美術の先生が実際に立てられた年間指導計画を紹介、解説するコーナー。今回から3回にわたって解説いただくのは、弘前市立第五中学校の髙橋憲司先生です。初回となる今回は、1年生の年間指導計画に焦点を当てて解説いただきます。
以下より、髙橋先生が立てられた1年生の年間指導計画の表がダウンロードいただけますので、ぜひ記事と併せてご確認ください!
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目 次
3.実際の年間指導計画を解説!
・4月:発想力トレーニング
・5~7月:何と読むんでしょうか?
・9~11月:見付けてみよう 自分だけの小世界
・12~1月:使いやすい箸ってどんな箸?
・1~2月:文字やマークで伝えるデザイン
・3月:折って切って何ができる?
1.はじめに~年間指導計画を立てる際に意識していること~
3年間を通して美術の時間で育みたい資質・能力を考えるところから始めます。3年生で行う題材を考え、そこで身に付けておくべき力をイメージし、1年生で付けてほしい力、2年生で学んでほしいこと…のように発達段階を考えながら、それに合った題材を考えることを大切にしています。
学校に応じて美術室の作品保管場所を考え、置き場所がなくならないよう取り組む順番を工夫したり、学期できりよく終わることができるよう題材の順番や内容を工夫したりします。
2.1年生の年間指導計画、どうやって考えている?
生徒が「難しい」、「つまらない」、「やっぱり図工・美術は嫌い」という感覚をもつことがないよう配慮します。思ったよりも簡単と感じさせるような活動から始め、楽しいと感じさせながら少しずつ技能を身に付けさせるように進めていきます。「これでもいいんだ」「こうすればできるんだ」という声が授業内で聞こえてくることをイメージして、ハードルは低く設定し、少しずつ負荷を上げていく感じに計画をします。
3.実際の年間指導計画を解説!
筆者が、1年生の年間指導計画を立てる際に、どんなことを意識していたのかを題材ごとに解説します。
4月:発想力トレーニング
決められたシンプルな条件を基に、一本の線や一つの円を独自の発想で何かの絵や場面に変える題材です。互いの作品を鑑賞し合うことで、うまさではなくユニークな発想や、その人ならではの工夫が人の心を動かすことを学ぶ機会になってほしいと考えています。
5〜7月:何と読むんでしょうか?
抽象的な表現を知り、形と質感だけで言葉の意味を表し伝える立体作品の制作に挑戦する題材です。粘土を用いて、彩色には一色のみ使うことを条件に表現を進めていきます。中学校で初めて作品を誕生させる題材ですが、3年生で卒業制作的に取り組ませたい作品でも粘土をメイン材料にする予定なので、ここで基本的な粘土造形の知識と技能を教えながら進めます。
また、この題材の前には「アクリル絵の具の基本技能を身につけよう」という題材を行っています。そのため、身に付けたばかりのアクリル絵の具できれいにベタ塗りをする彩色の技法を活用する場面にもなります。
題材の最後は「鑑賞会」を行い、実際に「何と読むんでしょうか?」を体験します。
9~11月:見つけてみよう 自分だけの小世界
「視点の工夫」をテーマに身近な風景から一部を切り取り、構図の工夫をしながら表す題材です。この題材では様々な絵画の表現方法を学び、挑戦しながら進めていきます。
入学してからここまでの題材では、絵の具に関してはきれいにベタ塗りをする方法しか学んでいないので、ここで小学校で経験してきた水彩絵の具による表現を思い出させながら、様々な表現方法を学ばせるという意味で設定している題材です。
また、表現方法以外にも「対象や事象を捉える造形的な視点について理解する」機会とし、様々な見方や見せ方を工夫させます。
12〜1月:使いやすい箸ってどんな箸?
日頃当たり前に使っている箸の、持ちやすさや使いやすさを考えながら制作する題材です。
この題材では「塗り」は行わず、「使いやすい形」にだけ絞り込み、実際売られている既製品の箸を参考にしながら短時間で制作します。誰に使ってもらうかというところから主題を生み出し、持ったときの扱いやすさ、小さいものや細いものの取りやすさ、疲れにくさなどを考えながら制作していきます。
短時間題材なので、学んでほしいことを絞り込み、数種類のやすりを使って形だけを工夫して進めていきます。
1~2月:文字やマークで伝えるデザイン
デザインの基礎的な知識や技能をしっかりと身に付ける目的で行い、生活と美術の関わり、自分らしさについて意識しながら、オリジナルのロゴを制作する題材です。この題材では生活の中にある美術に目を向けさせることに重きを置いています。
身の回りにあるデザインに気付く活動、実際にある企業のロゴ鑑賞で、その分かりやすさや企業らしさなどを考える活動などを行い、その後に自分のロゴを自分らしく工夫しながら表現する流れで指導します。
実際に制作したロゴを切り抜いて、使用するクロッキー帳の表紙にステッカーのように貼らせるので、自分の持ち物に自分のデザインが生きるような体験ができると考えています。
3月:折って切って何ができる?
色画用紙を用いて、紙の造形で装飾物を制作し、実際に校内を装飾する題材です。
2時間のみの短時間題材なので、教科書や本、Webサイトなどに出ているものを参考に、真似をしながら制作させます。3年生が同時期に制作する「卒業式を飾る」で制作したものと合わせて装飾に使うため、主題は「卒業生へ贈る気持ち」から発想し、「感謝」や「祝福」の気持ちを自分らしく色や形を工夫して制作させます。
窓の桟や壁に画鋲やテープで貼って装飾します。
髙橋憲司
弘前市立第五中学校 教諭
○経歴
1997年 弘前大学教育学部中学校教員養成課程美術科卒
1998年~ 弘前市立第一中学校
2001年~ 平川市立尾上中学校
2006年~ 弘前市立津軽中学校
2009年~ 弘前市立東目屋中学校
2017年~ 弘前市立第一中学校
2022年~ 弘前市立第五中学校 勤務