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ICT・EducationNo.27 > p6〜p9

報告
「情報科導入テスト」について
神奈川県高等学校教科研究会情報部会 小野尚登(神奈川県立六ツ川高等学校)
http://www.johobukai.net
1.はじめに
 神奈川県高等学校教科研究会情報部会には「情報教育委員会」「情報技術委員会」「情報ネットワーク委員会」の三つの委員会があります。その一つ,「情報教育委員会」では,次のテーマで各委員が研究し,委員会で発表協議し,研究会を開催してきました。

・授業について
・授業評価について
・中学校での情報教育について
・大学入試における情報科目の受験について

 「中学校での情報教育について」では,中学校の教員に話を伺い,中学校の技術家庭科の教科書を調べ,生徒がどのようなことを学習して高校に入学するのかを調査研究しています。ここ数年の調査研究の結果,中学校での情報教育はかなり進んでいることがわかりました。しかし,技術の担当教員は1人のことが多いため,地域や中学校ごとに扱う内容の軽重があることもわかりました。
 そこで,高校で普通教科の「情報」を学習する生徒がどのような「情報」の知識を持っているのか調査(=テスト)することになりました。中学校で何を学習したかはアンケートで調べることができますが,どのような知識を持っているかはアンケートではなくテストをする必要があります。
2.テストの概要
 神奈川県の多くの高校では,4月上旬に第1学年の生徒に対して,各教科部会が作成した国社数理英の「新入生テスト」を行っています。教科「情報」でも同様な形式でテストを行いたいと考えたのが「情報科導入テスト」です。次の形式で実施することになりました。

・目  的:高校で「情報」を学習するにあたり入学前の情報に関する知識がどの程度あるか測定する。その結果を授業の改善に活用する。
・実施時期:4月の国社数理英の新入生テストと同時期,または情報の最初の授業時。
・対象学年:第1学年(教科「情報」を初めて履修する学年)
・試験形態:4択問題(50問×2点)
・実施時間:50分
・問題印刷:Wordのパスワード付きファイルを各学校にメールで送り,各学校で印刷する。
・料  金:無料
3.問題の評価項目について
 評価項目の設定には次のものを参考にしました。
・中学校学習指導要領 技術・家庭
・中学校技術教科書(東京書籍,開隆堂)
・情報活用能力検定(J検)4級
(J検4級の内容は中学校卒業程度)

 評価項目は次のように大項目が4,小項目が20になりました。
Ⅰ コンピュータの基礎
 ①アナログとディジタル
 ②コンピュータの仕組みと働き
 ③コンピュータの基本操作
Ⅱ 情報と社会
 ①情報モラル
 ②セキュリティ
 ③コンピュータ犯罪
 ④個人情報
Ⅲ 情報通信ネットワーク
 ①インターネット
 ②Webページ
 ③メール
 ④携帯電話
 ⑤ディジタルカメラ
Ⅳ アプリケーションソフトについて
 ①ブラウザ
 ②メーラー
 ③画像処理ソフト
 ④Webページ作成ソフト
 ⑤ワープロソフト
 ⑥表計算ソフト
 ⑦プレゼンテーションソフト
 ⑧データベースソフト
 各委員がそれぞれの小項目ごとに問題を作り,その中から50問を選びました。選んだ50問を1つにまとめると,問題文が他の問題の答えをあらわしている,問題文・選択肢がふさわしくない,中学校の範囲をこえているなどがあり,調整が必要でした。問題(情報部会のWebページに掲載)が難しく,高校で「情報A,B,C」を学習した生徒に対する問題と思う方もいるかもしれませんが,ほとんどは中学校の範囲内の問題です。
4.実施概要
 「情報科導入テスト」の申込みは,50校,12,301人(他に未定あり)でした。実施できなかったところが4校あり,46校で実施されたようです。この中で統計データを提出したのが35校でした(だだし,一部不完全なデータがありました)。
 受験者数は表1の通りです。このような教科「情報」を初めて学習する生徒の知識を測定するテストで8,400人以上も受験したものは全国的にも珍しいと思います。学年別のテスト実施学年は表2の通りです。2,3年で実施した学校には,高校で「情報」を学習した後に,それを確認するための「完成テスト」として実施した学校もありました。

受験者数(表1)
▲受験者数(表1)

テスト実施学年(表2)
▲テスト実施学年(表2)
5.実施結果の分析
(1)平均点と得点分布
 問題の難易度について,教員にアンケートした結果,「難しかった:13校」「適当だった:21校」「易しかった:0校」でした。「情報科導入テスト」実施結果の平均点は表3の通りです。

平均点(表3)
▲平均点(表3)

 この問題内容で1年生全体の平均点が56.6であることから,「情報」の知識のかなりある生徒が高校に入学してくることがわかります。このことを前提に高校の教科「情報」の授業を組み立てる必要があります。
 得点分布を学年別にグラフにしたのがグラフ1です。前述したように,1年と2,3年では受験人数と「情報」の学習状況が異なるので同列には扱えませんが,2,3年と比較して1年生のグラフの山が高く全体的に中央に寄っていることから,1年生の「情報」の知識差は少ないと思われます。この「情報科導入テスト」を継続して実施し,過去のデータと比較すれば,生徒の「情報」の知識の変化がわかるようになるので,今後が楽しみです。

学年別得点分布(グラフ1)
▲学年別得点分布(グラフ1)

