ICT・Education
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No.36
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総合実習 実習事例
総合実習の変遷とそこで学んだこと
東京都立東大和高等学校
加藤雅英
1.はじめに
東京都立東大和高等学校の情報科では,情報Aの授業において,平成15年の教科「情報」の開始以来,毎年「総合実習」を実施している。総合実習の内容は「修学旅行の行き先について,グループで調べ,その結果をWebページ形式でまとめ,さらにプレゼンテーションを行う」とし,「目的意識や問題意識を持ち,情報Aで学んだ技術や知識,問題解決力を総括させる」ことを主なねらいとしている。これまでに総合実習を4年間(4回)実施しているが,授業内容や方法を試行錯誤しながらスタートし実践を重ねながら,総合実習を通して生徒たちに何を学ばせていくべきなのか,そのためにはどんな方法をとればよいのか,ということを検討し,毎年授業を改良しながら進めてきた。コンピュータの操作技能が向上した生徒が増え,「調べ学習」や「発表」に慣れた生徒の数も多くなってくるなか,総合実習というプロジェクト活動において生徒が何を「学ぶ」のかということを,毎年再設定しながら授業を実践している。
本稿では,東大和高校情報科における総合実習の4年間の学習過程の変遷を紹介し,そこで目指していることについて紹介する。
2.東大和高校の情報科
東大和高校は,東京都西部に位置する公立の高校である。狭山丘陵や村山貯水池に近く,近隣には自然が多く残る環境の中で,「進学・部活・情報の大和」を目標に掲げ,生徒たちは日々の学習に取り組んでいる。そのなかでも部活動は,水泳部や陸上部を始め全国大会へ出場している部も多い。
東大和高校では情報Aを,1年生7クラスが履修している。2単位の授業を2時間連続で2名の教員が担当し,TT方式で授業を進めている。また,3年生の選択授業として,「情報B」と「情報と表現」を開設している。
情報Aは全ての授業をコンピュータ教室で実施し,毎回の授業で座学と実習を取り入れている。今年の8月に機器が入れ替えられ,OSがWindowsVistaになる等,新しいコンピュータ環境になった。以前は机の配置が普通教室型の配置であり,グループ学習に不向きであったが,対面型の島方式に変更し,各島にプレゼンテーション時に利用するプロジェクタ用の配線を用意しておくなど,グループ学習を重視した構成とした。電子黒板や大判プリンタも導入され,今年度の総合実習は新たな機材を利用した取り組みを行う予定である。
▲新コンピュータ教室
3.4年間の学習過程の変遷
(1)総合実習までの流れ
4月から11月までを,総合実習を実施するまでの準備期間と位置づけ,総合実習を行う上で必要となる事項を学習できるように授業内容を工夫している。そして,12月から3月までを総合実習にあてている。
1学期には,情報の収集及び加工を主に取り上げている。情報Aの学習内容に期待を持たせた上で,授業を受けるためのルールを教え,情報Aで学んでいくことへの意識を高めることを考慮して次表のような内容を実施した。
回
項目
内容
1
オリエンテーション
PC室の利用について,パスワード・IDの発行と管理
2
基本操作と情報の整理
キーボード操作,フォルダ構造,ファイル操作,ファイルの種類・拡張子
3
ネットコミュニケーション
メール,チャット,掲示板
4
画像
画像加工,合成写真,ディジタル化,PhotoShopで加工処理
5
音声
サウンドレコーダーで音楽の編集,符号化
6
文字
メモ帳,ワードパッド,Wordを利用した文書処理
7
数値
グラフの利用,Excelを利用した数値データの活用
▲1学期の授業内容(1回を2時間連続で実施)
2学期の11月までは,情報を効果的に発信したり,情報を共有したりするための工夫や,収集した多様な形態の情報を目的に応じて統合的に処理する方法を学んでいる。1学期の実習は個人での作業を主としているが,2学期はグループ活動を多く取り入れている。グループ活動を通して情報の共有や発信の方法を学んでいくことを考慮して,次表のような内容を実施した。
回
項目
内容
1
情報の統合(1)
各種情報を統合,パワーポイントで情報をまとめる
2
情報の統合(2)
収集・処理・発信の流れ,HTMLでのWebページ製作
3
情報の統合(3)
情報発信,ホームページビルダーによるWebページ製作
4
Web作成(1)
スケジュールを意識した作品製作
5
Web作成(2)
情報処理・加工
6
世界の国々
グループ活動とスケジュール
7
アンケート(1)
テーマ作成,グループ活動
8
アンケート(2)
収集,処理,発信,グループ活動
