ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.24 > p10〜p13

教育実践例
「情報・表現エリア」における取り組み
−普通科総合選択制としての特色づくり−
大阪府立福井高等学校 石崎修一
ishizaki-s@fukui.osaka-c.ed.jp
1.大阪府の高校改革と福井高校について
 生徒一人ひとりの興味・関心,能力・適性,進路希望等に対応し,多様な学習と幅広い進路選択ができるよう,府立高等学校において特色づくりが推進されてきた。その中で,普通科の特色づくりの推進として,従来の普通科目を主体としながら,情報,福祉,国際理解,芸術等の専門科目を幅広く選択できる「総合選択制」を導入した学校を整備することが進められてきている。<br>
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  この流れに沿って,生徒が個性と可能性を最大限に伸ばせるようになることを目的に,本校は府下で最初の普通科総合選択制の学校として改編された。平成13年4月のことである。今年の3月に改編後,初めての卒業生を出した。<br>
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  総合選択制では,「エリア」を設置することになった。生徒は入学後に自分の興味・関心にあった「エリア」を選択し,ある程度のまとまりを持った内容を学習するのである。エリアの数は,「国際コミュニケーション」「福祉ヒューマニティ」「スポーツ健康」「環境自然」「理数」と我が「情報・表現」の全部で6つである。また,多様な科目を用意するために普通科目以外に専門科目や学校設定科目も開設している。科目数だけあげてみると,現在,国語11,地理歴史11,公民8,数学9,理科14,保健体育2,芸術15,外国語14,家庭4,工業1,商業2,体育7,音楽2,美術2,英語2,国際教養7,福祉6,情報3,芸能文化3,環境5で合計すると128科目(エリアで学習する科目を含む)である。<br>
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  エリアとして学ぶ科目は,2年次・3年次おのおの2科目ずつである。各科目2単位で計8単位となる。これらの科目以外にもエリアに関連する科目が用意されており,生徒のニーズに応じてそれらを選択することによりエリアで学ぶ内容をより広めることができるようになっている。<br>
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  本校の規模は,各学年7クラスである。多様な科目に対応するため,地域との連携や社会人講師の活用,また大学との連携を大いに進めている。
2.情報・表現エリア
 このエリアには,情報に関心のあるものと音楽や美術など芸術に関心のあるものを集めている。芸術はもちろん自己の表現そのものであり,「情報」の学習内容に,自分の伝えたいことを情報機器の活用を通して表現することが含まれるので,情報系と芸術系の2者をあわせて情報・表現エリアとしている。改編第1期は情報系の生徒が約60名,芸術系の生徒が約30名所属した。

 改編第1期では,情報系と芸術系ともにパソコンを使ってのデザインや作曲を学ぶ「情報と表現」という科目を2年次で共通履修するという試みを行った。この科目の他,情報系の生徒は情報関連のエリア科目を,芸術系の生徒は芸術関連のエリア科目を残り3科目履修した。現在は,芸術系の生徒が履修する芸術関連科目の単位数を増やす目的で「情報と表現」は情報系だけが受講している。

 情報系の生徒には,エリア科目として2年次に「Webページ作成基礎」,それから3年次に「情報実習」と「課題研究」が用意されている。

 「Webページ作成基礎」では,タグを入力してページを制作しつつHTMLを理解していくことや画像の処理,GIFアニメーションなどについて学習する。「情報実習」では,さらに段階を進めた学習を行っている。
3.「課題研究」の取り組み
 情報エリアの科目を担当している教員は4名。(うち1名は社会人講師)それぞれがエリア科目を1つずつ受け持っている。私が担当しているのが「課題研究」である。

(1)テーマの設定

 年間のテーマとして,人前で発表することと,評価を教員から受けるだけでなく生徒相互からあるいは学校外の方からの評価も受けることを掲げることにした。

 「きちんとした言葉で,相手に分かるように話すことができない。」「人前に出るのにオドオドしてしまう。」入学試験や入社試験を受ける生徒に面接指導をする際によく思うことである。授業を通して少しでも改善しておくことができないだろうかと考えたわけである。それともう1つは,相互の評価や学校外の評価を受けることが,授業への取り組みの動機付けになるのではないかと考えた。

