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教育実践例 |
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ICTを授業にどう生かすか
−他教科とのコラボレーションを考える− |
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1.はじめに |
高校で教科「情報」の授業が開始されて2年目を迎えている。前倒しで情報を教えていた学校もあり,様々な試みや工夫が本誌でも報告されている。日々の授業内容や指導方法に悩んでいる者にとってはとても参考になり心強い。
さて,文部科学省によれば,高度情報通信ネットワーク社会が進展していく中で,子どもたちが,コンピュータやインターネットを活用し,情報社会に主体的に対応できる「情報活用能力」を育成することが非常に重要であるとし,新教育課程では,
1.中・高等学校において,情報に関する教科・内容が必修。
2.小・中・高と各学校段階を通じて,各教科等や「総合的な学習の時間」においてコンピュータやインターネットの積極的な利用を図る。
ということに重点が置かれている。
また,各教科等の授業の中で,先生がプレゼンテーションしたり,子どもたちがコンピュータやインターネットで調べたり,交流したりすることによって,「わかる授業」や「魅力ある授業」の展開・充実が求められている。
こうした,情報化に対応した教育を実現するために,IT戦略本部が策定した「e-Japan重点計画」等に基づき,「2005年度までに,すべての小中高等学校等が各学級の授業においてコンピュータを活用できる環境を整備する」ことを目標に,教育用コンピュータの整備やインターネットへの接続,教員研修の充実,教育用コンテンツの開発・普及,教育情報ナショナルセンター機能の充実などが推進されている。
このような状況の中で,教科「情報」の授業内容と,生徒自身が教科「情報」で身につけた「情報活用能力」を,他教科の学習や学校内の様々な教育活動に生かすことが,いわゆる「生きる力」の重要な要素の一つになるのではないだろうか。また,情報科担当以外の教員と,情報科の教員がお互いに協力しあう形でICT(Information and Communication Technology)を活用することで,「わかる授業」「魅力ある授業」を展開できるのではないかと考え,授業実践を試みた。
ここでは,それらについて報告させていただき,ご意見や新たなアイデアの提供などをいただきたいと考える。 |
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2.何でも・何処でもスクリーン |
プロジェクタによる画像の投影といえば,スクリーンや黒板など,平面で四角いものに投影するのが一般的である。しかし,投影する画像の特徴に合わせて色々な物に投影することにより,その画像のリアリティーや臨場感が高まり,生徒の興味・関心を引き付け,学習効果を高めることができる。そこで,「何でも・何処でもスクリーン」という考え方で,スクリーンを画像に合わせて工夫し,投影してみた。
(1)回転する地球
NOAAのサイト(National Geophysical Data Center (NGDC) http://www.ngdc.noaa.gov/ngdc.html)には,衛星写真を元にした美しくリアルな地球が自転している動画がある。これを,ただスクリーンのような広い平面に投影するのではなく,段ボール紙を直径50cm程の円に切り取り,それを手に持つ形で投影を行った。あたかも自分自身の手の中に回転する地球を抱いているような気分になる。また,白いビーチボールを用いて球体上に投影してみたが,投影距離の差ができ,周囲のピントが合わなくなるので,円盤の方が良いことが確かめられた。
▲手の中で回転する地球
(2)カエルの解剖
生物の解剖はかつて主要な実験の一つであった。しかし,最近はなかなか思うように実験することが困難な状況である。そこで,Web上でヴァーチャル解剖を行えるサイト(Welcome to Froguts! Virtual Dissection Software.url http://www.froguts.com/flash_content/index.html)を活用した。マウスを操作し,解剖バサミやメスを使い分け画面上で解剖を進めていく。その際,発泡スチロールの板を解剖するカエルの形に整形し,そこに投影しながら解剖を進めてみた。これにより,生徒の参加している意識を高めることができた。 |
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3.究極のスクリーン:ボディー・スクリーン |
そもそも,色々なものに投影してみようと考えたきっかけは,人の体への投影であった。授業で,プロジェクタを使い色々な画像を投影しながら説明するとき,どうしてもスクリーンの前に立つことになる。その時に教師に映る様子を見て生徒は授業と関係ないところで面白がる場面に出くわすものである。また,生徒たちは休み時間や授業中にさえもスクリーンの前に出たがり,面白がっている。それなら,いっそのこと自分の体や生徒の体に投影してやれということになった。もちろん投影する内容は,人体に関するものということになる。早速,投影する資料を探した。最初は,図鑑の透明シートをめくっていくと人体の構造が次々と見えてくるというものをイメージした。実際には,適切な資料を見つけ出すのにかなり苦労したが,医学関係の書物が非常に参考になることが分かった。また,インターネット上にも様々なサイトがあり,書物等では入手困難であろうコンテンツが多数存在するので,時間をかけて適切な資料を収集すると有効である。投影にあたっては,当初白衣を利用していたが,よりリアルにするために白のTシャツ,そして最終的にはボディースーツへと進んでいった。
▲骨格の様子を投影
状況に応じて使い分ければ良いが,Tシャツや体操着は生徒たちも気軽に使える。また,ボディースーツも生徒が面白がって着用してくれれば非常に良いものである。ボディースーツを着ることに対して抵抗があるかもしれないが,実際にはシャツやズボンを着たままその上に着用でき,そうした方が体にボリュームがつくので投影した場合も具合が良い。
▲内蔵の様子を投影
投影してしまえば,表面のしわなどはまったく気にならなくなる。とにかく一度お試しいただきたい。
