ICT・Education
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No.16
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教育実践例
教科「情報」の実践にむけて
東京家政大学附属女子中学校・高等学校
高橋 紀夫
現在,本校は3年次の数学科の選択科目として,「情報科学(2単位)」という科目を設定しています。
最初に,本校のコンピュータにおける組織構成からお伝えし,実践例をお話したいと思います。
1.本校のコンピュータにおける組織
本校は名前の通り大学の附属校ですから,基本的には大学がそのシステムを統括します。CPS(コンピュータシステム管理センター)が基本的な全体の管理・運営を行います。そこには,本学の校長がメンバーとして参加しています。しかし,本校は規模が大きいということもあり,CPSと平行してマルチメディア委員会を発足し,コンピュータ室を含めたマルチメディア関連の施設(視聴覚教室・放送室等)の実質的な管理・運営,そのための予算化や予算の執行を行っています。また,教員同士の研修会も行い,基本操作のリテラシー向上のための講習会も行います。さらに,本校では生徒の学籍と成績の両方をコンピュータで処理していますので,それに伴う教務・進路等のシステムの調整も行っています。
常に大学との連絡を取り合い,最終的には生徒に還元する方式を長年築き上げてきました。一概に情報教育といっても,機器がある程度充足しなければ始まりませんので,各先生方の理解はもちろんのこと,理事会側にも理解していただかないとハード・ソフト面で膨大な予算が掛かる情報教育はなかなか進まないと思います。多くの学校が予算の面で苦しい思いをしていると思いますが,授業を行う以前に,しっかりとした組織作りが必要かと思います。
2.教育実践例
(1)テキストについて
もちろん正式な教科書があるわけでもないので,書店を回り,多くの書籍を参考にし,かつ本校の生徒の学習レベル(興味・関心も含めます)にあったテキストを選定しました。
結論としては,情報処理活用能力検定3級テキスト情報リテラシー(実教出版)を履修する生徒全員に購入させました。
最近の生徒(本校は女子校)は5年前の生徒と比較して,コンピュータの基本操作は格段に向上しています。時代の推移ということもありますが,身の回りや多くの家庭でパソコンが普及したことを意味しています。キーボードやマウスの操作といったコンピュータの操作については,多くの注意をすることもなく,さらっと行ってしまいます。しかし,コンピュータがその内部でどのように働いているかということについては,その簡単な理論も理解していない生徒がほとんどです。また,用語(単語)は知っていても,それが何を意味しているのか理解していない生徒もいます。そこで,基本的な理論の理解,用語の整理,周辺機器の整理,基本的なソフト(Word,Excel等)の操作方法を授業で取り扱うこととし,それらの内容が含まれている上記の書籍を,テキストとして採用しました。
(2)コンピュータ室の機器とソフトについて
本校のコンピュータ室は,平成3年にできあがった新校舎の3階にあり,専用に設計されたものです。通常の教室の約2部屋分の面積を持ち,天井も比較的高く作ってあります。PCについては,現在本校にあるPCの中では機種が最も古い機種で(次年度は機種変更予定),Pentium200MHz,HDの容量は3GBと,最新のPCと比べればロースペックなのですが,情報教育で使うには充分であると考えています。インストールされているソフトは,基本的にマイクロソフトのオフィス(OSはWindows2000)で,各PCはLAN接続され,約6Mbpsの専用線でインターネットも利用可能です。また,家庭にPCがない生徒もいますので,時間内で完結する授業設計をしています。また,教室内に専用のサーバーも設置してありますので,LAN経由でデータを管理し,基本的にFDを利用するということもありません。
どうしても,時間内に課題をこなしきれない生徒は,コンピュータ室を放課後開放することによって対処しています。
(3)実践例
実践例をお話する前に,以下の2点を押さえていただければと思います。
[1] 選択科目であるということ
[2] 2時間続きで週1回であるということ
さて,1学期は,まず生徒のリテラシー調査から始めます。理由は,附属中学出身者と外部中学出身者がおり,附属中学の学習内容は分かっていても,外部の公立中学では,各教科・科目においてしっかりと授業を行っている学校もあれば,残念ながらコンピュータ室はあるのに1時間も授業をしたことがないという生徒がいるのも事実だからです。
そのため,すでに最初の段階で操作リテラシーに差異が生じてしまうので,なるべく均一化を図る授業計画を立て,そこで修正します。
1学期の5月までの授業では,最初の20分間をタイピング練習に費やします。多少キーボードで入力できる生徒でも,基本的なホームポジションができてないことが多く,キーボード入力の矯正とコンピュータ室のPCに慣れることを目標に実施しています。次に,4時間を掛けてワープロソフトの操作の練習を行います。Wordを利用して,ワープロ検定3・4級の文書を打たせます。もちろん,校正や印刷もさせて実際のプリントアウトの感覚を身につけさせます。さらに,2時間を掛けてWord特有の罫線等の操作方法にも触れます。
