先輩からのアドバイス vol.45
【マンガ】「叱る」と「指導」

指導や授業で、つまずきがちな悩みや疑問をとりあげ、ベテラン教師から読者と同じ目線で問題解決へのアドバイスを提案します。


ここがポイント

教師の思いと子どもたちの感受

 今回は、教師が本来の授業から逸脱してしまったと思われる行為をしていた子どもを制止する場面でした。そこに若い太田先生とベテランの山本先生の指導の様子が登場したわけですが、この二人の指導のどこに違いがあったのでしょうか。指導の過程において「叱る」という指導は、あまり良い指導とは言えません。原因の所在に問題がある場合が多いからです。しかし今回のような場面は誰しも経験することかもしれません。
 太田先生の「叱る」という行為に、二人の生徒の行為は是正されたかに見えましたが、指導できたと言えたのでしょうか。太田先生の行為は冷静さを忘れ、自分の感情を爆発させ、発散したことでしかなくなってしまっています。その結果、問題の生徒たちは学びの輪から突き放されたような指導で、この二人の子どもたちとの関係に良くない後味の悪さが残してしまっていますね。
 それに対して山本先生の「叱る」という指導を見てみましょう。ベテランの山本先生は、最初大きな声を出しています。教室は一瞬、凍り付いたように学習がストップしてしまいますが、大切なことは、「叱る」という行為のなかにも二人の子どもを包み込む優しさが感じ取れるということです。子どもを自分たちのほうに引き込む、教室に居る友だちは同じ時間と空間、そして学びを共有する仲間だという山本先生の思いと愛情がこの指導を支えているといえます。教室には短時間で笑顔が戻っていますね。ここが二人の教師の指導の差となって表れているわけです。感情的になる指導は指導とは言えず、教師の利己的な行為でしかありません。

指導の根底にあるもの

 山本先生の指導の優れている点をもう一つ考えてみましょう。それは二人の生徒をただ叱るのではなく、冷静によく観察できているということです。教室の雰囲気を見定め、先生自身の表情や声の大きさだけではなく、トーンの変化のさせ方や言葉の選び方などを有効に働かせ、教室全体を学びに向かわせる流れに変化させています。
 授業では学習の目標を見定め、そこに向かう計画を教師は立てます。しかし、生徒は一直線にその目標に向かおうとはしません。いろいろな興味が想像もしなかった派生を生むことなど珍しくありません。美術の授業ならばなおさらですね。ときとして本来の授業計画とは違った方向性を生んでしまうこともあります。
 子どもたちの思いをくみ取りながら、授業として子どもたちの学習に対するエネルギーを大切にして、それを学びにどのように生かしていくのかは、重要な指導の方向性となります。子どもたちは、学ぶことを教師の人間性や人柄と切り離して心のなかに取り込もうとはしません。「学ぼうとする力」を共有し、いかに子どもたちを育てるのか、教師一人ひとりの技量が問われます。
 
(シナリオ・監修、文 川合 克彦)