リテラシーは,これまでは,文字の読み書き能力を示す概念であった。しかし,今日では,情報リテラシー,メディアリテラシー,コンピュータリテラシー,映像リテラシーなどの言葉が日常的に使われるようになっている。このように,リテラシーの概念は,文字の読み書きを越えてかなり広義になってきているといえよう。このことは,コミュニケーションにおける文字の役割が,従来ほどには独占的でなくなっていることを意味する。リテラシーを,その社会が必要とする基盤的コミュニケーション能力と理解するならば,今日の社会が必要とするコミュニケーション能力を手がかりに,そのリテラシーを検討する必要があろう。 ここで,コミュニケーションのリテラシーは,文字の読み書き能力や話し言葉に代表されるように,情報の送り手としての能力と同時に情報の受け手としての能力の双方の能力を指す概念として理解しておく必要がある。 私たちの生活は,人々とのコミュニケーションによって成り立っているといえる。これらのコミュニケーションは,ほぼ三つの形態に分かれるように思われる。一つは,「対面コミュニケーション」といわれる形態である。人類の歴史から見ても,誕生から始まる人間の成長を考慮しても,人のコミュニケーションの最も基本となる形態である。この形態のコミュニケーションで求められるリテラシーは,対面する相手の話を聞く力と相手に話す力である。話し言葉に加えて,表情や身ぶりなどによる表現やそれを読みとる力なども必要となる。小学校では,総合的学習の時間などで国際交流など外国とのコミュニケーション能力の基礎を培うことになるが,そこでは,まず対面コミュニケーションでの話す,聞くといったリテラシーから始まることになろう。また,同時に,このコミュニケーションでは,討論で必要とされる論理的に話を展開するなどの能力も養うことになろう。 文字のリテラシー 2つ目は,子どもが小学校へ行くときから始まる学校でのコミュニケーションに典型的にみることができる。学校では,教科書を使用し,文字で表現された文化を子どもは学び,自分の考えを文字で表現して,伝える。「文字を介するコミュニケーション」の始まりである。かくして,文字の読み書き能力が必然的に求められる。文字は学習されなければならない記号であると言われる所以である。話し言葉が中心であった時代においては,記憶力が大きな力を持っていたが,文字による記録が可能になると,文字を介しての学習と表現力がこの形態でのコミュニケーションで大きな力を発揮する。人の能力が,文字を媒介に測定され,評価される。当然ながら,文字を介するコミュニケーション形態では,文字の操作能力が大きく影響を及ぼすことになる。 社会の発展と存続は,極端に言えばこの文字という記号によるコミュニケーションに依存してきたとも言える。人々によって形成されてきた多くの文化は,文字によって表現され記録され伝達されてきた。そして,先人の文化の享受は,文字の読解能力に全面的に依存してきた。学校教育の主要な役割は,文字のリテラシーであると言っても良いほどである。 また,コミュニケーションメディアとしては,ラジオやテレビなどの電気メディアの開発によりマスメディアが発展したが,そこで,必要とされる能力は受信する能力であって,文字のように特別に学習を必要とはしない。映像視聴能力などの概念も検討されたが,リテラシーとしては,送信能力を必要とするものではなかった。したがって,これまでの映像関係のリテラシーは,受信と発信の能力を含む本来のリテラシーではなかったのである。 情報科のリテラシー 3つ目は,「情報ネットワークによるコミュニケーションの形態」である。この形態のコミュニケーションには,マルチメディアで表現されるように,文字・数値・画像(動画)・音声などがマルチメディア上に統合された情報が対象となることと,インターネットに代表されるように,どこでも誰もが不特定多数に対して情報を発信し,かつ彼らから受信できると同時に他人の情報源を検索し容易にアクセスできることである。このコミュニケーション形態は,従来の印刷メディアによるコミュニケーションとは決定的に異なる能力や態度を必要とする。その一つは,コミュニケーションとして扱うシンボルが複合的であることにある。これまでは,文字は紙メディア,音はテープ,動きはビデオといったように,シンボルとそれを表現するメディアは単体であった。したがって,文字は文字,映像は映像というように単一のシンボルでの表現方式であった。マルチメディアによって,こうした単一シンボルでの表現が,音や画像,図表,数値,文字,画像などを組み合わせ統合して表現できるようになった。こうした,マルチシンボルによる表現は,単一シンボルの表現に生きてきたわれわれに,マルチシンボルの操作を要求する。これからのコミュニケーションは,文字・数値・画像(動画)・音声などがマルチメディア上に統合された情報によってなされるのである。マルチシンボルが複合化されそれによって表現された情報を読み書きする能力,新しいリテラシーの登場である。 ▲科目と内容 また,ネットワークを利用して容易に多くの人に情報を発信できるネットワークコミュニケーションが特色である。これに伴い,ネットワークによるコミュニケーションでの誹謗,不正浸入,不正行為などルールやエチケット,倫理などの課題がでてきている。したがって,新しい形態でのコミュニケーションに伴う,こうした能力や態度などが,新しいリテラシーとして総合的に学ばれなければならないといえる。