ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.32 > p6〜p9

教育実践例
生徒の意欲を引き出し,論理的思考能力を育成する 『情報A』の授業実践
−事前の評価の明示,記述式定期考査問題,自己評価・相互評価を通して−
岩手県立宮古北高等学校 西谷成昭
1.はじめに
 宮古北高等学校は,岩手県三陸沿岸地方に位置し,生徒数209名(男96名:女113名)の小規模普通高校である。(※注1)で2学年以降から進学コースとビジネスコースに分かれるコース選択制を導入している。2学年進学コース27名,ビジネスコース40名,3学年進学コース35名,ビジネスコース42名在籍している。そこで1学年2クラス情報A(3単位)の授業を2名の教員で担当している
 本稿では,「生徒の意欲を引き出す」情報Aの授業での試みを紹介する。

2.年間授業計画の概要
 本校ではビジネスコースを設置している関係から,普通高校ではあるが資格取得にも対応しており,1年生の教科「情報」の中にも検定試験への取り組みが入り,生徒もそれを受け入れている。そこで,次のような年間授業計画を立てている。概略ではあるが以下に示す。
学期 授業内容(座学と実習)
前期中間
知的財産権・ネットワーク利用・個人情報保護・情報セキュリティ・タッチタイピング練習
前期末
問題解決法・情報の整理と分析・ハードウェア利用・表計算ソフト基礎
後期中間
情報の検索と収集・ネットワーク利用・文字入力練習
後期末
プレゼンテーションソフト利用「就きたい職業」・発表会・情報系検定試験
3.学習レディネスの重視による「情報A」に与える学習効果
 本実践のテーマである「生徒の意欲を引き出す」ために,何が求められ,どのようなことを学習者を仕向けるかを考えたとき,「学習レディネス」が重要であり,ガイダンス機能を充実させることが必要であると考えた。学習に取り組むに当たって,レディネスが重要であることは言うまでもないが,私は,「学習準備に際して,評価を明示することによって新たな意欲も創出されるのではないか」と考え,実践した。そして,授業ノートの活用と記述式定期考査問題を通して,生徒の意欲を創出し,論理的思考能力を育成することを目指した。

(1)評価の明示と授業行動
 生徒には,年度当初のガイダンスで評価について通知した。評価の内容は,考査点に出席状況や授業態度といった一般的な平常点を加味した評価の他に,授業ノートの提出(授業ノートの中に毎時間の自己評価欄がある)と自己評価と相互評価の評価点を加味するものである。
 結論から申し上げるが,この評価法の導入により,生徒各自が授業に対して課題意識を持ち,検定試験という小さなハードルをクリアしようと休憩時間の内にコンピュータ室に移動して来るようになった。つまり,日々の小さな評価の積み重ねが生徒を意識づけていくのであろう。

(2)授業ノートと自己評価
 情報Aの授業を効果的なものにするため,「情報A授業ノート」を作成した。これは1時間1枚,生徒各自がコンピュータ室から自主的に受け取ることにしている。授業ノートの記載内容は,授業日,提出日,タイトル,組,番号,氏名,授業内容,感想,自己評価である。ノートの裏面には罫線だけを印刷して,普通のノートとして利用させている。
 授業終了5分前には「授業を受けての感想」を記入させ,本時の評価を生徒に振り返させ,判定させる。自己評価は,5段階評価法を採用している。5段階の評価基準は,5:大変良い 4:良い 3:普通 2:あまり良くできなかった1:できなかった である。期末にはそれまでの評価の平均を求めさせ,期末の授業ノートに記入させる。
 授業ノートの裏面には教科書の内容をまとめさせ,進度に応じて家庭学習にして提出させている。時にはインターネットで調べた内容をまとめる際に,授業ノートを活用させている。
 1学期の自己評価の全体の平均値は3.5035(男子:3.7074,女子:3.3200)であり,常識的に評価しているようだ。注意すべきこととして,両極端な評価には修正が必要である。今回の評価では,自分を控えめに評価する傾向が目についた。その部分は教師の手に委ねられ,的確な修正が図られなければならない。こうして,1時間の授業での達成感を確認しながら評価から意欲を引き出そうと試みている。

