昨年,情報教育の研修会に参加して,中学校の実践についていろいろ話をする機会があった。筆者自身は技術科の教員であり,技術の授業を中心にいくつかの実践を紹介したが,高校の先生方の中学校の実践に対する関心の高さに驚いた。特に技術科は学校間で扱う教材や展開の違いが大きく,一般化はできないが,多少なりとも参考になればと思い,本校の取り組みを紹介したい。
技術・家庭科の技術分野では「技術とものづくり」「情報とコンピュータ」に大別されるが,厳密に半分にして実施しているわけではなく,それぞれ密接に関連している。 (1)「技術とものものづくり」の中で 1年生「作品の紹介広告,作品記録をプレゼンで作成」では,自分の作品をデジカメで記録し,プレゼン資料にまとめる。その際に自分の作品のセールスポイントを考え,広告として作ってみる。作った結果は校内ページでお互いに見合うと同時に,次の1年生の参考になっていく。※注2 似た実践は多くの学校で行われているであろう。校内ぺージを活用せず,印刷して掲示という実践も多いようである。また2年生のエネルギーの授業の中で「実際の発電方法を調べよう」などをテーマに資料を調べ,レポートにまとめさせている。この中でレポートのまとめ方や引用の仕方なども一定指導している。 ▲各教科の成果や各種情報を校内ページで共有 (2)「情報とコンピュータ」の中で 情報の科学的な理解にかなり重点を置いた内容で,高校で言えば「情報B」であろうか。この実践はやや異色かもしれないことをお断りしておく。 ①2年生「電話からインターネット・通信技術」 スピーカ同士をつなげた通信実験から各種アナログ通信の仕組みを体験的に学習する。さらに電話交換機模型で電話交換の実習を行う。メッセージソフトのやり取りからIPアドレスなどネットワークの仕組みまでを,2年生後半の15時間程度で学習する。この時期,理科で電磁誘導など学習しているので理解も進む。モーターから音楽が聞こえたり,光ファイバーで声が伝えられたり,リモコンの信号音を聞いたりといった様々な実験は,原理が分かりやすいので生徒達も興味を持って取り組む。※注3 ▲音声をPCに取り込み波形観察,加工 電話交換機の実習でも,自分達が何気なく使っている電話の裏でどんなことが行われているのか知ると驚く。 生徒達に網の目の図を見せ,これがネットワークだと説明してもピンと来ないが,実習を通し,電話交換機網のイメージがつかめれば現在のインターネット網も実感を持って類推できる。加えてIPアドレスやURLなどの技術的な部分だけでなく,モラル面やネットワークの影の部分なども扱っていく。 携帯電話なども含め,モラル面は道徳など学校全体で扱わなければいけない段階にもなっていると感じている。 ②3年生「簡易言語によるプログラム作成」 これは「オートマ君」という簡易言語で模型車などを実際に制御し,コースを走らせるプログラムを作らせたり,センサーを付けて空き缶を運ぶ。※注4メールのようにプログラムをやり取りして共同開発したりといった展開もある。PCはディスプレイの世界という意識が強い生徒達にとって,実物が動くというのはかなりの驚きである。例えば,「技術は苦手」といっているような女子生徒も「あー動いた〜」と歓声を上げる。授業のまとめの感想でも「車が動いて驚いた」「自分のプログラムで願い通りに動いた時は感激」といった声が多い。 ▲分担して大きなプログラムを共同開発 ここのねらいは,プログラム言語そのものを教えることではなく,アルゴリズムを試行錯誤させ,プログラムとは何か,プログラムが自分達の生活や社会にどう役立っているのかを実感を持って理解させることである。制御というと難しく感じるが,簡易言語なら簡単である。実物が動くことで,プログラムの意味や役目が非常に分かりやすくなる。なお,授業の導入で5分間のキータイプソフトによる練習を行っている。教室に来た生徒からどんどん取り組み,結果を記録したところで授業に入る。思いつきで始めた取り組みだったが,授業の開始が非常に集中できるだけでなく,記録が数字で分かり,目に見えて向上していく様子がわかるので,生徒達も思いの外意欲的である。 (3)ネットワークと制御 ネットワークや制御については学習指導要領では選択の扱いになっているが,ここにこそ情報技術として中学校で扱う大きな内容があると考えている。特に制御は教科書に掲載されたこともあり,教材各社から様々な教具が開発されているので,より敷居が低くなってきたと感じる。さらに,小学校での情報機器などの操作技能や活用能力の向上で,技術科で扱う内容はいずれネットワークと制御に中心を移さざるを得なくなるのではなないかとも考えている。同様の事態は,高校の「情報」でも起こりうるのではないだろうか。
以上,本校の状況や取り組みを簡単に紹介した。技術科の実践はやや特殊な部分はあるかもしれないが,総合的な学習や基礎技能の向上は他校でも同様の状況であると考える。高校の「情報」もかつての技術科の「情報基礎」がそうだったように多くの試行錯誤が行われるのであろう。「情報」を担当される先生方に本校の取り組みや実践が少しでも参考になれば幸いである。同時に中学側としても,高校の先生方の実践に学びたいとも願っている。高校の先生方の素晴らしい実践に期待して止まない。
[参考] 注1 火曜の会HomePage http://www.kayoo.org/home/ 注2 村松浩幸編集代表,永野和雄・田中喜美監修,『ITの授業革命「情報とコンピュータ」』,東京書籍,2000 注3 田渕洋子,「売り込む棚作り〜プレゼンテーション編〜」 http://www.gijyutu.com/kyouzai/kakou/tana.html 注4 自動化簡易言語「オートマ君」 http://www.gijyutu.com/g-soft/automa/index.htm