投影する人体に関する画像は,教科書や図録,家庭用の医学書などの図をスキャナで取り込んだり,Web上で公開されている各種の画像
・理科ねっとわーく(JST:科学技術振興機構) http://www.rikanet.jst.go.jp/
・教育用画像素材集(IPA:情報処理推進機構) http://www2.edu.ipa.go.jp/gz/
・The Virtual Body(Medtropolis) http://www.medtropolis.com/VBody.asp
・BBC Science Human body http://www.bbc.co.uk/science/humanbody/
を利用したりした。これらの画像はプレゼンテーションソフトウェア上に貼り付け,大きさ位置などを調整し準備をした。プレゼンテーションソフトウェア上に貼り付ける際の背景色については,黒い背景だと投影されている人物が消えてしまい,人体に投影している意味が薄れてしまうので,背景色は明るい方が効果的である。
▲血管の様子を投影
また,人体に投影することから,プロジェクタの発光部分を覗く危険性がある。指導者に投影する場合はこのことを意識して注意して欲しいが,生徒に投影する場合には,特に注意を怠らないのはもとより,スライドを制作するとき背景は明るくと述べたが,顔の部分にくるところはあえて暗くすることで,万一覗いた場合でも目に与える影響を小さくする,サングラスをかけさせるなどの工夫を施しておくと良い。
(1)授業の実際
3年の生物ⅠB選択者の授業で実際に利用してみた。単元は動物の組織・器官に関するところで,各器官系の投影を行った。プリントを配布し,各部の名称等の資料を与えておき,筋肉・骨格・循環・神経・リンパ・消化・排出などの各器官系をボディー・スクリーンに投影して説明を行った。生徒には体育着で参加させ,生徒にも投影して実感してもらった。以下に示す生徒の感想をお読みいただきたい。直感的理解を増進させる点において大変有効であることが明らかになった。
▲生徒に内蔵を投影
(2)生徒の感想
・笑いながら授業だったので記憶に残っている。
・スクリーン見るより立体的で分かりやすかった。臓器や器官の場所や大きさがよくわかり理解できた。
・ボディー・スクリーンはみんなの気を引いて興味深かったし,図を見るより全然分かりやすくて,記憶にもすごい残っています。
・自分たちの身体が断面図で見られてすごく楽しかったし,不思議な感じがした。
・人の体内がどういった物なのかは,教科書や図録などで今まで勉強していたけれど,実際にどのくらいの大きさなのかは見たことがなかったのですごく勉強になった。
・自分たちの身体の中がホントに見えているみたいですごいと思いました。
・人の内臓とか筋肉とかがよく分かった。人に映すとよけい分かりやすいね。
「心臓の鼓動の様子」やボディースーツ内の腹部にビーチボールを入れて横から体の側面に投影する「胎児の成長過程」などのような動画や動的な変化を投影することを行った。
・心臓の動いていたのが印象的だった。
・先生が妊娠してるやつも,あんなにリアルだと気持ち悪い。
・赤ちゃんがあんなに大きくなるなんてすごい,妊婦さんってすごいなぁーって思った。
など,大変反響があった。胎児の成長などは,保健や保育などの授業で利用できるほか,保健所での妊婦教室などでも利用が可能なのではないかと考える。
しかし,どうも「先生の全身タイツ姿がものすごく似合っていて,それが一番楽しかったです。」という感想が本当の所であるらしいのは喜んで良いのだろうか? |
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4.英語でレシピ |
プレゼンテーションのテーマとして料理のレシピは代表的なものである。また,英語特にOC(Oral Communication)では,ShowandTellといった人前で話すことが重要視されている。そこで今回,OCの時間にALT(Assistant Language Teacher)の協力を得て英語でオリジナル・レシピを作成し,それを基に情報の時間を使ってプレゼンテーション・スライドを作成,英語でプレゼンテーションを行った。生徒の製作したスライドには自作のアニメーションやデジカメ写真も使われ,情報科で学習したことが役立てられていた。
▲英語でレシピを発表する様子
英語での発表も通常の場合より楽しく,積極的にできたとの評価を英語担当の教師からも得ることができた。生徒も実に楽しそうに発表していたのが印象的だった。
▲生徒作品(図はアニメ) |
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5.おわりに |
中学でも「情報とコンピュータ」を学び,場合によっては小学校やそれより小さい時期からコンピュータに触れ,家庭でもインターネットの活用が常識のようになってくると,教科「情報」がパワーポイントの使い方等のハウツーものでは時代に後れることは明白である。これからの教科「情報」の役目は,情報モラルや倫理といった「情報社会に参画する態度」を身につけさせることで「生きる力」を育成することがまず一つであろう。そして,もう一つは,他者とのコミュニケーションの上で,どのような文章や図,グラフが有効で,どのようなスライドを作成し,どうプレゼンテーションすることが有効かといったことを教えることに重点を置くべきであろう。つまり,コミュニケーション学科のようなものに移行していくのではないか。
また,他教科とのコラボレーションということでここに紹介したような相互乗り入れや,他教科の授業の流れの中で情報科と連携を図る形が多くなるのではないだろうか。今回紹介した理科や英語の他に,家庭科,数学科との連携も進めている。そういった流れの始まりとして今回の試みを理解していただければ幸いである。
この原稿を書いているときに教科「情報」を英語では何と表現すれば良いのかとフッと考えた。直訳すればInformation Educationかも知れない。しかし,これはどうもピンとこない。本誌に質問したところInformation and Communication Technologyということを強くイメージして教科書の編集に当たっているという回答があった。まさにこれからの情報のあり方を示したネーミングではないだろうか。 |
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