もっと知りたい指導の工夫 vol.08
生徒の発想と喜びを引き出す、ポスターデザインの工夫

教科情報誌『形 forme』連載企画「学びのフロンティア」に登場した先生方の取り組みや指導の工夫をさらに深く伺います。第8回目は322号で紹介した佐賀県立致遠館中学校・高等学校の小林稔先生です(2020年7月取材)。

段階を踏んで少しずつ、デザインへの理解を深めていった

 中2の1学期に、『グループでのポスターづくり』に取り組んだ小林先生。アイデア出し、立体造形、写真撮影、コピーライティングなどといったさまざまな工程を、生徒一人ひとりの“得意”を生かしながら実践したいと考え、この題材を選びました。

 ポスターづくりを進める上での土台となったのが、中1の3学期に取り組んだレタリングとロゴマークづくりの題材です。レタリングの授業では、例えば、「『うどん』という言葉が最もおいしそうに伝わる文字ってどんな色や形をした文字だと思う?」と問いかけてイメージに近いフォントを検討するなど、『言葉をより効果的に伝える文字』について考えました。また、ロゴマークづくりでは、『自分が起業したときの会社のロゴマークを考える』という課題に取り組んでいます。

 「1年の3学期にこれらデザイン領域の題材を扱っていたので、ポスターに対する理解は早かったですね。『ビジュアルや文字などの要素を組み合わせてつくるものである』『社会に対してなんらかのメッセージを伝えるためのものである』『伝えるためには工夫が必要である』ということをスムーズに飲み込んでくれました」

 こう話す小林先生。いきなりポスターづくりに取り組むのではなく、1年次から段階を踏み少しずつデザインへの理解を促すことで、グループで行うポスターづくりに、スムーズに取り組むことができました。

事前に情報を提供した上で、あとは自由にのびのびと撮影させる

 写真撮影のときに意識したのが、撮影場所を指定しないこと。生徒たちには「他のクラスの迷惑にならないところなら校内のどこでもよい」と伝え、自由に撮影してもらいました。

「事前に資料集を見ながら写真の撮り方について簡単に勉強していたというのもあって、本当にいろいろなところで、工夫して撮影していました。写真家の岩合光昭さんの“猫ジャンプ写真”をまねてモチーフを投げながら撮影するグループがいたり、モチーフを水没させて撮るグループが出てきたり。みんなで相談しながら撮影することで、どんどんアイデアや工夫が広がっていったようでした」(小林先生)

幅広い視点や考え方を身に付けて、より楽しいものづくりへ!

 コピーライティングを行うときも、まずは資料を見せます。ACジャパンが“2020年に向けて日本を考えよう”と銘打って展開した広告作品を見せて、「なにを考えようと訴えかけていると思う?」と問いかけるところから始めたと言います。

「コロナ前の授業だったこともあり、生徒からは『オリンピック!』『ホテルが足りないからどうにかしなきゃ』『それよりも通訳をどうするか考えないと』など、さまざまな声が飛び出しました。一通りの意見が出た後に『こういう広がりのあるコピー、相手の想像に委ねるコピーって面白いよね』と伝えています。他に、例えば“あなたと、コンビニ、ファミリーマート”などの有名な企業の広告を見せたりしながら、言葉の力を感じてもらう導入を実践しました」(小林先生)

 さまざまな見方、考え方があることを知ってもらい、その上で、ものづくりへと進んでいく。そうすることで「いろんなアイデアが生まれるし、なにより楽しく取り組めるんですよね」と小林先生。「今後も、すべての生徒が得意を生かせるような、発想の開花と喜びのある、楽しい授業にするための工夫を追求していきたい」と話してくださいました。