美術による学びの成長ストーリーvol.06
「出会い」の季節の、美術の学び

 中学校の美術による学びのチカラを、3年間の生徒の成長する姿に重ね、
読者と一緒に考える、連載コラムです。

平成28年度版 美術1 P.2~4 日本文教出版

 今年も、新入生を迎えました。これからはじまる中学校生活への期待を胸に、真新しい制服に身を包んだ新入生が入学してきました。新入生だけでなく、新しい学年になった2年生、3年生たちも同様に、春の香りと温かな陽光を全身で感じながら、新しい出会いに胸躍らせていることでしょう。そんな、新学年の「美術」の学びのテーマは、やはり「出会い」です。

 中学校1年生の担当になったH先生も、中学「美術」との最初の出会いはとても大切だと考えていました。そして、教科書の最初のページをめくるとドーンと現れる、ゴッホの《種まく人》との出会いを活かしたいと考えました。
 最初、生徒たちは口々に「見たことがある」とか「なんか凄い」とか、興味を感じている様子でした。そこで「この絵には何が描かれていますか?」と問いかけました。すると「種をまいている人」、「畑?田んぼ?」、「夕陽?」と、口々に題名そのままや、そこに描かれているものを取り上げるばかりでした。
 H先生は、自分の聞き方が良くなかったことにすぐ気付きました。そこで生徒たちに「もし題名が分からなかったら、この人が種をまいている人だっていうことはどこを見たら分かるのかな?」と問いかけてみました。生徒たちは「え?」と意外な気持ちを表情に表しつつ、今一度教科書を見直し始めました。
 「なんか赤ちゃん抱っこしているみたい」、「右手を振っている感じは何かをまいているみたい」、「ここに黒く描かれているのは鳥じゃない?」、「あ、まいている種を食べに来た?」、「夕焼けが凄く輝いている」、「熱そう、パワー感じる」、「でも、すぐ沈んじゃいそう」等と、対話を進めながら気付きを共有していきました。
 「ゴッホはなぜこの場面を描こうとしたのでしょうか」とさらに問いかけてみると、「夕陽が綺麗だったから?」とある生徒。先生が「どうしてそう思うの?」と問いかけると「色んな色を細かく塗って丁寧に描いているから」とその生徒。他の生徒からも、色の使い方や筆触などについての発見が次々と語られました。
 「青と黄色を使うのが好きなのかな」と、このページに掲載されている他の絵からも感じ取ったようです。そして「青の中に黄色や茶色の点々がある」といった並置混色や、コントラストなどの色彩表現にも気付いたようです。
 H先生は「今日、皆さんは、人が表現する時ってどんなときだろう?と考え、たくさんの事を発見しましたね。中学校の美術では、これからも、作品をつくったり、見たりしながら、色んなことを感じたり、発見したりしていきますね」と締めくくりました。

執筆者紹介

大橋 功
岡山大学大学院 教育学研究科 教授 (美術教育講座)

 

○専門分野
図画工作・美術科教育に関する学習指導と教育課程、教材開発に関する研究

○経歴
京都教育大学卒業、大阪市立淡路中学校、大阪市立城陽中学校、兵庫教育大学大学院学校教育学専攻芸術系派遣留学修了、大阪市立柴島中学校、佛教大学、東京未来大学を経て2011年より現職

○所属学会
日本美術教育学会理事、事務局長、日本実践美術教育学会会長、美術科教育学会会員、大学美術教育学会会員