 このテーマに取り組む材料として何を用意するか。以下の課題を取り上げた。( )内は使用したソフトウェアである。

・自己紹介のページ(ワープロ+ペイント)
・自校紹介−自分たちの手による本校のWebページ作成(HTML)
・デザインを考える(表計算)
・ポスター制作(ワープロ+ペイント)
・学校説明会用プレゼン制作(プレゼンテーション)
・想い出アルバム(プレゼンテーション)

 この中でグループで取り組んだ「自校紹介」と個人の取り組みとした「学校説明会用プレゼン制作」,および最も集中した「ポスター制作」について報告したい。

(2)自校紹介

 本校にももちろんWebページがある。本校では,教員の立場からだけで作成するよりも,見ていただく立場の方にも編集にかかわってもらった方がより本校の教育活動を伝えるのに効果があると考えて,社会人の方に編集の大部分をお願いしている。今回はこれに加えて,中学生に年代が一番近い在校生の視点で,中学生が知りたいことを盛り込んだWebページを制作しようというねらいである。制作にあたっては,その目的と対象者が誰であるのかということを明確にしておくことが最も大切であると考える。これによって,何を取材しどう表現するかが決まってくる。

 グループで取り組むことにした。利点として,以下のことがあげられよう。

・いろいろなアイデアが出やすい
・取材,画像処理,文章作成,編集,全体の取りまとめなど,各自の得意分野を活かせる

 実習は以下のように進めていった。

グループ分け

企画書案作成

企画書案発表

企画書案再検討

企画書完成

取材

編集

リハーサル

完成

相互評価と中学生による評価


 グループ分けは,1グループあたり4〜5人。役割としてこちらの指示は,班長を置いただけであった。これは,班長をまず置かないとグループがなかなか動き出さないからである。グループが動き出したなら,あとの役割はグループそれぞれの事情,例えば各班員の情報機器取り扱いの得手不得手であるとか,Webページで取り扱う内容,によって話し合えるだろうと考えたからである。そして,この予想通り,グループごとに班員それぞれが何らかの役割を担って制作は進んだ。本校では,総合的な学習の時間を始めとして,いくつかの授業においてグループで1つの課題に取り組むということを1年次から取り入れている。この効果が出ていると考えている。

 グループが決定したら,そのグループで企画の素案を考える。そして,グループごとにどんなことをやろうとしているのかをそれぞれ発表し合う時間をとった。これによって,自分たちのグループで考えていたこと以外のアイデアを得ることができた。また,他のグループがこちらと同じようなことを考えているのなら,こちらはちょっとひねったものにしようと考えて,企画が膨らんでいく効果が見られた。そして,企画書を再検討して,案を完成させた。

Web作成のワークシート+拡大表示
▲Web作成のワークシート

 ここまでで,2時間である。

 続いて,取材に移る。デジカメを片手に教室を飛び出していくのであるが,授業中であるのでやはり気を遣う。事前に職員会議等で連絡しておくことも必要かと思う。

 生徒が教室に戻ってくると,一体何を撮影してきたのかと興味がわく。校舎,施設,先生,食堂のメニュー等々。食堂の方にインタビューを試みたところもある。この取材に,1〜2時間かかった。

 このあと,編集作業に6時間かかった。当初は4時間もあれば充分Webページができあがるであろうと予想していたのだが,制作が進むにつれて写真の撮り直しや追加の企画が生まれたりして4時間では足りなくなった。校則の解説や食堂メニューの評価,名物先生訪問等,学校のページには欠けている内容も次々と盛り込まれてきた。急遽,制作時間を2時間延長した。しかし,これでもまだ時間が足りないようであった。しかし,中学生に発表する日時が決まっていたので,これ以上の延長は認められなかった。

