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教育実践例
MPEG4(動画)がつくる新しい情報教育の状況
大阪教育大学教育学部附属池田中学校 今田 晃一
1.はじめに

 本校は今年度より文部省の研究開発指定を受け,新教科設置に向けて取り組んでいる。新教科設置とは,現行の指導要領では扱わないが将来的に社会の状況の変化等から必要になってくるであろう学習の内容について試行する取り組みである。これらは教科間選択の時間に,「ドラマ科」,「メディア・スタディ−ズ」,「国際交流」,「自分探しの心理学」として実践している。ここで紹介するのはもちろん「メディア・スタディ−ズ」であるが,これはイギリスのMedia Studiesをイメージしたものである。これから総合的な学習の時間の実践が定着するにつれてますます教科だけでなく,学校という枠までも越え,広く社会と接点をもった情報教育が求めれていくであろう。

  本報告では,特に最新のMPEG4という動画システムをいち早く取り入れた実践例を紹介したい。ただ,MPEG4は今年5月に売り出されたところであり,本校においても実践はまだ始まったばかりの新しい領域である。

  学校がめざす教育目標(グローバルマインドの育成)とどのように結びつければ,新しいメディア類がより有効に活用されるのであろうか。これは情報教育に携わる者にとって常に再検討されねばならない事項である。MPEG4の実践から今後予想される成果なども含めて,本校の情報教育の理念とその背景となる学校目標との連携について述べていきたい。

2.入学時の集中的に身につけさせる基礎技能講座
 総合学習に取り組んで4年目になる本校では,今年6月14日〜6月19日の一週間,全学年がすべて総合学習に取り組む「総合学習週間」を設定した。これは 総合学習の実践を進めていく中で必然的にこのような時間設定になったものであり,今後の総合学習の在り方のひとつの提案と考える。

  本校の1年生は,基礎技能講座として以下に示す基本的な技能について集中的に身につけるのである。一通り基礎技能講座が修了した時点で,不得意な講座を克服するための補習講座の日と得意な講座を伸ばすためのスペシャリスト養成講座を設けていることが,学校のオプション度を高めるという視点から重要である。

  これにより3年間の総合学習はもちろん,各教科がその都度活用するパソコンを中心とする各種メディアのリテラシー能力が身に付けるのである。これが1年生の1学期に終わっていると,その後の様々な学習がスムーズに進行していくことは言うまでもない。

  情報教育が通信・コミュニケーションの段階に入った 現在の学校教育においては,パソコン等の操作の段階は入学時に集中的に身につけさせるこのようなカリキュラムの前提がなければ,本来の目的である交流や共同学習に留意した情報教育にはとうてい到らないのである。すべての学習がそうであるように,学習にはある程度の深さ,中身がないとおもしろくない。それゆえメディア類を自在に操って自分のメッセージを伝えている上級生の姿を様々な形で紹介しながら,イメージとしての目標を持たすことも必要である。単なる基礎技能だからこそ,学習を主体的に取り組む状況づくりに指導者側は腐心しなければならないのである。インターネットができるようになれる等,もはや新しいメディアや技能が身に付くというだけで,生徒たちが興味を持って学習に取り組む現状ではないのである。それを使って今の自分を越えるような,ロマンのある学習の目標がイメージできないと今の生徒たちが主体的に学習に取り組むことはないのである。

●学校の原点目標● 『国際学級』設立構想に基づく新しい学校文化の創造
       │
●育てたい生徒像● 21世紀の国際社会に貢献できる人材
     │
●育てたい資質・能力● グローバルマインドの育成
     │
グローバルマインド・11のファクター(要因)

①個の確立{池田キャンパス(小・中・高)共通の目標}
②他者との相互啓発を通して自分を見つめる姿勢
③他者との対立を乗り越えた建設的な妥協の姿勢
④自身の価値を適切に伝えるための表現能力
  ○通信・コミュニケーションとしてのコンピューター
  ○コミュニケーション能力としての英語
  ○論理的な思考と表現による小論文
⑤自文化,異文化への好奇心
⑥広い視野,多様な見方考え方,柔軟な思考
⑦現状及び未来の地球的な課題に関心を持ち,実践できる行動力
⑧人,モノ,コトとの関わりを意識する生活スタイル
⑨生命尊重,人権尊重の精神
⑩他者との共同作業を通じての他者発見・自己発見
⑪個の確立に根ざした連帯の意識

