vol.04 富山県南砺市立城端中学校 藪陽介 先生
詳しく解説! 私の指導計画(2年生編)

 美術の先生が実際に立てられた年間指導計画を紹介、解説するコーナー。前回に引き続いて解説いただくのは、南砺市立城端中学校の藪陽介先生。今回は、2年生の年間指導計画に焦点を当てて解説いただきます。

 以下より、藪先生が立てられた2年生の年間指導計画の表がダウンロードいただけますので、ぜひ記事と併せてご確認ください!
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目 次

1.2年生の年間指導計画、どうやって考えている?~

2.実際の年間指導計画を解説!?

・4-6月:オリジナル富山もようのエコバッグ
・7月:長谷川等伯の世界 ~松林図屏風の謎~
・9-11月:水と墨を操る ~水墨画に挑戦~
・11-3月:世界で一つだけの印章 ~篆刻印をつくる~

1.2年生の年間指導計画、どうやって考えている?

 2年生では、1年次で行った内容をスパイラル的に発展させられるよう題材を組んでいます。また、学習指導要領でも触れられている、「日本の美術」に親しめるような内容を含めています。また、2学年に関わらず常に意識しているのは、「いま行っている題材が、授業のみで終始するのではなく、社会とどうつながっているのか」を実感させながら提示していくこと」です。そのために、地域を取り上げたり、映像資料などを視聴することで、美術文化を意識させることを大切にしています。

2.実際の年間指導計画を解説!

 筆者が、2年生の年間指導計画を立てる際に、どんなことを意識していたのかを題材ごとに解説します。

4-6月:オリジナル富山もようのエコバッグ

 富山もよう(https://toyamamoyou.jp/)は、デザイナーの鈴木マサルさんが県内の名物を、かわいらしく洗練されたデザインされ、さまざまなプロダクトとして人気を得ています。この題材では、「身の回りの装飾(模様)に興味をもつ」「消しゴムハンコを素材とし、版表現の魅力を感じ取る」「地域のよさを見直し、美術を通して地域を活性化させる視点を広げる」ことをねらいとして取り組んでいます。
 消しゴムハンコの制作では、実際のモチーフをもように落とし込む際、単純化や強調化など構想を深めたり、他版多色表現の先例として、浮世絵版画の制作工程を紹介しながら、美術文化とのかかわりを意識できるよう指導計画を構成しています。
 また、実際にバッグに押す前に、PCでのプレゼンテーションソフトを利用してレイアウトのシミュレーションを行っています。写真で取り込んだ1つの図版を、自在に「コピー」「並べかえ」をすることにより、様々なイメージを視覚化した上で本制作に臨むことができます。

生徒作品。雷鳥模様

PC上でのレイアウトシミュレーション

7月:長谷川等伯の世界 ~松林図屏風の謎~

 この後の題材「水墨画」につなげるための導入としての鑑賞です。生徒の実態として、水墨画というと雪舟という認識はもっています。ちょうど社会科の歴史分野でも既習しています。そこで、水墨画の認識を広げるためにも長谷川等伯を取り上げ、国宝でもある「松林図屏風」を鑑賞します。ここでは、以前NHKで放送されていた「迷宮美術館」での松林図屏風の回を視聴しながら、クイズ形式で松林図や等伯の謎に迫ります。

9-11月:水と墨を操る ~水墨画に挑戦~

 小学校では図工で墨をあつかっていることもあります。そこでは、にじみやかすれなど墨の効果を生かした表現を体験していることが多いです。中学校ではそれを発展させ、「基本の筆づくり(水→淡墨→濃墨 の順で筆にしみこませる)」、「積墨法」や「破墨法」などについて実習します。
 それらの技法体験を生かし、日本美術に関するものをモチーフに色紙に描きます。その選択肢には、①絵 ②仏像 ③建物(寺社仏閣など) ④日本庭園 と設定し、明治時代より古くからあるものとします。これは、3年次に実施する関西方面への修学旅行の事前学習の意味合いも込めています。自分が描きたいものを設定し、写真などをもとに、各々の考えで水墨表現に落とし込むことをねらいとしています。

生徒作品。伐折羅像は薬師如来を守護する十二神将のひとり

生徒作品。京都府宇治市の平等院

11-3月:世界で一つだけの印章 ~篆刻印をつくる~

 この題材は、多くの実践がなされているポピュラーな題材です。ここでは、大きく3つの要素が含まれるととらえています。①文字(自分の名前)を好きな書体でバランスよくデザインすること(平面デザイン) ②デザインをもとに石を素材に版表現すること(工芸) ③持ち手(紐(ちゅう))を立体的に彫刻すること(カーヴィングとしての彫刻)。
 平面デザインとしては、1年次の「絵文字をつくろう」、版表現としては2年次に行った消しゴムハンコ(富山もよう)での発展ととらえています。そして、石を彫刻することは、ほとんどの生徒が初めてのことです。粘土を素材として扱ったことはありますが、ここでは「モデリング」と「カーヴィング」の違いについて実感させたいという願いがあります。また、平面表現はできても、立体表現ができない、という生徒も多くいます。四角の塊から徐々に形を表していく喜びを感じてもらいたい、という思いで行っています。さらに、前述の水墨画作品にも落款印として押し、関連性を図っています。
 なお導入には、NHK「美の壺(印章)」を視聴し、興味・関心を高めています。

生徒作品


執筆者紹介

藪 陽介(やぶ ようすけ)
富山県南砺市立城端中学校 教諭

○経歴
1990年   富山大学教育学部小学校教員養成課程図画工作科専攻卒
1991年~  小矢部市立石動中学校
1994年~  井波町立(現 南砺市立)井波中学校
1998年~  砺波市立般若中学校
2003年~  城端町立(現 南砺市立)城端中学校
2004年~  富山大学教育学部附属中学校
2013年~  南砺市立福野中学校
2021年~  南砺市立城端中学校 勤務