教科情報誌『形 forme』連載企画「学びのフロンティア」に登場した先生方の取り組みや指導の工夫をさらに深く伺います。第5回目は319号で紹介した堺市立浜寺中学校の伊藤慶孝先生です(2019年6月取材)。
地域資源を活用した、「堺ならでは」の授業をみんなで育てる。
伊藤慶孝先生は、「どの学校であっても学ぶ意義のある、地域資源を活用した授業を教員みんなで育てれば、子どもの学びの質が変わる」と考えています。
こうした思いを抱くようになったきっかけが、堺市内の教員研修会に参加したこと。教育大綱や教育プランを通して、市が目指す教育や育てたい子ども像などに触れ、改めて地域資源を活用した「堺ならでは」の授業で子どもたちを育てるべきだと感じました。
「堺市には教員をつなぐ教育目標があり、子どもたちをつなぐ地域資源の存在があることに気づき、美術室の子どもたちのみならずもっと美術室や学校の外に目を向けなければならないと思うようになりました。加えて、自分だけではなく地域の美術教員が集まって、ともに市の教育大綱や教育プランを理解し、そこを始点にして協働で授業をつくり、育ててゆくことが、子どもの学びの質を変えるのではないかと考えたのです。」(伊藤先生)
美術教員が集まる場をつくり、教材を共有する。
早速、地域の美術教員が集まる場をつくることにしたという伊藤先生。『形 Forme/319』で紹介した「私と季節の注染手ぬぐい」という題材は、共有教材づくりを考える上での土台となりました。
堺市の教育大綱には『自由・挑戦・匠』三つの精神が、教育理念には、『ひとづくり・まなび・ゆめ』が掲げられています。「歴史・文化ある堺市の地域資源を活用する授業は、どの学校のどの教員・子どもにとっても学ぶ意義がある。すべての教科で地域を題材にした授業を展開することはできるが、中には難しく構えてしまう子どもいるはず。子どもたちが学校や地域の垣根を超えてつながることができる。その入り口は美術にある!」という意気込みで共有教材づくりに取り組み始めたそうです。
「共有教材づくりで意識したのが、どの中学校の教員でも子どもたちに合わせて、授業をデザインし実践することができる『基礎部分のみをつくる』というところ。学校間での共有が可能な汎用性の高いプリントやスライドデータをつくったり、職人さんとつながって鑑賞用資料や実物(注染手ぬぐい)を準備したり、入手しやすく扱いやすい素材を注染の版として採用したり……。画一的で一方的な授業ではなく、子どもたちのために教員が育てる授業であることを大切にして進めていきました。」(伊藤先生)
共有教材を活用して、教師・子ども・地域みんなで育てる授業へ
「共有教材を活用した授業づくりにおいて、目的(学習指導要領)・方法(指導・支援の工夫)・教材(共有教材)の三つの要素を授業づくりのフレーム(共通認識)にしました。そうすることで、授業を育てやすくしています。地域の教員で授業の成果を持ち寄って検討する際、方法(指導・支援の工夫)の部分に授業改善の視点が定まるからです。今まで、別々の学校で、別々の子どもたちに、別々の教材で授業をしていたので、授業改善の交流が深まりづらいという課題がありましたが、共有教材が授業づくりのベースとなり、上記のフレームが視点となることで、教師間の交流がスムーズになりました。」と伊藤先生。そこには教員同士の高め合いが生まれ、より子どもたちの活動に目を向けられるようになったそうです。
「今後の目標は、教員間だけではなく、子どもたちが学校の垣根を超えて交流し合うことです。「隣の学校ではこんなふうに学習している」「こんなところを工夫している生徒がいる」など、教材を共有しているからこそ美術室と美術室がつながり、子どもたちの学びがさらに深まるのではないかと思っています。」(伊藤先生)
現在は、職人さんや関連施設ともつながって、「茶の湯と和菓子」というテーマで共有教材づくりに取り組んでいるという伊藤先生。子どもたちが地域と関わり生活する中で心の豊かさを感じられる、素敵な取り組みとなりそうです。