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中学校の情報教育実践例 |
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中学生を取り巻く情報社会と授業づくり
−様々な授業場面で情報機器を活用− |
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1.はじめに |
2000年度より,技術・家庭科の技術分野において「情報とコンピュータ」が必修の内容として入りました。時を合わせるように本校では,ノートPC48台,インターネット・教室内LANに接続された情報科教室が建設されました。以前より,技術・家庭科「情報基礎」を中学3年生で実施してきましたが,そのころと今を比べると授業内容は大きく様変わりしました。授業内容が変化してきた理由として,情報科教室の新設よりも,ほとんどの生徒が情報機器に小学校や家庭である程度親しんでいることが挙げられます。家庭ではごく一般的にインターネット回線に接続されたパソコンがあり,多くの生徒が家庭で携帯電話で電子メールを利用しています。あるクラスで調べたところ,8割の家にパソコンがあります。このように,情報機器を日常的に利用している生徒に対して,授業内容がキーボードの操作方法や文書や表・グラフの作成だけの学習では,生徒は内心不満を感じてしまいます。その一方で,何らかの理由でこうした情報機器に積極的に触れてこなかった生徒も若干名クラスの中に存在し,スキルにおける個人差がますます拡大していると考えられます。そこで今回は,これらの社会の変化や授業における問題点を踏まえて,2000年度より技術・家庭科において取り組んできた授業のいくつかを紹介します。
情報の授業を行う環境
・ノートPC:生徒用48台,教師用1台
・プロジェクター:2機,2方向壁面に映写
・レーザー白黒プリンタ:2機
・教室内LAN・インターネットに常時接続可。
・チームティーチング:2人体制
・ICTコーディネーター:1名
・故障時や定期的なメンテナンスは,すべてICTコーディネーターによって全て行われる。授業担当者は授業に専念できる。
▲情報科教室の様子 |
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2.技術分野「情報とコンピュータ」における授業 |
(1)情報の基礎学習を中3から中1へ
2001年度までは,中学3年生で「情報とコンピュータ」の授業を行っていました。中学3年生では,家庭において電子メールやWebページの閲覧などを日常的に行っている生徒が多く,パソコンにあまり触れることのない生徒とのスキルの差はかなり大きくなっていました。授業内容が基礎的な内容である場合,経験のある生徒が退屈さをおぼえます。逆に,難易度の高い内容となると経験の浅い生徒が自信をなくし,情報の授業が嫌いになるというジレンマに陥っていました。情報の授業は実習である上に生徒の質問はごく個人的なものばかりのため,レベル別に学習を進めると対応しきれません。生徒間の教え合いを促すことで経験のある生徒の能力を生かし,経験の浅い生徒の基礎的な力の強化を現在でも試みていますが,限界があります。授業内容の大きな転換を余儀なくされました。翌年2002年度入学の生徒より,中学1年で情報の基礎的学習を行い,中学3年でプレゼンテーションとインターネットを中心とした学習を行うというカリキュラムに変更しました。中学1年生でも,上級者は混ざっていますが,各クラスにおいて授業に支障を来すほどスキルの差は感じません。総合的な学習を中心に他の教科でのパソコン利用も考えると,中学1年生でパソコン操作の基礎学習をする方が,学習した内容を中学3年間使うことができ,メリットが大きいです。また,授業における質問の内容やレベルも中学3年生ほどばらつきがなく,質問に対する説明を全員にする効果が高いと感じます。カリキュラム変更後の授業内容は,次の通りです。
中学1年 情報の基礎的な学習(3学期)
1.コンピュータの基本的な構成
①ハードウェア−本体・キーボードなど
②ソフトウェア−OS・アプリケーションソフトなど
2.マウスの操作
3.キーボードの操作タイピングソフトによるタイピングの練習
4.ワープロソフトによる自己紹介文作成
①ワープロソフトの画面構成と基本操作
②文書の作成・編集−文字の色・拡大,下線,図の挿入など
③文書の用紙・余白などの設定
④文書の印刷
5.表計算ソフトによる表・グラフ作成
①表計算ソフトの画面構成と基本操作
②数値の入力
③表の編集−罫線,表の幅や高さの設定,色,文字の拡大など
④表からのグラフの作成
⑤グラフの編集−色,大きさ,位置など
⑥表・グラフの印刷
中学3年 プレゼンテーションとインターネット(3学期)
1.プレゼンテーション用ソフトを利用したスライド作成
①プレゼンテーション用ソフトの使い方
②プレゼンテーションソフトを利用した表現方法(卒業生の作品を例に)
③「考えるレポート」を題材としたスライド作成
④未完成部分は,総合的な学習で引き続き作成
2.電子メール送受信の基本
①アカウントの入力設定
②グループ内での送受信テスト
③様々な情報伝達手段の長所と短所
④電子メール送受信のマナー
3.Webページによる情報収集
①ブラウザの基本的な使い方
②検索エンジンの特徴と使い方
③Webページの見方と著作権
4.簡単なWebページ製作
①HTMLの基本構成
②背景色,文字の大きさ・色・配置,イラスト・写真の掲載など
③Webページの作成と著作権
5.ネットワークコミュニケーションゲーム
(2)ネットワークコミュニケーションゲーム
中学3年のインターネット活用のまとめとして,エキサイティングに展開できた授業があります。電子メールとWebページ検索を複合的に利用するゲーム形式の授業です。短時間で情報収集と情報共有を目的とする内容です。ルールは以下の通りです。1度よりも2度行うと工夫の余地があり,1回目より楽しいです。
準備
・生徒全員が電子メールとWebページ閲覧ができる。
・メールアドレスはクラス全員分一覧にし,プリントとして配布する。
・グループ分けを教師側で行う。8人1組。同じグループの人はできるだけ座席が隣り合わないようにする。
理由:隣り合わないことでお互い遠距離であるという仮想をすることができる(例.会社と家,日本とアメリカ)。
・Webページを利用しないと解答できないような問題をつくる。
例.河内長野市役所の住所は?