▲大阪教育大学教育学部附属池田中学校・教育活動の概略図
3.グローバルマインドの育成のための情報教育
(1)本校の教育の構造

本校の教育の構造を,下記に示す。具体的にはグローバルマインドの育成に向けていかに繋がっていくかが学習単元を構築する上でのポイントである。

グローバルマインドの育成(学力構造図)
▲グローバルマインドの育成(学力構造図)

(2)グローバルマインドの育成に繋がる情報教育実践上のキーワード

  情報教育が学校目標(グローバルマインドの育成)と連携するためには,以下のような3つのキーワードに留意して学習単元を構築する必要がある。特に通信・コミュニケーション段階の情報教育では,交流や共同学習の視点を取り入れていくと学習の目的が生徒たちにも理解できる形で示すことができる。

①社会参加の視点

  作品づくりは自分のためでなく,公共のためなどの大きな視点から取り組むと生徒たちはやらされているという気持ちがなくなり,主体的に取り組むようになる。今の生徒たちは,ボランティアや社会参加などに対してその価値を認め積極的である。

②情報の共有

作品はすべてホームページとしてより広い範囲に情報発信することが望ましい。HTMLによるホームページ作りは,情報の発信,情報の共有の視点からも大変有効である。よって本校の情報教育における作品づくりは,HTMLによるホームページとしている。

③共同学習

  1997年ユネスコは,21世紀教育国際委員会」の報告書の中で,今後の教育実践の方向性を示す提案を行っている。それは,「learning to live together, learning to live with other.」(共に生きることを学ぶ)であり,ここでは単に異なった文化的背景を持つ人同志が接触し,コミュニケーションを図るだけでは不十分だとして,以下のようなふたつの提案をしている。

  ・対話や討論によって他者との出会いをもつこと(他者の発見)
  ・共同目標実現のための共同作業をできるだけ学校教育における早い時期から行うこと

  これらを受けて本校でも共同学習,国際共同学習の視点を重視している。
4.MPEG4を用いた授業実践例
1年生 (総合学習基礎技能講座)  池田スタディーズ
キーワード:「よく調べ,よく発表する」
2年生 「アジアを実感しよう!」
キーワード:「よく交流し,相手と自分をよく見つめる」
3年生 社会参加実習・「自分探しの心理学」(総合学習週間)卒業論文(2学期以降)
キーワード:「よく行動し,よく感じ,自分の道をさぐる」

▲新教科「メディア・スタディ−ズ」への試行

  学校目標の実現を考慮した,新教科「メディア・スタディ−ズ」への試行を上記の表のように行った。MPEG4は新しく出た動画のファイル形式で,圧縮率が非常に高く,E-mail の添付ファイルにも実用的に使用できる。画像も音声も鮮明であり,その活用の仕方を互いに相互啓発しながらオフィシャルな部分(附属中学校の公式ホームページ)で役に立とうというのがこの講座の学習目標である。

  いずれも課題の決定などに際しては,本校の学校目標や情報教育の目標が実現できるように指導者と十分な相談活動を行ったものである。なおMPEG4の挿入のタグを以下に示す。ファイルとしての扱いは,JPEG等とほぼ同じであり扱いやすい。

<IMG DYNSRC="ファイル名.asf">

(1) 2年生 1学期 教科間選択 技術科 全14時間

講座名
「動画(MPEG4)を用いてオフィシャルな部分で役立とう!」


  基本的には,附中のオフィシャルなホームページを生徒の視点から作成するが,MPEG4という動画を効果的に使用したホームページ作りを行う。

課題名:
動画(MPEG4)を用いた附中クラブ紹介(2名)
セールスポイント:
各クラブの活動の様子を15秒以内にまとめて出るようにしている。

MPEG4の撮影
▲MPEG4の撮影

課題名
動画(MPEG4)を用いた附中の先生紹介(2名)
セールスポイント
先生のインタビューだけでなく,各先生への複数の生徒のコメントが動画(MPEG4)で入っているのが効果的。

