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ICT・EducationNo.26 > p16〜p19

教育実践例
デザインアートコースにおける「情報C」の取組み
北海道札幌平岸高等学校 吉岡 隆
takashi.yoshioka@sapporo-c.ed.jp
1.専門コースの開設準備
 札幌市立高等学校教育改革推進計画により,昨年度から札幌市立高校に単位制,理数英を中心とする専門学科の設置が開始され,翌年度には新たに普通科専門コースが設置されることとなった。

 本校は,平成17年度より全日制普通科にデザインアートコースを設置することが昨年度市議会で決まり,美術から情報科の教員として転勤した4月よりその準備に関わってきた。

 普通科専門コースは,専門学科と比べ,専門科目が25単位未満で,16全日制普通科をベースに専門教育を行うとのことであるが,昨年度視察した専門学科である東京都立芸術高校,埼玉県立芸術総合高校,専門コースの神奈川県立弥栄東高校を比べて,単位数と施設・設備の規模が若干違いはあるものの開設の目的等は大きな違いはない。

 本校にデザインアートコースを設置する背景には,平成18年度より開学する札幌市立大学に移行する札幌市立高等専門学校が平成17年度より募集停止になったことが大きく,札幌市立高専がインダストリアルデザイン単科であり中学生のニーズが高かったことから,美術コースではなくデザイン専門コースの設置が決まった。

 しかし,もともと全日制普通科と定時制の併置校である本校に実習に必要な教室を新たに置くスペースがなく,開設1年前にもかかわらず,専門科目のカリキュラム,施設・設備の準備はなかなか思うように進まない状況であった。

 教育目標や教育課程などの基本的なコンセプトを掲載したパンフレットを持参し,市立中学校を訪問してコースの開設の案内を行ったが,市立高校合同説明会や本校での学校説明会の時点でも,入学試験の内容について,教育委員会の正式な発表前という事情で中学生や保護者に対して十分な説明やアピールができないままであった。

  まだ開学していないため,市立大学とは連携についての話し合いはできていないが,大学設置準備委員会は公開で開催されており,Webページから基本構想やカリキュラムなどが入手できるので,デザイン学部に開設される空間デザイン,製品デザイン,メディアデザイン,コンテンツデザインの4つのコースに対応できるカリキュラム案を作成した。また札幌市立高等専門学校の教員スタッフにゲストティチャーとして何回か本校で授業を行ってもらい,本校だけではできない部分のデザイン専門教育を行うよう準備を進めてきた。


デザイン教室(iMacG5 23台)
▲デザイン教室(iMacG5 23台)
2.Mac導入までの経緯
 コース開設に向けて施設・設備面で,Macintoshとポストスクリプト対応カラーレーザープリンター,B0サイズ出力可能な大判インクジェットプリンターを整備したいと考え,仕様を相談する為,デザイン関係の企業と取引のある業者との打ち合わせを行った。

 おりしも東京大学に1000台のMacが導入され話題となっていたが,WindowsPC教室とは勝手が違い,身近な学校で実際の運用方法のノウハウを聞けない点が何と言っても不安であった。保守管理面で自分のスキルで果たして通用するものか,かなり悩んだ。

 結果として,昨年9月に新しいiMacが発売となったので,この機種をベースに仕様を考え,美術と情報Cを20名ずつで授業展開させることとし,生徒用iMac20台を導入することとした。

 Macを導入した理由としては,やはりMacがデザイン業界でのデフェクテドスタンダードである点が大きい。卒業生からデザイン関係の学校に進学した際や,就職した場合に環境がMacなので,どうしたらよいかという相談を受けることがあるが,以前と比べると価格も下がっているので,購入を勧めている。Adobe Creative Suiteなども含めると高額ではあるが,アカデミック価格が利用できる内に勉強しておくことが初めの一歩となると考えている。

 また,札幌市立大学デザイン学部に開設が予定されている4つのコースの内容からDTPなど紙中心のメディアの他に,映像や音楽なども含めてマルチメディアのデザインをする人材の育成が図られているので,高校段階からこれらの分野に興味・関心を持つ生徒を育てるツールとして,GarageBandやiMovieが標準でバンドルされていることもiMac選定の理由である。


iMacG5での実習の様子
▲iMacG5での実習の様子


○札幌市立大学の4コース
(1)空間デザインコース
 住環境等の小規模空間から都市の大規模空間を対象に,空間デザインに関する知識・技術を備え,人間や環境に配慮した空間づくりができる人材を育成する。

(2)製品デザインコース

 人間にとって使いやすさや心地よさとは何であるのかを総合的に理解することで人間中心の視点に立ったデザインができる人材を育成するとともに,工学的な素養を身に付けることで,機器の制御や動作状況を理解したデザインのできる人材を育成する。

(3)コンテンツデザインコース

 コンピュータグラフィクス,アニメーション,ゲーム,ウェブ,モバイル・コンテンツなどを中心に,視覚伝達表現技術やデジタル技術を駆使し,多彩なコンテンツ制作のできる人材を育成する。

(4)メディアデザインコース
 メディアの多様化に対応したコンテンツを実際に企画開発するプロデュース型人材に焦点を置き,特にデザイン分野においてニーズの高い,企画力や管理運営能力を持った人材を育成する。(※第7回設置準備委員会資料より抜粋)
3.onedotzero_nippon 2004からideascity.jpへ
Shane Walter
▲Shane Walter