小泉首相の息子の生年月日は? など
・解答用紙を準備する。
ルール
・4つの問題を解き,平均得点の高いグループが勝ちとする。
・制限時間は20分とする。
・しゃべらない。他人のディスプレイを見ない。ジェスチャーしない。「メール送ったでー」などと相手に伝えることはルール違反。厳密には目を合わせることも×。
・ルール違反は,平均点にして1点減点する。
・Webページで調べてよい。
・電子メールで解答を教え合ってもよい。
・用紙に解答を記入する。
・正解は教師から伝える。
補足
・教師や他のグループの生徒より嘘のメールが送られることがある。
▲生徒の作品 |
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3.家庭分野における情報機器の利用 |
技術・家庭科の技術分野で「情報とコンピュータ」を学習しますが,内容や時間が不十分であると考えています。技術・家庭科の家庭分野でも,情報機器を便利に利用できる場面がたくさんあります。「情報」の学習として考えた場合にも,情報機器の利用が,目的ではなく,あくまでも手段・道具としての活用を実感できる絶好の機会であると考え,積極的に利用をしています。
(1)調べ学習
インターネットを利用し,「市町村のごみ収集方法」「地域の保育所と幼稚園」「食生活における問題点」の調べ学習を行います。インターネットによる調べ学習は地域の細かな情報や時事的な内容が豊富に得られるので,重宝しています。生徒が住んでいる地域の状況やニュースをWebページで調べ,紙にまとめ,壁に貼り出すなどして情報共有を図り,お互いの調べた内容を評価し合います。
(2)住居のオリジナル間取り図作成
市販されている間取り図作成ソフトを利用し,家族構成や生活場面,ライフステージを考え,オリジナルの間取り図を作成します。後に間取り図に従い,住居の模型を作成します。パソコンを利用することで,手軽に修正し,試行錯誤をしながら完成させます。間取り図を何度でも作り直せて,頭の中のイメージだけでなく3Dで視覚的に確認することができるのも,パソコンを使う利点です。
(3)授業内容の情報化
被服の授業では,ハーフパンツの製作方法をパソコン数台にファイルで保存し,製作途中で疑問が生じた時にまずパソコンで確認するように指示しています。実習中,教師がすべての質問に答えると疑問はすぐに解決しますが,生徒は考えずに答えが得られるので実は製作に対する理解ができていない場合が多いです。パソコンの利用により自ら理解しようとする姿勢が促進されています。調理実習でも同様にレシピを情報化することで実習中に随時閲覧でき調理の補助となっています。
▲評価シート |
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4.他教科と情報のつながり |
(1)国語科と情報科の融合
2001年度より,国語科とともにプレゼンテーションの授業を手がけてきました。国語科では,新書を一冊読んで,さらに他の図書も利用し調べを深め,1人レポート用紙10枚程度のレポートを作成する「考えるレポート」を行っていました。国語科では「レポートの作成はするのだが,発表する機会がない」ということが問題になっていました。一方,技術・家庭科ではパソコンを使って具体的な活動をしたいと考えていました。国語科の担当者との話し合いで,技術・家庭科の時間にプレゼンテーションに使うスライドをパソコンで作成し,発表を行うこととなりました。現在では,同じ内容が総合的な学習の時間に引き継がれ,プレゼンテーションソフトの基本的な操作方法を技術・家庭科でサポートする形をとっています。意識的に表現することを考えるようになり,自らの発表を客観的に評価する力が少しずつ伸びています。この「考えるレポート」は,クラス代表を決め,全校生徒の前で発表するまでに成長した企画となっています。プレゼンテーション用ソフトを使用すると画一的な表現方法となりがちなので,情報機器を使用しないことも含めて多様な発表方法について体験する機会を持つことも大切であると近年感じています。
▲発表の様子 |
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5.これから… |
本校における情報を中心とした授業実践について,駆け足で紹介しましたが,中学生を取り巻く情報環境はこれまで大きく変化してきました。これからも大きく変化していくことが予想されます。新聞紙上では,情報機器を介した多くの事件・事故が報告されています。情報の授業でも,生徒の生の声を聞くと教師が考える以上に情報ツールが浸透しています。デマやチェーンメールなどをいともたやすく信じ込むという,情報に対する無防備さや脆弱さを感じます。情報機器を使用し便利さを享受していく一方で,著作権やネチケットについて教師側が見識を深め,中学生に対し,早い段階でこのようなことが考えられる授業を組み入れることが本校においての課題です。 |
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