ついに,教科「情報」の授業が始まりました。先生方が本稿を読まれている時は,授業についての一通りのオリエンテーションが終わり,これからいよいよ教科「情報」の本質である総合実習に臨まれるところでしょうか。 教科「情報」は,コンピュータやソフトウェアの基本的な操作スキルを習得することだけが目的ではありません。情報機器操作の基本的なスキルの習得とともに,情報の科学的理解と情報社会に参画する態度を正しく身に付けさせることも求められています。生徒に「情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度」を,実習を通してバランスよく身に付けさせることが目標とされています。 さて,教科「情報」は,他教科と違い親学問というものがあまりはっきりしません。一応,「情報学」ということになるのでしょうが,先進的な実践事例等を拝見しますと,これはまさに「問題解決学」(?)かと思えるような状況です。それは社会が今日的な課題に対応できる情報活用能力を求めているだけでなく,学校現場においてもその価値を認めているということだと考えられます。特に問題解決能力は,生徒が卒業してから大切な能力として大きなビジョンのもとに取り組まれる場合が多いようです。 このように教科「情報」は,本実施を前に様々な実践が行われ,そこから得られた実践上の留意点は,教科書及び指導書にもていねいに解説されています。しかし,本稿ではあえて小・中学校の問題解決的な学習の事例から学ぶというスタンスで臨みました。これは,小・中学校と高等学校との連携を大切にしたいと考えたからだけではありません。小・中学校には「新学習指導要領の実施が1年早い」とだけでは言い尽くせない,総合的な学習,問題解決的な学習,生きる力の育成などへの熱い想いに満ちた多くの先生方の実践の積み重ねがあると考えるからです。ここでは,問題解決的な学習,講義,総合実習,評価という4つの項目に対して,小・中学校の実践例を紹介しながら,教科「情報」の実践上の留意点として生かす知見について考えていきたいと思います。
(1)様々な場面での指導 情報モラルは,教科「情報」の授業でも一本の軸として重要な学習項目です。著作権や基本的な情報モラルを1時間の授業として取り組みことも大切ですが,あらゆる場面を通じてじっくりと育てていく視点も大切です。大阪府教育委員会が発行した情報モラル指導資料集は,その点で大変役立つものです。例えば「メール」という項目においては,その光と影の両方を必ず教えるように配慮され,しかも全項目について指導案が付いています。もちろん,Webページからダウンロードすることもできます。※注2 (2)情報を大切にする〜特に環境,福祉については情報の発信に注意〜 情報の発信には特に注意が必要です。特に福祉や環境など,児童・生徒がよいことをしているという意識が強い場合です。例えば,各駅のバリアフリー度を調べるというテーマの場合,A駅は5点,B駅は3点などと評価を付けて授業参観で堂々と発表してしまっている小・中学校の例も少なくありません。公共の交通機関といえども私企業です。小・中学校の取材お断りの企業が出てきても仕方ありません。このような場合は,あくまでも数値と事実だけ示し(自動販売機の校歌投入口まで130 cmであった,など),そこから自然に判断できるように配慮すべきです。情報を発信される側の人の気持ちになる場面を必ず設けるようにしましょう。このようなことは教員が指導しなければ,児童・生徒はなかなかわかりません。 教員も入学時のアンケート調査で,「自宅にパソコンを持っているか」など,家庭の状況調査になるような項目には十分注意する必要があります。あくまでも具体的な数値や事項(均等割り付けができますか,など)で問うようにしたいものです。まずは教員が,生徒の情報を大切にすることが前提です。「あなたの情報を大切にします。」これは,そのままあなたを大切にしますというメッセージになるようにしたいです。
