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ICT・EducationNo.18 > p1〜p5

論説
教科「情報」における実践上の留意点
−小・中学校の問題解決的な学習の事例に学ぶ−
文教大学教育学部専任講師 今田 晃一
1.はじめに…親学問は問題解決学?

 ついに,教科「情報」の授業が始まりました。先生方が本稿を読まれている時は,授業についての一通りのオリエンテーションが終わり,これからいよいよ教科「情報」の本質である総合実習に臨まれるところでしょうか。

 教科「情報」は,コンピュータやソフトウェアの基本的な操作スキルを習得することだけが目的ではありません。情報機器操作の基本的なスキルの習得とともに,情報の科学的理解と情報社会に参画する態度を正しく身に付けさせることも求められています。生徒に「情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度」を,実習を通してバランスよく身に付けさせることが目標とされています。

 さて,教科「情報」は,他教科と違い親学問というものがあまりはっきりしません。一応,「情報学」ということになるのでしょうが,先進的な実践事例等を拝見しますと,これはまさに「問題解決学」(?)かと思えるような状況です。それは社会が今日的な課題に対応できる情報活用能力を求めているだけでなく,学校現場においてもその価値を認めているということだと考えられます。特に問題解決能力は,生徒が卒業してから大切な能力として大きなビジョンのもとに取り組まれる場合が多いようです。

 このように教科「情報」は,本実施を前に様々な実践が行われ,そこから得られた実践上の留意点は,教科書及び指導書にもていねいに解説されています。しかし,本稿ではあえて小・中学校の問題解決的な学習の事例から学ぶというスタンスで臨みました。これは,小・中学校と高等学校との連携を大切にしたいと考えたからだけではありません。小・中学校には「新学習指導要領の実施が1年早い」とだけでは言い尽くせない,総合的な学習,問題解決的な学習,生きる力の育成などへの熱い想いに満ちた多くの先生方の実践の積み重ねがあると考えるからです。ここでは,問題解決的な学習,講義,総合実習,評価という4つの項目に対して,小・中学校の実践例を紹介しながら,教科「情報」の実践上の留意点として生かす知見について考えていきたいと思います。

2.問題解決について
(1)問題解決の課程

 教科「情報」の総合実習などでも,情報の収集,蓄積,加工,活用という一定の手順が考えられます。これらは,小・中学校で取り組んできた総合的な学習の時間の学習の流れ(例:課題設定→課題追究→交流・振り返り)とほぼ同じであり,参考にすべき点は多いと考えられます。その考え方のもととなったものの代表として,2ページに示すブランスフォード(John D.Bransford)らの認知過程をまず紹介したいと思います。※注1

1 問題を見分ける
2 問題を定義し,表現する
3 可能な方略を探求する
4 方略に基づいて行動する
5 振り返り,自分の行動の効果を評価する
(ブランスフォードら 1994)
▲問題解決の認知過程

(2)拡散と集束

 問題解決的な学習の特徴は,学習の内容や形態などすべてにおける「拡がり」です。ところが,そのような学習に慣れていない教員や生徒にとっては,どうしても学習が散漫な印象となりがちです。そこで,最終的な落としどころとしての集束点(Focused Goal)が重要となり,指導者は最初から準備しておく必要があります。それは,発表会やWebページの発信など様々なスタイルが考えられますが,大事な点は生徒にとって必然性が感じられるかどうか,全体としてのストーリーが成立しているかどうかという点です。例えば,情報の授業で,2年生で行く韓国修学旅行のためのビデオクリップづくりに取り組むとします。最後は全員がそれぞれのテーマについて発表し,優れた作品として選ばれた班は保護者説明会でプレゼンテーションを行う,などの一連の流れが想定できます。ここでは,最後に選ばれた代表者が大きな舞台で発表できるという段階を設定していることがポイントです。全員で取り組む部分と有志や代表者が発表する部分を分けるなど,授業の落としどころとしての集束点まで常に緊張感を持続できるように工夫する必要があります。

