ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.24 > p26〜p29

海外の教育情報の現場から
アメリカの高校を見てきました
─海外の先進的なIT活用事例視察─
横浜国際女学院翠陵中学・高等学校 相澤 学
maizawa@suiryo.soei.ac.jp
1.はじめに
 昨年(2003年)の春休みの期間を利用して,アメリカの高校を見てきました。次年度から高校で新教科「情報」が始まろうとしているときで,海外の学校ではどのようにITが活用されているのだろうか,また施設はどのようになっているのだろうかといったことを知りたいと思い計画を立てました。今回見学することのできた学校は,アメリカの4校で,1校はワシントン州のシアトル近郊の学校で,ここは16年間本校の海外教育研修としてホームステイをさせていただいていた地域でした。あとの3校はメリーランド州ボルチモア近郊にある本校の姉妹校とその近くの学校でIT活用がさかんな学校ということで2校を紹介していただきました。
2.多種多様のIT活用
 最初に見学した学校は,シアトル近郊にあるKentridge High Schoolで,この学校は男女共学の公立高校で,生徒数が約2000名でPC数は約260台でした。ここでは,多種多様なIT活用がされていました。その活用の方法として大きく2つに分けられます。1つは「コンピュータ・サイエンス」としての授業,もう1つは「各教科でのIT活用」でした。

 コンピュータ・サイエンスのクラスは,情報処理の技術を学習するためのクラスで,今回は次に紹介する2つのクラスを見学しました。上級になるとC++やJAVAといったプログラミングを学習するということでした。各教科のIT活用では,(3)〜(6)のように必要に応じて様々な活用方法を見ることができました。

 半日の間にこれだけのITを利用した授業が並行して行われていたことと,ITをそれぞれの分野で活用している教員の多さに驚かされました。

(1)HTMLクラス

 1クラス20名で,先生は1人でした。このクラスは年間を通してHTMLを学習するクラスで,授業は週に1時間です。

HTMLクラスの授業
▲HTMLクラスの授業

(2)アプリケーションクラス

 このクラスは25名でした。1教室には30台のPCがあり,HTMLクラスのとなりの教室で行われていました。この日の授業ではエクセルの演習が行われていました。このクラスでは,キーボーディング(タイピングとは言わないようです)から始まり,ワード,エクセルを行うということでした。このクラスの上級では,アクセスを学習していくカリキュラムになっています。マイクロソフト社のアプリケーションソフトを使用していました。

(3)PDAによるデータ処理

 化学の授業で,PDAを利用したデータ処理が行われていました。実験でのデータをPDAにインストールされているエクセルに入力していました。PDAは充電可能なラックに40台収められていて,1人1台使用可能でした。また,PDA内のデータを無線で教室内にあるデスクトップのPCにデータ送信してさらにデータをまとめていました。

PDAに入力
▲PDAに入力

(4)グラフィックアート

 グラフィックアートという授業があり,そこでは,30台のMacPCを使用していました。内容は画像処理,アニメーションやビデオ編集などで,20分程度の映画を作成していました。

(5)図書館内のPCで情報検索

 政治の授業で,図書館内にあるインターネットに接続されたPCで調べ学習をしていました。図書館内だけで,64台のPCがありました。

(6)ワイヤレスPC

 その他に充電式のラックに収められている無線LAN対応のPCが60台あり,各教室にはアクセスポイントが設定されているため,どこでも利用可能な状況にありました。
3.ラップトップ・スクール
 次に場所を東海岸のほうへ移動しメリーランド州のボルチモア近郊にあるRoland Park Country Schoolという学校を見学しました。ここは通称“Laptop School”と呼ばれていました。その名のとおり,生徒と先生の全員が自分専用のラップトップPC(ノートPC)を持っていて,それを活用した授業が行われていました。この学校は生徒数約760名,1クラスは20名弱の私立の女子校で,小中高と続いて通える学校でした。

(1)設備

 すべての教室にプロジェクタとアクセスポイントがあり,生徒は科目ごとに自分のPCを持って教室を移動し,無線LANを通じてネットワークに接続できるようになっていました。

(2)授業形態

 「コンピュータは教育を助けるためのもの」という位置づけで,特に「情報教育」というものを専門には行っていませんでした。日本でいう高校2年くらいになると「コンピュータ・サイエンス」という授業が選択でき,C++やJAVAなどを学習できるということでした。それ以外は,各教科の中で,リテラシー教育的なものを行っているようでした。

 そして,いわゆる冊子としての教科書はなく,教材はすべてCD-Rで配布されていました。また,プリントなども使用せずペーパーレスが徹底されていました。各先生が自分のWebサイトを持っていて,授業の内容や課題をそこから発信するようにもなっていました。

