1990年代後半から急速に普及した携帯電話やPHSなどの移動体メディアは,いまや対人口普及率では6割を超え,若者の間ではそのほとんどが所持するに至った。実際,昨年関東と関西の大学生を対象に私たちがおこなった調査では,実に98%が携帯電話やPHSを持っていた。大阪府下の高校生を対象にした調査でも,83.8%が持っていると回答があったという。 また,これらの端末は単に持ち歩くことのできる電話という機能を越えて,インターネットでのメールのやりとり,ホームページ閲覧から,音楽の再生,デジタルカメラを内蔵しての写真のやりとりなどといった,マルチメディア・ネットワークの端末として受け入れられているのである。最近では「携帯電話」というよりも「ケータイ」とよぶ方が通りがよいのは,そうした状況を端的に体現しているからとは言えまいか。 しかし,このように新しいメディア環境が形成されていく一方で,高校や大学などにおける情報関連科目の教育の場においては,「ケータイ」が適切に取りあげられてきたとは言えない。さらには高校などで学校への持ち込みを禁止するなど,どちらかといえば教育の場から排除する傾向の方が一般的でさえあった。たしかに授業中の通話やメールの使用,あるいは着信音が突然鳴ることで授業運営が阻害されたり,学生・生徒が授業に集中できないといった問題が浮かび上がっているなかでは,管理上やむを得ないことなのかもしれない。 とはいえ,学校からケータイを排除することによって,生徒たちの日常生活と学校での情報教育との間に断絶が深まる可能性は否定できない。そうこうしている間にも,社会のさまざまな局面にケータイが浸透しつつあるというのは厳然とした事実である。 また同時に,ケータイの急速な普及は世界的な傾向であるという点も,認識しておかなければなるまい。「iモード」などのサービスで世界に先駆けてケータイの端末によるインターネット接続サービスを展開したり,第三世代の携帯電話を早々に開始したりと,とかく日本はこの分野で先頭を走っているように思われがちだ。それゆえ,普及の度合いも世界的にはトップクラスと誤解されがちであるが,日本の普及率はEU加盟の諸国や,韓国,シンガポール,台湾,香港などの国や地域に比べてもずっと低い値になっている(図1)。逆にいえば,サービスが高度であるかどうかは別として,ある程度経済的な発展を遂げた国や地域においては,ケータイが普及するのはごく当然のことである,という考え方をとるほうがむしろ自然なのだといえよう。すなわち,ケータイの普及が進んでいく状況は,ある種抗しがたい流れであり,その中では新しいメディアを隔離したり排除したりすることよりも,私たちがメディアとどのような関係性をとりうるかということを考えていかなければならないのである。 ▲図1 主な国・地域別による携帯電話の普及率 (2000年)