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1.はじめに |
北海道札幌旭丘高等学校は札幌市立の全日制課程普通科の高校で,来年で創立50周年を迎えます。2003年度から単位制へ移行し,昨年度に単位制の一期生が卒業しました。在校生は967名で,ほとんどの卒業生が4年制大学へ進学しています。
藻岩山(標高531m)の麓に位置していることから自然環境に恵まれ,札幌の中心部を一望にできる旭ヶ丘に立地しています。
▲全校生徒,教職員による人文字
情報は5年前から「情報A」を1年次必修科目,「情報B」,「情報C」を2,3年次選択科目でスタートし,今年度から「情報C」を必修科目,選択科目として「情報B」のみへと変更しました。その他に学校設定教科に関する科目として「プログラミング入門」と「デジタル映像入門」を開講しています。
「総合的な学習の時間」において個人課題研究を課しているため,テーマ設定から情報収集,編集,発表にいたるまで「情報」と連携を図りながら情報活用能力を向上させています。
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2.情報教育環境 |
「環境が人を育てる」との考えのもと,様々な教材やメディアが必要なときに利用できるよう,学習環境の充実に配慮しています。
パソコン教室は主に情報関連科目で使用し,メディアコーナーは主に「総合的な学習の時間」で使用しています。メディアコーナーは図書館内にあるため必要に応じて活字メディアが利用しやすいような設計がされています。
▲書画カメラの画像も中間モニタで表示
パソコン教室には中間モニタを配備し,効果的な教材提示に活用されています。
(1)共通ログオンアカウントの発行
卒業まで共通のログオンアカウントでパソコン教室,メディアコーナー,進路資料室のパソコンが使用でき,各生徒に割り当てられたネットワークドライブが利用できるようになっています。在学中のデータは一元的に管理されています。
(2)校内ポータルサイト
連絡事項や情報モラルに関するコンテンツ,リンク集からなるスタートページをブラウザのホームページとして設定しています。
▲ブラウザのホームページに設定
(3)新聞記事データベース
JIPDEC/DPCデータベースセンター,読売新聞,朝日新聞の記事データベースを自由に利用できるよう学校で年間契約しています。
(4)新聞
昨年度から日本新聞販売店協会のボランティア事業である「すべての教室へ新聞を」を利用させていただいているため,毎日5種類の新聞が複数部配達されます。現在は生徒ホールに置いてあり,生徒が自由に手に取って読むことが出来ます。また,放課後は自由に持ち帰っても良いことにもなっています。
▲身近な所へ新聞を配置
(5)e-Learning
千歳科学技術大学と提携しているためCIST-Solomon(千歳科学技術大学・小松川研究室を中心に開発した,eラーニングシステムの総称)が在学中は,学校はもとより自宅からでも利用できます。
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3.新聞記事の活用 |
まず初めに新聞の見方や読み方についての指導を行います。具体的に新聞の構成要素である見出し,リード,本文,コラム,写真,キャプション等の意味や縦組みレイアウトの基本を知っていることは新聞をクリティカルに読み解くことにつながるからです。
また,情報通信の分野では特に技術やサービスの進化が早いため,自ら問題意識を持って常に新たな情報入手に努める姿勢,習慣が必要です。
新聞は,WWWには速報性で劣るものの,手軽に信頼できる最新情報が入手できる媒体の一つです。パソコン教室の壁には,ICT関連の新聞記事の切抜きを常に掲示し,生徒への注意を促しています。
▲壁面を利用したスクラップ
新聞の特性に一覧性・信頼性・記録性・詳報性・携帯性があるので,授業での活用が容易ですが,記録性を活かそうとするとスクラップ作業に大変手間や時間が必要であるということが問題でした。
また,新聞そのものを教材として授業を行なう場合,保管場所の確保や準備,後始末に手間が掛ることも事実です。
▲テーマ別に整理されたスクラップブック
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4.新聞記事データベース活用法 |
新聞記事データベースは,広告や連載小説などを除く新聞記事の見出しと本文および付加情報をデータベース化したものです。一般的に写真や図表は省かれていますが,最近では多くの新聞社で切り抜きイメージのPDF表示が可能になってきています。
データベースに収録が開始された年月日は新聞社によって違いがありますが,概ね現在の高校生の生年月日以降は収録されています。
使い方は簡単で,検索語(キーワード)を入力し検索すると,まず見出しの一覧(掲載日,掲載紙,掲載面等を含む)が表示され,見出しをクリックするとその記事の全文が表示されます。検索式による検索も可能で,シソーラスが利用できるものもあります。本稿では以下新聞記事DBと記します。
●JIPDEC/DPCデータベースセンター
財団法人日本情報処理開発協会データベース振興センターが運用する教育用データベース利用普及事業です。毎日新聞,日経四紙(日本経済新聞,日経産業新聞,日経流通新聞MJ,日経金融新聞),北海道新聞,河北新報,北國新聞(富山新聞記事を含む),信濃毎日新聞,静岡新聞,中日新聞,神戸新聞,愛媛新聞,西日本新聞,琉球新報,Dialog Web(海外の商用データベース)が利用できます。
