指導や授業で、つまづきがちな悩みや疑問をとりあげ、ベテラン教師から読者と同じ目線で問題解決へのアドバイスを提案します。
感覚と感性
五感を働かせて感じる感覚と感性の働きは大きく異なります。
感性は、「感じる」というよりも「感じとる」という言葉のほうがぴったりくる心の働きです。視覚を例にとって考えてみましょう。例えばお花見をして「桜の花が見える」というのは目の網膜が感じて、「これは桜の花だ」という知識と照らし合わせて桜を認識しているわけですが「桜の花が美しいなぁー」と美しさを心に感じとることは見るという感覚と同時に感性を働かせていることになります。
今、見ている人に美しいと感じさせている状態とは、その人の感性が働き、今までの自らの価値観と瞬時に照らし合わせ、また新たな美の価値が心の中で育まれている状態といえます。この働きが大きいと感動が生まれます。その結果、写真に撮りたい、絵に描いてみたい、今度はどこどこの桜を見てみたいという願望が生まれます。この「~したい」という心の動きこそ美術の創造の力の源といえるのではないでしょうか。
美術教育と感性
しかし、感性は能力という範疇だけで把握することは困難です。なぜなら感性はその人の意識とは関係なく無意識のうちに働き、その人の個性や人格に近いものとして心の動きを方向付けるからです。感性はいろいろな経験値を取り込みながら育まれ、美術はその人の感性を豊かに育む教科と考えられます。それは美しさや楽しさというその人らしい独自の価値と寄り添える教科だからではないでしょうか。
表現や鑑賞という造形活動で生まれた感動は心を揺さぶり、新たな価値観を生み出します。そうした時空に直接誘うことのできる学びを美術は担っているのです。
(文 川合 克彦)