(3)テーマ選びがすべて

 これら問題解決的な学習では,テーマ選びが何より重要です。問題解決的な学習は,生徒の主体的な学習でありそれが長期にわたるので,よほど学習者がやりたいと納得したテーマでないと学習意欲は持続しません。そのため,小・中学校における総合的な学習の時間のテーマ選びなどには,年々多くの時間をかけるようになってきました。中には,3年間の学習計画の中で1年生の1年間はただテーマ選びだけに費やす学校もあるぐらいです。少なくともテーマを決定する際には,教員と十分な対話の時間を確保した上で決めていくことが一般的な手順となってきました。

都道府県学習テーマ選び支援ソフトウェア
▲都道府県学習テーマ選び支援ソフトウェア
3.講義について
 条件付きの採用にせざるを得ない事情もわからないではない。2単位の授業であり,他の教科に比べると持ちコマ数が少ない。多くの学校で情報の教師は1〜2名であり,新採の教師を採用すれば,その教科を担当する教師が新採のみになってしまう。そのような不安も十分に理解はできる。しかしながら,講習で免許を取得した教師も,教科「情報」の授業は全く初めてのことであることにかわりはないはずなのだが。学級経営,その他の校務について経験の差があることは確かであるが,この部分は,特に教科と関係なく,他の教師が支援できる部分であるとも思われるのだが。

 もう一つの事情として,教科「情報」がいつまで存在するかを心配しての配慮ということもあるらしい。しかし,本当に他の教科と掛け持ちで教えられるほど,教科「情報」は楽な教科なのだろうか。

 大学入試センター試験での出題見送りも,影響の一つと考えられる。6月4日に出された,情報の授業を先進的に取り組んでいる教師や,今年度から授業に取り組んでいる教師の話を聞いている分には,そんなことはあり得ない。確かに授業時数は少ないかもしれないが,実習時間も多く,実習助手もつかない授業の準備や,評価にかかる労力は他の教科と少なくとも同等以上のものがあると思われる。全く初めての教科でもあり,教材開発にも時間がかかるし,カリキュラム自体手探りで行っている状況で,どの教師からも大変だという声しか聞こえない。

 さらに,校内の情報環境の整備などの校務分掌に当てられている人も少なくない。学習指導要領に「他教科との連携」が明記されており,他の教科でのコンピュータ利用のサポート,TTでの授業を行っている例も多い。

 情報の授業は,知識を教えるだけでなく,実習などを通して生きた知識として学習させる必要もあり,「教科書を教える」というより,「教科書で教える」ように生徒の実態を併せてカリキュラムを構成する必要もある。情報の専門的な知識だけでなく,教育方法的な知識,スキルも求められる。高校でこれまで行われてきた授業とは全く異なったスタイルの授業の実施が求められている(が,高校の中に入ってしまうと,他の教師の理解は少なく,その大変さを同僚や管理職が理解できないことも問題であろう)。

 それだけではない。情報メディアは日々変化している。これらの動きを常に敏感に察知し,新しい情報を入手していく力も求められるであろう。教科書の内容も,他の教科と異なり,2年ごとに改訂になる。常に新しい情報を入手し続け,それらを教えるための知識,技術も必要となる。

 教育方法面だけでなく,教科の内容面に関する知識も当然必要である。教科「情報」の免許は,普通教科「情報」と専門教科「情報」の両方を兼ねたものとして出されている。普通教科「情報」と専門教科「情報」では,教えるべき内容は大きく異なり,求められる専門的知識の内容は大きく異なる。普通教科「情報」では,情報社会の一員として興味関心や自己学習力を育成すること,つまり,誰もが身につけるべき内容を,多様な生徒に,継続学習の基礎として,養うことが目的である。そのため,必修科目として位置づけられている。それに対し専門教科「情報」では,「職業」としての資質・能力,特に即戦力になる資質育成するために,専門知識や職業人としての技能を身につけさせることを目的としている。これら2つの教科の目的の違いは,教育方法的にも違ったアプローチを要求している。教科「情報」教師には,これら2つの教科を指導するための非常に幅広い専門的知識と教育方法的知識・技術が求められている。