(2)問題別分析
 各問題別に,選択肢ア〜エの選択数を各校10名調べてもらい,350人分のデータを得ることができました。この結果,正解率が70%以上の問題が17問,30%以下の問題が8問ありました。
 最も正解率の高い問題(92.9%)はセキュリティ(パスワード)に関する問題(15)です。
(15)次の中でパスワードを設定する際に適当なものはどれですか。
ア 自分だけの固有の情報である生年月日を使う。2.3%
イ 覚えやすい家の電話番号を使う。3.1%
ウ 時間を短縮するためにIDと同じものを使う。1.7%
エ 自分だけが分かる意味のない英数字を使う。92.9%

 パスワードについては社会問題化していて,報道などで見ることも多くあるためか,多くの生徒に正しい知識があることがわかります。
 しかし,別のセキュリティ(パスワード)に関する問題(14)の正解率が余り高くない(59.4%)ので,パスワードを実際に使う生徒はあまり多くないのではないかと思われます。
(14)次の中でパスワードの説明として適当なものはどれですか。
ア パスワードの長さは基本的に3 文字に限る。2.0%
イ パスワードだけで利用者を特定することができる。 28.6%
ウ パスワードはコンピュータの名前を示している。9.4%
エ パスワードは時々変更したほうがよい。59.4%

 最も正解率の低い問題(10.9%)はオペレーティ ングシステム(OS)に関する問題(5)です。
(5)コンピュータを利用する上で必要となる基本的なソフトウェアをなんと言いますか。
ア ハードウェア 44.9%
イ オペレーティングシステム 10.9%
ウ ワードプロセッサ 15.4%
エ データベース 28.0%

 「ソフトウェア」を問う問題で「ハードウェア」の選択率が最も高いのは,「ソフトウェア」と「ハードウェア」の明確な区別がついていないのではないかと思われます。また,教科書などで「オペレーティングシステム(OS)」についての説明をするが,実習時にコンピュータを扱うときは「オペレーティングシステム(OS)」とは言わずに「ウィンドウズ」と言うために正解率が低いのではないかと思われます。
 同様なことは「ブラウザ」に関する問題(37)でもいえます。
(37)インターネットでWeb ページを見るために必要なソフトウェアを何といいますか。
ア ブラウザ 41.1%
イ メーラー2.9%
ウ ペイント 1.4%
エ サーバ 53.1%

 Webページを見るためのソフトウェアを「ブラウザ」と説明するが,実習時には「ブラウザ」と言わずに「インターネットエクスプローラ」と言うために正解率が低いのではないかと思われます。このことは高校での実習時にも「商品名」だけではなく「一般名」を使って説明する必要があることを示していると思います。
 2番目に正解率が低い問題(15.7%)はワープロソフトに関する問題(44)です。
(44)ワープロソフトについて述べた次の文章で、最も適切なものを1つ選びなさい。
ア 表を作ることはできない。8.0%
イ Web ページを作ることはできない。48.6%
ウ データを圧縮してGIF 形式で保存することができる。 24.9%
エ テキスト形式で保存すると文字の色や大きさの情報 が失われる。15.7%

 「テキスト形式」の意味が分からないために正解率が低くなったことと,ワープロの文書ファイルをHTML形式で保存した経験がないために, 「Webページを作ることはできない。」を選んだ生徒が多くなったのではないかと思われます。

(3)項目別分析
 項目別にみると,正答率が40%以下の問題は,「Ⅰコンピュータの基礎①アナログとディジタル(1)〜(4)」が4問中4問,「Ⅰコンピュータの基礎②コンピュータの仕組みと働き(5)〜(7)」が3問中2問と多くなっています。このことから,中学校ではコンピュータの基礎の理論的な事柄があまり指導されていないことがうかがえます。そして,「Ⅰコンピュータの基礎③コンピュータの基本操作(9)〜(10)」は3問とも正解率が70%以上になっています。少し乱暴ないい方をすると,コンピュータのリテラシーはかなり学習しているが,コンピュータの理論的な部分はあまり学習していないのではないでしょうか。高校の「情報」ではリテラシーより理論に重点を置いて指導する必要があると思います。
 正解率が80%以上の問題は,「Ⅲ情報通信ネットワーク③メール」が3問中2問,「Ⅲ情報通信ネットワーク ④携帯電話」が2問中1問と多くなトワーク ④携帯電話」が2問中1問と多くなっています。現在は,ほとんどの生徒がケータイを持ち,それでメールをするので,これらの内容は常識となっているようです。

(4)問題の評価
 「良いと思う問題」と「良くないと思う問題」を教員にアンケートした結果,「良いと思う問題:17問」「良くないと思う問題:18問」でした。しかし,両方に該当する問題も9問ありました。項目別にみると,良いと思う問題は「Ⅱ情報と社会 ①情報モラル」です。良くないと思う問題は「Ⅳアプリケーションソフトについて ③画像処理ソフト⑥表計算ソフト」です。両方に該当する問題は「Ⅱ情報と社会 ④個人情報」,「Ⅲ情報通信ネットワーク ①インターネット」です。
 問題の形式,内容などについて意見がいくつかありました。先生方の貴重な意見を参考にして,来年度はさらによい問題を出題したいと思います。
6.今後の展望
 テスト時間について教員にアンケートした結果,「長かった:30校」,「適当だった:5校」,「短かった:0校」でした。4択問題50問で,テスト時間50分は長かったようです。来年度はテスト時間を短くするか,問題数を増やすか,問題の形式を工夫するかなどなんらかの対策が必要です。
 テスト問題をWordのパスワード付きファイルで各学校にメールで送ることについても意見がありました。テストを無料で実施するためにとった方法ですが,これについても検討が必要です。
 第1回の「情報科導入テスト」を実施することができましたが,まだ始まったばかりで改善しなくてはいけない点が多々あります。高校での情報教育,授業の改善に役立つものに育てていきたいと考えています。
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