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教育実践例 |
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コンテンツを重視した授業実践
−独自のWeb教材とテキストを用いた実践例− |
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1.はじめに |
情報の授業が始まってまだ2年目であるが,その行き先にはすでに暗雲が漂い始めている。一部の進学校では「情報」をまともに履修させていないところもあったり,また,2単位履修させている学校においても学習内容に学校間格差が大きいのが現状である。ある学校では,ワープロと表計算ばかり実習させているという話も聞く。
これからの情報化社会において,この教科の持つ意味は大きい。にも関わらずこうした状況が起きている原因はどこにあるのであろうか。私個人の意見であるが,「情報」はあまりに実習ばかりに目を奪われがちで,教科としてもっと学習内容の充実に視点を向けられるべきではなかろうか。本誌においてもこれまでの実践例報告の多くは,実習における実践や校内のシステム作り,総合学習との連携などであった。もっと何を学ぶのか,コンテンツを重視した学習が大事なのではないかと考える。
また,「情報」が市民権を得られていない理由の一つにセンター試験採用への見送りがある。「情報」=「実習科目」と見られてしまう要素がここにもある。「情報A」を履修した場合に,センター試験への出題が難しいこともあるかもしれない。しかし,生徒の「情報」に対する意識の問題もあり,きちんとした「市民権」を得る必要があろう。
ここではそんな状況の中,コンテンツを重視した私なりの実践例を紹介したい。 |
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2.本校の学習環境 |
本校では2年次に「情報C」を2単位,全員に履修させている。教員は専任1名と講師1名の2名があわせて9クラスを受け持っている。実習時には情報教育アドバイザーのサポートを受けているため,非常にスムーズに展開することが可能となっている。
ハード面では2人に1台のセンターモニターを備えていて,教員側の説明を受けながら実習することができる。また,センターモニターでの説明のほかにプロジェクタを用いたOAボードでの提示もあり,必要時にモニターに書き込みながら説明することができる。このほか,生徒用に2人に1台のスキャナ,ムービーカメラ,1人1台のタブレットなどを備えている。
コンピュータ教室は2教室あり,普通教科用にも同じ環境で1教室が整備されている。
▲センターモニターで説明
ソフト面ではビジネス用のソフトの他,ドロー系,フォトレタッチ系のソフトやアニメーション用のソフトなどが備わっている。
▲実習の様子
学習時間内に課題をこなせなかった生徒のために,放課後もコンピュータ教室を開放している。情報教育アドバイザーの協力で,毎日数多くの生徒が放課後も課題作成に熱心に取り組むのをサポートしている。 |
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3.オリジナル副教材「情報ノート」を用いた学習指導 |
年間25時間ほどを座学に割り当てている。教科書は実習部分をあまり取り入れていないものを採用している。実習部分は各学校の実態により大きく内容が異なるためである。
▲座学用オリジナルテキスト
授業用として教科書をベースにしたオリジナル副教材「情報ノート」を作成している。この「情報ノート」は教科書の内容をベースに,書き込み式となっている。
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教師の説明用にオリジナルのプレゼンテーションを用意し,前面にはOAボード,生徒側にはセンターモニターを用いて授業が進められる。OAボードからの書き込みもセンターモニターに直接投影される。
▲OAボードで説明
生徒は説明を受けながら「情報ノート」に随時書き込んだり,用意された設問を解いたりして時間内にノートを完成させるようにしている。ただ単に話を聞くだけでなく,座学の授業にも“作業”させる形をとることで,授業の活性化を図っている。
年間の進度計画にそってWeb上からも同じものを閲覧することができ,同時にPDFファイルでもダウンロードすることができる。Web上で全ての授業の内容や評価基準を公開することで,新教科の不安を解消すると同時に,教材のデータベース化を狙っている。
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▲Web上の「情報ノート」
定期考査は4回実施し,授業での学習内容(実習部分を含めて)を7割,情報倫理(副教材として使用)3割を出題している。解答は,マークシート方式で行なっている。内容は単に言葉の知識を問うものではなく,正誤問題を中心として,じっくりと考えさせる問題を中心に作問している。結果は個人成績表として返却している。マークシートのため,誤答分析などが簡単にできるメリットがある。
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▲マークシートによる考査問題
▲個人成績表 |
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4.Webとタイアップした独自の実習ノート |
実習に関しても本校の環境に即した内容のオリジナルテキストを作成している。画像等の実習用にカラー印刷しなければならず,そのためテキストは50冊だけ用意し教室に常時置いている。放課後のコンピュータ教室開放時にも,実習ノートを手元において気軽に作業できる形になっている。また,実習ノートはバインダー式になっていて,毎年コンテンツを更新できるようになっている。
▲実習用オリジナルテキスト
