高等学校で新教科「情報」が始まろうとしていた今年2月16日に,NHK教育テレビ「教育フォーカス」(2003年3月まで毎週木曜日夜11時放送)で,初めて教科「情報」を取り上げた番組が放送された。タイトルは,「高校で<情報>をどう教えるか」。筆者は,高校生のお子さんに刺激されてパソコンの世界にはまり込んだタレントの清水国明氏とともに,「高校の情報科に詳しい人」としてこの番組に出演した。取材先の選定から,番組内容まで,担当ディレクターとともにいろいろと議論した。 この番組は,一般の視聴者に,新しく始まる教科「情報」は何をするもので,どんな問題点があるのかを伝える番組であった。これまでに誰も受けたことがない新しい授業が始まる。何を教えるのだろうか。誰が教えるのだろうか。親はどんなことを考えたらいいのだろうか。そんな疑問に答える内容を盛り込んだ番組になった。 新教科「情報」のイメージを具体化してもらうために,6年前から情報の授業に取り組んできた神奈川県立川崎北高等学校の実践を紹介した。川崎北高校は,どこにでもある公立の高校で,情報教育の研究指定を受けて先進的な取り組みを実践してきた特別な高校ではない。ごく一般の中堅校が,地道に情報教育を模索してきた事例として,全国のごく普通の高校でもスタートする新教科「情報」を語るのにふさわしい事例であると考えた。NHKの担当ディレクターも,数回の訪問を経て,この高校を紹介するべきだと同意した。 現在の川崎北高校では,キーボード練習から始まって,名刺づくり,ホームページづくり,チャットや掲示板を使ったコミュニケーション体験と情報モラル,プレゼンテーションの制作と発表・相互評価という具合にカリキュラムは進行する。「情報A」の内容を先取りして設定されてきたものである。 ここに至るまでには,6年間の試行錯誤があった。開始当初はビジネス文書を打ち込ませることを中心にやっていた授業内容も,生徒の個性を表現できる内容に衣替えした。コンピュータ教室の配置も,黒板に向かって全員が座る教室型からグループ内の相互発表もできる対面型に変えた。実践の様子を学校内外につぶさに紹介する情報科WeBサイトの充実ぶりも特筆に値する(http://www.johoka.net)。これから教科「情報」を担当する先生方にとっても,具体的で参考になる紹介ができたと思っている。 川崎北高校の場合,教科「情報」が始まる前からの取り組みだったこともあって,各教科の先生方を巻き込んで,情報の授業に取り組む体制が必要であった。担当の柴田教諭が,自らを「セールスマンのようでしたね」と番組の中で振り返ったように,職員室にLANケーブルを張り巡らせ,パソコンを購入した教員にはインターネット接続の設定を手伝い,先生方が自分の授業準備にWebサイトなどを使えるようにするなど,徐々に教育の情報化についての「信奉者」を増やしていったという。各教科から先生方の担当時間を出し合って,情報の授業を複数教員が担当するという組織づくりが成功したことで,川崎北高校の情報化は一気に進んだといえよう。 ひるがえって,昨年度まで何もやってこなかった高校の動きはどうだろうか。教科担当の先生だけが孤軍奮闘していないか。あれは今度免許をとった担当者の問題,という冷めた空気が職員室に蔓延していないか。各教科でも「コンピュータやネットワークなどの情報機器を取り入れ,より分かりやすい授業を目指す」といういわゆる教育の情報化が求められていることが忘れられてはいないか。いや,それは筆者の杞憂であって,実際は,各教科の教員が連携して助け合い,教科「情報」の授業も,そして各教科における情報化も進んでいます,という大変好ましい状況ができつつあるだろうか。いよいよ開始された新教科「情報」をきっかけとして,学校全体の情報化の実際について,思いを新たにしてみたい。
1) まつばら先生による「生物と情報の部屋」 http://www.avis.ne.jp/~yuichim/ 推薦理由:このサイトの「情報」のページには,情報科の講習に参加した報告が載っている。「新教科情報現職教員等講習会」には,平成12年度の講習会(長野県)のカリキュラム表があり,日程と講義テーマが書かれている。講義テーマにリンクが張られている部分については講義メモがあり,講義で説明されたことや,質疑で出てきた内容などを見ることができる。あくまでも私的に作成された講習のメモであることが逆に興味深い。講習会の様子も伝わってくる。 2) MowMowMow 情報 http://www.mowmowmow.com/jou/data/ 推薦理由:群馬県前橋市立桂萱中学校教諭の上原永護さんが作成しているサイト。