vol.02 横浜市立篠原中学校 吉田 浩気 先生
詳しく解説!私の指導計画(1年生編)

 美術の先生が実際に立てられた年間指導計画を紹介、解説するコーナー。今回から3回にわたって解説いただくのは、横浜市立篠原中学校の吉田浩気先生です。初回となる今回は、1年生の年間指導計画に焦点を当てて解説いただきます。

 以下より、吉田先生が立てられた1年生の年間指導計画の表がダウンロードいただけますので、ぜひ記事と併せてご確認ください!
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目 次

1.はじめに~年間指導計画を立てる際に意識していること~

2.1年生の年間指導計画、どうやって考えている?

3.実際の年間指導計画を解説!
・5 月:絵の具から広がる美~水彩絵の具による表現の探求~
・5~6 月:「自分」を伝えるマーク
・6~7 月:「色のかけ算」で彩る私だけのスケッチブック
・8~9 月:文字で伝えるフォントの気持ち
・10~11 月:家族の団らんを飾る文様デザイン
・12~2 月:響き合う音のイロ・カタチ
・3 月:グッとくる写真

4. ICTの活用について

1.はじめに ~年間指導計画を立てる際に意識していること~

 本校の学校教育目標は、「自分をつくる」「想いを育む」「未来につなげる」です。

 この3つの目標が、それぞれ各学年に対応した学習活動や指導の柱となっています。題材配列を検討する際には、「限られた時間をどう使うか」「美術以外の場・時間をどう活用するか」を意識しています。時には、美術の時間に「何をやるか」ではなく、「何をやらないか」といった引き算の考え方も必要となります。他教科領域との連携、作業的活動の見直し、ICTの活用等を柔軟に取り入れることで、美術の学びは時間の制限を超え、より広く、より自由に展開できると考えています。

2.1年生の年間指導計画、どうやって考えている?

 1年生のテーマは「自分をつくる」です。4つの小学校から入学してくる生徒たち。造形に対する意識や経験値は様々です。表現に苦手意識をもつ生徒も少なくないため、はじめの1年間は、いろいろな素材、技法、表現に触れて造形的な見方・考え方の基礎をつくるとともに、思考力・表現力の幅を広げ、「見ること・つくること」に前向きになれるような「興味関心の種」をまくことが大切だと考えます。

 そのため、一つの題材に必要以上の時間をかけ過ぎないよう、慣習的に行っている題材であっても作例をなぞる予定調和的な活動になっていないか、身に付けさせたい資質・能力につながる授業なのかを常に検討していきます。

3.実際の年間指導計画を解説!

 筆者が、1年生の年間指導計画を立てる際に、どんなことを意識していたのかを題材ごとに解説します。

5月:絵の具から広がる美~水彩絵の具による表現の探求~

 水彩絵の具の授業では、この時期、地域の方から譲っていただくことの多い夏野菜を、自然の色合いや地域とのつながりを感じながら描いていきます。

5~6月:「自分」を伝えるマーク

 マークデザインの授業では、梅雨の時期に傘の取り違いが多いことから、自分を表すマークをプラ板にして、傘に付けるチャームをつくります。使う場面や目的を具体化すると、“他者に伝える”というデザインの側面を強く意識付けることができます。

6~7月:「色のかけ算」で彩る私だけのスケッチブック

 色彩の学習では、小学校でも行われている色水を使った混色実験や、身の回りの自然や生活環境の中にある色彩の鑑賞を通して、「なぜ?」「どうして?」を問いかけ、漠然と感じ取っていた色彩の効果やイメージに対する実感的な理解を促すとともに、色に意味や価値を見出す視点をもたせたいと考えています。色の学習で学んだことは、その後、色と形の構成によるスケッチブックの表紙デザインへとつながります。


8~9月:文字で伝えるフォントの気持ち

 文字デザインの授業では、例年レタリングや絵文字の制作を行っているところを、校外学習でスライドを作成する機会が多い本校の実情に合わせ、フォントを選び構成するポスターの授業へと変更しました。

10~11月:家族の団らんを飾る文様デザイン

 文様デザインでは、パターンの美しさに気付くだけではなく、それによって生活を豊かに演出していく心情を育んでほしいとの思いから、鍋敷きや壁飾りとしても使える文様陶板タイルの制作を行います。2年生で行う陶芸の授業との連続性を意識し、土の特性や技法についても学びます。


12~2月:響き合う音のイロ・カタチ

 「響き合う音のイロ・カタチ」は、音のイメージを色と形で立体的に表す活動です。合唱コンクールで歌った曲のイメージや曲想を、音の広がりや響きに着目して立体的に捉え、表現する題材です。これまでは、自分の身体や身近なものを観察して粘土で立体に表す題材を行ってきましたが、対象の再現性を高めることよりも、新しいものの見方や自分なりの捉え方を発見できる授業にしたいと考え、内容を変更しました。「音」という目には見えない「あいまいな感覚」を捉え形にする中で、自分と他者の表し方の違いやイメージの捉え方の差異に気付き、多様であるからこそ「面白い」という実感のもてる題材にしたいと考えています。 

3月:グッとくる写真

 写真表現は、一人一端末をもつ今だからこそ取り組みやすくなった題材の一つです。これまでは3年の題材として行ってきましたが、対象を魅力的に捉える視点や構図の工夫はその後の作品撮影や校外学習の記録撮影等の場面でも活用できると考え、今年度は1年生で実施することにしました。撮影した写真は、SNSの投稿画面を模したシートに貼り付けて校内展示し、写真表現の面白さを誰もが気軽に楽しめるようにしています。また、肖像権や著作権などの情報モラルについても、早い段階で触れておくことが大切です。

4.ICTの活用について

 美術では、1年生のうちから日々の活動の記録や鑑賞の場面でICTを活用しています。小学校で使い慣れている生徒も多くいますが、中学校ではさらに発展させ、教員の指示がなくとも情報端末を主体的・効果的に活用できるよう指導しています。「こうしたい!」という思いをもってICTを活用する場面は、美術科だからこそつくることができると感じています。

執筆者紹介

吉田浩気
横浜市立篠原中学校 教諭

 

○経歴
2012 武蔵野美術大学大学院造形研究科修了
2012〜横浜市立谷本中学校
2018〜横浜市立篠原中学校 勤務