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ICT・EducationNo.21 > p18〜p21

中学校の情報教育実践例
中学校で取り組む情報教育
−総合的な学習と技術科での取り組みを中心に−
長野県中野市立中野平中学校 村松 浩幸
1.はじめに

 昨年,情報教育の研修会に参加して,中学校の実践についていろいろ話をする機会があった。筆者自身は技術科の教員であり,技術の授業を中心にいくつかの実践を紹介したが,高校の先生方の中学校の実践に対する関心の高さに驚いた。特に技術科は学校間で扱う教材や展開の違いが大きく,一般化はできないが,多少なりとも参考になればと思い,本校の取り組みを紹介したい。

2.操作技能はレベルアップ
 本校は中野市の市街地にあり,学年4クラスの中規模校である。PC室にWin98機が40台あり,18台のノートPCが校内ネットに無線で接続している。外へはADSLで接続している。急速に整備が進んでいる中では標準的か,やや恵まれている方であろうか。

 小学校は2校で,PC20台が導入されADSLで接続している。調べ学習などでインターネットを活用しているため,検索は多くの生徒がほぼできる。学級によってはワープロでまとめたり,Webページを作成したりしているが,これは学担の先生によるところが大きい。

 数年前と比べて技能的に一番顕著になったのがキーボード入力である。以前はローマ字入力で入力させるのに手がかかったが,現在はかなりの生徒が速くはないまでもスムーズに入力できる。PCを様々な場面で活用する上で,この変化は非常に大きい。

 この傾向は今後さらに強まると思える。その結果,単にソフトの操作を教えるような授業は中学校でも成り立たなくなっているし,高校でもいずれ同様になろう。今後,情報教育では何を教えるのかがより問われてくるのではないだろうか。
3.1年生4月に情報基礎講座実施
 入学後,学担と副担のTTで,情報基礎講座4時間を総合的な学習の導入としている。校内探検としてデジカメを持って走り回り,取材した内容を各自がPowerPointでまとめ,Web保存して校内ページでお互いに閲覧する。ここではプレゼンソフトの使用や校内サーバの利用,画像取り込みなど基礎的な技能を教えると同時に,お互いに作品を見合い“発信する面白さ”に気づかせるねらいもある。中にはユニークなページもあれば,技術的にも高度にまとめる生徒もいる。「面白い」「○ちゃんの作品最高!」など,生徒達の反応も実に良い。

 指導も学担と副担で行うため,先生方にとってもいい研修になっている。ちなみに職員室は無線LANで全ての先生のPCが接続され,各種情報が共有されている。

デジカメを片手に校内探検のプレゼン作成
▲デジカメを片手に校内探検のプレゼン作成
4.総合的な学習での取り組み
 本校の総合的な学習は学級単位で自由にテーマを定め,文化祭で近隣の学校と比べてもかなり大がかりな学級展示として発表をしている。文化祭の展示とリンクさせたことで,生徒の取り組む意欲も高く,学級としてまとまって成し遂げたという達成感も得られる。これは文化祭の中で展示や今までの取り組みを審査し,様々な賞を出すということも関係している。

全学級の取り組みが文化祭で一同に展示
▲全学級の取り組みが文化祭で一同に展示

 例えば,1年生では中野市の交通事故,犯罪,ゴミといったテーマ,2年生では日本語学校の海外の方と国際交流の取り組み,さらに3年生では天体を調べての反射望遠鏡やプラネタリウムの自作や,地域に照明を消すライトオフ企画を呼びかけての天体観測など,実に多様なテーマに取り組んでいる。

 テーマ設定は単に学級で好きにどうぞ,というわけでなく,学習として成立するように以下の3視点があるか確認させ,同時に事後の成果公開,発信を義務付けている。

①地域や社会や人の生き方に学ぶ
②社会に働きかける
③活動や体験を大事にする

 これら活動の中ではデジカメやビデオなどの情報機器活用,情報処理,中にはビデオ編集なども試みられる。さらにインターネットの検索やWeb公開,展示に関わるプレゼンや情報処理など様々な情報活用の実践力が養われる場面が出てくる。文化祭近くなればPC室やデジカメ,ノートPCも生徒達で一杯になる。そこで学年学級の優先順を決めたシールを貼る,使用時間をずらすなどの工夫をしている。基礎講座を実施してから,単純なトラブルが減少し,先生方が本来的な指導により力をさけるようになってきた点も成果であった。

 本校の総合的な学習の中では,つける力をより明確にしようと,課題解決力の基礎・基本として下記の6点を定め,各活動場面でさらに具体化し,評価している。これは情報教育の目標リストを参考に決めたものである。※注1

①課題解決の計画をする力
②情報を収集,追究する力
③情報手段を適切に利用する力
④追究結果を整理,分析,判断する力
⑤追究結果を発信,伝達,表現する力
⑥共同追究できる力

 情報教育を意識した総合的な学習の取り組みは,日文の教科書で言えば総合実習に相当する部分であろうか。中学校では今まで技術科が情報教育の中心に思われてきたが,情報教育はむしろ学校全体の課題であり,総合的な学習を中心に学校全体で情報教育に取り組む必要がある。技術科は,技術教育の立場からも後述の情報の科学的な理解などに特化していく方が良いのではないかと考えている。
5.技術科での取り組み

