教科情報誌『形 forme』連載企画「学びのフロンティア」に登場した先生方の取り組みや指導の工夫をさらに深く伺います。第4回目は318号で紹介した大阪教育大学附属平野中学校(実践時)の中島嵩先生です。
題材の始まりは、生徒が示した“可能性”がきっかけ
墨流しから妖怪をうみだす授業は、生徒とともにつくり上げてきた題材だという中島先生。もともとはモダンテクニックの組み合わせで、自分が想像した世界を表わそうという授業を行っていました。その授業を行っている際に、ある生徒が目の前の模様を見て、「妖怪みたいに見える! 先生、こういうの好きでしょ?」と発言したことがきっかけでした。
また、生徒の活動の様子から、題材の広がりを見出すこともありました。「こういった題材の場合、複雑な模様から必要な情報を選び出してシンプルにしていくパターンが多いのですが、ある生徒の場合は、ひとつ象徴的な部分から発想を広げて“天狗”をうみだしていました。確かにこういった展開もあるんだなと。こういう可能性を示してくれるのが、子どものすごいところだと改めて感じました」(中島先生)
その後も、どういったところで生徒の発想力が働くのか、墨流しをした和紙の裏側から彩色をしてみたり、1色ごとにトレーシングペーパーで“色の層”を重ねてみたりなど、中島先生自ら試行錯誤。今でも生徒たちの発想力を存分に生かすいい方法はないか、模索中です。「いつか、いろいろな地域でこの活動を取り入れていただき、全国各地から“妖怪”を集結させ交流できれば面白いな」と、中島先生は題材の夢を語ります。
“発想”の糸口と、表現した“形”を関連づけ
妖怪図鑑の授業を通し、「自分が発想したことを、形にできるのは自分だけだということに気づいてほしい」という中島嵩先生。そのため中島先生は、発想の糸口を振り返ることを大切にしています。
「妖怪図鑑の授業の進め方を考えるにあたり、教材研究として、墨流しをした和紙に直接彩色したこともありました。そして現在は、墨流しの模様の中から形を見つけ出し、重ねたトレーシングペーパーに描くという方法に落ち着きました。元の模様と描いた作品とを見比べることで、『そうか、ここから発想したのか!』と後から振りかえることができます。自分の作品だけではなく、友だちの作品を振り返ることができますので、友だちはどういう形から何を発想して妖怪を描き出したのかに触れることができます。発想することはもちろんですが、それを形にすることも同じくらい大事にしてほしいなと思います」(中島先生)
また、発想したことを形にするためには、考えたことや感じていることを整理する必要があります。その際に利用しているのが、データシート。妖怪の名前や生息地、性格に至るまで、妖怪に関するストーリーをまとめたものです。「表現というのは、自分の想いを他の人に伝えることと等しいものです。表現の精度を上げるためにも、データシートと作品の往還も大切にしています」(中島先生)
他の人の発想に触れ、想いを受け取ることで、他の人を容認する力を育んでほしい。そのためにも中島先生は、可視化することが難しい“発想”や“想い”を形にして、誰もが触れることができる方法を模索し続けています。
文:八波志保(Playce)