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ICT・EducationNo.19 > p10〜p13

教育実践例
普通教科『情報』の必要性
−教養コースの授業「情報基礎」に「情報A」の内容を加えて−
福島県立安達高等学校 高橋 寛二
takahashi.kanzi@rb42.fks.ed.jp
1.はじめに

 本校では,3年教養コース(就職希望者が多い)において,選択の「情報基礎」を実施している。授業内容としては,ワープロソフト・表計算ソフトの二つを習得させることが目標であり,最後に時間的余裕があれば,インターネットやLANについても多少は触れている。週2単位,2月からは家庭学習ということで,授業時間数が少ないため,技術を教えることが主であり,それを生かす状況や場面,つまり問題解決に利用する工夫へとは結びつかない。しかし,平成14年度においては,4単位の「情報基礎」を実施することになった。そこで,授業の中で,「情報A」の内容にも触れることにより,「課題をどのように解決するか」を考えていく過程,そしてモラルや著作権などに対する考え方など,情報社会に適応できる技術と考え方を身に付けさせたい,と考えた。

 授業内容は,以下の通りである。

平成13年度の情報基礎(2単位)

・1学期  パソコンの基本操作
WORD
・2学期 EXCEL
・3学期 インターネット等

平成14年度の情報基礎(4単位)
・1学期  パソコンの基本操作
WORD,EXCEL
モラル
・2学期 情報の統合的な処理
コンピュータの活用
インターネット
・3学期 問題解決の工夫
2.生徒の実態
 現在,社会の中ではインターネットやメールなどの言葉が氾濫している。本校の生徒たちの多くは,携帯電話を利用して情報社会に参加しており,パソコンを利用してのインターネットの利用は,大半の生徒にとって「未知のもの」であるということが現状である。そのような状況の中,情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てることを目標にした普通教科「情報」の授業が平成15年度から開始された。「情報」を理解させ,これからの情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てるためには,どのような授業内容が必要かを,平成13年度の3年生と比較し,考察するためにこの主題を設定した。

 下のグラフからもわかるように,平成13年度と平成14年度の受講生徒には,パソコンの技術や知識などにほとんど差はない。現在まではパソコンという名前だけが知識として存在しているが,これからの生活では必要なものだという意識が強い。

3.実際に−その1

(1)平成13年度は

 1学期から2学期の間,ワープロ・表計算を学習した。とにかく熱心に,休み時間も惜しんでキーボードを叩く姿も多く見られた。パソコンを操作できることが楽しく,文字を打って文章を作成できることだけでも,生徒自身には大きな喜びであった。しかし上のグラフのように,表計算については難しく,使いこなすには至らないようである。

 この理由として,

1) 関数がわからない。特に,絶対番地を用いるRANK関数やIF関数・LOOKUP関数などが挙げられる。
2) グラフなどツールの中での作業の種類が多すぎる。

など,一つ一つの例題の中ではできるのだが,大きな仕事の流れの中で,複数の作業を自分なりに考えて使っていくことができない状態である。したがって,問題解決に役立てることも無理であり,興味のあるもの・今後役立つものとは考えていない。

(2)平成14年度は

 1学期にワープロ・表計算を,2学期にプレゼンテーションを学習した。前年度と同様,熱心に取り組んでいたが,結果には違いが現れた。左のグラフを比較してみても,ワープロについては大差はない。しかし表計算については,単独の授業としては4時間程度演習の時間が増えているが,時間数以上の大きな差が見られる。

 この理由として,演習内容の違いがあると思われる。昨年までは,時間的な制約もあり,テキストに従った課題のみであった。しかし今年度は,様々な応用問題に取り組むことによって,自分で考えて新しい関数を使ったり,より簡単な方法を考えるなど,自ら工夫する態度が身についたことに関係している。

 例えば,「表1の各店ごとの売り上げの月平均を小数第1位まで求め,その合計を求めよ」という問題を指示通りにすると,表2のように計算が合わなくなる。これについて考えさせる。何人かが四捨五入の関係に気付くと,説明を加え,何を使えばいいのか関数を探させる。「ROUND関数」を見つけた生徒は65パーセントであった。

  1月 2月 3月 4月 5月 6月
A支店 63 48 50 49 68 79
B支店 52 50 55 51 52 57
C支店 48 30 35 41 28 33
D支店 59 65 66 55 70 72
▲表1