 技術・家庭科の技術分野では「技術とものづくり」「情報とコンピュータ」に大別されるが,厳密に半分にして実施しているわけではなく,それぞれ密接に関連している。

(1)「技術とものものづくり」の中で

 1年生「作品の紹介広告,作品記録をプレゼンで作成」では,自分の作品をデジカメで記録し,プレゼン資料にまとめる。その際に自分の作品のセールスポイントを考え,広告として作ってみる。作った結果は校内ページでお互いに見合うと同時に,次の1年生の参考になっていく。※注2
 似た実践は多くの学校で行われているであろう。校内ぺージを活用せず,印刷して掲示という実践も多いようである。また2年生のエネルギーの授業の中で「実際の発電方法を調べよう」などをテーマに資料を調べ,レポートにまとめさせている。この中でレポートのまとめ方や引用の仕方なども一定指導している。

各教科の成果や各種情報を校内ページで共有
▲各教科の成果や各種情報を校内ページで共有

(2)「情報とコンピュータ」の中で

 情報の科学的な理解にかなり重点を置いた内容で,高校で言えば「情報B」であろうか。この実践はやや異色かもしれないことをお断りしておく。

①2年生「電話からインターネット・通信技術」

 スピーカ同士をつなげた通信実験から各種アナログ通信の仕組みを体験的に学習する。さらに電話交換機模型で電話交換の実習を行う。メッセージソフトのやり取りからIPアドレスなどネットワークの仕組みまでを,2年生後半の15時間程度で学習する。この時期,理科で電磁誘導など学習しているので理解も進む。モーターから音楽が聞こえたり,光ファイバーで声が伝えられたり,リモコンの信号音を聞いたりといった様々な実験は,原理が分かりやすいので生徒達も興味を持って取り組む。※注3

音声をPCに取り込み波形観察,加工
▲音声をPCに取り込み波形観察,加工

 電話交換機の実習でも,自分達が何気なく使っている電話の裏でどんなことが行われているのか知ると驚く。

 生徒達に網の目の図を見せ,これがネットワークだと説明してもピンと来ないが,実習を通し,電話交換機網のイメージがつかめれば現在のインターネット網も実感を持って類推できる。加えてIPアドレスやURLなどの技術的な部分だけでなく,モラル面やネットワークの影の部分なども扱っていく。

 携帯電話なども含め,モラル面は道徳など学校全体で扱わなければいけない段階にもなっていると感じている。

②3年生「簡易言語によるプログラム作成」

 これは「オートマ君」という簡易言語で模型車などを実際に制御し,コースを走らせるプログラムを作らせたり,センサーを付けて空き缶を運ぶ。※注4メールのようにプログラムをやり取りして共同開発したりといった展開もある。PCはディスプレイの世界という意識が強い生徒達にとって,実物が動くというのはかなりの驚きである。例えば,「技術は苦手」といっているような女子生徒も「あー動いた〜」と歓声を上げる。授業のまとめの感想でも「車が動いて驚いた」「自分のプログラムで願い通りに動いた時は感激」といった声が多い。

分担して大きなプログラムを共同開発
▲分担して大きなプログラムを共同開発

 ここのねらいは,プログラム言語そのものを教えることではなく,アルゴリズムを試行錯誤させ,プログラムとは何か,プログラムが自分達の生活や社会にどう役立っているのかを実感を持って理解させることである。制御というと難しく感じるが,簡易言語なら簡単である。実物が動くことで,プログラムの意味や役目が非常に分かりやすくなる。なお,授業の導入で5分間のキータイプソフトによる練習を行っている。教室に来た生徒からどんどん取り組み,結果を記録したところで授業に入る。思いつきで始めた取り組みだったが,授業の開始が非常に集中できるだけでなく,記録が数字で分かり,目に見えて向上していく様子がわかるので,生徒達も思いの外意欲的である。

(3)ネットワークと制御

 ネットワークや制御については学習指導要領では選択の扱いになっているが,ここにこそ情報技術として中学校で扱う大きな内容があると考えている。特に制御は教科書に掲載されたこともあり,教材各社から様々な教具が開発されているので,より敷居が低くなってきたと感じる。さらに,小学校での情報機器などの操作技能や活用能力の向上で,技術科で扱う内容はいずれネットワークと制御に中心を移さざるを得なくなるのではなないかとも考えている。同様の事態は,高校の「情報」でも起こりうるのではないだろうか。

6.おわりに

 以上,本校の状況や取り組みを簡単に紹介した。技術科の実践はやや特殊な部分はあるかもしれないが,総合的な学習や基礎技能の向上は他校でも同様の状況であると考える。高校の「情報」もかつての技術科の「情報基礎」がそうだったように多くの試行錯誤が行われるのであろう。「情報」を担当される先生方に本校の取り組みや実践が少しでも参考になれば幸いである。同時に中学側としても,高校の先生方の実践に学びたいとも願っている。高校の先生方の素晴らしい実践に期待して止まない。

[参考]
 注1 火曜の会HomePage http://www.kayoo.org/home/
 注2 村松浩幸編集代表,永野和雄・田中喜美監修,『ITの授業革命「情報とコンピュータ」』,東京書籍,2000
 注3 田渕洋子,「売り込む棚作り〜プレゼンテーション編〜」 http://www.gijyutu.com/kyouzai/kakou/tana.html
 注4 自動化簡易言語「オートマ君」 http://www.gijyutu.com/g-soft/automa/index.htm

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