次に,表計算ソフトに移ります。約4時間の授業でExcelの操作を練習するのですが,困ったことに,多くの生徒は1ヶ月のお小遣いが自分の頭で充分計算できる範囲であり,生徒はExcelを活用するほど高度な表計算を必要としていませんでした。そのため,本校の選択科目が数学科の科目であるということと,選択の年次が3年次であることから,実際の各科目の素点を入力させ,その合計・平均を求めたり,評定平均値等も計算させたりすると,意外に「おーっ!」という声と共に,表計算ソフトの便利さを認識してくれます。ここで大事なのは,操作ではなく,何を表計算でさせたいのか,何を求めたいのか,といった表計算の原点に戻る授業を心掛けています。グラフについても同様です。生徒達も,ここで初めて,単にワープロを打って文書を出力したり,絵を描いて出力したりといった作業から,一歩進歩した感じが毎年見受けられます。
次に,テキストを利用して「情報と情報の利用」「パソコン基礎」を一般教室も利用して授業を行います(約8時間)。PCにも多少慣れてきたので,やっと用語の意味等が理解できる段階になってきます。
1学期の残りの時間で,インターネットの基本的な操作法(検索も含みます)やネチケットを学習します。検索については,校内LANにはファイアーウォール等も設置していますが,机間巡視は特に重要です。家庭でインターネットを使っている生徒は,操作と時間に余裕があり,本来目標とする検索を行わないものもいるためです。
2学期からは約2時間をパワーポイントの練習に費やし,それから教科「情報」でも扱われる「情報発信の基礎」を学習します。
基本的には4名を1グループとして,約2時間を掛けてグループ討論を行います(今年度は1クラス24名の3クラスでしたので計18グループになります)。今年度のテーマは「身近な身体の問題と対処方法」または「身近な公害問題と対処方法」でした。「身近」としたのは,
[1] 生徒達が取り扱いやすい。
[2] 自主性を発揮しやすい。
[3] 授業時間内で,インターネットで検索し,題材を集められる。
といった理由です。それぞれのグループが取り上げたテーマは,「カラスの公害」「ダイオキシンの問題」「腰痛の対処方法」「髪の毛の問題」等,バラエティ豊かなものです。これを約6時間掛け,PowerーPointでプレゼンテーション用の資料を作成し,その後,2時間を利用して1グループ約6分の持ち時間でプレゼンテーションを行います(評価も含みます)。私も含めて,他の生徒達が評価を行います。終了後,各グループが評価を集計し,2回目のプレゼンテーションに向けて修正を行います。ここでの評価は,先生も含めて厳しく評価するように指導していますので,各グループとも多少なりともがっかりすることが多いようです。4時間を掛けて改良し,2回目のプレゼンに望みます(評価も含めて2時間)。2回目のプレゼンテーションを行うと,生徒達は1回目の慣れと反省点を踏まえて臨むせいか,多くのグループで評価は概ね上がる傾向にあります。生徒達の評価表を見る顔が変わるので,努力は報われるといったところでしょうか。
さて,本来は授業時数としては,情報の教科書を見ると8時間程度の授業設定になっているようですが,質を求めるとどうしてもこのような時間配分が必要になってきます。
もちろん,この授業内では検索の方法やインターネット上の情報の信頼性や著作権・肖像権等の取り扱いについても,テキストを利用して講義していきます。
また,発信する側の責任についてもしっかり生徒達に認識してもらえるようにしています。生徒達も,高校3年ということもあり,いい加減な内容や話し方ではダメであることは小学校・中学校を通して多少なりとも自覚していますので,厳しい評価も受け入れられるようです。
加えて,人に何かを伝えることがいかに難しいかを認識してもらえるようです。
また,この授業を通して,調べ学習の重要性や,自分自身でテーマを持って調べることの重要性も新たに認識してもらえているようです。
3学期は大学入試を配慮して,2時間で1つの目標をこなせるように配慮して授業を進めます。具体的には,ペイントを利用した絵画,フリーソフトを利用した3Dの作成等を行っています。
また,テキストの項目を適宜選択して講義形式で3学期を終了し,卒業となります。
最後になりますが,本校では情報関連の授業を行ってすでに10年以上の経験がありますが,PCの進歩やそれを取り巻く社会の変化で,生徒達の情報の取り扱い方もだいぶ変化してきました(本校の中学1年生のほとんどはカセットを使用しないMD世代ですから…)。
今後もPC等の取り巻く状況は日進月歩で変化して行くことでしょう。我々もその進歩についていくことが大事なのは当然として,情報関連を取り扱う我々が忘れてはならないのは,操作法という上辺ではなく,その中身の質的なものをいかにその時代の状況とマッチさせて教育現場に反映していくかということではないでしょうか。
もちろん,教える教員も最新のハードやソフトを取り扱える努力をする必要があると思います。