毎年,新情報をアップしているので更なる発展が期待できる。インターネットの教育的利用法,豊富な入門講座,リンク集などがある。このサイトは,情報科の授業を行う上で,基礎の基礎から生徒に対して教えるのにかなり役立つサイトだと思う。ここに載っている資料を参考に,詳しく丁寧に書いてあるので,生徒は自己学習も可能だと思う。図がついているのでわかりやすいと思った。PDFファイルが主で,私のネット環境(ISDN/64kbps)では非常に閲覧しにくかった。 3) えびさんのページ http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/1154/index.html 推薦理由:愛知県の短大で,パソコンやインターネットの授業を担当している作者が,「学生作品」,「私の教材」,「ネットで力をつける」(リンク集)を公開しているサイト。「私の教材」では,身近なこと題材に取り上げていた。リンク集に題名がつけてあるのでどんなサイトなのかわかりやすい。「Flash作品展」が特に目を惹かれた。ただ,カテゴリ分けや各サイトに関する説明が一切ないため非常に分かりにくい構成になっており,それがとても残念だった。 4) 情報モラルを学ぼう(教材ドットコム) http://www.wmc.gr.jp/security/ 推薦理由:吉田喜彦さんのサイト。主にインターネットを活用する際の,初歩的な注意点が書かれていた。「何をして良くて何をしてはいけないのか」という,コンピュータ・インターネット初心者向けの学習ページ。仮想体験を実際にやってみて,私だけでなくきっと多くの人が引っかかるだろうなと感じた。 5) 情報科の先生になります http://www.hi-ho.ne.jp/yoshi-sato/joho/ 推薦理由:東京都立府中西高等学校情報科の佐藤義弘※注4先生のサイト。授業準備,教材研究,先生になる,お気に入り,生徒向け,サイト内検索,実践例,掲示板などがある。実践例「電子メールを使おう」「LANを引こう」などが充実している。
1) 情報コミュニケーション教育研究会(ICTE) http://www.icte.net/ 推薦理由:情報教育に関する研究会のサイトであり,これまでICTEが主催する情報教育セミナーの情報や,情報科教員用テキストなどを見ることができる。情報科教員用テキストの「先生のための教科「情報」マニュアル」では,情報科に必要な基礎知識を学ぶことができる。全15章から構成されており,情報科教育法や情報化と社会,コンピュータ概論,情報活用の基礎,アルゴリズムの基礎,ネットワークの基礎,マルチメディアの基礎などをカバー。教え方というよりも情報科で扱う範囲の知識を学ぶというテキストだから,自分の知識の確認に目を通してみるとよいだろう。
情報科の授業は,実際のところ高校で,とくに進学校では,あまりまじめに取り組まれていないのではないか。もしかすると,進路指導と合体させることが情報科の良さをアピールする一つの方法ではないか。こう言い出して,「『進路指導』を題材とした普通教科『情報』のカリキュラム提案」という卒論に取り組んでいるゼミ生がいる。進路指導の目標を取り入れた教科「情報」という発想は,たまたま手にした「情報A」の教科書に掲載されていた課題「進路について考えてみよう」を読んだことと,教育実習に行った高校での印象から得たものだという。それは面白い,ということで,卒論テーマにすることを認めた。確かに教科「情報」は,取り上げる題材は何でも良い。何についても「情報」的な見方や取り組み方は可能だからだ。 とある県の高校教員採用試験「情報科」の1次試験をパスしたものの2次試験では希望が叶わなかった彼女が,この研究の成果を実際に活かせるチャンスに恵まれるかどうかは,残念ながら現時点では不確かではある。しかし,こんな研究テーマを自分で見つけてきて,真摯に取り組んでいる学生がいることは嬉しい限りである。進路指導を通しで取り上げた「情報A」の1年分の年間指導計画と学習指導案を作る,と意気込んでいる彼女がどんな授業案を編み出すのか,卒論の成果が楽しみである。3月にはまとまった卒論がすべて研究室のWebサイトから公開される予定である(彼女が卒業すれば,の話)。どうぞ楽しみにしていてください。
注1 川崎北高等学校の実践は,本誌No.13に掲載の教育実践例「教科を超えて『情報科』を作ろう!」で紹介されている。 注4 佐藤義弘先生の実践は,本誌No.17に掲載の教育実践例「『電子メールの利用』授業実践」で紹介されている。