5年ほど前から「道具」としてのコンピュータがネットワークという「有機的な機能」と融合することにより,今までにない新たな教育環境が学校現場に構築されつつある。またネットワークとして「インターネット」を教育活動,とりわけ情報教育や環境教育に活用している学校が増えている。本校は,山梨県が実施している「インターネットを活用した国際交流実験校(平成8年から平成10年)」および文部省の「光ファイバー網による学校ネットワーク活用方法研究開発事業(平成10年から平成12年)」に指定され,さらに平成10年度は「新100校プロジェクト」の自主企画にも参加した。 文部省は中学校,高等学校,特殊教育諸学校においては,平成13年度までに,小学校においては,平成15年度までにすべての学校をインターネットへ接続する等の情報教育の実施に必要な学習環境・条件の整備を図ることを発表した。 技術の伸展に伴い,コンピュータの性能も高まり,インフラとしてのネットワークも「ギガビット構想」に代表されるように飛躍的な展開を呈すると思われる。またそこに流れるコンテンツもマルチメディア情報が可能であり,意志の伝達ツールとしてより有効な活用が期待できる。 インターネットの教育活用は始まったばかりであるが,ここでは高校現場でインターネットの活用をどのように展開実践してきたか,また展開する上での留意点について,前任校である山梨県立谷村工業高等学校(100校および新100校プロジェクト選定校)および本校の状況を踏まえて報告する。
道具を使うにあたっては正しい使い方を修得しなければならない。そこで,システムの円滑な運用を行うため校内にネットワーク管理部を設置し,システムの監視や初歩的なシステムメンテナンスおよび職員に対する講習会を実施している。 生徒は1年次の工業基礎・実習および情報技術基礎等の科目の中で,基本的なインターネットの機能やブラウザおよびメーラの使い方,さらにネットワークコミュニティーに参加するためのモラル(ネチケット)について学習する。そして一定の評価を得た者にはIDを付与している。また,入力を効率よく行うためブラインドタッチを習得させている。2年次は実習等でホームページの作成方法について学習し,3年次は課題研究等の科目で問題解決に向け自由にネットワークを駆使出来るよう指導している。 また,インターネットが持つ機能を利用して具体的に次のことを実践した。 (1)コラボレーション型学習として a.酸性雨調査 全国の小中高校40校で雨水のPh測定を行いそれをWeb化して教材使用する。 b.ケナフの共同栽培 全国の小中高校が参加して,ケナフを同時栽培しその成長状況をメーリングリストや各校のホームページで紹介するものである。栽培方法や地域差による生育状況の違いを調査する。 (2)問題解決型学習として a. バーチャルクラスルームの展開 県外3校の工業高校とJAVA言語の共同学習を展開する。 生徒達がインターネット上で情報交換や共同作業を行いながら,同じ分野を学習している他校の様子を把握したり,学校内の生徒間では解決できないような問題を相談しながら,自ら問題解決を行っていくことをねらいとしている。また,各県の枠を越えて共同企画を実施するにはどのような内容が望ましいのかを探ることも目的としている。 ▲[Virtual ClassRoom (新100校 プロジェクト)] b.SOHOシステムの構築 専門家へのメールを介しながら実習室内にLANを構築し,それをインターネット接続した。また,インタネット上でデータがどのような経路で伝達されるかNOCの見学も実施した。 (3)インターネットを素材にした地域参加型学習として a.学校開放講座の開設 地域住民へ学校施設を開放し,インターネットの講習会を実施した。 b.地域行事による小学生へのレクチュア インターネットフェアーを開催し,そこで小学生を対象にインターネットの講習会を実施した。 ▲[小学生へのレクチュア] c.地域インターネット協議会への参加 地域のインターネット協議会に積極的に関わり,意見を出すことにより地域のことを理解するとともに,我々も地域のネットワーク形成を担っているという自覚をもたせる。 地域参加型学習等においては地元からも発展的な展開を期待されており,学校の地域への貢献に 寄与できる1つの例になろう。 (4)国際交流 a. アイオワプロジェクト 県のインターネットを活用した国際 交流実験校として平成8年から10年までの3年間,アイオワ州の高校とメールの交換による交流を試みた。 b.韓国清州機械工業高校との交流 姉妹校である韓国の高校との交流の様子をホームページにまとめ,交流に役立てた。
