中学校の美術による学びのチカラを、3年間の生徒の成長する姿に重ね、
読者と一緒に考える、連載コラムです。
前回(第8回)では、主体的な学びの入口、対話的な学びを通しての学びの深まり、そして次の学びへとつながっていく学びの出口の大切さについてお話しました。今回は、もう少し具体的に、その過程を「であい・ふれあい・ふかめあい」という視点から考えてみたいと思います。
ある若い先生が、中学校1年も後半にさしかかった頃、自分が経験した出来事、そしてそのときの気持ちを振り返りながら、その気持ちに形と色彩を与えてみたらどうなるだろう?という実践に取り組みました。「あの日、あの時、あの気持ち」と題された実践は、ある先生が絵画における抽象表現として、ある研究会で公開された実践です。その研究会に参加した先生が、さらにそれを立体の題材へと展開させ、別の研究会で発表されました。そして、それがさらに多くの先生によって新たな題材へと広がっていきました。
「自分にとってとても心が動いた、気持ちが揺れたというような印象的な出来事ってどんなことがあっただろう」という問いかけから「学びの入口」の扉が開かれました。ある生徒は、夏休みに韓国でホームステイを経験したことから、そのときの不安や喜びについて、ある生徒は塾のテストにまつわる話を、そしてまたある生徒はクラスでの席替えで班のメンバーが替わることへの寂しさや不安と新しいメンバーとの生活への期待について、それぞれ日常生活の中から見つけ出していきました。
次に「その気持ちに色を与えるとしたら?」と、それぞれの気持ちと色彩の組み合わせなどを考えての色づくりへと展開しました。しかし、生徒たちの中には、チューブから出した色をそのまま使おうとする人や、1回混色してできた色をそのまま使おうとする人が多く見られました。そこで先生は「気持ちにピタッとくる色を見つけよう」と声をかけました。
この声かけが、生徒たちの心を掴んだようです。多少時間がかかってもいい、パレットの上で、あるいは試し塗りをしてみながら「ピタッとくる色」を探究していくことに意味を見い出せたのでしょう。友だちと、できた色とそれが表す気持ちを伝え合いながら、楽しそうに、そして探究的に色づくりに取り組みました。
生徒たちのパレットは見る見るうちに新しい色で埋まっていきました。その後、粘土にそれらの色を混ぜ込み、今度は気持ちに形を与えていく活動へと展開しました。その時点では、もはや妥協することなく自分の表したい形を追求する姿が見られるようになっていました。題材との「であい」は、色づくりを通しての「ふれあい」と、探究を通しての「ふかめあい」へと学びを深化させていったのでした。
大橋 功
岡山大学大学院 教育学研究科 教授 (美術教育講座)
○専門分野
図画工作・美術科教育に関する学習指導と教育課程、教材開発に関する研究
○経歴
京都教育大学卒業、大阪市立淡路中学校、大阪市立城陽中学校、兵庫教育大学大学院学校教育学専攻芸術系派遣留学修了、大阪市立柴島中学校、佛教大学、東京未来大学を経て2011年より現職
○所属学会
日本美術教育学会理事、事務局長、日本実践美術教育学会会長、美術科教育学会会員、大学美術教育学会会員