教科情報誌『形 forme』連載企画「学びのフロンティア」に登場した先生方の取り組みや指導の工夫をさらに深く伺います。第6回目は320号で紹介した京都市立洛北中学校の湯口みゆき先生です(2019年10月取材)。
ごくごく簡単なゲームから始まる「動植綵絵」の世界
「生徒を飽きさせない、とにかく楽しい授業を行いたい!」
湯口みゆき先生は、いつもそう考えながら工夫を凝らした授業を実践しています。
伊藤若冲の「動植綵絵」を鑑賞する授業では、導入として、「絵の中にいる動物を3分で数えるゲーム」を行いました。このときに使用したのが、タイマーアプリです。教室前方にある大きなモニターにタイマーアプリを表示して、ゲームの開始と同時にスイッチをON! すると誰もが知っている、とある有名お料理番組のテーマ曲が流れ出し、生徒のテンションがぐんと上がました。カウントが始まることで緊張感も高まって、教室全体が一気に“ゲームを楽しむ雰囲気”に。また、音楽が流れることによって隣の班の生徒たちが話している内容や答えをかき消すといった実用的な効果もあると言います。
「子どもたちにとって古典美術というのは、なんだかよく分からない難しいもの。だからこそ、いつも以上に楽しく、メリハリのある、魅せる授業をしたいと思いました。タイマーの他にも、人気アイドルが若冲を紹介するテレビ番組を流すなど、とにかく注目してもらえるよう工夫しています」(湯口先生)
授業のリズムを崩さない、資料配布の工夫
生徒を惹き付けるために欠かせないのが、テンポよく授業を進めること。
そこで先生が実践しているのが、事前に資料の入った封筒を用意しておき、各班の机にセットしておくこと。授業中は「封筒から絵の描いてあるプリントを出して」などと指示するだけでよいようにしておきました。
「わずかな間によってリズムが崩れると、生徒の集中力や興味は削がれてしまいます。こうすることで、資料を配布する手間や時間を省くことができ、なにより、テンポよく授業を行うことができるんですよね。生徒にとっては、開ける楽しさもあるんじゃないかなと思っています」(湯口先生)
ワークシートと短冊にも工夫がたくさん
湯口先生は、鑑賞の際に使うワークシートにも工夫を凝らしています。形や色に注目する質問だけでなく、「どんなことを話していると思う?」「匂いは?」などイメージが広がるような質問を盛り込み、記入欄も、楽しく書けるようフキダシなどの形にしているのです。
また、「絵にタイトルを付ける」という取り組みでは、班のみんなで考えたタイトルを短冊に書いて発表してもらうというスタイルを取りました。こうすることで、発言することは苦手だけれど書くことは得意という生徒を生かすことができます。さらに、「タイトルを付ける際には、『鳥が何羽』といった説明的な文にならないようにしてほしい」「小学校の低学年の子に伝わるようなタイトルにしてほしい」と指示したところもポイントです。
「ものごと分かりやすく伝えるには、よく観察し、想像し、じっくり考えなければなりません。サラッと鑑賞するのではなく、より深い鑑賞をしてもらいたい。そう考え、あえて“分かりやすいタイトルを付ける”ことに挑戦してもらいました」
こう話す湯口先生。アプリや動画、封筒セットなどを効果的に使いつつ、ユニークなゲームや的確な指示を盛り込んで、飽きさせない、メリハリのある授業を実践しています。