vol.02 横浜市立篠原中学校 吉田 浩気 先生
詳しく解説!私の指導計画(3年生編)

 美術の先生が実際に立てられた年間指導計画を紹介、解説するコーナー。前回に引き続き、横浜市立篠原中学校の吉田浩気先生に解説いただきます。今回は、3年生の年間指導計画に焦点を当てて解説いただきます。

 以下より、吉田先生が立てられた3年生の年間指導計画の表がダウンロードいただけますので、ぜひ記事と併せてご確認ください!
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 また、3年間分の年間指導計画をまとめた表は以下よりダウンロードいただけます。
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目 次

1.3年生の年間指導計画、どうやって考えている?

2.実際の年間指導計画を解説!
・4~5月:御仏(みほとけ)を紐解け!~仏像鑑賞~
・5月:写真は本当に「リアル」か?
・6~7月:Doodle for me ~「自分」を発信するGoogleロゴをデザインしよう~
・8~10月:「メッセージ」を身に付ける~よりよい社会に繋がるロゴデザイン~
・11~1月:忘れられない感覚 ~見えないものをカタチに~
・2~3月:今と未来をつなぐ自画像

3.おわりに

1.3年生の年間指導計画、どうやって考えている?

 3年生のテーマは、「未来へつなげる」です。自分の在り方や進路に思い悩む時期だからこそ、感性や想像力を働かせて表したいイメージを思い描くことの大切さに気付かせるとともに、じっくりと時間をかけて自分や対象と向き合うことで、卒業後の豊かな生き方につながるヒントが得られるような授業を意識しています。

2.実際の年間指導計画を解説!

 筆者が、3年生の年間指導計画を立てる際に、どんなことを意識していたのかを題材ごとに解説します。

4~5月: 御仏を紐解け!~仏像鑑賞~

 修学旅行に向け、仏像をはじめとする日本美術の鑑賞を行います。外見の造形的特徴や面白さだけでなく、つくり手の思いに心を寄せ、諸外国の宗教美術との比較や文化財保護の視点を交えながら、主体的に日本の美術文化と関わろうとする態度を育めるよう意識します。

5月: 写真は本当に「リアル」か?

 「記録」と「表現」の2つの側面から、報道写真を含む様々なジャンルの写真を鑑賞し、写真表現が社会にもたらす影響や意義を考えていく授業です。SNSやインターネットの普及・進歩が著しい昨今、表現手段としてだけではなく、メディアとしての写真の功罪について考え、批判的に写真や映像と向き合えるようになってほしいとの思いから、設定した題材です。

6~7月: Doodle for me ~自分を発信するGoogleロゴをデザインしよう~

 「Doodle for me ~自分を発信するGoogleロゴをデザインしよう~」は、記念日で変わるGoogleロゴ(通称Doodle)にヒントを得て、「自分を発信する」をテーマに、端末を飾るGoogleステッカーを制作します。3年生で行うにはやや易しい題材ですが、文字やロゴデザインに関する既習事項を生かしつつ、自分の趣向やスタイルといった要素も取り入れられる「ライトな自画像」のような題材を意識しています。描画アプリによる画像の加工・編集の技術を学び、その後の授業でも生かせるよう指導します。

8~10月:「メッセージ」を身に付ける~よりよい社会に繋がるロゴデザイン~

 「メッセージを身に付ける」は、未解決の社会問題に対する自分なりのメッセージをロゴデザインで表現し、シルクスクリーンの技法を用いて衣服や布製品等にプリントする授業です。着なくなった服や布製品を持ち寄り、プリントを施すことで新たな価値を付け加えることや、デザインを通してよりよい社会の実現に関わろうとする態度を育みたいとの思いを込めています。

11~1月:忘れられない感覚~見えないものをカタチに~

 多くの生徒が高校入試を間近に感じ始める秋には、目に見える結果や数値ばかりにとらわれず、日々変化する感情や心の動きといった「目には見えないもの」にも意識を向けてほしいと、「見えないものをカタチに」をテーマとする題材を設定しています。安易な作例の模倣に陥らないように「抽象」という言葉は使わず、「見えないものを形にするにはどうしたらいいか」という問いを、一人一人がじっくりと考え、意見交換や鑑賞を交えながら授業を進めていきます。答えは一つではなく、多様であっていい。自分なりの表現にこそ価値があるという美術科としてのメッセージを伝えたいです。

生徒作品「浮き立つ ukitatu」

生徒作品「浮き立つ ukitatu」

【作者の言葉】
初めて音楽をしっかり聴いたときの高揚感等を表現した作品なので、高揚感と同じような意味の『浮き立つ』という題名にしました。
その時聴いた曲はリズミカルで元気な感じで聴いていくほどに心臓がばくばくして感動などいろんな気持ちがでてきて、この忘れられない感覚は体中に広がっていったので、全体的に大きく平面的に成形を行いました。

2~3月:今と未来をつなぐ自画像

 最後の題材は、鏡に映る「今この瞬間の自分の顔」を描きます。描くことが自分との対話につながること、未来の自分がこのスケッチブックを開き、中学生だった頃の自分と対面することで何を感じるか…などを問いかけながら授業を進めます。描いた自画像の横には、3年間の美術で学んだことを記入・発表してもらい、自身の成長やこれからの未来につながる力を確認しながら、3年間の美術の学習を締めくくります。

3.おわりに

 年間指導計画は、生徒の実態や学校の状況に応じて常に調整が求められます。合理的配慮や支援を必要とする生徒への手立て等、一人では十分に気を配ることが難しい課題もあります。それでも、美術は多くの生徒・大人にとって魅力的で創造性あふれる教科です。一人で抱えるにはあまりにもったいなく、授業の半分は生徒や職員と共につくっていく、くらいの意識で進めていくことが、学びの豊かさや広がりにつながっていくのではないかと感じています。


執筆者紹介

吉田浩気
横浜市立篠原中学校 教諭

 

○経歴
2012 武蔵野美術大学大学院造形研究科修了
2012〜横浜市立谷本中学校
2018〜横浜市立篠原中学校 勤務