▲2学期の授業内容(1回を2時間連続で実施)
総合実習が始まるまでの期間においては,特に次の3点に留意し,授業を行っている。
【1】 道具としてのコンピュータ
1,2学期に多くのアプリケーションソフトに触れることでその違いを理解させ,総合実習に備えている。このため,毎回の授業で新しいアプリケーションを取り上げているが,操作だけでなく関連する知識についての説明も併せて行っている。
例えて言うならば,物を切りたいときに,はさみ,カッター,のこぎりなどさまざまな道具のなかから必要なものを選択して利用するように,情報を加工する際には適切なアプリケーションを選択できるように指導している。それを利用して自らが表現したい内容に情報を加工できるようになることを目標としている。
【2】 総合実習で行う要素の経験
総合実習では生徒たちが主体的に活動することを期待している。グループ作業(役割分担,作業スケジュール作成,作業報告の仕方など)や,Webページ製作の流れ(サイトマップ作成,素材の準備,作成など)といった総合実習で行う要素を細分化し,1,2学期の授業の中で経験ができるようにした。
【3】 授業計画作成からTTで作業
東大和高校はTTで授業を行っている。授業計画作成時より,TTで作業を行い,相方との認識を一致させた上で授業に臨んだ。グループ作業時には,個々のグループの状況に合わせた指導が必要となるが,相方と認識が一致していることで,どちらが対応しても対応内容に差がなくなるような指導を心がけている。
(2)1年目の実践:総合実習の流れの構築
この年にはまだ筆者は東大和高校に在籍しておらず,後にTTを組むこととなる相方の教員と情報科免許を持つ理科教員の2名によって授業が行われていた。
「修学旅行の行き先について,グループで調べ,その結果をWebページ形式でまとめ,さらにプレゼンテーションを行う」という内容で,教科書の総合実習の流れを元にして,東大和高校における総合実習の流れが構築されたのがこの年である。
【1】 テーマを決める(事前調査,イメージマップ,テーマ決定)
【2】 計画を立てる(スケジュール)
【3】 調査する(図書館,インターネットによる調査)
【4】 作品を作る(サイトマップ,ページレイアウトの作成,Webページ製作)
【5】 発表する(リハーサル,クラス発表,学年発表)
【6】 評価する(自己評価,相互評価)
▲総合実習の流れ
■担当者制の導入
発表担当者,Web製作担当者,スケジュール担当者などグループのメンバーに役割を与え責任を持たせて作業にあたらせた。各グループへの教員からの作業指示は,担当者を通じグループ内へ伝達するルートを採り,グループ内で連絡,相談などのコミュニケーションが行われるようにした。担当者を設定することで,各自がグループ内での役割意識を持ち,責任を持って作業を行っている様子が観察され,担当者制による総合実習をその後も実施している。
(3)2年目の実践:みんなが発表者
1,2学期の授業において,発表の練習機会が少ないためか,プレゼンテーション力に個人差がみられた。グループで発表を行わせた場合,経験や度胸のある生徒が常に発表者としてプレゼンテーションを行っているという状況があった。
■プレゼンテーション準備と練習
総合実習を通して,全ての生徒のプレゼンテーション力を向上させていきたいと考え,総合実習の毎時間の作業報告をプレゼンテーションさせた。グループ内でリハーサルの後,クラス全員に対して各グループの代表者によりプレゼンテーションを行った。
初回は口頭のみのプレゼンテーション,次は手書きスライド1枚を書画カメラで提示しながらのプレゼンテーション,そしてパワーポイントスライド1枚と発展させ,毎回の発表者をグループ内で輪番とすることによって,プレゼンテーション手法を体得させていった。
(4)3年目の実践:作品で何を伝えたいのか
プレゼンテーションは上手になったが,目的意識や問題意識を持たずに総合実習に取り組んでいる生徒が多かった。コンピュータの操作技術が向上した生徒も多くなっているが,「テーマ」に対する思い入れがなく,単なる作業として「調べ,加工し,発表する」ことがグループ活動として行われ,作品は完成するものの何か物足りない結果となっていた。これは,テーマに対しての問題意識が高くないことにより生じており,総合実習のアウトプットであるWebページやプレゼンテーションで「何を伝えたいのか」が明確であるかどうかが重要であると気づいた。
■テーマを重視し,目的を持って作業を実施
テーマ決めを重視し,ワークシートを利用して十分にテーマを練った。「作品を調べ,作りたい」という欲求がでても,テーマに対するダメ出しを続けた。テーマ設定に授業時間を費やしていると,調査し作品を作成するための授業時間が取れなくなる。このため,作品作成はテンプレートを利用して作成することとし,体裁よりもその中身を重視させた。