(3)書かせる定期考査問題
 定期考査の試験範囲は,当然,既習事項となる。4月のガイダンスで,試験問題については教師の自作による記述式考査問題となることを示している。記述式を採用したのは,生徒がこれまで客観的応答問題を比較的多く経験してきていると判断したからである。
 数字や番号記号を選択して解答用紙に記入する形式でも,当然ながら試験問題の余白や別紙で計算し,良く比較し考えて最もふさわしい解答を選択するが,安易な選択による解答も可能であるため,記述式を採っている。文章にして書き表す場合,安易な選択感覚で解答しにくくなり,どちらかと言えば良く考えなければ記述できなくなる。また,生徒の記述能力を上げるために,普段の授業では授業ノートの裏面にまとめて記述するよう敢えて指導している。
 今年度の前期中間考査および前期末考査問題の記述式の部分を以下に紹介する。

<前期中間考査>
・字数制限記述式(60字,15字以内)2題
・文章穴埋め適語記述式50題
・解答ボックスを設けその範囲内で記述3題
・正誤判断記述式6題
<前期末考査>
・企画書作成(B5版一枚の解答枠)1題
・問題解決法の記述(B5半分の解答枠)1題
・情報関連用語記述問題3題
・表計算記述問題(計算式等)17題
・ハードウエア用語記述問題10題
・カタカナの英語記述問題(B5半分の枠)1題

 前期末考査の問題に「問題文中にあるすべてのカタカナを英単語で書きなさい。」という問題を出した。この理由は,生徒には授業中は一切カタカナで表記させず,「情報処理用語の中で英語による記載があるときは英語で書くこと。」と指導しているからである。英語の苦手な生徒に対しても,初めにComputer英語※注2から入る方が興味深く学習させることができる。
4.IT教育からICT教育へ −生徒の人間関係を授業で支援する−
 生徒の意欲を引き出す授業を実現するために,学期末の評価法として,自己評価と相互評価を掲げた。
 生徒の日常生活に見られる問題の中に秘められるキーワードとして,まず「対人関係」があげられる。生徒は,学校生活の中で「友人」を第一義的に掲げ,これを重要視する。以前であれば「学業への専念」とされていたことが,今では様相が変化している。仮に「友人関係がうまく行けば学校も楽しくなる。」という仮説が正しければ,これを情報の授業に取り入れることは望ましいことではないだろうかと考えた。そこで,教科「情報」の授業を情報技術の内容だけに限定するのではなく,教室の中での「隣人愛」を意識した授業,つまりInformation Communication Technology:ICT教育※注3へ移行していくことが本校の生徒にとっては望ましいと考え,授業に生徒との対話:コミュニケーション技法を取り入れようと考えた。

5.意欲を引き出すための評価
 評価シートの内容は,本来授業に求められるべき事項を列記し,その達成度を生徒に求めるというものである。こうすることで,徐々に生徒の「やる気」が芽生えることを期待している。教師の意図すること,生徒に仕向けたいことを評価表に入れながら考えさせ導く。相互評価では,「あなたの隣に座っている友人もあなたの授業の姿を見ているのですよ。」という問いかけを意識した評価表となっている。
 この評価法により,生徒の意欲が創出されたことを証明するために,1年普通科A組23名,B組29名,合計52名を対象にアンケート調査を実施した。

(1)自己評価の分析
 評価項目には服装を正す,挨拶ができる,自ら目標を立て授業に望む,授業中は積極的・意欲的に取り組むなど,10項目を設定し,5段階評価を行った。結果は全体平均が3.9442(男子:3.7227,女子:4.1066)であった。そして,アンケート調査で今期の成果と目標,来期の目標と心構えの記述を求めた。( )内は,無回答者数を示す。
 なお,特筆すべき回答として「学ぶ気持ちで頑張る。」「有効な時間を過ごし実績づくりに励む。」などがあった。少数ではあるが,生徒の意欲が創出されたと考える。

