21世紀を目前にして,地球環境の汚染は深刻な状況を増し,環境教育にかつてないほどの期待が寄せられている。新学習指導要領の中では生きる力としての「生徒の問題解決能力の育成」に重点が置かれ,総合的な学習の時間が設置された。ここでは「生きる力を育む」実践例として当校における環境学習について紹介したい。 環境教育では「自然を体験し」,「現在の状況を知り」,「環境のために行動する」という3つの視点が重要とされている。特に3つ目の視点を育成する上で,インターネットのような双方向のメディアは有効であると考える。当校は,「100校プロジェクト」で酸性雨調査プロジェクトを提案・実施し,またアメリカのゴア副大統領の提唱で始まった「環境のための地球学習観測プログラム(GLOBE)」などに参加し,インターネットを積極的に活用してきた。 酸性雨は生徒自身が自らの手で観測し環境の実態を知り,解決の方法を考える上で,比較的身近で扱いやすい教材である。参加校は共通の方法で観測を行い,データをホームページに登録する。当校の酸性雨の観測は,中学校の選択理科を履修する生徒が3〜4人のグループを作って交代でおこなっている。pH3〜4の酸性の雨は,現実問題として生徒を圧倒する。うっかり観測を忘れた子はいても,さぼる子は皆無という状況で,生徒の強い責任感と意欲を感じている。また雨が降るたびに端末にやって来て,全国の雨の様子を見る生徒も出てきている。中でも観測データと一緒に入力してある観測者のコメントを楽しみにしている生徒が多く,pHなどの数値は温かみのないデータだが,観測者の何気ないコメントは顔を合わせたことのない遠隔地にいる仲間を身近に感じさせてくれる。 GLOBEにも観測項目に雨のpHの測定があり,GLOBE JAPANホームページの掲示板には「酸性雨」をテーマにメッセージが書き込まれている。生徒達は課題研究の中で感じた疑問や意見をこの掲示板に書き込んだり,チャットで他の学校の生徒と意見を交換している。自動車の排気ガスの調査をしたグループは,「大気汚染をなくすためには自動車を使わないようにすればいい」と書き込んだが,これに対して,「自転車だけで生活できますか。」「電気自動車ならいいのでは」などの多くの反応をもらって議論が始まり,生活の便利さと環境を両立する難しさについて激論をたたかわせていた。同世代の,同じ環境問題に興味を持つ同士で交流することの意義は大きい。海外との環境問題をテーマにした交流では,英語力そのものよりも自分の考えを相手に「いかに簡潔にわかりやすく伝えるか」が問われる。生徒は環境問題の解決の方向を考える上でのコミュニケーション能力の大切さをこうした体験から感じている。 環境問題が解決へ向けて道を閉ざされている状況ではなく,多くの人々が努力していることを知り,自分たちの行動の1つひとつが無駄にならないことを実感させることができれば,環境問題に対して生徒の「自ら考え解決する実践力」はおのずと育っていくと考える。また,それを支える人的ネットワークの大切さも生徒に意識させるように考えている。