 このように考えると,教科「情報」の教師に求められる能力は,これまでの教師に求められてきた能力に加え,新たな能力が要求されていることがわかる。教科「情報」の専門的知識に関しても,認定講習の15日間で習得できるほど簡単なものではない。認定講習で情報免許を取得したベテラン教師でも,学級経営等の面はさておき,複数教科を掛け持ちで教えられるほど簡単な教科ではないはずである。新任教師はなおさらであろう。他教科との連携を考えた場合,「情報」以外の教科について,教師が知識を持つことは大変重要なことである。これも十分に理解しつつ,教科「情報」の専門性を考えていく必要がある。
4.総合実習について〜一次資料の価値
今年の新入生は,小・中学校において,調べ学習とその発表という学習スタイルを総合的な学習の時間などで経験してきているものと思われます。しかし,実際には資料の収集がインターネットで調べたWebページの内容をただまとめているだけのものも少なくありません。

 その中で大阪府寝屋川市情報教育研究会の活動の一環として研究発表された梅が丘小学校の公開授業(百 ,谷教諭,2003.1.27)について紹介します。この実践は,ブルキナファソ(西アフリカ,人口約1000万人)という国について子どもたちが自ら調べ,考えたことなどを発表する問題解決的な学習です。この実践から学ぶべき点は資料の扱い方です。インターネットで誰かが調べ書いた情報ではなく,定期的に現地の青年海外協力隊の岡野氏から送られてくる数点の写真とメールを最も重視しています。子どもたちは少ない資料を,少ないゆえに様々な角度から実に丁寧に観察し検討します。たった1枚の同じ写真から実に多様な見方を試み,自分の考え方として次々に意見を発表していきます。これは資料が現地からの生の資料,いわゆる一次資料だからこそ子どもたちが夢中になれたよい例だと思います。このことにより,小学校段階においても簡単に入手できる情報(インターネットや書籍など)にはそれほど価値を見出していないという事実の発見でもありました。本実践のもうひとつの素晴らしいところは,子どもたちのプレゼンテーションスキルの高さです。積極的な発表態度はもちろん,それ以上に他人の発表を聞く態度が素晴らしいのです。

 全員が発表者の方をきちんと向いて聴き,内容をしっかり聞いているので,質問や意見も適切です。プレゼンテーション能力の究極の目標は,それを「聴く態度の育成にある」ということを実感させられました。

梅が丘小学校における一次資料の提示の様子
▲梅が丘小学校における一次資料の提示の様子
5.情報モラルについて

(1)様々な場面での指導

 情報モラルは,教科「情報」の授業でも一本の軸として重要な学習項目です。著作権や基本的な情報モラルを1時間の授業として取り組みことも大切ですが,あらゆる場面を通じてじっくりと育てていく視点も大切です。大阪府教育委員会が発行した情報モラル指導資料集は,その点で大変役立つものです。例えば「メール」という項目においては,その光と影の両方を必ず教えるように配慮され,しかも全項目について指導案が付いています。もちろん,Webページからダウンロードすることもできます。※注2

(2)情報を大切にする〜特に環境,福祉については情報の発信に注意〜

 情報の発信には特に注意が必要です。特に福祉や環境など,児童・生徒がよいことをしているという意識が強い場合です。例えば,各駅のバリアフリー度を調べるというテーマの場合,A駅は5点,B駅は3点などと評価を付けて授業参観で堂々と発表してしまっている小・中学校の例も少なくありません。公共の交通機関といえども私企業です。小・中学校の取材お断りの企業が出てきても仕方ありません。このような場合は,あくまでも数値と事実だけ示し(自動販売機の校歌投入口まで130 cmであった,など),そこから自然に判断できるように配慮すべきです。情報を発信される側の人の気持ちになる場面を必ず設けるようにしましょう。このようなことは教員が指導しなければ,児童・生徒はなかなかわかりません。

 教員も入学時のアンケート調査で,「自宅にパソコンを持っているか」など,家庭の状況調査になるような項目には十分注意する必要があります。あくまでも具体的な数値や事項(均等割り付けができますか,など)で問うようにしたいものです。まずは教員が,生徒の情報を大切にすることが前提です。「あなたの情報を大切にします。」これは,そのままあなたを大切にしますというメッセージになるようにしたいです。