生徒の制作したWebページ
▲生徒の制作したWebページ

 ひと通りできあがったところできちんとリンク等がつながっているかどうかをチェックして,相互評価を行った。チェックポイントは次の項目である。これらの項目は事前にワークシートを通じて伝えてある。

<チェック項目>

1.テーマや目的の到達度
 −達成できているかどうか
2.制作意図の伝達度
 −効果的な表現になっているか
3.文字や画像などの配置
 −間隔は適当かどうか見やすいか
4.画像は明瞭かどうか
 −暗くなっていないか
5.操作性
 −リンクはきちんとつながっているか
6.受信者の状況やネットワーク接続への配慮
 −画像ファイルが大きいと表示に時間がかかる(家庭でも見ます)
7.著作権とプライバシー
 −表示される人物のプライバシーの侵害はないか
8.デザインや色調の統一性
 −全部のページを通して,統一性があるか
9.全体の印象 等

 それぞれの項目について,5点満点で生徒各自が採点した。集計が簡単になるように,あらかじめ生徒の使用しているパソコンに集計用の表計算ファイルを用意しておき,そのファイルに点数を入力し,あとで回収し集計を行うことにした。

 相互評価に続いて,中学生による評価を行った。中学生の体験入学の日にLAN教室に案内し,全11グループのページを見てもらった。それぞれのページを見て,よくできていると思うものを3つ選んで投票するという形式による評価を行った。

 相互評価に中学生による評価を加え,総合成績を発表してこの課題は終了した。この課題に対する各自の成績評価は次の各項目で行った。

・グループの制作物の評価(相互+中学生)
・グループの制作物の評価(教員)
・毎回の取り組み具合の評価(自己)
・毎回の取り組み具合の評価(教員)

(3)学校説明会用プレゼン制作

 毎年11月に中学3年生の保護者や中学校の先生を対象に学校説明会を開いている。この機会を利用して,プレゼンテーションについて学習することを考えた。

 一人ひとりが人前で話をしなければならない機会が今後増えてくることを考え,このプレゼンテーションは個人で制作し,そして個人で発表することとした。

 相互評価と教員の評価を総合して,最も成績のよかった生徒に学校説明会でプレゼンテーションをさせた。本人にとってもよい機会であったと同時に,説明会に来られていた中学生の保護者の方々へ実践を伝えるよい場となった。アンケートの回答のなかに「高校生のプレゼンテーションがよかった」というものがあった。生徒本人に伝えたところ,大いによろこび自信につながったようである。

生徒の制作したプレゼンテーション
▲生徒の制作したプレゼンテーション

(4)ポスター制作

 本校には車椅子の生徒が数名在籍している。その生徒達が階を移動するのを目的にエレベータを1基だけ設置している。しかし,その他の生徒たちが使用することも少なくない。結果,車椅子の生徒が階の移動をするのに時間がかかり次の授業に間に合わないといったことが起こった。また,非常ボタンへのいたずら等も増えていて,教員の間で1度エレベータを停止しようという話になった。しかし,そうなってしまうと,車椅子の生徒達はたちまち困ってしまう。ちょうどその日の課題研究の授業が車椅子の生徒がいるクラスだったので,エレベータをちゃんと使ってもらえるようにポスターを制作しようと思い立ち,事前の予定を急遽変更した。

 生徒に問題提起をし,一方でポスターの構成要素を説明し,「ではこの2時間の授業の中でエレベータを正しく利用してもらうためのポスターを制作し,それをエレベータに貼りに行くところまでやってみよう!」と始めた。そのときの生徒の授業に対する集中力はすごいもので,生徒自身,やらなくてはいけないという使命感を持ちながら取り組んでいた。それをポスターという形で表現できたという手ごたえも掴んでいる様子であった。そして,結果としてそれから1ヶ月間不正使用はまったくなくなった。

 授業において,こういう題材を考えていくことで,生徒の授業に対する意識も向上すると思う。その題材を考えるのが難しいのではあるが…。でも,それが仕事なのだと考えなくてはならないと思うのである。
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