美術の先生が実際に立てられた年間指導計画を紹介、解説するコーナー。第1回は、理論編として「年間指導計画を立てる際のポイント」、「指導と評価の流れの一例」を紹介します。
年間指導計画を立てる際のポイント
年間指導計画を立てる際に押さえておきたいポイントは、以下の4点です。
●生徒理解をする。
□生徒の育ってきた背景を知る。
□生徒の発達段階を考える。
●表現と鑑賞のバランスを考える。
□表現と鑑賞の相互関係を理解する。
□それぞれの活動内容のバランスを考える。
それぞれのポイントについて、以下から解説していきます。
生徒理解をする~生徒の育ってきた背景を知る~
まず、あなたの授業を楽しみにしている生徒はどのような生徒たちですか。子どもの姿や背景はどのようなものですか。教育の全ては生徒(子ども)理解から始まると言っても過言ではありません。
小学校とのつながり。地域の一員としての子どもの姿。それぞれの家庭における子どもの姿。生徒たちはどのような環境で学び、育ってきたのでしょうか。
地域の自然環境、風土、歴史、人々の暮らしについて知ることで、より深く子どもを理解することにつながると考えます。様々な方法や機会(地域巡回、アンケート、小学校の先生との連携、教師間の情報共有など)を生かして子どもを理解しようとする、そのような流れの中で地域の宝を授業で活用するヒントが見つかるかもしれません。「こんな学習活動を通して、学びを深めたい。子どもたちにこんな力をつけさせたい」という具体的な姿が見えてくることもあります。そうすることで、子どもにとって、より適切で効果的な学習、未来につながる学びを考えることができるでしょう。
「今どきの子ども」という言われ方をすることもあります。VUCA(※1)の時代とも、Sosiety5.0とも言われる現代において、子どもたちは私たちが思っている以上に複雑な状況に取り囲まれています。これまで通りの子ども像の認識では解決しきれない課題もありそうです。そのことは私たち教師自身も学び続ける存在でなければならないことを示唆しています。
生徒理解をする~生徒の発達段階を考える~
また、生徒の捉え方として発達段階による適時性というものもあります。1年生ではいろいろな経験をさせてください。1年生という時期は美術科という新しい教科に対しての期待と戸惑いのようなものが感じられます。美術科との出会いの意味でも大切にしたい時期です。2,3年生では1年生で身に付けた資質・能力を柔軟に活用して、より豊かに高められるように配慮してください。学習指導要領では2年生と3年生の学習内容について2年間を通して行うとされています。その上で発達の違いを意識し、学びの目標を考え、指導計画を立てる必要があります。中学校生活で最も活動的な2年生と、義務教育を終え、これから自分の道を意識して拓いていこうとする3年生とではおのずと学びの形や方法にも変化が表れてくるはずです。2年生という時期は様々なものに目を向け多様性を認めたり、上級生へのあこがれが強まったりする時期です。一方、3年生という時期は義務教育最終学年であり、年齢的にも自己の内面を深く見つめたり、社会との関わりについてより客観的に追及し学びを深めたりすることができる時期です。それぞれの発達の段階を捉えた題材こそ肝要です。前述の内容と併せて授業計画を考える必要があります。
表現と鑑賞のバランスを考える~表現と鑑賞の相互関係を理解する~
表現と鑑賞は相互に働き合う活動です。表現によって鑑賞が、鑑賞によって表現がよりよい活動となります。そして、表現はもちろん、鑑賞も創造活動です。自ら考え作り出す美術を実現するための表現と鑑賞の指導計画を立ててください。
表現と鑑賞のバランスを考える~それぞれの活動内容のバランスを考える~
表現においては「感じ取り表出する美術」「使ったり伝えたりする美術」と「描く活動とつくる活動」の適切な扱いが求められています。
1年生では、基礎となる資質・能力の定着を目指すことから、「感じ取り表出する美術」「使ったり伝えたりする美術」それぞれにおいて、「描く活動」「つくる活動」を扱います。2,3年生では、1年生で身に付けた資質・能力を柔軟に活用して、より豊かに高めることを目指すことから、一つの題材に時間をかけて指導することが考えられます。そのため、各学年において内容を選択し、2学年間で全ての事項を指導します。これらを表にすると、以下のようになります。1年生と2,3年生を通じて、これらを実施できるようにしてください。
学校目標、教科目標、題材目標を確認する
改めて、あなたの勤める学校の教育目標は何ですか。学校目標こそ、あなたが大切に育てようとしている子どもの一人ひとりをしっかり見据えたものにほかなりません。