6.評価について

(1)生徒が評価を理解する

 評価は,「関心・意欲・態度」,「思考・判断」,「技能・表現」,「知識・理解」の4つの観点で行いますが,(中学校・国語科は5つ),二つめの観点に教科の特質が表されています。教科「情報」では「思考・判断」です。まずは教科の特徴である「思考・判断」とはどのような作業で,どのような状況だとおおむね満足できると言えるのかを,生徒に理解させることが大切です。※注3

(2)自己評価力はそのものが目標

 教科「情報」の総合実習で作成する作品などについては,教員もある程度の自信を持って評価することができるでしょう。しかし,「関心・意欲・態度」や「思考・判断」などの目に見えない観点については,まだまだ教員の観察だけでできる状況にはないと思われます。そこで生徒の自己評価を参考にしながら行うこととなります。生徒の自己評価は教員の評価の参考になるだけでなく,生徒自身の自己評価力を育てるという点でも有効です。自己評価力の育成は,そのまま学校の大きな教育目標でもあります。このようなことから,とりあえずWebページポートフォリオなどを総合実習で作成してみるのもひとつの方法かと思います。※注4

(3)自己評価を支援する工夫

 生徒の自己評価を参考にして評価を行うことはよいが,自己評価を単なる生徒の感想にしてしまっては続きません。生徒は様々な教科・授業で自己評価をしているため,自己評価に少々飽きてきているからです。そのため,観点をきちんと示して自己評価させることとなりますが,それでもなかなか書けない,書く気にならない生徒も多いのが現状です。

 そこで教員は,生徒が書きやすいように自己評価表に「書き出し」を加えるなどの工夫をすることが必要です。このような取り組みの工夫にも,小・中学校は一日の長があるように思います。例えば作品発表会,プレゼンテーションの授業における自己評価の場合,単なる感想では生徒は積極的に書きませんが,「発表で言い忘れたことは…」という書き出しを前もって自己評価表に書き加えるだけで,生徒は前向きに取り組むこととなります。以下に,生徒の自己評価を支援する書き出しの例をいくつか示します。

○発表会で言い忘れたことは…
○実は先生に質問したかったことは…
○一番びっくりしたことは…
○あれっと思ったことは…
○自分では思いつかなかったことは…
○前回の授業に比べて…
○自分の活動をキーワード3つで表現すると 「…」「…」「…」
○自分だったら…
○はじめは…だったけど今は…

7.まとめ

 教科「情報」は,問題解決的な学習であることを述べてきました。生徒が自らのテーマを追究する主体的な学習であるだけに,教員側の様々なレベルでの工夫は今後も不可欠です。教科「情報」は新しい教科だけに課題も多いのですが,今年度の実施を迎えるにあたって,すでに多くの役立つ情報が発信されてきました。これほど情報の共有(公的,私的なネットワークを含めて)が機能している教科もないのではないかと思えるほどの充実ぶりです。これは,多くの研究者や現場の先生方が積極的に情報を公開されているおかげだと思います。明日からでもある程度の授業ができるほど,学習指導案やディジタルコンテンツ,研究会および各種セミナーなどの情報が誰でもが活用できる状態にあることは驚くべきことだと思います。それゆえ今年度の実践からも多くの情報が発信され,一気に教科「情報」が発展することでしょう。

 どうやら情報に関しては,よい情報をたくさん発信する人により情報がどんどん集まる傾向にあるようです。教科「情報」に関わる者は,常に情報に敏感になり生徒と同じく,少しでも役立つ情報の発信者になれるよう,ともに頑張りましょう。

注1 Bransford,Stein,The ideal problem solver,1994
注2 情報モラル指導資料,大阪府教育委員会(2002.3)
    http://www.pref.osaka.jp/kyoishinko/kyomu/morals/morals.htm
注3 今田晃一:新しい教育課程をどう展開するか,キーワードは「評価」,中学の広場,第171号巻頭論文,pp 7〜14,大阪府公立中学校研究会,2001,12,1
注4 今田晃一:Webページ版ポートフォリオ評価・自己成長記録の実践〜メタ認知育成をめざした総合学習の評価を求めて〜,「生きる力」を育むポートフォリオ評価,村川雅弘編著,pp233〜244,ぎょうせい,2001,3

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