ブックタイトル情報セミナーレポート Vol.1

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概要

情報セミナーレポート Vol.1

10 11これまで本校の情報科では,統計を扱っていなかった。その状況を変えるために,数学科とコラボして統計の授業を形づくろうと思ったのがきっかけである。生徒は数学Ⅰ,数学Aで統計に触れることはあっても,たった10 個程度のデータを扱っているだけであった。しかし,これだけでは「統計をやった」とは言えない。Excel などを用いて大規模なデータを分析し,自分たちが求めるデータを引き出すことこそが,統計の第一歩である。例えば,ほとんどの学校で,100 個,200 個と数字が並んでいるデータを生徒に渡し,「これを分析しなさい」と言っても,生徒はどうすればよいか分からないという反応を示すと思う。そんな生徒たちが段取りよく,第一歩を踏み出せるようにすることが,現状の情報科の授業でできる統計ではないかと考えている。単元のねらいは大きく分けて3つある。1つ目は,「多量のデータを扱えるようにする」ということである。数学科でできる統計は,データ数が非常に少ない。また,計算上の都合もあるため,標準偏差を出すにもきれいな数字が出てくる。2つ目は,「統計処理をした結果に基づいて考察する」ということである。生徒たちは数字で示されたデータを鵜呑みにしがちである。しかし,そうではなく,その結果に基づいて考えることが大切だということを情報科では教えなければならない。3つ目は,「考察したことを他人に伝える」ということである。生徒が社会に出たときに,自分の考えを効果的に相手に伝える力を身につけさせる必要がある。授業では,まずは個人で「学習時間とスマートフォンの利用時間について」の相関の有無などを調べさせる。放送大学が提供しているREAS というシステムを使い,学年全員分の生のデータを集める。そして,集めたデータを加工して散布図と相関係数を実際に出し,複数の分析手法からどのようなことが分かったのか,また自分で考えたことについてまとめる。このように,まずは個人で一連の分析作業をさせた上で,次にグループ活動を行う。グループの課題は,「集められるデータであれば,自分たちでテーマを設定して調べなさい」というものである。ただし生のデータを集めるため,生徒全員が答えられるようなもの,また,数量データを扱うというルールを設けている。生徒が考えたテーマを採用してデータを取らせると,欠損値などが出てくる。このようなデータとしてふさわしくない部分が発生しても,あえて分析を続けさせ,失敗したあとに欠損値やデータの質,また,正規分布になっていないと効果的ではないという説明を行う。最後に,どういうことに気づいたか振り返りをさせる。実はうまくいかなかった生徒の方が学ぶことが多い。もちろん教員は生徒に対して,失敗しても評価が悪くなるわけではないという担保を行い,しっかりとフォローすることで,効果的な授業になる。このような授業であれば,8時間程度で行うことができる。3年間統計の授業を実施した中で,新学習指導要領と照らし合わせた今後の課題を検討する。データを扱う部分は,(4)「情報通信ネットワーク統計分析の授業を考えた背景単元のねらい授業内容と目的「情報Ⅰ」に向けて発展させるべきこととデータの活用」の項目にあたる。解説を細かく見ていくと,(4)のア(ウ)には,関係データベースや尺度水準の違い,欠損値の扱い,データの変換,さらにテキストマイニングの基礎などについて書かれている。図1 新学習指導要領「情報Ⅰ」解説より①さらに,イ(ウ)には,仮説検定や表形式以外の時系列データ,オープンデータ,統計ソフトウェア,タグクラウドなど,かなり踏み込んだ項目が入っている。図2 新学習指導要領「情報Ⅰ」解説より②図3 データの活用で求められていることこれらを噛み砕くと,新学習指導要領で求められていることは,まず前提知識を押さえ,生徒自身がデータの収集を行い,可視化し,欠損値を考慮しながらデータを整理し,分析したのち発表,評価するということだと考えられる(図3)。この流れ自体はごく自然である。なぜなら分析を行うことはもちろん,分析の内容が実社会に適合するかどうかの評価もしなければならないからである。これは,今後AI などを扱う状況下で身につけなければならないスキルである。そもそも大学で情報科教員免許を取る場合,統計を学ばなくても情報の免許を取ることができる。しかし,「情報Ⅰ」では,統計に触れたことのない情報科教員も,統計を教えなければならない。そのための対策として,確率統計学の基礎を勉強しておく必要がある。新学習指導要領では,数学科においてもさらに高いレベルの統計を教えることになる。また必要な基礎知識ということで,ネットワークやそれに付随するデータベースの知識も,生徒に教える時間を確保しなければならない。教科書に載っているキーワードを覚えさせるだけでなく,どのように効果的に教えるのか考えていかなければならない。さらに,数学科との協力体制も今後より重要になってくる。将来的に,統計の分野は情報科がすべて受け持つようになる可能性がある。情報科ではプログラミングやデザインも教えなければならない。どういう順序で教えて,どう担保していくのか,数学科と情報科の2教科間で綿密な打ち合わせが必要になってくる。評価については,今後,何らかの評価軸の設定をすることになると思われる。個人の見解としては,おそらくルーブリックを使った評価になると考えている。評価者ごとのブレを抑え,生徒を適切に評価する力を養わなければならない。統計の分野に関わらず,評価や振り返りを行い,生徒にどのような力がついてきたのかを考え,次にどう生かすのかという授業デザインを作っていくことが求められる。新学習指導要領を踏まえた対策案神奈川県立横浜翠嵐高等学校 教諭 三井 栄慶「社会と情報」で実施している統計分析の授業と「情報Ⅰ」に向けて発展させるべきこと