テーマを明確にしてから製作実習に取りかかることで,実習中の意欲の持続につながった。議論が発散するグループや,集中できないグループを少なくするために,ワークシートに対する回答を個人で行い,その後グループで協議し,教員の指導を受けるという手順を繰り返して実施した。繰り返すことで,イメージの明確化と興味・関心の向上が図れたと感じている。
テーマが決まらないと次の段階へは進めないこととした。限られた授業時間のなか,なかなかテーマが決まらないグループもあり,指導している筆者自身も,生徒同様にあせりながらの作業となった。しかし心配に及ばず,テーマ決めに時間をかけたことで,総合実習に対する目的意識が高まり,その後の作業が非常に円滑に,無駄な動作がなく進んで行くという面が見られた。
▲テーマ決めの活動サイクル
▲テーマ検討用のワークシート
(5)4年目の実践:より主体的な活動を行うために
総合実習中,生徒は教員が用意した手順では活動ができるが,主体的に活動することは困難であった。総合実習での作業の流れを,各段階で教員が説明し,それにしたがって作業を行っていく方法では,作品は完成するが,目的意識を持った主体性のある活動とはいえないと考えた。
1,2学期は総合実習のための準備期間と位置づけており,総合実習で必要となる事項を学習していたが,より一層総合実習を念頭に置いて,グループ活動やWebページ作成,プレゼンテーションを授業の中で経験させておき,総合実習の活動では自発的に活動し,力を発揮できるような体制を整えた。
授業中に利用するプリントは,総合実習で利用するものと同一の形式を用意し,実際の作業についても総合実習の流れを徹底し,スパイラル型で繰り返し指導していくことでその定着を目指した。
(6)他に工夫した点
総合実習を成功させるために,情報科以外との協力など,次ページの表のような工夫を行った。評価方法のボーナス点は,生徒の動機付けにつながった。
項目
内容
期間
2学期後半〜3学期全体で実施
(11月から3月)
情報科以外との協力
1学年総合的な学習の時間(キャリアガイダンス)とのコラボレーション→総合実習の活動班分けやテーマの決定などでの学年担任との協力
実習テーマ
来年度,修学旅行で行く沖縄・与論島に関連したテーマについての作品(Webページおよびプレゼンテーション資料)を制作し,発表する。クラス発表会にてクラス代表決定→全体発表会
目標
「目的意識や問題意識を持ち,情報Aで学んだ技術や知識,問題解決力を総括させる」
・計画性を持ってプロジェクトを達成する
・実習を通して情報の活用能力を養う
・修学旅行の事前学習(沖縄・与論島の関心,興味,知識)
評価方法
基準点とボーナス点
基準点は,完成作品,態度,自己評価などを教員が評価し与える。ボーナス点は相互評価した結果を得点化する。生徒の活動に対する動機付けに役立った。
流れ
事前調査,テーマ決め,スケジュール作成,調査,サイトマップ,ページレイアウトの作成,製作,リハーサル,発表,評価
▲総合実習実施上の工夫点
5.まとめ
東大和高校情報科で実施した総合実習について紹介してきたが,本実践の特徴として次の点があげられる。
(1) テーマを決めることを重視
目的意識,問題意識を持って総合実習に取り組むために,「何を伝えたいのか」,「何が知りたいのか」というテーマを明確にすることが大切。伝えたい内容がはっきりしたことによって,情報の取捨選択が可能となり,調査し作品を作るという次の作業に移ることができる。
(2) 自らが発信者となる経験
いわゆる「調べ学習」とは違う。「私達のグループは,○○について調べました」という発表は上手にできるが,「調べて何がしたいのか?」ということまで深く検討した上での情報発信ができていない。このギャップを情報Aの総合実習を通して学んで欲しいと感じている。
(3) グループ活動でのコミュニケーション
自身のアイデアや作業進捗を相手に伝えるときに,そのイメージをビジブル化する。自分の思いを相手がわかる内容に表現するということを,グループでの共同作業を通して鍛えた。
本年度も総合実習を12月から実施する予定で,目下準備中である。4年間の実践で得られたノウハウを基にして,これからも充実した実習が行えるようにしたいと考えている。
総合実習は,その準備の段階では,いろいろと考え,悩みつつ授業を構築していかなくてはならない。しかし,情報の授業を通じて学んできたことの集大成として総括させることができ,授業を行った手ごたえを大きく感じることができる。生徒にとっても大きな満足感や達成感が得られものである。皆さんもぜひ,総合実習を行ってみてはいかがでしょうか。本稿が,総合実習を行う際の参考になれば幸いである。
▲作業進捗報告に利用したワークシート