A支店 59.5
B支店 52.8
C支店 35.8
D支店 64.5
合計 212.7
▲表2

 また,以下の問題を見てみよう。

1) 表3で,数学が80点以上の生徒には,備考欄に「B」を付けよ。
2) 同様に,数学と英語の両方が80点以上の生徒には,備考欄に「A」を付けよ。

  国語 数学 英語 備考
A君 63 48 50  
B君 52 50 55  
C君 48 30 35  
D君 85 90 85  










▲表3

 1) の問題については,テキストに似た例題があるので,ほとんどの生徒が「IF関数」を使って求めることができた。しかし,2) については,テキストでも扱っていないためにすぐに解答は出てこない。しかし,時間を与え考えさせると,30パーセントの生徒が「AND関数」に気がついた。

 このような演習を繰り返すことによって,「基本さえできれば,自分で考え調べて,解決することができる。」という自信となり,技術的な裏付けにもなったようである。

 もう一つ,プレゼンテーションの演習として,「自分史」を作成し,実際に説明させてみた。



 お互いに採点し,結果をまとめたのが表4である(20人×19票=380票)。

  とてもよい よい 普通 やや悪い 悪い
構成・流れ 45 125 209 1 0
絵や写真の使い方 62 143 175 0 0
興味・関心を惹く 12 231 108 20 9
姿勢・声の大きさ 6 184 176 9 5
▲表4

 写真をスキャナーで取り込むなど,かなり凝ったシートを造る生徒も多く,お互いの評価は概ね良好である。しかし最後に,「このプレゼンテーションを見て,言葉での説明が必要であったか?」の問いには,多くの生徒が「要らない」という答えだった,例えば,下のスライドを見ても判るように,自分が伝えたいことを全てスライドに書き,同じことを話すだけなので,言葉での説明が不用になってしまっている。プレゼンテーションの意図が掴めず,単なる発表会になってしまったが,いい反省にもなった。

生徒作品
▲生徒作品

生徒作品
▲生徒作品
4.実際に−その2
 実習と並行して,プリントを利用して教科「情報A」の授業も実施した。主な内容は,著作権・肖像権・ネチケットなどである。2学期の期末考査でペーパー試験を実施したが,専門用語(PDF,Webサイト,メディア,復号化など)の穴埋めは正答率62パーセントに対し,これらの問題については正答率92パーセントであった。しかし,3学期に無記名のアンケートを実施した結果が,下のグラフである。著作権についてのみ,他と比較してやや低い数値となっている。その理由として,

1) 肖像権やモラルについては,迷惑をかける人や傷つける人が想像しやすいが,著作権については想像しにくいから。
2) 音楽CDのコピーなど,自分にとって都合がいいから。

などがあった。実習の中でも,情報教室内のみのチャットや掲示板で,特定の人間に対する中傷や嫌がらせの文章を書かせてみた。そのことによって,ネチケットに対する意識は高まったのだが,著作権については相手が見えない分だけ,理解することはできても,守らなければならないというところまでは到達できなかった。

 

5.最後に

(1)まとめ

 1学期から2学期中頃(各アプリケーション単体)までの授業と,それ以後(統合的な課題)を比較した場合,そしてモラル等についても学んだ感想から,以下の意見が多くあげられた。

1) 複数のソフトを利用したり,チームでの作業を行うことによって,仕事の組み立てを自分たちで考えたり,話し合ったりするのが面白かった。
2) 関数を探したりWebページを検索したりすることで,習ったこと以外でも自分で工夫して取り組むことが可能なことが判った。
3) パソコンを利用していても,常に人間を意識する(人に見せる,人に見られる)ことを忘れないようにしたい。
4) パソコンを使うのが便利な場合もあれば,本や新聞の方が便利な場合もあった。

 「パソコンを使う」という姿勢ではなく,「〜のために,パソコンを用いる」という姿勢が大切であることが,改めて実感できた。生徒自身にとっても,平成13年度の生徒は「ワープロや表計算の使い方を覚えた」に対して,平成14年度の生徒は「情報を活用する」という意識に変化してきた。情報を収集・加工活用・発信という流れを持つ演習をすることによって,情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てることができると思われる。また,常に相手(人間)を意識させることで,著作権やモラル等に対する意識についても,満足できるレベルに達することができる。

(2)今後の課題

 今年度より,本校では「情報A」を2単位で実施している。一学期を終了して,著作権やネチケットなどについては,昨年と同様に定着すると思われるが,技術については中学校間のスキルの差が大きいため,情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てること,問題解決能力の育成まで進展させることができるか,が課題である。今後は,情報教育の目標を踏まえ,演習内容などの工夫することによって,より成果の上げられる授業展開を考えていきたい。

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