|
|
総合実習実践事例 |
|
|
|
|
高速ネットワークによる「MPEG2遠隔授業システム」の設計と活用
−“遠隔”を意識させないシステムで広域連携を− |
|
|
|
1.広域連携がスタート |
2005年4月,富山県南砺市内の4つの県立高等学校(福野高等学校,井波高等学校,福光高等学校,平高等学校)は,「富山県立南砺総合高等学校」として広域連携をスタートしました。そこで,県内に整備された高速ネットワーク「とやまマルチネット」を活用し,4校連携の要として「遠隔授業システム」を導入しました。
高校再編の新たなモデルケースとして,システムのオリジナリティと合わせてご紹介致します。 |
|
|
2.システム設計のコンセプト |
(1)デジタルではなくアナログで
2004年春,国内でも類を見ない,高速ネットワークによる遠隔授業を実現するために様々な最新技術をテストしました。しかし,どれもプレゼンテーションソフトや電子情報ボードを中核としたもので,通常行われている,教科書とチョークによるアナログな板書授業とはほど遠いものでした。先生方に遠隔授業のたびにプレゼンテーションコンテンツの作成を強いるのでは,「遠隔授業」を敬遠されることになりかねないと考えました。
日頃の授業に限りなく近く,誰でも簡単に利用できるシステムでありたい。そんな中で生まれたのが,「黒板を送る」という着想でした。
(2)“普段着の授業”
黒板を2台のカメラで撮り,2枚のスクリーンで黒板のように表示する。先生側は,遠隔授業用の特別な準備も必要なく,授業中もカメラの画角や機器の操作に気をとられずに生徒とのやり取りに没頭できます。また受信校の生徒も,100インチのスクリーン2枚によるクリアな映像とリアルタイムの音声によって,教室の雰囲気を丸ごと共有できます。
そこでは,黒板というアナログメディアで“普段着の授業”が展開されます。しかし,実はその陰に最先端のデジタル機器による高速かつ高品質の活躍があることは知るよしもない。これこそ理想型なのです。 |
|
|
|
3.MPEG2方式による高画質伝送 |
私は,前任社である(株)富山県総合情報センターで,最新のマルチメディア技術を使った企業支援事業に携わっていました。そこでは,動画編集,DVD制作等で利用する画像圧縮方式「MPEG2」のクオリティの高さを目の当たりにしてきました。
▲エンコーダー・デコーダー
一般的な遠隔授業システムやテレビ会議システムで利用されているMPEG1方式では,映像の画質(画格,鮮明度,フレーム数など),音声の遅延などの点で,黒板と授業の様子を撮影し,伝送しようとする今回のシステムには利用できません。そこで,コストはかかりますが,上述のMPEG2方式を採用することに決断しました。
3CCDカメラで撮影された,なめらかできめ細かい黒板の映像。生徒のつぶやきも逃さないコンデンサマイクのクリアな音声。それらをスムーズにストレスなく圧縮・伝送する,MPEG2高速エンコーダー・デコーダー。そして,明るい教室でも見やすく表示できるDLP方式プロジェクター。それら最先端機器を組み合わせることによって,「MPEG2方式による遠隔授業システム」は実現しました。 |
|
|
4.システムの概要 |
(1)黒板を送る
教室後方に2台の3CCD 小型カラーカメラを設置し,黒板の半面ずつと,講義全体の様子を撮影します。
▲教室後方の黒板撮影用カメラ
撮影された映像は,受信校の教室の前面の100型スクリーン2枚分に,黒板表示ビデオプロジェクター2台で大きく映します。
▲DLP方式ビデオプロジェクター
これにより,受信教室では,あたかも目前に先生が講義しているかのように感じられ,遠隔授業で最も必要とされる臨場感を高めることができました。また,黒板に書かれた文字もスクリーンを通じて読み取ることができ,授業を行う先生は,特別な電子教材を準備せず,通常通りの板書授業をするだけで,「遠隔授業」になります。