▲http://www.dpc.jipdec.or.jp/educ/index.html
●スクールヨミダス
読売新聞の小中高校向けの新聞記事データベース。「ヨミダス文書館(スクール版)」と,紙面イメージが見られる「読売新聞縮刷版CD−ROM」が利用できます。
▲http://www.yomiuri.co.jp/school/
●朝日けんさくくん
朝日新聞の小中高校向け新聞記事データベース。本誌,地方版,AERA,週刊朝日,知恵蔵が利用できます。シンプル検索のみ。
▲http://database.asahi.com/kensaku/
(1)新聞記事DBの特徴
新聞は,複数の人の目を通った後で発刊されていて,信頼性が高く,また,多くの人が読んでいるため社会的な影響が大きいです。新聞記事DBは,新聞のこれらの特徴に加え,以下のような優れた特徴を持っています。
・検索が容易
・場所を取らない
・広告が無い
このため,限られた授業時間内で扱いやすい教材であり,具体的には下記のようなことが容易となります。
・ある事柄がいつごろから世の中の話題になっているかを調べる
・時系列的に記事を追跡
・地域による比較
・新聞社による比較
次に新聞記事DBの具体的な活用事例を紹介します。
(2)新聞に親しませる
普段は新聞を読まないという生徒も多いのですが,学校名(自校や出身校)や氏名(自分,家族,知り合いなど)をキーワードとして検索させることで,新聞を身近に感じさせることができます。
また,一度新聞に掲載されてしまうと,その情報を消すことができないし,新聞記事DB上では忘れ去られること無く,常に検索対象なのだということにも気づかせてドキッとさせることもできます。
(3)情報検索手法を身に付ける
収録されている情報が固定されているため,検索条件を限定することにより,同一の検索結果を得ることができます。一般的な論理演算子がほぼ共通なため,ワイルドカード検索や検索式による情報検索手法の実習に最適です。
シソーラスが提供されているサービス(JIPDEC/DPCデータベースセンター)を利用すると,シソーラスに対する理解を深めることもできます。また,新聞記事の場合は固有名詞が長い場合には省略された表記がされるため,適切な検索語の設定を意識させ,工夫させることができます。
(4)メディアリテラシー
同じ出来事やテーマに対して横断的に検索することができるため,新聞社ごとの社説や記事の取り扱い方の違いの比較や,地域ごとの報道(ブロック紙や地方版)の比較が容易であり,新聞記事を批判的に読み解くことができるようになります。
また,誤報や訂正記事を検索させたりすることにより,新聞という情報メディア自体を批判的に読み解くことの重要性も学ぶことができます。
▲授業で使用したワークシート
(5)課題研究
本校では「総合的な学習の時間」に,個人ごとにテーマを設定しレポートを作成し発表するという活動を行なっていますが,テーマの設定や基礎資料の収集などに新聞記事DBを活用しています。
(6)小論文指導
大学入試に新聞記事(英字新聞を含む)を引用とした出題が増加しており,小論文問題においても顕著です。自分の興味関心に応じた記事を検索して楽しみながら読むことができ,スクラップしておかなくてもテーマ別に集中して読み込むことも容易であるため,大変有用です。
(7)情報モラル
情報モラルの指導は知識を教え込むだけでは不十分で,現実の場面で合理的な判断をして正しい行動ができなければ意味がありません。そのためにはできるだけ自分自身の問題として受け止めてもらう必要があります。
中高生が関与しているとか,身近な地域で起った事件を検索させレポートをまとめさせることにより,抑制効果が期待できます。
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5.おわりに |
新聞記事DBは信頼できる情報が手軽に利用できるため,限られた授業時間内での情報収集手段の一つとして大変優れた情報メディアであり,生きた教材の宝庫でもあります。
新聞そのものも,メディアリテラシーを向上させるための重要な教材の一つです。
2007年9月28日付の各紙朝刊のトップ記事を覚えていますか。この日の朝刊の見出しは,「日本人カメラマン死亡 軍が発砲 死者10人 長井健司さん取材中、流れ弾ミャンマー」(読売新聞),「日本人撃たれ死亡 ミャンマー デモ取材中か 群衆に軍発砲、死者9人」(朝日新聞),「デモに無差別発砲 ミャンマー 日本人記者が死亡 治安部隊「非常手段」と警告」(毎日新聞),「邦人カメラマン死亡 ミャンマー 治安部隊が銃撃 デモ鎮圧で死者9人」(北海道新聞)とあり,ロイターが配信した全く同じ写真を使用しています。但し,トリミングの範囲とキャプションに大きな違いがありました。比較して見た場合違いは明確です。
同じ事件を扱い,同じ写真を使っても伝えることや伝わることが全く違うという典型的な事例でした。
この時の授業は新聞記事DBではなく,新聞という情報メディアでなければ成立しませんでした。教師には適切に媒体を選択することが求められます。
「社会と情報」を考えさせる上で,新聞と新聞記事DBは生きた教材を提供してくれる優れた情報メディアの一つです。
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