指導のアイデア

くらべて見よう!

  • 黒澤 償
  • 世田谷区立経堂小学校 教諭
  • 対象学年:5年

授業について

本題材では、たくさんのデジタルアートカードの中から同じ年代で、特徴のある作品を選び、くらべながら、違いなどから様々な表し方の特徴に気づくことを目指す題材である。
一つの作品はルノワールの「おもちゃで遊ぶ子ども」、もう一つはミシャの「ジスモンダ」である。二つの作品は1800年代と比較的近い時代の作品である。しかし、形においては「おもちゃで遊ぶ子ども」は輪郭線がなく、色の重なりで形を表しているが、「ジスモンダ」は太くはっきりした輪郭線で表されている。また、「ジスモンダ」には文字の情報も入っており、二つの作品表現には大きく異なっている特徴がみられる。初めは一つ一つの作品を見てそれぞれの特徴を捉える。「何がかいてあるか」をきっかけに、自分の考えを交えて見方を広げていく。
つぎに二つの作品を並べ、違いを見つけながらそれぞれの特徴を新たに見つけていく。これをグループ、全体で共有することで、気づきや発見を広げていく。
さらに、描かれたものについての情報を絵と共に提示し、二つの表し方の違いについて知ることができるようにする。具体的には、ジスモンダが、「ポスター」という、絵と文字で情報を伝える表現方法であることを知り、その後の活動への意欲と、活動の広がりへとつなげていきたい。

材料・用具・ICT機器

教師:PC、テレビ、デジタルアートカード、ワークシート
児童:タブレット、筆記用具

主な学習目標

知識及び技能

友達と対話をしながら美術作品やポスターなどを見るときの感覚や行為を通して,奥行きや動き、バランスなどの造形的な特徴を理解する。
(共通事項が「動き,奥行き,バランス,色の鮮やかさなど」)

思考力、判断力、表現力等

諸外国の親しみのある美術作品やポスターなどの造形的なよさや美しさ,表現の意図や特徴,表し方の変化などについて,感じ取ったり考えたりし,自分の見方や感じ方を深める。

学びに向かう力、人間性等

諸外国の親しみのある美術作品やポスターなどを鑑賞する活動に取り組み,つくりだす喜びを味わうとともに,形や色などに関わり楽しく豊かな生活を創造しようとする態度を養う。

児童の実態

平面での表現では、重なりを意識して描いた作品、コンテや絵の具での作品など、様々な道具を使っての表現を経験しているが、鑑賞については4年生の時に世田谷美術館の学芸員の出張授業を経験した。ただ出張授業という性質上、美術館についての説明が主なテーマで、その時は作品をじっくり見る時間は比較的少なかったように思う。
そこで、今回の授業では作品をしっかり見て、友達と見方を共有できる鑑賞を行い、さらに表現への広がりにつなげていきたい。

題材の評価規準

知識・技能

親しみのある絵画やポスターなどを見るときの感覚や行為を通して,奥行きや動き、バランスなどの造形的な特徴を理解している。

思考・判断・表現

諸外国の親しみのある絵画やポスターなどの造形的なよさや美しさ,は表したい主題とかテーマ、使用目的,表し方の変化などについて,感じ取ったり考えたりし,自分の見方や感じ方を深めている。

主体的に学習に取り組む態度

主体的に我が国の親しみのある絵画やポスターなどを鑑賞する活動に取り組み、形や色などに関わり楽しく豊かな生活を創造しようとしている。

授業の流れ 本時(45分)

1. 導入(2分)

〇指導上の留意点
自分の考えをもって作品を見ることを伝える。

2. 展開(38分)

よく見てみよう
「おもちゃで遊ぶ子ども」をよく見て、気付いたこと、考えたことをワークシートにかく
〇児童の姿
・髪の色が違う。
・人形で遊んでいる。
・人形を使って何か説明しているのかな。

「シスモンダ」をよく見て、気付いたこと、考えたことをワークシートに書く。
〇児童の姿
・手に何かの葉をもっている。
・お金持ちの人ではないか。服が派手だ。
・模様みたいにも見えたけど、文字がかいてある。
〇指導上の留意点
・はじめは「何があるか」など、見つけた事を書くように声を掛ける。
・「何があるか」を見つけることが出来たら、自分が思ったことや考えたことを書くように声をかける。
・自分の考えをもつ時間の後、近くの人と共有し、自分が見つけなかったものや考えで、「なるほど」と思ったものは書き加えてもいいと声をかける。



比べて見てみよう!
二つの作品を同時に提示し、並べて比べてみながら気付いたこと、考えたことをワークシートに書く。
〇児童の姿
・絵のかきかたが違う。
・色の使い方が違う。
・「ジスモンダ」の方がはっきりしている。
〇指導上の留意点
二つを並べたことでそれぞれの作品にあるものとないもの、かき方の違いや形や色の感じなど、それぞれを見ただけでは特徴として気付かなかったことなど、新しい気付きを見つけられるように声を掛ける。
それぞれの見つけたものや想像したことを認め、考えや思いがつながるように促していく。
また、文字の内容などを子供が求めた場合は話すことで、どのような場面でかかれたかなど、どうしてこのようなかき方なのかなどの表し方のよさや工夫等に子供たちが気づくことができるように声掛けを工夫していく。



見つけたことを共有しよう!
〇児童の姿
「おもちゃで遊ぶ子ども」「ジスモンダ」それぞれの気付きや考えを発表する。
・形がはっきりするかき方と、そうでないかき方で、かき方がそれぞれ違う。
・二人の方は服も普段の様子だけど、(ジスモンダは)着物も豪華で女王様みたい。
・二人の方はおしゃべりしている普段の様子。一人の方はどこかを見ている様子。



〇指導上の留意点
・発表を板書し、共有する。「なるほど!」と思うものは自分のワークシートに加えていく。
・子どもの発言など、子どもの気付きからまとめられるように促す。

3. まとめ(5分)

これからに生かしていこう!
〇児童の姿
・文字と絵で情報を伝える表し方の作品を「ポスター」ということをおさえる。
〇指導上の留意点
・次回からの活動の意欲につなげる。

授業後の一言

デジタルアートカードは、様々なジャンルの作品があるので、本当に幅広く鑑賞授業を考えることができると思いました。今回は同じ年代で、比較しながら見ることのできる作品を選びました。
子どもたちは、「同じ年代」、「人物が描いてある」、という同じ条件の中で、比べてみるという経験をすることができました。それにより、作品の様々な部分に気づくことができたと考えます。
デジタルアートカードは作品数が多く、地域、作家も幅広いため、教師の意図に合わせて作品を選ぶことができます。他にも日本、世界という違いから表現の多様性も感じることができる教材だと思います。
また、教師が知っている有名な作品や作家だけでなく、年代や場所、作風によって作品を見ることができます。目的の応じて探すことで、さらに多くの作品を教師自身が鑑賞でき、自分で知っているものから選ぶよりもたくさんの作品、作家から比較検討して選ぶことができました。様々な作品から選ぶことで、授業の幅も広がるように思いました。
タブレットが子どもの教具として主流になる中、大勢で鑑賞するよさもありながら、1人でじっくり鑑賞するにはタブレットがとても便利だと思います。今後はタブレットでデジタルアートカードを使用した鑑賞授業も考えていけたらと思います。