▲前方の2枚のスクリーン |
|
|
5.一体感を演出する工夫 |
(1)「共に学ぶ姿」を送る
教室前方から生徒を撮影するのがズームやパン操作も可能なドーム型カメラ。この高感度カメラで撮影された映像は,互いの教室前面のプラズマディスプレーに映され,生徒は,相手校の生徒と共に受講している一体感を感じることができます。
▲前方上部のドーム型カメラ (2)「ざわめき」を送る
教室前方には環境音専用の集音マイクをとりつけ,授業中にわき上がる笑い声や拍手の音を共有することで,ひとつの教室で授業を受けているような一体感を演出しました。
▲教室前方上部の集音マイク (3)「教師の視線」を送る
また,教室後方には接続先教室の様子を映し出す先生専用のプラズマディスプレーを設置。授業を行う先生は,自教室の生徒はもちろん,受信教室の生徒の顔も一緒に見ながら,自然な授業が行えるよう工夫しています。これにより,教師の目線が自然と上がり,カメラを通して送られます。
▲後方のプラズマディスプレー |
|
|
|
6.授業形態に合わせたフレキシブルな対応 |
幸いにも2枚のスクリーンに映し出すこのシステムでは,スクリーンの使い方により様々なバリエーションが生まれました。ただ,むやみに選択肢を増やせばシステムが使いにくいものになります。そこで,用途を細かく分析し分類することで,4つの型に集約することに成功しました。授業者は,メインスイッチを入れ,クリックひとつで,授業形態を選ぶことができます。
▲システム設定画面 (1)講義型授業
教科書とチョークで行う板書授業をそのまま送る型です。(両スクリーン)
▲化学の講義
▲情報の講義 (2)発表型授業
電子教材やプレゼンテーションコンテンツを使った授業では,発表者の映像(右スクリーン)とPCの画像(左スクリーン)を伝送します。
▲セキュリティ研修会
また,4校合同で研修会や講演会を行う際にも利用できます。 (3)討議型授業
複数の教室が四分割で表示され,互いに顔を見合わせながら話し合うことができる型です。
▲生徒会執行部会議
▲前方のプラズマディスプレー
他校の生徒と意見を交わすディベート授業や,生徒会執行部会議などに利用できます。
▲教務関連会議
また,教員間の様々な打ち合わせや会議(教科部会,分掌部会など)でも活躍する,まさに連携のための利用方法です。
▲講演会の収録・再生 (4)収録型授業
さらに二次使用として,単独授業や研修会・講演会の収録などもできます。 |
|
|
|
7.遠隔授業システムの活用 |
(1) 試験運用と研究
2005年夏,試験運用の始まった現在は,あらゆる教科で実験的に授業を行い,システムの恒常的な使用に適した教科・授業形態を研究しています。また,学期・時間割(2期制,45分7限授業)や,合同行事(球技大会,文化発表会,芸術鑑賞会など)も含めた各種制度の4校統一をおこなうなど,多方面から来年度からの本格運用に備えています。現在,学校間交流が進むにつれ,打ち合わせや会議が頻繁に行われるようになり,システムが大きな役割を果たしてきています。
(2)広域連携の一翼
距離や気候といった物理的な問題をクリアできる「遠隔授業システム」は,生徒に様々な選択の機会と,切磋琢磨し合える交流の機会とを与えてくれています。「遠隔授業システム」と実交流を効果的に組み合わせながら,授業はもちろん,生徒会活動などの特別活動や部活動にも,システムのメリットを最大限に活用していきたいと考えています。今後は,県内の大学とネットワークで結び,講義を聴講できるなど,新たな可能性にも挑戦していきたいと思います。いずれにしても,通常の活動と全く違和感のない,日常のこととして活用領域を広げていくことが重要であると思います。
そして,「遠隔授業システム」を,南砺総合高等学校の大きな特長として,また,新たな教育のモデルケースとして,地域教育の充実を目指していきたいと思っています。 |
|
|
|
|
|
|