とE-mailでやりとりしようと企画しています。本日の公開授業,非常に役に立ちそうです。私自身ハングル文字もほとんど初めてなのでそこからの話でしたが,韓国語IMEの設定,ハングルキーボードの扱い,キーパルサイト「GOKOREA」,翻訳サイト「Excite翻訳」等参考になりました。ありがとうございました。(理科)
100分の授業はうまく構成されていて,盛りだくさんの内容がこなされていくことに驚きました。今後の展開についても大変興味があります。E-mailのやりとりがスムーズに出来れば国際交流の成功だ思います。良い結果となることを祈ります。大変参考になることが多かったです。(情報技術)

(3)生徒の感想(抜粋)
ハングルで字をうつのが難しかったけど,とても楽しかったです。返事が楽しみです。
韓国に友達ができるとかめっさ面白そう!ハングル難しいけど,打ってて楽しかった。友達できたらいいなぁ,と思う。
韓国語うつのは難しかって大変やった。メール送った人と友達なったらィィなぁと思います。楽しみです。
海外にメール送るのは楽しかった☆☆ハングル文字は難しかったけどオモシロカッタ♪あと,返事がかえってきてほしい!!
パソコンで初めて外国にメールを送ったので不安だった。返事が楽しみです。
ハングル文字はとても面白いということがよく分かりました。はやくメールがしたいです。
キーを探すのに時間がかかってしんどかった。ハングルを勉強できてよかったです。友達になれたらいいなあ。
ハングル文字の入力はとても難しくて時間がかかりました。海外に友達をつくるのは初めてなので楽し
みです。またこういう機会があればいいなぁと思います。
この授業は楽しかったですよ。これをきっかけに韓国のこといっぱい知れたらいいなあと思います。
ハングル文字を勉強することが初めてで初めはとても苦戦したけれど楽しくできてよかったです。
韓国語を入力するのはすごい難しかったです。返事がくるかどうかすごい楽しみです。また,この授業の時間はすごい良い経験になりました。
6.「韓国・朝鮮語」授業設置を決定
(1)語学堂と私
 駐大阪韓国総領事館は2004年度から領事館が運営する語学教室である語学堂(オハクタン)をOCAT内に移転し規模を拡大しました。
 それまで独学で韓国語を学んでいた私は2004年度から中級コースを受講,2005年度は上級コースで学習しています。学習者の年齢は10代から50代まで幅広く,若い世代も結構多いのが現状で,まさに韓流を語学堂で実感することができます。

(2)「韓国・朝鮮語授業の来年度2年生からの設置」を決定
 大阪府教育委員会は「韓国や中国などとの友好・文化交流」を積極的に推進しています。また,文部科学省より「外国語教育多様化推進地域」に指定され,韓国・朝鮮語教材を自主開発しました。

 「ハングルでe-mail」の授業を契機に,生徒たちが韓国・朝鮮の文化に関心を持ち,韓国・朝鮮語を学ぶことができれば,韓国・朝鮮人生徒には母国語保障ができ,日本人生徒にとっても韓国・朝鮮に対する差別意識を払拭する契機になる,きわめて重要な要素だと考え提案,決定しました。

 そして,次年度の2年生(現在の1年生)の文型コースの生徒のみ韓国・朝鮮語を履修可能なカリキュラムを編成,一次調査では文型生徒の約15%が選択を希望し,いよいよ市岡での「韓国・朝鮮語授業開講」が現実のものとなってきました。

(3)自分自身の日韓交流の姿
 韓国・朝鮮人生徒への母国語保障は多くの学校・先生方が取り組まれていますが,自分で韓国語を学ぶ中でこそ見えてくるものがあります。そして,次の段階は自分で韓国に行きコミュニケーションが取れ,韓国の文化や人々の心に触れ理解することができれば,また新たな喜びとなります。

 学習歴わずか2年にして上級コースで学習する私は,毎週,語学堂で未知の単語・表現に出会い,自分の未熟さを知ります。そしてまた勉強です。

 私は2005年8月7日〜16日に、ソウルのカナタ韓国語学院へ2度目の短期留学をして来ました。祝日である8/15光復節(読み:クァンボクチョル,「解放」=「光がよみがえる」意味です。)まで授業をして下さった先生に感謝です。また「駅で切符の予約」「バスターミナルで切符の予約」「コンサートチケットの予約」など「現地で通じるコミュニケーション」の実践にも取り組みました。

 「何でも,まずは自分でやってみる」が私の信条です。常にこの姿勢で,情報教育や国際理解教育,人権教育など,様々な場で実践しています。この私の「私が学ぼうとする姿勢」を通して,生徒が普遍的な「学ぶ力」をつけて欲しいと思っています。
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