あなたが美術の題材を通して子どもたちに学ばせたいこと、身に付けさせたい力はどのようなものですか。「美術科の学習目標」を捉え「造形的な見方・考え方を働かせる」ことが大切です。
各題材のつながりを意識し、3年間の流れを考える
各題材のつながりとは、例えば表現題材と鑑賞題材の関係です。独立した鑑賞の授業であっても、表現題材への影響は少なからずあります。また、その逆で表現活動の中で体験的に学んだからこそ深まる鑑賞もあります。どちらを先にするか、どのような題材の流れで学びの連続性を考えるかは学びの質的向上において重要な視点です。それは、鑑賞の授業を単に表現のための参考作品を知ることで終わらせないということです。
また、それぞれの題材で学んだことを生かして、後の題材でさらに学びを深められるということを考えたいです。子どもたちが学びに集中できるように題材配列を工夫することも大切です。飽きてしまったり、マンネリと感じたりしないようにしたいものです。
3年間の流れを考えるうえで、まず1年生の美術科としてのスタートを魅力あるものとしてください。そして、3年生の卒業期には生涯学習へとつなげる意図的流れが望まれます。このことは、各学年においても言えることです。学年のはじめと終わりにどんな学びを大切にしたいか。何を伝えたいかを計画的に織り込んでください。
また、環境整備の面からも計画を考えておきたいです。道具や材料の整備や準備を効率よく行える順序を考えておきましょう。教室における配置の工夫もスムーズな授業経営に役立ちます。この題材の次にこの題材が来ると教室環境が作りやすいという視点を持とうということです。
さらに、子どもたちの学校生活を総括的に考えるならば、学校行事や他教科との関係で美術科の年間指導計画を考えることが望ましいと思います。他教科で扱っている内容とタイムリーにつながることで、それぞれの学びに深まりと広がりが生まれます。本当の意味での学ぶ姿勢にもつながると考えます。
3年間を表にするときに、月ごとにただ時数を並べるだけではなく、A表現「(1)ア、(1)イ」「描く活動、つくる活動」やB鑑賞の各事項を、色や枠組みで分かりやすく整理することで教師自身が年間指導計画を確認しやすくなります。
指導と評価の流れ
それでは、先のポイントを押さえて、必要な授業時間に配慮しながら3年間の指導計画と評価計画を立ててみましょう。また、全体に関わることとして〔共通事項〕は指導においても学習評価においても押さえておかなければならない内容です。忘れずに取り扱えるようにしてください。
指導と評価の流れを大きく示すと次のような例が挙げられます。計画は立てて終わりではないことにも留意してください。
- 学校目標と教科目標・教科の指導内容を確認し、子どもの育つ姿を想定し、大まかな3年間の指導計画を立てる。
- 生徒理解のための情報を収集し、小学校との連携や生涯学習などについても配慮しながら身に付けさせたい力をもとに題材を考え、配列案を検討する。
- 教科及び学年の目標と照らして題材目標を整理する。
※題材名は最初に生徒が目にする題材目標であり、活動(表現・鑑賞)の広がりや生徒の学習意欲、動機づけ、目標の意識づけにも重要です。生徒の心に伝わる言葉を使用してください。魅力的な題材名を考えることは、授業づくりの第一歩として、教師自身を含め生徒、保護者の教科理解のための取り組みになります。 - 「内容のまとまり」と「評価の観点」を確認し、題材ごとの評価規準を作成する。
- 指導と評価について、時期やタイミング、方法について計画する。
※毎授業ですべての観点を評価できるわけではないことに注意しましょう。 - 授業を行い、指導を通して観点ごとに形成的、総括的評価(※2)を行う。
- 観点ごとに総括する。自身の授業の振り返りも同時に行うことになる。次年度に向けて年間指導計画を見直す。
以上をしっかり押さえて、生徒が楽しく、意欲的に、主体的に深く学べる美術科の授業を計画してください。
最後に、指導計画や評価計画は生徒へ周知してください。そして、保護者にもぜひ知らせてください。「学習活動計画」「学習活動内容」「学びのねらい」「学習評価」「生徒、教師の準備」は生徒だけでなく保護者にも知らせておきたいところです。「今、美術科ではこんなことをやっています(やる予定です)。」は美術科だけでなく、学校における学びについてご理解いただくための貴重な機会です。
※1:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語。社会やビジネスにおいて将来の予測が困難になっている状態を意味する。
※2:形成的評価とは、生徒の力量形成を促すために学習のプロセスを評価・改善するためのもの。総括的評価とは、生徒が目標をどの程度実現できたかをまとめて示すもの。(「もっと、知りたい!!美術の評価~理論編~」日文 教授資料p.8より)