 UK発のデジタル映像フェスティバルonedotzeroが最初に日本で開催されたのが札幌であった。昨年は,10月8日〜10日に開催され,総合ディレクターのShane Walter氏をはじめ,AirSide,iPodのCMを手掛けたLOGAN,NHKデジタルスタジアムの中谷日出氏などの多彩なゲストが,会場の若いクリエイターたちと作品や制作について,質疑応答に熱心に応じていた。驚いたことに同時通訳はいるが,クリエイターたちはすべて英語で質問しており,通訳は会話の内容がわからない人たちのために伝えていた。

LOGAN
▲LOGAN
iPod CM U2バージョン
▲iPod CM U2バージョン


 中谷日出氏がプレゼンテーションの中で述べていたが,NHKのデジスタのコンセプトは,10年程前から始まったマッキントッシュによるデジタル革命で作品を作り始めた新しい才能を持った人たちに発表の場を与えることであったとのことだが,これらのデジタルアート作品とは,次のような分類を行っている。

・エンターテイメント・ムービー
・アートアニメーション
・コマ撮りアニメーション
・特撮
・ショートムービー
・インタラクティブ
・プログラム
・デザイン
・キャラクター・アニメーション
・ガジェット(デジタルおもちゃ)
・実験映像
・Web
・インスタレーション

 もちろん,このカテゴリーに当てはまらない作品もたくさんあるのだが,ここ数年デジスタは,面白い作品が紹介されるので視聴していたものの,札幌にこれだけのクリエイターがいることも知らなかった上,札幌市がデジタル創造プラザ(http://www.icc-jp.com/,インタークロス・クリエイティブ・センター)という若手クリエイターの為の拠点を作り,UKのデザイナー集団,tomatoのワークショップやonedotzeroを招聘していたことは,驚きであった。


Steve Bakerの講演
▲Steve Bakerの講演


 Sapporo-Ideas City-creativeconversations February 2005が,2005年2月18,19日に開催された。

  「札幌市が“Ideas City”として世界的に認知されることを目標に,英国を代表するクリエイティブグループtomatoのスティーブ・ベイカー氏をアドバイザーとして招き,英国クリエイティブ関連雑誌へのシリーズ広告の掲載や広報素材の作成・配布を行っています。

 そして,今回,英国から世界的な広告やデザイン,出版,音楽,映像,ゲームなどを手がけるクリエイティブ企業数社を札幌に招へいし,クリエイティブビジネスのプレゼンテーションやミーティングを行い,市内企業とのビジネスマッチングを図るなどのイベントを開催します。」(開催要項より抜粋)


パネルディスカッション
▲パネルディスカッション

 AirSide,D-Fuse,lost in space,onedotzero,unit9など世界的に活躍するクリエイターたちのプレゼンテーションが札幌市の主催で行われたことも大変な収穫だったが,スティーブ・ベイカー氏の講演ではtomatoのワークショップを発展させ,札幌を拠点としてESINプロジェクトを立ち上げ,2005年の夏には2週間のワークショップ,セミナー,カンファレンスが開かれることが紹介された。(http://www.projectesin.com/

 クリエイターたちのパネルディスカッションの中で,話題になっていたことだが,「なぜ自分たちが招かれ,なぜ札幌なのかという理由は?」「札幌は,住む場所としての環境は良いが,ビジネスや教育のインフラも乏しい。」という疑問の声があった。

 デザインアートコースの実習で,5月にアニメーション制作会社のディレクター日野弘章氏をゲストティチャーとして招き,アニメーションの授業を行う。昨年,日野氏から,アニメーション業界では他の映像関係の分野に比べ,給与が低いため東京ではアニメーターの人材が不足しているという話をうかがった。札幌のような地方でも有能なクリエイターがいれば仕事はあるという話を思い出し,東京のデザイン系の学校へ進学しなくとも札幌で若いクリエイターを育てる環境を創りたいと考えている。
4.情報Cの展開とまとめ
 まだデザインアートコースがスタートして一月であるが,目下の悩みは,専門科目の授業が少ない点である。これは,普通教科の美術Ⅰを加えても,1年次に5単位しか専門科目がないので仕方がないのだが,実習を楽しみにして入学してきた生徒のモチベーションが高いだけに少ない時数でいかに密度の高いことができるか工夫が必要である。

 普通クラスは,情報Bが必修であるが,コースは情報Cを必修として,マルチメディア表現に重点をおき,実際のデザイン制作現場と同じような環境で実習を中心に授業を行いたいと考えている。


デザイン教室レイアウト
▲デザイン教室レイアウト

 iMacG5を設置したデザイン教室も教室の半分は,スタックテーブルを配置して,手仕事のデザインワークの実習を行うスペースにした。コンピュータ教室であれば,40台のコンピュータと周辺機器だけのレイアウトになるのであろうが,実習教室のプランを考えた際に,デザインオフィスのような教室を作りたいと考え,このようなレイアウトを考えた。

 本校のデザインアートコースは,デザインの専門学科ではない為,すべての分野を網羅するカリキュラムをつくることは難しいが,市立高専,市立大学をはじめ,道内の大学,短大,専門学校や札幌芸術の森などの美術館,イサム・ノグチ設計のモエレ沼公園,デザインおよびIT関係の企業など幅広く連携を模索し,生徒が校外学習やインターンシップなどあらゆる機会にデザインの専門教育を受けられる環境を作り,個性を伸ばし,豊かな人間性をはぐくむ教育を実践していきたいと思う。
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