課題名
動画(MPEG4)を用いた附中タイムス最新号(2名)
セールスポイント
学校新聞である附中タイムスの記事と写真を中心とするも,所々に動画を用いて記事の臨場感を出す。

MPEG4の編集
▲MPEG4の編集

(2) 3年生 1学期 教科間選択「附中広告機構」 全14時間

講座名
「MPEG4を用いて附中広告機構としてオフィシャルな役に立とう!」

  基本的には附中のオフィシャルなホームページとなるのだが,MPEG4という動画を効果的に使うことにより,附中広告機構としてオフィシャルな部分で役に立つ作品づくりに取り組む。

課題名:
動画(MPEG4)を用いた校舎紹介CM(2名)
セールスポイント:
校舎の各ポイントでは音と映像で日頃の学校生活の普段の様子を伝えている(生徒記述)。生徒たちの出演数が大変多い。日頃入れない屋上などの様子も紹介。

MPEG4による校舎紹介CM
▲MPEG4による校舎紹介CM

課題名:
「動画(MPEG4)を用いたこころの広告『いじめ』『親孝行』『ゴミはゴミ箱へ』(8名)
セールスポイント:
いじめをなくそう。親孝行をしよう。ゴミはゴミ箱へなどの政府が行っている公共広告機構を参考にし,少しでも附中生の心が豊かになるように語りかけたい。工夫を凝らした画面構成と動画(MPEG4)の効果的な使い方で一人でも多くの人に見て貰えるように随所にアイデアを投入している。


▲「いじめ」をテーマにした3画面構成による工夫

課題名:
動画(MPEG4)を用いたタイ姉妹校チュラロンコン校とのメール交換によりアジアについての共同学習(2名)
セールスポイント:
MPEG4の本来の機能である,メールに添付できる動画ファイルとしての機能を最大限活かし,タイ国チュラロンコン校とのメール交換を継続して行う。動画により相手とのやりとり,反応がリアルになり返事が返ってくる感覚を早くするような中身のある動画添付ファイル付きのメールを作成する。昨年度取り組んだ「アジアを実感しよう!」についてのメッセージとその英訳を検討する。

MPEG4を利用したホームページ「親孝行」
▲MPEG4を利用したホームページ「親孝行」
5.今までの成果 〜徐々に学校を開くためのメディアの活用〜

 社会の状況から,これからすべての学校は開いていく方向,オプション度を高めていく方向に進めて行かざるを得ないであろう。特に本校の場合は,原点目標としての『国際学級』設立構想があり,さらに広く世界へと生徒たちの交流の幅を拡げていく。ただここで難しいのが,拡げていく程度とタイミングである。学校は急激に拡げすぎると収拾がつかなくなる。あくまでも生徒たちの反応を見ながら少しずつ拡げていくことが大切である。

  その点でインターネット等の新しいメディア類の存在は大きい。例えば,海外の姉妹校との交流を考え場合,本当に人的に交流していくのがいいのは当たり前であるが,まずは,メディア類を用いてReal Timeの情報でReal Timeの交流ではあるが,修正の場が保障されるネット上のバーチャルな交流で様子を見るのである。このように本校では,様々な新しい試みをメディア類の活用することによって,徐々に学校が開く方向に進んでこれたのだと思う。

  新教科「メディア・スタディ−ズ」の趣旨もそこになる。1年生で基礎技能を習得し,2年生で一部バーチャルな交流をネット上で行い,3年生で実際の人的な交流を含んだ共同学習に取り組むのである。動画(MPEG4)は,バーチャルな交流という視点からみると最も現実に近い形でネット上で交流ができる。Real Timeの交流という点ではテレビ会議も効果的であるが,これは個人のレベルで行えるものではない。MPEG4は個人のメール交換に添付できる点有利である。

  今回の実践は,動画(MPEG4)を用いた効果的なホームページづくりが中心であったが,2学期にはメールの一部としてのMPEG4の効果的な在り方について試行した実践に取り組んでいく。

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