インターネットへ接続する線が学校まで来たとしても,それに接続されるコンピュータが1台では効率が上がらず十分な効果が得られないと思う。いわゆる「校内イントラネット」の整備をできるところから徐々に実現していくことである。また最近,教師自身がコンピュータを所有する比率が増えており,自分自身のコンピュータを校内LANに接続すれば文書作成や公務処理にも有効となる。先ず教員が使える環境を整備する事が大切であろう。また,学校の外へ発信せずとも調べ学習の成果を校内のホームページに掲載するなどして校内で活用・評価する事もできる。これらのことは,インターネットに接続されてなくても実現できることである。 校内イントラネットが整備されると,そのシステム管理・運用を円滑に行うため,分掌とか委員会が設置されると思うが,ややもするとそこに配属された先生方だけで全てをこなそうとする傾向がある。その中だけで活用を図っていこうとすると活用が狭められ,結局一部の先生方のシステムになり,本当の意味での活用が妨げられる可能性がある。そこでは整備計画や使用計画,研修,簡単なトラブルの回避やユーザの登録などに力を入れ,個々のインターネットを使った教育活動が円滑に行えるように努力すべきである。インターネットの活用は,先ずできるところ,できることから始めるのがよい。研究会等で先進的な試みや成果が発表されるが,それらが全ての学校で可能な訳ではない。その学校の特性や地域性に目を向け,身近にある材料をもとにインターネットを道具として活用すべきである。その材料を見つけること,その材料を多く蓄えておくことが大切なのではないだろうか。 インターネットはシームレスだから,導入されたら即海外の学校とメール交換を行おうと考えがちである。しかし,それは無謀な行動であり失敗する原因でもある。また周りをみると,一度失敗すると再度試みることがないようである。先ず身近なところから経験し,その輪を徐々に広げて行った方がよい。隣の学校と交流するのさえも,時間の調整や内容のすりあわせ等結構手間取る。それが海外となると,交流の目的を決定するにも,教育制度の違いや文化の違いさらに言葉の壁などがあり,遅々として進まず,目的を達成できずに中途半端な形で消滅するケースがよくある。国内,海外を問わず学校間の交流を行う場合は,事前に教員同士の交流を通してお互いに十分な調査を行う必要がある。また実施する場合は,テーマを大きくしないで小さなテーマ(ミニプロジェクト)で交流を開始した方が成功するようである。
教育課程審議会の答申によれば,小学校,中学校では「総合的な学習の時間」において,情報手段を活用した表現およびコミュニケーション活動や課題解決的な学習活動を奨励し,高校では新しく普通教科「情報」を設置し,情報を適切に判断したり,分析・評価するための基礎的な理論や手法,情報手段のより選択的な活用,情報や情報技術が人間や社会に及ぼす影響,特に情報化の「影」の影響を克服するために必要な知識等で内容を構成することとなっている。生涯学習の観点から,小学校から高校までを含めた体系的なリテラシー教育も情報教育活動の中で必要になると思う。また,あらゆる場面で情報手段が活用できることを踏まえ,ある限られた教科の中だけで情報教育が行われるのではなく,それぞれの場面で情報教育が行われるべきであると考える。情報手段を日常的に利用・活用する社会が来ることを前提に,生徒たちがその情報手段をどのような場面で,どのような目的で有効に使えまた活用できるのか,学校教育の中で経験を積ませることが,これからの情報教育を実践していく上で大切なことなのではないだろうか。