(1)生徒が評価を理解する 評価は,「関心・意欲・態度」,「思考・判断」,「技能・表現」,「知識・理解」の4つの観点で行いますが,(中学校・国語科は5つ),二つめの観点に教科の特質が表されています。教科「情報」では「思考・判断」です。まずは教科の特徴である「思考・判断」とはどのような作業で,どのような状況だとおおむね満足できると言えるのかを,生徒に理解させることが大切です。※注3 (2)自己評価力はそのものが目標 教科「情報」の総合実習で作成する作品などについては,教員もある程度の自信を持って評価することができるでしょう。しかし,「関心・意欲・態度」や「思考・判断」などの目に見えない観点については,まだまだ教員の観察だけでできる状況にはないと思われます。そこで生徒の自己評価を参考にしながら行うこととなります。生徒の自己評価は教員の評価の参考になるだけでなく,生徒自身の自己評価力を育てるという点でも有効です。自己評価力の育成は,そのまま学校の大きな教育目標でもあります。このようなことから,とりあえずWebページポートフォリオなどを総合実習で作成してみるのもひとつの方法かと思います。※注4 (3)自己評価を支援する工夫 生徒の自己評価を参考にして評価を行うことはよいが,自己評価を単なる生徒の感想にしてしまっては続きません。生徒は様々な教科・授業で自己評価をしているため,自己評価に少々飽きてきているからです。そのため,観点をきちんと示して自己評価させることとなりますが,それでもなかなか書けない,書く気にならない生徒も多いのが現状です。 そこで教員は,生徒が書きやすいように自己評価表に「書き出し」を加えるなどの工夫をすることが必要です。このような取り組みの工夫にも,小・中学校は一日の長があるように思います。例えば作品発表会,プレゼンテーションの授業における自己評価の場合,単なる感想では生徒は積極的に書きませんが,「発表で言い忘れたことは…」という書き出しを前もって自己評価表に書き加えるだけで,生徒は前向きに取り組むこととなります。以下に,生徒の自己評価を支援する書き出しの例をいくつか示します。 ○発表会で言い忘れたことは… ○実は先生に質問したかったことは… ○一番びっくりしたことは… ○あれっと思ったことは… ○自分では思いつかなかったことは… ○前回の授業に比べて… ○自分の活動をキーワード3つで表現すると 「…」「…」「…」 ○自分だったら… ○はじめは…だったけど今は…
教科「情報」は,問題解決的な学習であることを述べてきました。生徒が自らのテーマを追究する主体的な学習であるだけに,教員側の様々なレベルでの工夫は今後も不可欠です。教科「情報」は新しい教科だけに課題も多いのですが,今年度の実施を迎えるにあたって,すでに多くの役立つ情報が発信されてきました。これほど情報の共有(公的,私的なネットワークを含めて)が機能している教科もないのではないかと思えるほどの充実ぶりです。これは,多くの研究者や現場の先生方が積極的に情報を公開されているおかげだと思います。明日からでもある程度の授業ができるほど,学習指導案やディジタルコンテンツ,研究会および各種セミナーなどの情報が誰でもが活用できる状態にあることは驚くべきことだと思います。それゆえ今年度の実践からも多くの情報が発信され,一気に教科「情報」が発展することでしょう。 どうやら情報に関しては,よい情報をたくさん発信する人により情報がどんどん集まる傾向にあるようです。教科「情報」に関わる者は,常に情報に敏感になり生徒と同じく,少しでも役立つ情報の発信者になれるよう,ともに頑張りましょう。
注1 Bransford,Stein,The ideal problem solver,1994 注2 情報モラル指導資料,大阪府教育委員会(2002.3) http://www.pref.osaka.jp/kyoishinko/kyomu/morals/morals.htm 注3 今田晃一:新しい教育課程をどう展開するか,キーワードは「評価」,中学の広場,第171号巻頭論文,pp 7〜14,大阪府公立中学校研究会,2001,12,1 注4 今田晃一:Webページ版ポートフォリオ評価・自己成長記録の実践〜メタ認知育成をめざした総合学習の評価を求めて〜,「生きる力」を育むポートフォリオ評価,村川雅弘編著,pp233〜244,ぎょうせい,2001,3