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ICT・EducationNo.21 > p10〜p13

教育実践例
教科「情報」の宿題
−授業時間外での教科「情報」−
山形県立新庄南高等学校 阿部 優
abema39@poem.ocn.ne.jp
1.はじめに

 他教科と同じく教科「情報」においても宿題で課題に取り組ませるチャンスが多々あります。

 様々な社会現象により「宿題が出しにくくなった」と言われますが,こちらではまだそのようなことは聞こえてきません。

 本校の情報Aでは,夏休み中や単元のまとめなどで宿題を出し,自ら学ぶように指導・支援をしています。ここに,その事例を二つほど紹介します。

2.本校の情報A
 本校は普通科3クラス・家政科1クラス・商業科1クラスの計15クラスで,今年度より「情報A」を1年生普通科2単位で行っています。指導者体制は,3名の教師が1クラスずつ別々にひとりで担当し,今年度がはじめてということもあり,使用教科書に沿った年間授業計画になっています。

 コンピュータ室はPC40台で,インターネット環境は,県設置の専用回線を使用しており,ストレスを感じない速度です。簡易なイントラネット環境もあり,校内メールや共有フォルダなどを利用しています。また,普通科の生徒はUSBメモリ32MBを各自携帯し,情報の自己管理をしています。
3.なぜ宿題なのか
 4月当初は,宿題というと日々の授業をまとめの提出ぐらいで,特別な内容の宿題を出すことを考えてもいませんでした。しかし,授業が進むにつれて,生徒の姿勢に様々な変化が生じてきました。

 ・「情報は授業のみで学ぶもの」と思い込んでいる生徒がいる。
 ・授業のみでは受身の学習で自ら学ぼうとしない。
 ・先生に頼りっきりで積極的に行動しようとしない。

 週2単位,いや,卒業までに2単位では授業中で学べることは本当に少ない。「情報」は今の時代を生きていくために不可欠なもの。635日毎日「情報」を学び続けてほしいと願います。

 そこでここに「宿題」の必要性が浮かび上がりました。

平成15年度 「情報A」 夏休みの宿題(要提出)

「身近な問題を解決しよう」

 次のテーマ一覧からひとつ選び,選んだ問題を解決するために調査・研究をして,その結果をまとめ,プレゼンテーションをしよう。

テーマ一覧

難易度 ★☆☆☆☆
・私はこの冷蔵庫を買う!(予算15万円以内)
・私はこの携帯電話を買う!(予算4万円以内)
・私はこのテレビを買う!(予算20万円以内)
・私はこのDVDレコーダーを買う!(予算12万円以内)
・私はこのエアコンを買う!(予算15万円以内)

難易度 ★★☆☆☆
・私はこのパソコン(ノート型)を買う!(予算20万円以内)
・私はこの新聞社の新聞を購読する!
・私はできるだけ節約するために,この携帯電話料金プランを選ぶ!

難易度 ★★★☆☆
・私はこのような物語(絵本)を作った!(すべて英語)
・私は最適な栄養を得るために,このメニューで夏の運動部合宿をする!(3泊4日 計12食)
・私はこのような新しいトランプのゲームを考えた!
・私はこのような手品を考えた!(実演必要)

課題作成方法

 画用紙(大きさA4版程度)を5枚以上つかって,わかりやすい手書きのスライド(紙芝居形式)を作成する。(画用紙やマジックなどは各自用意)
 1枚目     表紙
 2枚目     テーマ選定理由
 3枚目     調査方法
 4枚目     結論
 5枚目以降  結論にいたった理由など
 最終ページ  参考文献・資料

調査方法やスライド作成の条件

・今回はインターネットを利用しないで,カタログや書籍,テレビなどから情報収集すること。
・画用紙で作成するスライドは,文字だけを書くのではなく,図形・グラフ・写真などを盛りだくさん使用して,発表を聞く人に伝わりやすいように工夫する。
・プレゼンテーションの練習もしておくこと。プレゼンの時間は10分程度。

提出日:夏休みあけの第1回目の「情報A」授業終了時

4.宿題その1
(1)夏休みの宿題

 高等学校での夏休みの宿題というと,国数英社理などが一般的でしょう。生徒に「夏休み中の情報Aの宿題は…」と言ったとたん,「え〜,情報の宿題!」とビックリ仰天でした。

 夏休みは,自分で時間を計画的に使う家庭での学習が中心となります。家庭学習は受身の学習態度ではできませんし,先生に頼りっきりになれません。自ら学ぶ姿勢を身に付ける絶好のチャンスです。

 今年度は「身近な問題を解決しよう」という問題解決が身に付くような宿題を出しました。小学生によくある「自由研究」です。自分から店などに出向いて研究することで,授業時間以外で「情報」の学習をすることになります。

