題材との関連について
本題材では、日本が西洋に与えた文化的な影響であるジャポニスムに着目し、その歴史的な位置づけや、西洋の美術に与えた影響についての理解を深めると共に、国を超えた文化的な影響のダイナミズムについて考え、見方や感じ方を深めることを目標とした。 学習活動は、グループワークを主体とした謎解きの要素を取り入れながら進行した。ジャポニスムについての推測から始まり、調べ学習や映像教材の視聴、他者との意見交流を通じて、ジャポ二スムが西洋の美術(絵画)にもたらした影響についての理解を深めた。学習活動の締めくくりには、ジャポニスム作品から各自のお気に入りを選んで、感じた魅力を伝え合った。 本題材実践において、デジタルアートカードは、主に作品の造形的な特徴や制作された年代、地域等の関連情報を比較しながら、テーマに基づいた推論や解釈を行うための教材として活用した。
材料・用具・ICT機器
個人用のタブレットPC、ワークシート、プロジェクタ、スクリーン、調べ学習用資料、DVD教材、マイク(希望者のみ)
知識及び技能
造形的な特徴などを基に、全体のイメージや作風、様式などで捉えることを理解する。
思考力、判断力、表現力等
印象派等のジャポニスムの作品について、浮世絵等の日本の美術作品からの影響を踏まえて造形的な特徴や美しさを感じ取ると共に、作者の意図と創造的な表現の工夫などについて考え、見方や感じ方を深める。
ジャポニスムの歴史的な背景や、国を超えた文化的な影響のダイナミズムについて考え、見方や感じ方を深める。
学びに向かう力、人間性等
主体的に作品や美術文化の鑑賞の創造的な諸活動に取り組もうとする。
4人グループで、対話を大切にしながら協力して理解を深める学習活動を基本とする。(お互いに向かい合う座席配置を予定していたが、コロナの影響により中止。)
第2次においては、ジャポニスムへの理解を深める活動としてジグソー法を援用した。ジグソー法とは、あらかじめ分割された学習内容に対してグループで分担して取り組み、それを持ち寄ってお互いが学んだ内容を紹介しあうことで、ジグソーパズルを解くように全体像を浮かび上がらせる学習方法のことである。このような学習方法によって、他者との対話を交えた協同的な理解の深まりを目指した。
第1次:ジャポニスムについて予想しよう
「ジャポニスム」について、各自で推測すると共に、連想する作品をデジタルアートカードから選ぶ。グループ内で共有した後、意見をまとめて全体に紹介する。
第2次:ジャポ二スムについて調べてみよう
シャポニスムの歴史的な位置づけや、関連する作品の造形的な特徴の理解を目的として、4人組でジグソー形式による調べ学習を行う。教師が用意した4種類の資料を基にした簡単な調べ学習に分担して取り組み、その結果をグループで共有する。教師が用意する資料の内容は、以下の通り。
「1 ジャポ二スムのはじまり」
「2 西洋美術表現に与えた影響①」
「3 西洋美術表現に与えた影響②」
「4 日本の美術表現の特徴」
第3次:ジャポ二スムについて確認しよう
映像教材の視聴を通じて、ジャポニスムが西洋美術に与えた影響についての理解を深める。北斎の浮世絵とその影響を受けた印象派の作品を中心に、それらの造形的な特徴を比較しながら、与えた影響についての理解を深める。(本題材では、映像教材としてNHK日曜美術館「HOKUSAIの衝撃~ジャポニスム~」2017.12放送 を使用。)
第4次:ジャポニスムについて伝えあおう
ジャポニスムについて各自でこれまでに理解し、感じた内容を活かした活動を行う。始めに、デジタルアートカードから、各自のお気に入りのジャポニスム作品を3点選ぶ。次に、グループ内で共有した後、理由と共に全体に紹介する。
ジャポニスムについては、浮世絵や印象派等についての、前提となる理解があれば深まりやすい。学習活動を通じて、個々の生徒の毎時の状況に気を配りながら、必要な気づきを促していくことが大切である。学習展開は上記の4つの内容を基本とするが、学習内容の共有と確認を織り交ぜることによって、生徒の学習状況に意識を向けながら進行した。
本題材は、ジャポニスムに着目して、浮世絵などの日本の絵画の造形的な特徴と、その影響を受けた印象派等の西洋の美術表現との関連について理解を深めると共に、ジャポニスムの歴史的な位置づけを確認し、国を超えた文化的な影響のダイナミズムについて考え、見方や考え方を深めることを大切にした。学習評価の実施については、各種ワークシートへの記述内容や、日々の学習活動への取り組みの状況、及び学習活動の振り返りの記述等を参考にした。
生徒による振り返りの記述からは、学習前と学習後を比較して、ジャポニスムに対する理解が大きく深まったことが確認できた。このような記述の内容からは、題材実践を通じて、ジャポニスムについての歴史的な位置づけや西洋の美術作品に与えた影響を踏まえた表現の特質、そして美術文化に対する理解が深まった様子が確認できた。
学習活動において、デジタルアートカードは、生徒が主体的に作品の特徴に着目し、比較検討しながら理解を深めることのできる教材であったと思われる。
教師が一方的に情報を伝達するのではなく、推測をきっかけとするグループ活動やプレゼンテーションの活動を柔軟に取り入れたことも、生徒の学習理解を深める上で大きな意義があった。
・ジャポニスム学会『ジャポニスム入門』,思文閣出版, 2000.
・馬渕 明子『ジャポニスム―幻想の日本』,ブリュッケ, 2004.
・平松礼二『モネとジャポニスム』,PHP研究所, 2016.
・東田 雅博『ジャポニスムと近代の日本』,山川出版社, 2017.
・宮崎 克己『ジャポニスム 流行としての「日本」』,講談社, 2018.
・国立西洋美術館『ジャポニズム展 19世紀西洋美術への日本の影響』,国立西洋美術館, 1988.
・国立西洋美術館『北斎とジャポニスム展HOKUSAIが西洋に与えた衝撃』,国立西洋美術館, 2017.
*映像教材:NHK日曜美術館「HOKUSAIの衝撃~ジャポニスム~」2017.12放送