神奈川県立川崎北高等学校は,川崎市宮前区の丘陵地帯に位置し,全日制普通科高等学校として創立28年を迎えます。宮前区唯一の高等学校として地域に密着した学校をめざし,活発な部活動,情報教育を柱とした特色づくりを推進しています。特に情報教育は,平成8年度からスタートし,6年間の経験をもとにして,平成13年度からは必修科目として「情報A」を先行実施し,1年生必修科目「情報A」と3年生選択科目「情報基礎」の2科目を展開をしています。その授業を担当するのは,各教科ブロックから1名以上という校内の取り決めで選出された11名の「情報科」の教員で,授業担当,環境整備,校内研修会,地域向けパソコン教室等に取り組んでいます。ここでは,教科を超えた本校の「情報科」の組織作りの実践例を紹介します。 ▲マウスで描いた生徒の作品
情報の授業担当者が増えたことは喜ばしいことでしたが,本校の場合,担当者全員が2教科の「かけもち」です。そのため「情報」の授業の教材研究や打ち合わせに多くの時間を費やすことができず,苦労しています。そのような状況の中,本校では以下のような工夫をしながら教員間の連携をとっています。 (1)「情報科」打合せ 本校の時間割の中に情報科の打ち合わせの時間を週1コマ設定し,教材研究や環境整備,校内講習会等を行っています。生徒に出す課題は授業担当者が自ら事前にやっておくことを必須にしているので,この時間が「予備演習」になることがよくあります。 (2)メーリングリストの活用 週1時間の打合せで報告できなかった事項は,情報科のメーリングリスト(ML)を活用しています。授業で使えそうなサイトを報告したり,各クラスの授業の進行状況を連絡したり,活発な情報交換が行われています。また,このMLには情報科以外の教員にも参加してもらい,情報の授業の様子が教科外からもわかるようにしています。 (3)Webページによる教材 「情報」の授業内容はすべてWebページにしてインターネット上に公開してます。その目的は, 1 少しでも他校の「情報」の授業の参考になるように 2 本校の授業担当者への指導案・教材として 3 本校生徒への教材提示,作品発表の場として の3つです。 授業の教材をインターネット上に公開すると,その教材を見ることができる生徒とできない生徒の間に「情報格差」が生じて不公平になるので教材は公開しないという考えをもつ先生方もいらっしゃいますが,次回の授業の教材をプリントで生徒全員に配るなどの工夫をすればそのような問題は起こりにくくなります。それよりも,これから必履修教科となる新教科「情報」の授業をどう展開するのかといった実践事例を,日本中の「情報」の教員で共有化することの方が大切ではないでしょうか。生徒に「情報発信」を指導する「情報」の教員が自ら情報発信し,情報科教員の全国的ネットワークを築くべきだと思います。 ▲新教科「情報」授業アイデア集(http://www.johoka.net/)
校内の連携以外にも,情報教育を担当する高校教員同士の連携として,神奈川県では神奈川県高等学校教科研究会・情報部会が平成13年度に発足し,必修化に向けて積極的な活動を始めております。平成13年末には講演,施設見学,授業見学,実践事例の報告会などの内容で3回の研修会を開催し,200名以上の参加者がありました。また,Webページやメーリングリストによって,積極的な意見交換が始まっております。 ▲神奈川県高等学校教科研究会・情報部会(http://www.johobukai.net/)
ここでは,本校の「情報科」11人の教員を対象におこなったアンケートからコメントの一部を紹介します。 (1)「情報」の授業を担当してみようと思ったきっかけ ○授業を担当することで勉強になる思ったから。 ○パソコン教室が設置されたので,自分の専門の教科で活用しようと思い,そのステップとして。 ○本校での「情報」の授業を見て興味を持ったから。 ○自分への刺激が欲しかったから。 ○本校が積極的に取り組んでいるから。 ○コンピューターを普段使っていて,少しは手伝えると思ったから。 (2)「情報」の授業のおもしろいところ ○実習を通じて,生徒の意外な一面を見ることができる。 ○教材研究で新しい知識を得られる。さらに,その知識を生徒に教えて喜んでもらえた。 ○座学と実技の両方の要素をもっている。 ○日々進歩している事柄を教えるので,常にフレッシュである。 ○教材に工夫がたくさんできる。 ○作品を自力で完成できる。 ○理系の生徒だけが有利ではない。 ○多様な能力を発揮できる。 ○縦割りではなく幅広い視野で取り組める。 ○少人数であり,生徒一人一人の質問・疑問に対応できる。 (3)「情報」の授業で苦労するところ ○生徒のスキルに差がある。 ○自己表現の苦手な生徒への対応。 ○自分の勉強不足が授業にでてしまう。 ○スキルアップを要求されることや教材がそろっていない。 ○やる気のない生徒をどう乗せるか。 ○事前の準備が相当必要である。 ○ハードやソフトウェア,通信等全般にわたる幅広い知識が必要である。 ○世の中の技術進歩が速く,勉強に自己投資も必要である。 ○生徒の突然の質問に対して,上手く指導できないとき自己嫌悪になる。 ○幅広い質問を受けるので,かなりの予習が必要である。 ○生徒に出す課題を自分でもやっておかなければならず,結構時間がかかる。 ○授業中に思わぬ事が起こる可能性があり,幅広い知識が必要である。 (4)川崎北高校「情報科」のいいところ ○教員のモチベーションが高く,皆で作り上げていこうという勢いがある。 ○力不足の私にも親切に教えてくれる。 ○全教科にまたがっているので,理系っぽい考え方に偏らずに『情報』を考えていける。 ○躊躇せずに,試しにやってみようという意欲がある。 ○多人数で授業を担当している。 ○職員の手で校内LANを引いてインターネット環境を築いた。 ○リーダーがいて,それをみんなが支えながら手作りですすめている。 ○環境整備等で,学校を挙げて後押ししてくれる雰囲気がある。
(1)免許取得者が指導しなくてはいけない? 平成12年度から14年度にかけて全国各地で新教科「情報」現職教員等講習会が実施され,平成15年度の「情報」の必修化がスタートすると,「情報」の授業は「情報」の免許を取得した教員が担当クラスに一人はいなくてはならないといったことになりそうです。そうなると,本校のように国語と体育のような組合せで「情報」の授業を担当することができなくなる可能性が高く,そういう意味では必修化によって教科を超えた教科「情報」を取り組みは後退してしまいます。数学,理科,家庭科以外の教員で,今までの情報教育を支えてきた先生は多く,その先生方の力を無駄にしないためにも,「情報」の免許を取得したばかりの教員と,情報教育を今まで支えてきた経験豊かな教員とが力を合わせていく必要があります。 (2)評価方法の研究 幅広い「情報」の授業内容を幅広い教科の教員が担当することは大変よいことではありますが,評価については,今まで担当してきた教科の経験がもとになってしまい,評価の観点がバラバラになってしまうことがあります。そうならないように,授業に入る前に評価の基準を決めておいて共通の理解のもとで指導する必要があります。このあたりのことは,本校では意識して取り組んできました。
もともと「横断的」な教科といわれる「情報」を立ち上げるには学校全体の組織的な取り組みが大切で,一部の教員だけで抱えるようではうまくいかないと思います。さらに,全国的な教科「情報」の実践事例の共有化を早急に進める必要がありますが,情報科の教員のスキルをもってすれば,最も共有化を進めやすい教科のはずです。今後,もっと多くの学校で情報教育の実践事例が公開されることを期待します。