内容としてはできるだけ幅広い分野を網羅できるようにしている具体的には,①様々なアプリケーションソフトを用いた情報活用の基礎,②プレゼンテーションソフトを用いた情報発信の基礎,③インターネットを用いた情報の収集と分析,④表計算ソフトを用いた情報の収集と分析,⑤Webページ作成のための情報発信の基礎,の5つからなっている。
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▲Web上教材の1ページ
実際の実践例を具体的に取り上げてみる。上の画像はペイント・フォトレタッチソフトを用いた画像の加工の実習用テキストの一部である。次のようなステップで1時間の課題を作成させる。①スキャナで画像を読み取る。②色塗り用のレイヤーを作成して色を塗る。③レイヤーを結合し,人物部分の画像を切り抜きコピーする。④背景用の画像を開き,特殊効果を加える。⑤人物を合成,縮小・移動し文字を入力する。⑥完成した画像を印刷して提出する。この課題はオリジナル作品を作成しやすいという点で取り入れた。
実際に手軽で,興味を引く実習となった。また,実習時にはレイヤーやフィルタといった基礎用語の解説も同時に行なった。
毎時間の課題はデータとしても保存させるが,プリントアウトして提出させるようにしている。生徒にとっては手元に残ることによって,達成感が得られることを重視しているからである。
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▲生徒用テキストの1ページ
それぞれのセクションの最後に総合実習的な課題作成を生徒に課している。このときどういった観点で課題を評価するのか,最初に生徒に提示し,作成の指針とさせている。
教材はWeb上からも参照でき,OAボードやセンターモニターでの説明時に用いている。 |
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5.専門教科「情報」用の教材作成 |
「情報」を担当されている先生方は,生徒のスキルの差が大きいことを実感していることと思われる。高校のみならず,中学校間の格差も大きい。また,個人的に興味を持って取り組んでいる生徒とそうでない生徒のスキル的な格差はかなり大きい。高校での「情報」の目的は基本的な情報活用能力を身につけることにあるため,そうした生徒にとっては物足りないと感じるところも出てくる。そうした生徒のために,少し突っ込んだ内容も提供している。
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▲3Dアニメーションの1ページ
例えば,コンピュータグラフィックスやWebデザイン,マルチメディアの基礎などがある。また,情報Cでは扱わないプログラミングやデータベース,システム開発など,興味を持つ生徒のためのナビゲータ的な役割も必要であろうと考える。こうした教材をWeb化することで,生徒の興味・関心に応えられるようにしている。
次の例はドロー系のアプリケーションを用いたコンピュータデザイン作成のページの1コマである。
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▲コンピュータデザインの1ページ |
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6.Web型教科通信「情報BOX」 |
座学での学習時に教科書の内容を更に深めたいときや教科書に載っていないような深い内容を説明したいときなどのために教科通信を作成している。
コンテンツは情報に関する様々なトピックスの他に,本校の生徒用のコンピュータに入っている様様なソフトで授業ではなかなか触れることのできないアプリケーションソフトを紹介したり,お勧めのWebページを紹介したりしている。
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▲Web上の「情報BOX」
次の例は画像の加工の実習を行なったときの補足として,生徒に説明したものである。各濃淡レベルの画素数を,横軸に濃淡レベル,縦軸に濃淡レベルの画素数をとったグラフで表した「ヒストグラム」について紹介した。
次の例は本校の生徒機に入っているアプリケーションソフトについて取り扱ったものである。年間の限られた時間では扱えないアプリケーションも多い。生徒が興味を持って取り組んでみたい,そんな動機付けの一助になるのではなかろうか。
とかく座学の授業が敬遠されがちであるが,少しでも生徒の興味・関心を引くような内容を集めたいと考えている。
また,これらの教科通信もWebで公開し,いつでも生徒が見れる状態になっている。印刷用にもPDFファイルでのダウンロードも可能である。まだまだコンテンツの量は多いとはいえないが,Web型の教科通信として蓄積・公開することに意義が大きいのではなかろうか。
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▲「情報BOX」PDFファイル |
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7.さいごに |
「情報」も2年目を迎えた割には,他校の先生方の実践をWebを通して見ることが案外難しい。最近は高校においてもシラバス作りが盛んになってきたが,形式的なものより,実際に授業の教材を公開し,実践結果も公開するべきではないかと考えられる。他校の実践例を参考に,さらに自校にあった実践を蓄積していく,こうした積み重ねが必要であろう。もっとWeb上での実践事例の交換を多くしていくことが大切ではなろうか。
このレポートでは学習計画を始め,自作教材の具体的内容などは誌面の都合上ほとんど紹介できなかった。教材はすでにかなりのボリュームとなっている。全てのコンテンツはWeb上で閲覧できるので,是非ご覧頂き,ご意見・ご感想等頂ければ幸いである。 |
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