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報告「高等学校等における情報教育の実態調査」 —「『情報大航海時代』における制度的課題に対する高等学校等における情報教育の実態調査」報告— |
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1.はじめに |
3月に結果が公開された「高等学校等における情報教育の実態に関する調査」(※注1)をご存じでしょうか。調査対象が全国の高等学校であったため,回答された先生方も多いと思います。
この調査は経済産業省の「情報大航海プロジェクト」(※注2)事業の一環として,財団法人コンピュータ教育開発センター(CEC)(※注3)によりおこなわれました。調査の目的は以下の通りです。
2003年度より高等学校に新設された教科「情報」は,情報化の進展に主体的に対応できる能力などを培うことを目標としており,情報活用能力を有する人材の社会への供給について期待されるところが大きいと思われる。
「情報大航海プロジェクト」事業の一環として,制度的課題の解決策の検討に必要となる人材面での育成要件を明確にすることを背景としつつ,高等学校等における情報教育に関わる実情,課題,あるべき方向などについて調査することを目的として事業を推進する。
(実施報告書I.1「事業の目的」より抜粋)
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経済社会活動の面からも,情報活用能力を身につけた人材が必要とされている中で,教科「情報」を中心とした情報教育の実態を調査しようということです。高等学校の状況を調べることで,大学における情報に関わる教育や,小中学校の情報教育のあり方を考えようというねらいがあります。
私はこの実態調査に関わる委員会の委員として参加することになり,1月末から3月にかけてこの調査に関わることになりました。アンケートを作成する経緯や,アンケート結果,平行して実施されたワークショップについてご紹介したいと思います。
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2.実態を調査するには |
調査の発注主が経済産業省であるところがこの調査のちょっと変わったところです。対象は全国の5000校を超える学校を対象とするということですから,本格的な調査です。
高等学校の情報教育について実態調査をするという主題をいただいたわけですが,情報教育は必ずしも情報科だけでおこなわれるものではありません。回答方式はWebによるもので,回答者は情報科の先生方が想定されています。
年度末の短い期間に,学校全体の「情報教育」について情報科の先生方に回答をいただくというのは大変困難なことだと思われます。回答を集計したものは公開されますので,集計結果を見たいと思ってもらえる調査であることが,回答率を上げるためには必要だと考えました。
そのため,内容を教科「情報」と情報の先生方が置かれている状況を調査するものに絞り込み,正確な数値を問うものでなく,意識を問う形にしていただきました。
質問項目も,学習指導要領に記載されている教科の内容を問うものが提案されたのですが,具体的な授業内容を問うものとすることで,回答しやすいものにしていただきました。
実態調査に関わる委員会は大学の先生や実施主体のCEC,経済産業省の方で構成され,高校の教員は私一人でした。委員の皆さんの聞きたいことと,情報科の先生方が答えられることのギャップを埋めるのが私の役目だと感じていました。
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3.アンケートの実施 |
平成21年2月12日,アンケートへの回答依頼状が全国の学校に送付され,2月13日〜2月22日という短い期間で回答をお願いすることになりました。回答の対象者は『高等学校・中等教育学校にて普通教科「情報」を担当されている先生』とされ,複数名の情報科教員がいる場合は複数の回答を得ることにしました。
回答依頼には若干の行き違いがあったようで,情報を担当する先生に届かないケースもあったようでしたが,情報関係のメーリングリストなどで告知をおこなうなど回答を呼びかけました。回答期間が10日しかなかったにも関わらず,2000件程度の回答が得られました。
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4.アンケート結果の概要 |
集計結果から興味深いさまざまなことを読み取ることができます。結果はCECのサイトで公開されているので,概要だけでも一度ご覧ください。
概要の中からいくつかをご紹介します。
(1)教育の状況
- 高等学校等では,教科「情報」は,3年間で1科目2単位以上の履修が必要であるが,多くの高等学校では,1年次で履修が行われている。
- 高等学校等の教科「情報」では,多くの学校で情報Aが履修されており,普通科・総合学科では約3/4が情報Aを選択している。
- 高等学校等の教科「情報」では,ワープロソフトや表計算ソフトのようなアプリケーションの基本操作,文字入力・タイピングやブラウザによるインターネット上の情報検索のような情報活用のための基本操作が多く指導されている。
一方で,これらの項目はそれほど重要とは認識されていない。
- 基本操作に次いで,情報社会と情報に関わるモラルに関する内容が指導されている。この分野については,重要性の認識も高いが,指導への自信はあまり高くない。
- モデル化とシミュレーション,アルゴリズムとプログラミングなど,情報の科学的な理解・問題解決に関する内容はあまり指導されていない。
また,あまり重要とも考えられていない。
(実施報告書II.4「調査結果の概要」より抜粋)
情報Aが3/4の学校で開講されていることは,教科書の需要数からも予想できることですが,それが裏付けられた形です。そういった意味では回答者がサンプルとして大きな偏りがないこともうかがい知れます。