ラップトップ・スクールの授業
▲ラップトップ・スクールの授業

(3)授業見学

 授業は物理の授業を見学させていただきました。生徒はあらかじめ自分のPCを立ち上げて,先生が来るのを待ち,先生も自分のPCを持ってきてプロジェクタに接続し,電源を入れて授業が始まります。先生がPCに入力した文字や図形はプロジェクタでスクリーンに投影され,生徒は自分のPCをノートのように使い,記録していきました。授業の内容は,特にITを意識することなく,いわゆる「物理」の授業が展開されていきました。

(4)スタッフ

 これだけの設備と利用をサポートするために,ほとんど授業を持たないスタッフが6名いました。このスタッフの担当する仕事は,ネットワーク管理や,PCが故障したときの対応,生徒からの質問の対応,先生へのアドバイス,ソフトのアップグレード(毎年),コンピュータが苦手な生徒に対する補習,Webサイトの管理などでした。今後はタブレットPCの導入を考えているということでした。
4.先進的なコンピュータ利用
 次は同じくボルチモア近郊にあるMcDonogh Schoolという学校を訪ねました。ここは広大な敷地を持ち,日本の大学のような雰囲気のある学校でした。私立の男女共学校で,生徒数は1200名,PC数は約300台ということでした。ここでは,特に印象に残ったことについて紹介します。

McDonogh Schoolの校舎
▲McDonogh Schoolの校舎

(1)コーディネーター

 iMovieを使ったプロジェクトということを行っていました。このプロジェクトでは,生徒が「アメリカの戦後」や「アフリカの民話」といったようにテーマを決め,テーマに関するイメージやナレーション,サウンドなどを使ってムービーをつくるというものでした。これは,歴史の授業の中で行われているのですが,興味深いのは「コーディネーター」というITの相談役の先生がいて,科目の先生と相談・協力して授業を進めていくということでした。そして,作品をつくるまでの資料に対し「歴史」の評価がされ,作品のテクニックで「コンピュータの技術」の評価がされるということでした。この例のように,この学校では,各教科担当とコーディネーターが各教科の中でITを活用していくようになっていて,いわゆる「情報」や「コンピュータ・サイエンス」のような授業は用意されていませんでした。

(2)Eメールの活用

 掲示板のようなシステムが学校で用意されていて,クラブやサークルのようなグループのフォルダがあり,メールで会話ができるようになっていました。ただし,一般的な掲示板のように匿名にはなってなく,誰が出したメールかわかるようになっていて,さらに誰が自分のメールを見たかもわかるようになっているということでした。先生が各グループにトピックを投げかけてそれに対して討論させたりする場合もあるということでした。

(3)今後に向けて

 この学校では,今後,各家庭からインターネットを経由して学校内のファイル操作を可能にするということです。つまり,ラップトップPCを持ち歩かなくてもどこでも学校にいるのと同じ状態でファイル操作ができるようにするということでした。
5.用途にあわせた設備
 最後に本校と姉妹校関係にあるセントポール女学院について紹介します。ここは,男女別学の私立学校です。ここでは,それぞれの設備を中心に紹介します。

(1)スマートデスク

 男子部のほうでは,「情報」に関する授業はなく,各教科の中でコンピュータが利用されていました。そこで各教室の机の中にPCが組み込まれていて,必要に応じて活用できる環境にありました。

スマートデスク
▲スマートデスク

(2)必要に応じて利用できる環境

 女子部のほうは20台のPCがあるコンピュータ室が2つと図書館の机の中に上記のスマートデスクのような設備,さらにラップトップPCが収納されたカートがあり,各教室にアクセスポイントがあり移動して使える環境にありました。

(3)スタッフ

 女子部のほうでは,ワード,エクセル,パワーポイントを使うリテラシー教育がありました。授業を担当する先生が2名いて,さらにネットワーク管理などを担当するスタッフが3名いました。授業を担当する先生も半分は生徒に教えるための時間,半分は他の先生に教えるための時間というように割り当てられ,定期的に先生のための講習を行っているとのことでした。
6.おわりに
 今回,紹介したのは約1年半前に見学してきた状況です。そのときに,今後以下のようなことが必要になってくるのではないかと思ったことを以下にまとめました。

(1)教員・スタッフの充実

 教科「情報」の充実とともに,各教科と連携して発展させていくことが必要で,そのためには各教科へのサポート体制や設備を管理するスタッフを充実させることが必要であると考えられます。

(2)設備の充実

 各々の学校の特色にあった設備が必要ではないでしょうか。また,いつでもどこでも同じような環境で使える工夫や,PCだけではない情報端末も今後工夫していく必要があると考えられます。

 他の国の状況を知ることはとてもよい刺激になりました。機会があれば,アメリカ以外の国の状況も見てみたいと思っています。
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