<今期の成果>52名 回答率100%
・ワープロ技能向上 20名
・エクセル理解深化 10名
・充実した授業ノート 5名

<今期の目標>49名(男3女1)回答率94.2307%
・ワープロ技能向上 19名
・授業に集中する 15名
・成績向上 7名

<来期の目標>51名(男1) 回答率98.0769%
・資格取得 26名
・成績(考査点)向上 12名
・まじめに頑張る 8名

<来期の心構え>50名(男1女1) 回答率96.1538%
・授業に集中する 31名
・家庭学習をする 10名
・検定合格を目指す 7名


(2)相互評価および授業ノート感想欄の分析
 相互評価表に,最初に自分の名前を記入させ,評価表を隣の生徒に渡し,名前を記入させ,服装,授業集中度,ガンバリ度など,9項目について評価させる。その評価を受けて,妥当性を5段階評価にしてつけるという方法である。
 隣の生徒の評価の全体平均は4.1942(男子:3.9636,女子:4.3633)で,その評価を受けての隣の生徒の評価に対する妥当性の全体平均は4.0769(男子:4.0454,女子:4.1000)となった。極論であるが,男子は授業態度の不良を認知し,女子は自らの真面目さに満足している結果が読み取れる。
 この相互評価を受けて,アンケート調査で生徒が自ら改善しようと考えた点,および相互評価という方法に対する生徒の評価を調べた。

<今後の改善点> 回答率100%
・家庭学習の徹底 33名
・意欲的・積極的に取り組む18名
・整容して授業に望む 7名

<相互評価>47名(男1女4) 回答率90.3846%
・他者の思いに気付く 17名
・自己発見や自己理解に結実13名
・良い評価法に満足している11名

評価を行った当日の授業ノートの感想は以下のとおりである。

<授業ノートの感想> 回答率100%
・次期考査を頑張る 18名
・自己振り返りができた 13名
・高い評価だったから頑張る6名

(3)評価点の満足度と次期意欲の計測
 これらの評価データに基づいて最終的な前期中間の評価を下した。その評価に対して生徒はどの程度満足し,妥当な評価と考えているか,そしてその結果,次期の学習への意欲がどの程度引き出されたと考えられるかを分析する。
 前回の考査点満足度は全体平均で2.4090(男子:2.8181,女子:2.0000),評価点満足度は全体平均で3.6980(男子:3.6818,女子:3.7142)であった。


▲前回の満足度

 それに対して,今回の考査点満足度は全体で2.7272(男子:2.9545,女子:2.5000),評価点満足度は全体で3.6373(男子:3.7568,女子:3.5178)と,考査点で0.3182上回った。これは,生徒が前回よりも頑張ったことを示している。評価点は前回よりも0.0607下回った。これは,評価が前回よりも厳しい評価になったことを示している。


▲今回の満足度

 こうした状況に対して次回のガンバリ度と評価への期待度を測った。


▲次回の考査点・評価点

 全体的に見て,ガンバリ度と評価期待度が共に71%台で推移した。このことから,全体の7割の意欲が創出されてきたことが検証されたことになる。

(4)「ガンバリ度」の実態
 つぎの考査に向けて「頑張る」と言うがどの時点で「頑張ろう」と思ったのか。またその起因することは何か質問してみた。

<ガンバリ度は?> 3.5以上
・タイピング等技能練習の時 4.34
・考査問題を解いているとき 4.14
・授業ノートの感想を書いた時 3.71
・前回の結果を見た時 3.62
・隣の友人が頑張ったのを見た 3.67

(5)結論
 毎時間の授業で,その都度授業を振り返らせ,自己反省を促し,次回の目標を考えさせることに留意させた場合には,積極的に休憩時間内に教室にやってきて準備をする自主性が生まれる。教師の見えないところでの行動を評価すると生徒の意欲が向上する。友人やクラスメイトからの評価を受けて,素直に事実を認めた上で努力しようとする傾向が見られた。
 誰でも良い点数を取り良い評価を望む。しかしいったん叶わないと判断したときに,生徒は「めんどくさい」「やる気がしない。」という。そこで,これらの評価シートを教師と生徒が互いに良い方向へ向かうための材料とすることで,自ずと「やってみよう。」という気持ちになる。やはり相互評価が良いと検証された。
6.稿を閉じるにあたって
 今回は情報教育にコミュニケーション技法を組み入れ,ガイダンスから授業,考査から評価,さらに次回に向け努力する姿を垣間見た。これが情報コミュニケーション教育のスパイラルモデルであると言えよう。(擱筆)(紙面の都合上,全調査データの掲載は省略)


注1:宮古北高等学校ホームページ参照http://www2.iwate-ed.jp/myn-h/
注2:日本商業教育学会第9回全国大会発表論文 配付資料 拙著
注3:日本商業教育学会第17回全国大会発表論文 拙著(当時と比較されると興味深い。)
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る