情報Aは「情報活用の実践力」に重点を置いた内容構成となっています。各社の教科書を見ても,ワープロソフトや表計算ソフトのようなアプリケーションソフトの活用を実習の内容として取り入れているものがほとんどです。情報Aが3/4の学校で開講されていることを考えると,アプリケーション操作などの基本操作が多く指導されていることは,ある意味では当然のことと言えるでしょう。本来ならば中学校で身に付けてくるべき「情報活用能力」が身についていないと感じる現状もあると思います。
概要では全体の集計しか紹介されていませんが,履修科目別の授業実施などの集計もあります。これを見ると,情報Aや情報Cを実施している学校では比較的学習指導要領に沿った内容が実施されていることがわかります。逆に情報Bでは「コンピュータによる計測・制御」,「モデル化とシミュレーション」,「問題解決」を4割以上の学校で教えていないことも読み取れます。「情報の科学的理解」の領域であるこれらの内容については,適切な指導法や指導事例があまりないことや,生徒の実情から実施が困難であるという判断があるようにも思います。
履修科目別の授業実施の状況(上から情報ABC)(PDF 35KB)
情報社会と情報に関わるモラルに関する内容については,昨今の携帯電話やネットワーク利用における諸問題への対応として社会から期待されていることもあり,重要であると考えられています。
指導への自信があまり高くないのは,新しいサービスが次々とできる中で,先生方が実際に体験したり,問題点を検討したりするだけの時間が十分に確保できていないことが考えられます。
(2)教員の状況
- 教科「情報」は2003年度から必履修化された教科なので,他教科の教員が情報科の免許を取得し,情報科を担当している方がほとんどである。
- 教科「情報」のみを専門に担当している教員は,全体では2割強にすぎず,3/4以上の教員が「情報」以外の教科も兼担している。
- また,1校あたりの教科「情報」の教員数は,専門学科では過半数が5名以上であるが,普通科・総合学科では8割近くが3名以下であり,1名のみという学校も1/4以上ある。
- 校内の情報機器やネットワークの管理,他教員からのITに関する質問等への対応は,専門のスタッフではなく,教科「情報」を担当している教員が1人または複数で対応している例がほとんどとなっている。
- 情報分野は,技術の進展や社会の状況変化などにより教えるべき内容に変化が多く,常時,最新情報を知っておく必要があると指摘されている。
- 教員の多くは研修会,研究会よりもWebやペーパーメディアにより情報収集を図っている。
- 過半数の教員は研修会に参加していないと回答している。
- 研修会に参加していない具体的な理由は,参加しにくい他律的な原因がある趣旨の回答が多かった。
(実施報告書II.4「調査結果の概要」より抜粋)
現職等講習会で免許を取得し,年齢は40歳前後というのが,情報科の教員の平均像です。他教科との兼担も多くみられます。学校規模による担当授業時数の関係で情報科専任を1名配置することが難しいケースや,あえて専任を置かない方針の県もあるようです。
校内ネットワークの管理や校内サポートセンターの役目を負っている先生が多いことも読み取れます。校内の情報教育推進の役割を負うことも多いと思われます。広い視野で情報教育を見ることや,校内の情報機器に精通することは,教科指導のために役立つことも多数あるのですが,授業の片手間におこなうにはちょっと荷が重いこともあります。教育の情報化が進み,校内のネットワークも複雑になり,情報機器も増えてきています。ネットワーク管理などはアウトソーシングすることで,正確なドキュメントを残し,異動時の引き継ぎが容易になるように工夫することも重要になりつつあるのではないでしょうか。
情報科の扱う内容は幅広いため,普段の情報収集や授業見学,研修会の参加によって,幅広い知識やアイディアを取り入れて授業をおこないたいものです。情報科の学習内容や授業形態などについて研究したいと思いますし,授業内容について相談できる人がほしいと思います。
私は情報科専任で,校内で唯一の情報科教員ですので,研修会参加のために授業を自習にすることが難しい状況にあります。兼担されている先生方も,別教科を優先せざるを得ない状況にあるなど,研修などに時間を確保することが難しくなっている様子がうかがえます。
研究会や研修会に参加することで,仲間が増えます。直接のコミュニケーションがあることで,ペーパーメディアやWebなどから得る情報よりも密度の濃い情報が得られます。研修会に参加しやすくなるような制度や,情報技術を活用した研修の方法を考える必要があるように思います。
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5.ワークショップ |
アンケートの実施と平行して,3月1日(日)に全国から26人の先生にお集まりいただき,ワークショップを実施しました。これは,直接意見を聞き,情報科の現状を共有し,現状改善や課題解決への議論をおこなうことを目的として実施されました。
さまざまな意見や現状の改善策などが提案されましたが,これだけの先生方にお集まりいただきながら,議論が充分に深まらなかったことも事実です。時間的な制約もありましたが,運営側としては実施形態などにもう少し工夫をすれば良かったと反省する部分も多々ありました。
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6.実態調査を終えて |
アンケート内容の検討や回答に十分な時間がない中,回答が2000件程度得られ,ある程度の実態が掌握できたと考えています。今後も継続的に調査ができるのであれば,限りなく全数調査に近づくよう,各方面への協力をお願いしたいと考えています。
詳細な集計結果やワークショップの様子はCECのサイトで公開されていますので,ぜひご覧いただきたいと思います。生徒の実情を見つめながら,最善を尽くそうとする先生方の様子が見て取れるのではないでしょうか。
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