 この宿題に取り組ませる上でのポイントは,以下の通りです。

・難易度別テーマからの選択
・手書きによるまとめ
・コンピュータを使わない
・チラシやカタログなどの利用

 難易度違いのテーマを自ら選ばせることにより,選んだ時点で興味・関心・意欲の評価ができます。

 また,「手書き」や「コンピュータを使わない」条件は,家庭にコンピュータやネット環境がない生徒を配慮したためです。

 テーマは生徒に関心が高いものにしましたが,一見,「英語の絵本」や「手品」など,情報Aに関係ないようなテーマもあります。それは,その後の総合実習における「英語での国際交流」や「身体による情報表現」に結びつく可能性があることがねらいです。

(2)夏休みを終えて

 提出締切りを守った生徒はおよそ70%でした。全員提出になるように生徒の興味・関心を高められなかったのは,指導者側の責任と反省しています。

 選ばれたテーマは,予想通り「携帯電話」関係が半数以上,次に「料金プラン」「パソコン」といった具合でした。一番高い難易度を選んだ生徒はたったの1名で「英語の絵本」でした。「合宿のメニュー」や「トランプ」を選ぶ生徒が多いかなと思っていましたが,まったく予想が外れました。また,「手品」があれば発表会がすごく盛り上がったことでしょう。残念です。

 作品制作で目立った手法は,携帯電話や冷蔵庫のカタログの画用紙への切り貼りでした。コンピュータソフトウェアで用いる静止画挿入の技法です。教科「情報」の指導は,ともするとコンピュータ操作指導のみが重視されがちですが,「手書き・切り貼りが基本」ということに改めて気づかされました。

(3)発表会

 発表は授業中に行いました。5〜6名のグループ内で発表し,グループのメンバー同士で相互評価し,よくできた研究をひとつ推薦して,推薦された人が40名全員の前で再び発表しました。発表のスタイルは「紙芝居」そのままでした。すべての生徒が画用紙の裏に「発表用原稿」を書いており,原稿を読むだけの発表でインパクトがなく,「もっと適切な指示が必要だった」と,これまた反省でした。

 発表会後に数人の生徒へ宿題の感想をたずねると,「街中の店を駆け巡って無料のパンフレットを集めた」とのこと。自ら積極的に行動することに関しては,学習成果があったようです。

夏休み宿題 生徒作品の一部

夏休み宿題 生徒作品の一部

夏休み宿題 生徒作品の一部
▲夏休み宿題 生徒作品の一部
5.宿題その2

(1)修学旅行インタビュー

 本校では11月中旬に,2年生が関西方面への修学旅行へ出かけます。そこで,1年生に「情報収集のトレーニング」としての宿題を出しました。

 「修学旅行へいってもどってきた先輩の2年生へ旅行の様子をインタビューしてみよう。質問は5問以上,自分で考えること。A4版の白紙を配布しますので,用紙は縦に使ってください。まとめ方は自由ですが,誰もが読みたくなるようなデザインや色彩を考えてください。提出締切りは今から一週間後の授業終了時です。」

 すると,さっそく生徒から質問がありました。

 「部活動をしてなくて先輩がいない人はどうするんですか?」と。

 「部活動だけが先輩後輩の関係でありません。2年生は全員君達1年生の全員の先輩なのです。」と返答しました。生徒の人間関係の狭さにあらためて気づかされました。

(2)インタビュー結果

 提出状況はわるくなかったですが,締切り直前に仕上げたような作品がたくさんありました。しかし,内容はたいへん面白いものばかりで,しかも積極的にインタビューをした形跡が見られました。

 このような成果になったのは,ひとつに「来年は自分達が行くんだ」という期待感があったからと考えられます。興味・関心が絶大なのでしょう。一方,インタビューされる側の先輩2年生は,修学旅行のたのしい体験を,誰かに話したくて仕方がない心理状態だったようです。「情報を発信したい側」と「情報を収集したい側」が,タイミングよく重なったのです。

 また,自分でインタビューの質問を考えさせたたことも,学習の成果に結びつきました。指導者側が指定した質問は,生徒にとって関心が薄いでしょう。一番聞きたいことを聞くということが,より積極的なインタビュー活動になると思います。

 ここで,「このインタビュー結果を蓄積していけば,実体験版修学旅行データベースが学校にできるのでは」と思い付きました。特定の学年の行事と見られがちな修学旅行ですが,インタビューを通して先輩と後輩が交流しながら旅行情報を貯めていく。修学旅行の情報をネットで調べる方法だけでなく,もっとも身近な「生の声」の生徒によるデータベースが学校全体で共有できると考えられます。

修学旅行インタビュー 生徒作品の一部
▲修学旅行インタビュー 生徒作品の一部

6.おわりに

 教科「情報」における長期休業中などの宿題もそうですが,「自習課題」の研究も必要だと感じています。急な年休出張など,実際に授業を始めてみると,たくさんの問題に遭遇します。今回の宿題事例は,すべて手書きによるものです。「自習課題」にもこのスタイルが利用できると思います。

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